2001年12月02日(日)  ロンドン橋。
夜勤明け。
 
午前6時。病院のグランドにはロンドンの朝のように濃い霧が周囲を白く染めていた。
仕事を少し中断して、グランドを歩いてみる。
霧で濡れた冬の芝生。その霧は白衣と同化して僕はその時、霧の一部となった。
遠くから声が聞こえる。なんだか懐かしい響き。過去の残片か、記憶の残響か。
そっと目を閉じて耳を澄ます。
 
「・・・・さ〜い・・・・」
「・・・・・なさ〜い・・」
「・・・・・・きなさ〜い」
神経を集中させる。霧の向こうで誰かが呼んでいる。
「戻ってきなさ〜い!!」
 
看護婦さんだ。
僕は現実の世界へ引きずり戻され、慌ててナースステーションに駆けていった。
病院の朝は忙しい。
日中の5分の1の人数で患者さんを看なければならない。
 
明るい声と健やかな笑顔と睡眠不足。これが夜勤だ。
 
「おはようございます。調子はどうですか?」
 
僕は「調子はどうですか?」という言葉はあまり使わない。
YESかNOしか導き出さない言葉は使いたくない。
こんな質問は野暮であり無駄である。
 
しかし夜勤明けの朝はついこの言葉を使ってしまう。
多分、疲れているからだと思うけど。

-->
翌日 / 目次 / 先日