2001年12月04日(火)  午後4時の契り。
仕事帰り、近所のスーパーで買い物をしていると、
僕の隣でシャンプーを選んでいる女性と目が合った。
どこかで見たことがある。どこかで話をしたことがある。
シャンプーを選ぶ振りをして考える。隣のショートカットで目の大きい女性は、誰だ。
 
どんな会話をしたか考える。そこまで深い会話はしていないはずだ。
 
どんな服装をしていたか考える。彼女は、その時、何を着ていただろう。
 
話し掛けることを躊躇する。もしかしたら人まちがいかもしれない。
疑惑が確定を上回る。たぶん、人まちがいだ。
 
シャンプーとトリートメントを適当に選んで、そこから去ろうしたその時、
「ねぇ」
と、声を掛けられた。振り向くとその女性が口元を少し曲げた笑みを浮かべて立っている。
「あ」
と、僕は声を発する。「あ」 あまり意味のない言葉。
 
「今日、予約入ってたんだけど」女性が言う。
「あ」 僕が言う。僕は「あ」 としか言えないのか。しかしこの「あ」 は疑問符の付いた言葉。
予約?何の予約?僕はこの女性と何を約束していたのだろう。
僕はもう一度、女性の顔を見つめる。予約?予・・・約?予・・・・・約!?
 
「あ」 僕はまた同じ言葉を発する。しかしこの「あ」 は感嘆符の付いた言葉。
「4時」彼女は意地悪にそう言う。そう。僕は4時に約束していたのだった。
「4時」彼女は語句を強めてもう一度言う。4時。僕は苦笑いをする。
 
「ごめんなさい」
 
「気を付けてね」彼女は優しくそう言った。
そんな優しい言葉で僕を責めないで。
こういうときの怒りは露に表した方が楽なことを知ってるくせに。
 
午後4時の予約。あの時は忘れていなかった。忘れるはずがないと思っていた。
午後4時の契り。あのとき僕は少し頬を腫らしていた。
腫れた頬をさすりながら、彼女に次は4日の4時に来ると約束をした。
 
「その時間なら空いてます」
彼女もそれを快く受けいれてくれた。
 
僕はそんなことをすっかり忘れて、仕事に追われていた。
彼女は、午後4時の夕暮れの中、何を考えていたのだろう。
 
本当にごめんなさい。歯医者の受け付けのお姉さん。
決して治療が怖かったわけではないんだ。

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