2001年12月28日(金)  堕落 ―その後―
「髪、伸びたね」
 
彼女は言った。金曜午後のレンタルビデオ店、まばらな人。
僕は今夜見るためのDVDを2本持っていた。まばらな人。
僕と彼女はすぐに目が合った。人がまばらだからすぐ目が合った。
一度しか会っていなくても、お互いの目は、あの日の記憶を追っていた。
 
「そりゃあ、伸びるよ」
 
だって、あの時は、まだ夏だった。夏の夜だった。
シャツが汗で濡れていた。僕の瞳は乾いていた。あの夏の夜だった。
フラッシュバックする。夏の夜のあのショットバー。
 
誰にも醜態を見せたくないから、僕はあの夜1人で飲んでいた。
誰にも醜態を見せたくないから、僕はあの頃1人で泣いていた。
 
たしか、25歳の誕生日を迎えた数日後の夜だった。
誰にも祝ってもらいたくなかった。
混乱し、混乱し、混乱していた。
 
僕の横には、いつの間にか、その女性が座っていた。
夏の夜のショットバー。大きな傷を負い、血が流れ続けていた。
その大きな傷は、誰も癒すことはできなかった。
僕はただ酒を飲み、その傷口を広げていた。
 
その時に、いつの間にか、僕の横に座っていた女性。
あれから5ヶ月。2度目の出逢いは、金曜午後のレンタルビデオ店。
 
「あの時は、どうも、ありがとう」
僕は礼を言う。僕の醜態を見た唯一の女性に。
 
「どう?もう元気になった?」
彼女は笑いながら言う。彼女の笑顔は夏の記憶には残っていない。
あれから数日後、僕はポケットの携帯電話を握りしめて東京に行った。
 
一瞬の夏の出来事の残骸は、もう、携帯電話の中でしか確認することができなかった。
空港の待ち合い所で1人、何度もメールチェックをした。
 
あれから5ヶ月。彼女は彼女のことを知らない。
 
「また、どこかで」
 
「うん。どこかで」
 
僕たちは別れた。金曜午後のレンタルビデオ店。
名前も知らないその女性は、再びまばらな人たちと同化して消えてしまった。
名前を知ってるあの女性も、まばらな人たちと同化して消えてしまった。
 
一夏の切ない出来事。
 
今でもどこかで愛しているあの女性のことを日記で書くのは今日でおしまい。
それは2001年の出来事。あと3日もすれば、新しい太陽が昇る。
 
新しい太陽が昇る。

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