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| 2001年12月11日(火) 味噌汁 |
| 彼女と同棲して1年の月日が流れた。 僕は彼女のことを愛していたけれど、同棲には反対だった。 恋愛は恋愛、私生活は私生活。僕はしっかりとした壁を作っていたかった。 しかし、彼女の熱意と強引さに負けて、同棲の話をした次の日は 彼女は大きな荷物を抱えて僕の部屋を控え目に3回ノックした。 最初は反対していたが、同棲生活は楽しかった。 朝起きると朝食が準備してあった。僕はパンとコーヒーで充分だったけど、 彼女は朝は和食という実家から引き継ぐこだわりを捨てなかった。 アパートの狭い廊下に響き渡る声で「いってらっしゃい」と声を掛けられ、 顔を真っ赤にしながら階段を降りた。 僕より遅く帰ってくる彼女の為にお風呂を準備したり、時々夕食だって作った。 同棲して10ヶ月目の秋、深夜、僕はそっと彼女の腕枕を外し、 ベランダでタバコを吸うようになった。1人でビールを飲んだりもした。 とにかく眠れなかった。 好きな人ができた。 彼女のことは愛していたけれど、その愛情は「家庭的」な愛情へと変化していた。 僕はまだ刺激が欲しかった。束縛されるのを嫌がったり、彼女が夜遅く帰ると嫉妬したりしたかった。 「非家庭的」な恋愛がしたかった。ないものねだりということは充分わかっていたけど。 そして同棲1年目の今日、僕は彼女に別れを告げた。 好きな人ができた。このままでは君と一緒に暮らしていくことはできない。 僕はできるだけ感情を殺して呟いた。別れよう。 彼女は泣いた。壁の薄いアパートで叫んだ。 「どうしてなの。わからない。どうして私じゃいけないの。どうして。どうして」 彼女が連呼する「どうして」に僕は答えることができなかった。 彼女はしばらく泣き叫び続け、突然静かになり窓を見つめていた。 窓にはカーテンがかかっていた。カーテンの外には僕の自由、彼女の混乱が待っていた。 「わかったわ」 彼女は声を振り絞るようにそう言った。 不幸な夜を過ごしてもいつも通りに太陽は昇る。 目が覚めると僕の横に彼女の姿はなかった。 テーブルの上には朝食が短い手紙と一緒に並べてあった。 「さようなら。とても楽しかった。ずっと忘れない。あなたを愛したことを」 僕は彼女が作った最後の朝食を――彼女の朝はいつも和食だった―― 冷めてしまった味噌汁をすすった。 涙と混ざって、いつもより少し辛かった。 |
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