2002年07月08日(月)  平和の象徴!
そのハトは大きくて立派な翼を持ち、滑らかな流線を描いたくちばしを持ち、
隣の山まで響くような美しい声で鳴き、誰よりも高く、時には雲の上まで飛ぶことができます。
 
そのハトは翼こそ大きくありませんが、くちばしは誰よりも長く鋭敏で、瞳は美しき漆黒で、
隣の山まで誰よりも速く辿り着くことができます。
 
そのハトは孔雀のような七色の尾を持っていて、誰もが魅了されます。
優雅に羽ばたき、華麗に回ります。そして美味しい湧き水の在り処を知っています。
 
そのハトは誰よりも屈強な身体を持っています。
森中の木という木が倒れたあの凄まじい嵐の日も、まるで水浴びをするかのように力強く空を飛んでいました。
 
そのハトは普通です。どこを取っても、誰から見ても、それはハトです。
普遍的で形而的なハトです。ポロッポポロッポ鳴いて神社の境内に意味もなく集まるあの、ハトです。
 
そのハトは、ハトらしからぬ風貌で、パタパタ羽ばたくという形容が似合いません。
むしろノソノソと飛びます。クチバシも頬と見分けがつかないくらい短くて、水浴びだってしたことありません。
みんなにすぐ置いていかれるので――誰も口に出して言わないけれど――嫌われています。
 
そのハトは翼がありません。生まれつきなのか昼寝の最中に野良犬に食べられたのかわからないけれど、翼がありません。
だから飛ぶことができません。ジャンプすることさえままならないのでニワトリにだって馬鹿にされます。
そして毎日月灯りの下で――もちろん月が厚い雲に隠れた夜にだって――声を出さずに涙を流します。
そのハトは翼もないけど、ポロッポポロッポというハトにとっては当然の、その声さえ出せないのです。
 
今夜も月明かりに照らされて優雅に翼を広げるハトを見上げながら声も出さずに泣くのです。
このハトに許されているのは鳴くことではなく、泣くことだけなのです。
 
だけどみんなハトです。一様にハトです。ハトはハトです。
人はそれを平等と呼びます。平等な世の中と呼びます。
同じ権利があって、同じチャンスが巡ってきて、同じ翼を持っていると思い込んでいます。
 
平等である世の中で、憐れなハト達は、ブラウン管越しの暴力や殺戮や報復を眺めているのです。
――ブラウン管越しに映っているあれはカラスだ、と。
 
僕は平等な世の中に生まれて本当に良かったと思っています。
 
大いなる皮肉を込めて。

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