2002年07月30日(火)  神童26歳普遍的。
母はいつも突然アパートにやってくる。
そして夕食を作って、一緒に食べながら「彼女とはうまく言ってるの?」と
2年前に別れた彼女のことをいつまで経っても尋ねてくる。
もう何百回も別れたと言っているのに尋ねてくる。母は彼女のことがとても気に入っていたんだ。
 
母はいつも僕のことを「この子はきっと大物になる」と思っていたらしい。
”思っていた”と過去形なのは今となってはもう諦めているからに他ならない。
 
「あなたはね、1歳3ヶ月ですでに五十音全て読めるようになったのよ。
まだ周りの子供達はママとかワンワンとかマンマとか言っているときに五十音を読めたのよ。
あれは今考えてみても本当に奇跡だったわ。近所ではちょっとした有名人だったのよ。
1歳6ヶ月にはね、本を読み始めたのよ。意味なんてわからないだろうけど、
オムツしてるくせに寝小便だって毎日するくせに声を出して絵本を読んでいたのよ。
私はいつもお父さんとこの子はきっと大物になるって話ばかりしてたわ」
 
母は焼酎を3杯飲んだあたりになると決まってこの話を始める。
もう何百回って聞いているのに、息子に初めて聞かせる真実のように慎重に話し出す。
 
しかし母の願いも虚しく、僕は市立の小中学校を出て、公立の高校に進学して、
なぜか看護学校へ進んで、白衣を着て精神科で働くようになった。
この普遍的な過程の中で、大器の片鱗を見せつけた時なんて一度だってなかった。
そしてこれからもきっとない。神童でも大器晩成でもない普通の男のまま死んでいくんだ。
 
でも母は今でも焼酎を3杯飲んで、我が息子の隠された片鱗を見つけ出そうと必至に話をする。
僕は今でも自分をありのまま受け止めて、それ以上を望まない欲のない人間として生きている。
 
親っていうものは往々にして子供に対して過剰な期待を寄せるものだけど、
親の顔色をうかがって神童のような真似をするんじゃなかった。
 
オムツをしながら声を出して絵本なんて読むんじゃなかった。

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