2002年01月17日(木)  10分遅れの指輪。
3日前、数年振りに再会した僕たちは、どちらからともなく、食事の約束をした。
 
午後8時。あの頃と同じ待ち合わせ場所。
彼女は待ち合わせの時間より、毎回10分は遅れて来た。
そして今日も、ちょうど10分遅れて罪悪感のない笑顔でやってきた。
 
「化粧で遅れちゃったの」
 
理由もあの頃とまったく同じだった。
 
数年振りの食事。あの頃、すっかり冷めきっていた僕達は、会話という概念を失っていた。
相手の行動を見て、それに怒り、憎んだ。
空を見ると毎日曇っていた。海を見ると毎日荒れていた。地面を見ると毎日濡れていた。
 
「あの頃、言えなかったことを、隠していたことを、話をしよう」
 
僕はワインを傾けて、彼女もワインを傾けて(あの頃は2人ともワインなんて飲めなかった)
そう言った。
それは、何処へも辿り着くことのできない提案だった。
 
テーブルをはさんで、目の前にいる彼女の(僕の知らない)僕たちの物語。
小さな料理をはさんで、目の前にいる僕の(彼女の知らない)僕たちの物語。
 
2人とも正直にあの頃の秘密にしていた出来事を打ち明けた。
それは、双方少なからずショックを受けることになった。
悲しい提案。もう何処へも辿り着くことはできないのに。
 
あの頃、彼女は1度、浮気をして、僕は2人の女性と関係を持った。
僕は彼女が浮気をしていたことが意外で、彼女は僕がショックと感じたことよりも、
数倍傷ついたようだった。
 
彼女は涙をこらえていた。今、涙が流れたところで、僕たちは何処へも行けない。
全ては終わったこと。もう何処へも行けない。
 
「その、指輪、どうして外さないの?」
僕は、問い掛ける。あの時、一緒に買った指輪。
「あなたこそ、どうして外さないの?」
彼女は、問い掛ける。あの時、一緒に買った指輪。
 
「私が指輪を外さないわけは・・・アナタへの償い」
「僕が指輪を外さないわけは・・・キミへの償い」
 
2人とも、もう何年も、お互いを償いつづけていた。
 
「ねぇ、今でも、愛してる?」
 
彼女が言う。
 
僕たちの償いは、これからもずっと、達成されないことをわかっていながら。

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