2002年03月12日(火)  本と天井。
僕はキッチンの椅子に座っていて本を読んでいる。
彼女はキッチンから見える僕の部屋のソファーに座り天井を眺めている。
音楽もかけずに、雑誌も開かずに、ただ天井を眺めている。
 
それでも僕はキッチンの椅子に座っていて本を読んでいる。
それでも彼女はソファーに座り天井を眺めている。
 
どちらから話し掛けるわけではなく。
どちらかが相手を見つめるわけでもなく。
 
僕は本を読み
彼女は天井を眺める
 
僕達は喧嘩しているわけじゃないし、心が通じ合っていないわけじゃない。
ただ、そういう時間が人より少し多いというだけで。
僕は(少なくとも僕は)そういう時間を苦に思っていない。
 
ふと彼女を見る。
彼女は相変わらず天井を眺めている。理由はわからない。
虫が這っているのかもしれないし、不思議な模様が描いてあるのかもしれない。
 
そういう姿を見ていると、時々とても悲しくなることがある。理由はわからない。
虫も這っていなくて不思議な模様も描いていない天井を眺め続ける彼女の姿が
僕の胸を苦しくさせる。
 
彼女は、自分の部屋でも、僕のいない僕の部屋でも
こうやって何かが現れるのを待っているような瞳で天井を眺めて続けているのだろうか。
 
いまいち情景が伝わらない小説を読むより、何もない天井を見上げるより、
話をしたいことが、いっぱいあるけど、僕達はとても不器用で
気の効いた言葉も知らないから
 
僕は本を読み続けて
彼女は天井を眺め続ける。

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