2002年10月20日(日)  水仙。
「ねぇ、自己愛の対義語って何でしょう?」
「対象愛、でしょ?」
 
僕は少し考えてから答える。
2人で居酒屋に来るのは久し振りだ。
 
「あなたは少し自己愛が強いと思うの」
僕はビールを噴き出して驚いた表情で彼女を見る。
「馬鹿言うんじゃない。僕は自他共に認める博愛者だ。右の頬を打たれたら自然に左の頬も向けるし、たまにはここも打ったらどうですか?っておでこまで出す始末だよ」
「そして少し自虐的なの」
 
僕は2杯目のビールを飲み干す。アルコールが血液と混ざり体中を駆け巡る。
彼女とこういう話題になるといつも1つの選択肢に迫られる。
徹底抗戦か妥協か。
 
「えとね、恋愛ってね、相手を愛しているように見えても究極の関心はやっぱり自分にあるんだよ」
「ほらね」
「これは事実なんだ。対象愛と自己愛なんてほんの紙一重の問題なんだ」
「例えば?」
彼女は好奇の眼差しで僕を見つめる。これからどう論理立てていくか見定めているいつもの目だ。
 
「例えば、キミは今日もオシャレをしている。僕の給料の2ヶ月分くらいのバッグだって持ってるし6ヶ月分の食費くらいの指輪だってつけている。それは誰の為?」
「それは私の為であって同時にあなたの為でもあるのよ」
「ほら、紙一重でしょ?」
「う〜ん」
 
このくらいで簡単に陥落するような相手ではない。
 
「キミは僕と、僕じゃなくてもいいけど、そのうち誰かと結婚して子供ができるだろう。キミは子供の将来に何を望む?」
「子供の将来のために、いっぱい勉強をさせなくちゃ」
「具体的に?」
「本を読ませたり塾に行かせたり」
「今の会話に対象愛は含まれてると思う?」
「う〜ん」
 
彼女は考え込む。僕は含み笑いをする。
 
「僕はキミの為だったら何でもできる。自己を犠牲にしてまでキミを守る。そんなこと言われて嬉しい?」
「そりゃあ嬉しいわよ」
「だけどそんなことを言う男は駄目だ。これこそ対象愛に見せかけた自己愛なんだ。だから僕は例えキミのためなら何でもできるってわけじゃない。キミにしてやれることなんて限られてるんだ」
「それは私のことが嫌いだから?」
「いや、キミのことが好きだから。真実の対象愛とは自分のコントロール欲求を最小限にすることでしか実現できないんだ」
 
「よくわかんないわ。帰りましょ」
「うん帰ろう。あ、今日は僕がお金出すよ」


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