2001年12月01日(土)  冬の始まり「カノン」の終わり。
寝る前に携帯が鳴った。「カノン」はあの人専用の着信音。
久々に聞く「カノン」はある種の切実さを訴えていた。
 
僕は携帯を取りにキッチンまで行ったが、少し躊躇して立ったまま
16和音の「カノン」の演奏が終わるのを待った。
午前1時。大きな欠伸をして、ポカリを飲んで、キッチンの椅子に座って
再び「カノン」の演奏を待った。必ずもう一度電話がくるはずだ。
 
電話がこなければかけ直すことはないし、
電話がきたら、それは、その時、また、考える。
 
午前1時30分。僕は確実に電話を待っていた。
雑誌や小説を読んで、電話を待っている自分を否定していた。
今更、何になるのだ。
スタッフスクロールが流れ終わり、「THE END」が降りてくる時を待つ時間。
 
多少皮肉的で悲劇的ではあったけれども、終末を迎えた小さな物語。
君には僕は荷が軽すぎて、
僕には君は荷が重すぎた。
やがて天秤はバランスを失い、それぞれの皿に乗ったそれぞれの思い出は
あの週末のレストランの中で粉々に散ってしまった。
 
黙って席を立つ君。黙って外を見る僕。
忘れ去られたマフラーと、料理の請求書。いつも食事は割り勘だった僕達は、
その日、初めて僕がまとめて払った。
 
あれから僕はいくつかの恋をして、全ての恋がうまくいかなくなった。
僕は忘れ去られたマフラーで首を締め続けられる。
 
また、冬が来てしまった。
 
午前1時40分。再び「カノン」が鳴り響く。
穏やかな曲調の向こう側で君は何を思い、受話器を持っているのだろう。
 
僕は躊躇して、目を閉じて、僕の指で「カノン」の悲しい響きを終わらせた。
ベランダから見える夜空から、ようやく「THE END」の文字が降りてきた。

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