2002年09月01日(日)  両手。
日曜日は休診なので、平日あんなに人で埋まっている外来はとても静かで
日曜出勤の僕は、1人で薬を調合したり、診察室の掃除をしたり、事務の人と話したり
受け付けの椅子に意味もなく座ったりする。
 
お昼前、70歳くらいのお婆ちゃんが「どうしても眠れないので点滴をうって下さい」
と休診の外来に来た。
Drから指示をもらい、点滴の準備をする。
 
「困ったものです。まったく眠れないなんて」
お婆ちゃんはベッドに横になり溜息をつきながら言う。
「そうですよねぇ。眠れないと、体がきついですよねぇ」
僕はお婆ちゃんの血管を探りながら言う。点滴を刺して、しばらくお婆ちゃんと話をする。
今日は休診なので、僕はいつものように忙しくないのだ。
 
独り暮らしのこと、盆休みに孫が帰ってこなかったこと、もう何日も眠っていないこと、
お婆ちゃんは病室の天井を見上げながら、ゆっくりと話し始める。
 
僕は針を固定して「そうですね、そうですよね」と言いながら点滴の管をテープで固定する。
お婆ちゃんの手はとても細くて、血管が何本を浮き出ていて、少し震えていた。
 
僕はその右手をそっと握る。お婆ちゃんは話し続ける。
僕はその右手をそっと撫でる。お婆ちゃんは話し続ける。
僕はその右手をそっと両手で包む。お婆ちゃんはウトウトしはじめる。
 
それからしばらくしてお婆ちゃんは瞼を閉じて、寝息を立てる。
僕はその右手を両手で包んだまま、しばらくベッドの横に座り続ける。
 
点滴とか、睡眠薬とか、そういうのじゃなくて、
まだ上手く説明できないけど、
独り暮らしのお婆ちゃんが眠れなくなるのは、多分、こういう包み込む両手のような存在を
求めているんだと思う。

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