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| 2002年09月05日(木) 長野県。 |
| 「おじゃましまーす」 突然玄関で声がした。午後3時。僕はベランダで洗濯物を干していた。 ベランダに立ったままドアの方を見ると、3日前に来た昔の彼女が立っていた。 「ねぇ、洗濯物干すの手伝ってよ」 「いやよ」 昔の彼女は昔の通りにはいかないわよと言わんばかりに僕の要求を一言で拒否して 僕の部屋に入ってエアコンのスイッチを入れた。 そして飽きもせずに再び昔のアルバムを引っ張り出して眺め出した。 「ねぇ、干すの手伝ってよ」 2回目の要求は完全に無視された。僕はそのまま黙って洗濯物を干し続けて 干し終わるとそのままベランダで煙草を一本吸って窓越しに彼女を見たら ニコリと作ったような笑顔を見せて白い歯を見せて顔をしかめて「イーッ」と言った。 部屋に戻り「なんで来る前に電話しないの?」と訊ねたら 「いなけりゃいないで別にいいし」と言った。よくわからなかった。 彼女は部屋を見回して「どうして掃除しないの?」と訊ねた。 「してるよ!」と僕は言った。 僕の部屋は綺麗じゃないけど職場の倉庫みたいに汚くはない。 ただ小説とフィギアが若干多いだけで、後は極めて一般的な6畳1間だ。 彼女は昔から神経質で、暇さえあれば部屋の掃除をしていた。 髪の毛1本落ちると3本拾い上げた。 洋服のたたみ方に系統立った順序があった。 トイレの芳香剤が切れる前に新しい芳香剤と取り替えた。 セックスが終わる度に布団のシーツを変えた。 「じゃあ掃除手伝ってよ」 「いやよ」 昔の彼女は昔の通りにはいかないわよと言わんばかりに再び僕の要求を一言で拒否した。 過去は過去でしっかりと完結していた。女性はこのあたりの切り替え方が上手いと思う。 僕の過去はアルバムの中で今もこうやって生き続けているというのに。 と思いながら2時間過ぎた。 「またね」 彼女は15日までこちらにいるという。 彼女は県外に住んでいて滅多に帰ってこない。帰ってこないし電話もしない。 ただ時々こうやって突然部屋に来るのだ。 僕がこの彼女との過去をなかなか振り切れないのは、そういう理由があることと、 首の下、鎖骨の少し上に新しくできた長野県のような形をした キスマークの所為でもあった。 |
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