2002年08月27日(火)  狼狽と驚愕と爆笑と道化。
昨夜11時。ドアをノックする音。「こんばんは」職場の後輩が立っていた。
 
「どうしたんだよ。こんな時間に」
「すいません。あいつが、入院したもんで」
 
僕が住んでいるアパートは産婦人科の近くに建っている。
後輩の子供がとうとう産まれるらしい。
 
「こういう時ってどうしていいかわかんなくて先輩のとこに来ちゃいました」
後輩は部屋の隅で小さくなりながら言う。
「どうしたらいいって・・・。陣痛は?」
「あ、まだないです。だけどずっと傍にいるってのも、何か、落ち着かなくって」
 
「こういう時に男が落ち着かなくてどうする!」
僕は先輩らしく威厳に満ちた声で言う。後輩の肩が一瞬縮まる。
「いいか、こういう時はとにかく落ち着くんだ。まずは呼吸から。ふっ、ふっ、はぁ〜」
「ふっ、ふっ、はぁ〜。ってラマーズ法かよ!」
後輩は肩を落とす。先輩になんて相談するんじゃなかったと思っているに違いない。
 
「あっ!そういえばね、僕ってすごいんだよ。今日発見したんだけどね、
ちょっと見ててよ。ふが・・・あ・・・ふ・・・が・・・」
「わぁ!先輩すごいや!こぶしが丸ごと口の中に入ってるや!香取慎吾みたいだよ!
ってそんなこと今やんなくてもいいじゃないですか!」
「な?すごいだろ?」
「全然すごくないですよ!今そんなことやる意味がないですよ」
「僕の口と同じくらいキミの奥さんの子宮が広がるってことだよ」
「先輩ひどいや!」
 
ひどいも何も僕だってこういう状況の時にどう対応したらいいのかわからないのだ。
 
「僕、病院に帰ります」
「そうするといいよ。奥さんの手を握り続けるんだ。声を掛け続けるんだ。
奥さんは来たるべき陣痛に恐怖を感じているはずだから、キミはその恐怖に打ち克つように援助するんだ。
何でもないことで気を紛らわせるんだ。僕がさっきまでキミにやってきたような事を」
「は、はい。わかりました。よくわかんないけど。ありがとうございました」
 
 
 
 
 
>AM10:36 
>先輩!生まれました\(^O^)/男の子です!
>昨日はありがとうございました!先輩のおかげ(?)で落ち着きを取り戻すことができました!
 
後輩からのメールが届いているとも知らず、
今日の午前10時36分の僕は、ナースステーションで口の中にこぶしを入れて
看護婦さんたちを驚愕と爆笑の渦に巻き込んでいた。

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