2002年02月28日(木)  木曜日。曇り。取り壊し工事。
休日。生憎の天気だったけど、朝起きて、洗濯をして、ベランダに干した。
向かいの建物の取り壊し工事が始まっているので、ひどくうるさい。
 
キッチンの時計が壊れていて、ここ最近、いつも3時55分を指している。
僕は学習能力が欠如しているのかこの時計を見るたびに
「もう3時55分?」
「まだ3時55分?」
などといちいち反応してしまう。
 
部屋のデジタル時計を見る。AM10:15。
今日は、何も予定がない。
 
シンクに溜まった皿を洗って、キッチンの掃除をする。
テーブルの真ん中に一輪挿しの花瓶を置く。
花の名前はわからない。数日前、母親が買ってきた小さな花。
小さくて、我を出さず、控えめに、うなだれて咲くピンクの花。
 
コーヒーを煎れて、その小さな花をぼんやり眺めていた。
 
指輪をなくした。
 
僕の右手にいつも、我を出さず、控えめに佇んでいた小さな指輪。
過去を償う指輪。
祝福されず、感歎されず、ただ呪われ、悔やむだけの指輪。
 
一時も離さずに、僕の指に埋まっていた指輪。
何年も外さなかったから、僕の体に一体化していた。
その指輪が、いつのまにかなくなっていた。
 
裸になった右手の薬指を眺める。
 
「・・・終わったのかなあ」
 
静かなキッチンで呟く。
あの指輪は、なくなったんじゃなくて、本当に僕の体と一体化したのかもしれない。
 
静かな休日の木曜日。
キッチンには僕と小さな花。
小さくて、我を出さず、控えめに、うなだれて咲く花。
小さくて、我を出さず、控えめに、うなだれて呟く僕。
 
いつだって、不可抗力だ。
何かのきっかけで、すぐ蘇える。前へ進むとすぐ何かが足にまとわりつく。
 
だけど、指輪が消えたことは事実。
1つのきっかけを失ったことは真実。
 
午後から彼女を食事に誘おう。

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