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| 2002年10月03日(木) 地域的先天的な名古屋的夜。(前・後編) |
| (前編) 「僕は名古屋嫌いなんです」 「どうして?」 「ウィークリーマンションにドライヤーがないから」 「まぁ!それってすごい偏見よ!」 スクーリング最後の夜、大学の同じグループの人たち3人が 「名古屋イメージアップ大作戦」と称して僕を食事に誘ってくれた。 控えめで優しい青年と、世話好きで距離を感じさせない女性と、 今回のスクーリングでいちばん話が合ったような気がする年上の綺麗な女性。 「どこに行きたい?」 「名古屋的なところだったらどこでも」 「そう、それじゃ手羽先でも食べにいきましょ」 名古屋的で手羽先という意味がよくわからなかったけど 名古屋には手羽先が美味しい店があるらしい。 「あなた名古屋に来て毎晩何食べてたの?」 「松屋とか吉野屋の牛丼食べてました」 「毎晩?」 「毎晩」 手羽先を食べながら僕は彼女達の言う「悲惨で壮絶的な名古屋の夜を過ごす九州男児」について話をした。 僕は毎晩1人で毎晩同じ牛丼を食べても特に悲惨でも壮絶的でもなかったので その無自覚な同情を受けたときにこの人達のとても心地よい優しさを感じたような気がした。 僕たちのグループはとても仲が良くて、往々の仲の良いグループがそうであるように 大学の講義中も先生の話に熱心に耳を傾けるより僕たちお互いの話をした。 周囲の空気にそぐわない笑い声や医療や福祉とはかけ離れた恋の話。 時間を重ねるほどに初対面の緊張感は現象し親密感は増していった。 僕たちのグループが先生に指名されると僕が席を立ち適当な医療的福祉的な言葉を羅列して いい加減な意見を発表した。僕がいい加減な考察を述べるたび先生はそのいい加減な言葉について 真剣に考察し、僕を誉めた。僕は昔からそういうことが得意なのだ。 しかし今回、名古屋に来ていちばん感じたことは、周囲の人達がとても優しかったということだ。 僕が九州から1人来たことに敬意を表しているのか多分、――地域的先天的に――優しいのかもしれない。 とにかくみんな優しくてこの居酒屋の手羽先は驚く程美味しかった。 僕はいつもより多めにビールを飲んで、名古屋の最後の名古屋的な夜を満喫した。 つづく。 (後編) 居酒屋を出た僕たちは名古屋駅に向かった。 そして控えめで優しい青年と、世話好きで距離を感じさせない女性はそれぞれのホームへ向かった。 僕は心からのお礼と来たるべく再会を誓った。 「どこに行く?」 「まだ一緒に飲めたらどこでも」 そして年上の女性と僕だけが残った。 まだ目に馴染まない名古屋の夜の街を歩きながら僕は彼女と初めて会った日の会話を思い出した。 ――― 10月1日。 「私、今日誕生日なのよ」 「へぇ、そうなんですか。おめでとうございます。誕生日の人の隣に座るなんて嬉しいなぁ」 「じゃ何か買ってよ」 「ははっ。そのうちにね」 何よりも僕たちは初対面だったし、まだ相手の名前さえ知らなかった。 3日後に2人並んで名古屋の夜の街を歩いているなんて思いもしなかった。 ――― 「誕生日」僕は立ち止まって呟いた。 「ん?」彼女も僕より数歩前で遅れて立ち止まって振り返った。 「誕生日のお祝い」僕は立ち止まったまま言った。 「ん?」彼女は少し唇を緩ませて僕が指差す先のものを見た。 そこには歩道脇にたたずむアクセサリーの露店があった。 「誕生日、おめでとう」 僕と彼女は少し酔っていたので、こういう変にキザな言葉も素直に受け止めることができた。 「それじゃあなたがデザインを選んで」 そう彼女に言われて僕はシンプルなシルバーの指輪を2つ選んだ。 「2つで3千円です。大切にして下さいね」 髪と髭がボサボサの露店のお兄さんが言った。値段もシンプルだった。 「ありがとう」彼女は名古屋の夜空に向かって新しい指輪をまとった細い指を掲げた。 僕は右手にはもう指輪をはめていたので左手の薬指にはめた新しい指輪を 彼女と同じように夜空に向かって掲げてみた。 そして僕たちは「倫敦塔(ロンドン塔)」という地下のバーに入って 名古屋最後の夜の最後の話をしながらいつまでもいつまでもグラスを交わした。 1時に店が閉まるまで僕たちは話し続けた。 僕は鹿児島に住んでいてそれは日常的ではないけど、終電がもうないということは 酔った頭でもお互い、理解していた。 |
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