2001年12月07日(金)  恋する遺伝子。
――もう少し早く言ってくれたらよかったのに
 
――来ないで
 
――いいよ、もう、無理しなくて
 
――さようなら。もう忘れて。元気でね。
  
――あなたとは、もう会えない
 
――そんなこと、知らなかった
 
目を閉じて、思い出してみる。
僕の心に刻み込まれた最期の言葉。
それぞれの物語のそれぞれの終焉。
ハッピーエンドは結婚だなんていうけど、それは、嘘だ。
 
「もう少し早く言ってくれたらよかったのに」
僕は自分の思いを伝えることに欠けていた。
ほんの一瞬のタイミングを見逃して、ほんの些細なすれ違いで、僕達は別れた。
 
「来ないで」
不確かな未来を信じ、僕は彼女を捨てた。
幸せだったけど、このままじゃ終われないと思った。
棘の道へ歩みだした時。その道の入り口で彼女は呟いた。来ないで。
 
「いいよ、もう、無理しなくて」
僕はいつの間にか、親愛なる相手にまで心を閉ざしてしまった。
手をつないでもキスをしても抱き合っても、心は僕さえ知らないところからいつも見下ろしていた。
彼女は敏感だった。そういう僕の存在をとっくに気付いていた。
 
「さようなら。もう忘れて。元気でね」
一度閉ざされてしまった心はなかなか開かず、愛情を抱くことに少しの難解さと
多大なる苛立ちを感じ始めていた。僕は言った。もう駄目だ。と。
 
「あなたとは、もう会えない」
今までで一番短くて一番愛した女性。
心の隙間に細い指を入れて、優しい言葉で開いてくれた女性。
突然の終焉を迎えたけれど、彼女は確かに僕を救った。
 
「そんなこと、知らなかった」
僕は君の全てにはなれない。僕の全てを早く知ろうとしすぎたんだ。
そんなこと、知らなかった。僕は君のことは何一つ知ろうとはしなかった。
 
全ての言葉が、それぞれの季節が、それぞれの場所が、それぞれの音楽が、
それぞれの感情が、それぞれの愛情が、それぞれの涙が、
 
少しずつ、少しずつ、
僕の遺伝子に刻み込まれていく。
様々な過去の思いを言葉に変えて文字に変えて僕は記し続ける。
 
荒れた手を太陽にかざす。今日も明日も僕の手のひらには赤い血が流れ続ける。
 
無駄なものなんて何一つないんだ。
膨張する遺伝子は、きっとハッピーエンドへ導いてくれるはずだ。
 
僕の心が完全に開くときへ。

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