2002年11月01日(金)  48時間の恋人1。―――プロローグ
それはドラマティックでも感動的でもましては悲劇的でもない
1つの電話から始まった恋の物語。
明確な始まりがあって、確実に終焉を遂げる限定された恋物語。
 
―――――
 
「私、鹿児島に行こうかなぁ」
彼女は電話口でそう呟く。
3回目の電話、鹿児島では雨が降っていて、京都では少し肌寒くなっていた。
「ははっ。そうすればいいよ。たまには現実逃避でもすればいい。鹿児島はね、現実逃避にうってつけの場所なんだ」
「どうして?」
「辺り一面溶岩に囲まれてるから」
「ステキ」
「灰が降らなければもっとステキだと思う」
 
彼女は京都に住んでいる。僕は京都のことをよく知らない。
高校の修学旅行で1度だけ行ったことあるけど何も憶えていない。
唯一憶えていることは京都のホテルで慣れないビールを飲んで布団の上で吐いたことくらいだ。
 
そして僕は京都と同じことくらい彼女のことを知らない。
知っているのは本名と、年齢と、どこか懐かしさを喚起させるその声だけ。
顔も職場も趣味も知らない。そして僕達を繋いでいるのは決まって深夜に掛かってくる電話だけだった。
 
「昨日ね、チケット取ったの」
5回目の電話の彼女の声はいつもより弾んでいた。
「ふぅん。誰のライブ?」
僕は故意にとぼけてみせた。何のチケットかなんて、何の想いが込められているかなんて
5回もの電話の会話で、ある程度察することができた。
 
「10月31日、夜行列車で鹿児島に行くことにしました」
 
彼女は壇上に立って重大な決意を述べるときのような口調で言った。
それは僕にとっても重大な決意を要するものだった。
 
「そっか……。それじゃ本格的に溶岩に囲まれて現実逃避をするってわけだね」
「そっちには1泊2日しかいないんだけどね」
「それじゃあ、観光案内をしよう。温泉にでも行こう」
「ホント!?ありがとう。なんだか恋人同士みたいだね。……2日間の恋愛」
「うん、そうだね。48時間の恋人だね」
 
現在11月1日午後11時。48時間の恋人は今、夜行列車に乗っている。
そして明日の朝、西鹿児島駅に到着する。
 
それはドラマティックでも感動的でもましては悲劇的でもない
1つの電話から始まった恋の物語。
明確な始まりがあって、確実に終焉を遂げる限定された恋物語。

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