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| 2002年03月02日(土) 三味線。 |
| 和服姿の店員に通された小さな座敷。小さく聞こえる三味線の音。掛け軸。 「どうぞごゆっくり」 とある料亭。僕は髪を整え、いつもより幾分地味な格好をして、 派手な時計とブレスレットを外し、携帯をマナーモードにして、 大きな座布団の上に正座をした。 僕の横に、彼女が座る。 僕の彼女は学校の先生で、今日は研究授業でもあるかのような格好をしている。 チラリと横目で僕を見る。 テーブルを向かい合って斜め前、彼女の妹が座る。 もう何度か会っているが、彼女の妹もいつもと少し違う格好をしている。 いつもの大学生らしい格好とはうって変わって、 今夜の為に繕ったようなおしとやかな服。左胸に蝶のワンポイント。 テーブルを向かい合って僕の目の前。 フェンディのセーターを着た女性がゆっくりと座る。 僕に静かな、優しさに満ちた笑顔を投げかける。 「はじめまして」 僕は、少し声を上ずらせ、挨拶をする。 僕の目の前に座っている彼女に似た優しさを醸し出している女性は 彼女の母親。 ―――― ――ねぇ、お母さんにあなたを紹介したいんだけど。 風呂上り、僕はストローで牛乳を飲んでいた。コーヒーをやめて数週間経つ。 僕は目を丸くする。え?どういうこと?どうして? ――別に深い意味はないんだけど、あなたなら安心して紹介できるかな。って。 親と会うこと自体、深い意味がありそうな気がするけど、 別に断る理由もないので、その時はあっさりと承諾した。うん。じゃあ3月1日の夜に。 ――お父さんにはまだ内緒。ふふふ。 そして3月1日の夜。僕はあの時に言った軽はずみな返事を後悔することになる。 ―――― 「緊張したでしょ」 彼女は悪戯に笑って受話器の向こう側の僕に話し掛ける。約2時間に渡る食事会。 僕はいつものようにユーモアを交え、場を盛り上げた。背中には冷たい油汗。 「お母さん、とってもいい人だったって言ってたよ」 「ありがとう。ホッとしたよ。お母さんこそ話しやすい人でよかった」 「ふふふ。ありがとう。また一緒にご飯行こうね」 「うん。また一緒に行こう」 僕の胃に穴が開いてしまう前に。 |
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