2001年11月21日(水)  MOTER!
家に帰ると、部屋の鍵が開いていた。
キッチンの明かりが灯っていて、テーブルを見ると夕食が並んでいた。
洗濯物は几帳面にたたんであって、散乱していたCDや雑誌は1つにまとめてあった。
 
真っ暗な部屋の向こうのベランダに人影が見えた。
「・・・誰?」
夕食が準備してある時点で悪人ではない。かといって夕食を作ってくれるような善人の知り合いなんていない。

「あ、おかえり」
母だった。
「びっくりしたよ。そんな暗いところで何してんの?」
「空見てたの。獅子座流星群っていうの?」
「もう、それ終わってるよ」
母は微妙に世間に疎いところがある。

「来るんだったら電話してくれたらよかったのに」
「面倒臭かったの」
僕が母に似ているところはこういうところでわかる。

母は活字中毒だ。暇さえあれば本を読んでいる。とにかく小説だったら何だっていいのだ。
キッチンのテーブルに向かいあって僕は夕食を食べ、母は小説を読む。
時々思い出したかのように何か話し掛けてくる。その問い掛けに僕は応えて、
母は「そう」と納得しているのか納得していないような返事をしてまた本を読み始める。

友人が突然ドアを開けて部屋に入ってきた。
僕の友人達はノックをしないことが当然なので今日も突然あいさつもせずに部屋に入ってきた。
「あら、こんばんは」
母は全く驚いている素振りを見せない。母はそういう人なのだ。
驚いたのは友人だ。混乱している様子がありありとわかる。

「あっ、こ、こんばんは、あっ、ご、ごめんなさ・・・」
「お母さんだよ」僕が友人に説明する。
「あっ、お、お母さん、はじめまし・・・」
「友達だよ」僕が母に説明する。
「そ、そうです、友達です。彼女じゃありません。えっと・・・ほら、結婚だってしてるし」
友人は頼まれてもいないのに左手の結婚指輪を見せる。僕はそれを見て吹き出してしまった。
「ふふふ。そう。ゆっくりしていってね」
母も友人の慌てた素振りに微笑んでいる。

「じゃぁ、また来るね。特別用はなかったし・・・」友人が言う。
「今度はちゃんとノックしてね」
そう僕が言うと、母が見えない所で友人は顔を真っ赤にして頬を膨らませた。
「これからも息子をよろしくお願いしますね」

友人は尚一層、顔を紅潮させて帰っていった。
友人が帰ると、母はまるで何もなかったかのように再び本の続きを読んでいた。

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