2002年02月27日(水)  力を込めて。
「ねぇ、ギューッとして」
彼女は僕の胸の中でそう言った。
呟くように。確かめるように。小さく力を込めて。
 
周囲の人はどうなのかわからないけれど、
僕が今まで付き合ってきた女性は、その期間の差はあれど、
ある時期になると、必ずこのセリフを口にする。
 
それはある種のシグナル。ある種の警告。
 
僕は彼女の背中に腕を回し、力を込める。
「・・・ん」
胸の中で彼女は安堵の溜息を漏らす。
 
「ねぇ、ギューッとして」
僕はこの言葉の意味がわかっている。
それは、僕の存在を確かめようとしているのだ。
 
僕の心が離れていきそうなとき(僕は離れているとは思わないけれど)
僕の存在を確かめるために、直接的な刺激を求めようとする。
僕が、力を込めて、僕の胸に(心に)近づけようとする。
 
だけど僕は、そうやって彼女を力強く抱いているとき、
誰か、僕じゃない誰かが、彼女を抱いている気がする。
僕の腕が僕のものじゃないような気がする。
僕の彼女が僕のものじゃないような気がする。
 
僕の腕から、体から、心から、魂が抜けていくような感覚に陥る。
 
僕の背中に絡まった彼女の細い腕だけが
僕を、ここに、繋ぎ止めようとする。
 
抱きしめている彼女の肩越しに僕は空虚を見つめている。
目を凝らしてみると、
夜の窓に彼女の後ろ姿と僕の顔が映っている。
 
夜の窓に映った僕の顔を見つめる。
夜の窓に映った僕の顔は空虚を見つめていた。

-->
翌日 / 目次 / 先日