2001年12月20日(木)  深夜。キッチン。涙。
昨夜遅く、友人が泣いた。
 
ドアを乱暴に叩く音で僕は目覚めた。午前2時。
ドアが壊れそうなほど、乱暴に、その拳は、僕の部屋のドアを叩きつづけた。
僕はてっきり男かと思い、身構えた。
男に恨みを買うことは――なきにしもあらずだけど
深夜2時に乱暴にドアを叩かれるほど悪いことはしていない。
 
キッチンの電灯を燈すと同時に、ドアの音は止んだ。
「・・・誰」
僕は声の震えを悟られないよう、慎重に、そして声を若干低くして話す。
「・・・」
ドアの向こうからは何も聞こえない。深夜2時。本当ならば、何も聞こえない時間。
「誰?」
僕は少し苛立ちを込めた口調で話す。
ドアを乱暴に叩いて、そのあと無言だなんて失礼な話だ。
「・・・」
それでもドアの向こうは深夜の沈黙が支配している。
 
突然、僕の背後で携帯が鳴る。
僕は不意をつかれて必要以上に驚く。胸の鼓動を抑えながら携帯を取る。
友人からの電話。少なくとも深夜2時には電話をかけない友人からの電話。
「もしもし・・・」この時はもう、僕の声は震えていた。
「・・・」携帯の向こう側とドアの向こう側を支配している沈黙は、同じ沈黙だった。
外の冷たい空気にさらされた沈黙。声を押し殺している沈黙。何かの序章を思わせる沈黙。
 
僕は溜息をついて、ドアを開けた。
友人は黙って僕を見つめて、何も言わずに僕の部屋に入り、静かにキッチンの椅子に腰をおろした。
友人はいつまでも黙っているので、僕はキッチンにストーブを運んで、インスタントコーヒーを煎れた。
その間もちらちらと友人の方を見たけど、
友人はキッチンのテーブルに置かれているライターをずっと凝視していた。
 
詮索しないことにした。
 
僕も黙って椅子に腰をおろし、あくびを噛み殺しながらコーヒーを飲んだ。
友人の、最初の感情表現は、涙だった。そしてこの涙はこの日唯一の感情表現でもあった。
涙腺が壊れたんじゃないかと思うほど、その涙は自然に瞳から流れ続けた。
 
コーヒーを飲み終わって、2本目のタバコを吸い終わった頃、
友人は静かに立ち上がり、
「ごめんね」
と、だけ言い残し、深夜3時の闇(1時間沈黙していた)へ帰っていった。
 
僕は大きなあくびをして、3本目のタバコを吸って、
再び寝床へ戻った。

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