2002年08月05日(月)  血痕。
クール宅急便で小包が届いた。
中身を開けた。小説が3冊入っていた。
フランスの現代作家、ジャン=フィリップ・トゥーサンの「浴室」と「ムッシュー」と「カメラ」
僕は「ムッシュー」と「ためらい」は読んだことがある。
 
その冷たくなった小説を手に取り、パラパラとめくると「ムッシュー」のページに短い手紙が挟まれていた。
 
『あなたが厄介なのは、素直な心と、歪んだ心が同居しているという点です。誕生日おめでとう』
 
僕は部屋の真ん中にしばらくしゃがみ込んだまま
クール宅急便とジャン=フィリップ・トゥーサンと短い手紙の関連性について考えてみた。
その女性からの強烈なメッセージかもしれないし、例の、小悪魔みたいな含笑を持って行われた悪戯かもしれない。
結局、納得がいく答えには結び付けられなかった。
 
手紙が他の小説にも挟んであるんじゃないかと思い、ページをめくってみたけど見つからなかった。
 
『あなたが厄介なのは、素直な心と、歪んだ心が同居しているという点です。誕生日おめでとう』
 
僕を厄介と思っているその女性のことを、僕はよく知っている。
 
「結婚しよう」
「うん。結婚してね。いつするの?」
「明日にでもしよう」
「うん。明日にでもしてね」
 
こういうことが平気で言えた時代。「結婚」が非現実的で冗談で済まされた時代。
ウエディングドレスを着ることだけが「結婚」と思っていた時代。
結婚式が「結婚」だと思っていた時代。
僕は学生で、彼女も学生だった。苦労なんてしたことがなかったしする予定さえなかった。
 
僕たちは別れた。至極当然な理由で別れた。
物理的な要因は、至極当然な理由だった。愛の距離はkm単位で測られると思っていた。
 
そして時が経ち、
隔てられた愛の距離を経て、それは冷凍保存された3冊の小説の形をして僕の目の前に現れた。
 
突然逢いたくなって、来月、名古屋行きの飛行機のチケットを買った。

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