2001年11月06日(火)  過去から届いた手紙。
差出人が書いていない便箋が届いた。
差出人不明の手紙といえば、炭素菌か昔の女性に決まっている。
便箋からは白い粉が漏れている気配はなく、
簡単な消去法で炭素菌が検出されていないことは明らかだった。
 
ポストから便箋を取り出して、部屋の鍵と煙草とライターと一緒に
テーブルの上に置いて、シャワーを浴びて洗いたての洋服に着替えた。
こうして僕なりの儀式を終え、テーブルの前に静かに座り、ハサミを取り出し、
丁寧に便箋の封を開けた。
 
「お久し振りです。元気ですか」
 
敬語で始まるその言葉が、僕達の空白の時間の長さを感じさせる。
過去、あれほど近くで囁き合ったとしても、現在は敬語で話し掛けられる。
 
「そちらももう、冷え込んでるでしょうか」
 
物理的な距離。もう、毎年この季節に荒れていた手さえ握り合えない。
懐かしい筆跡。僕は、何度もこの筆跡で「好き」と言われて「嫌い」と言われた。
「ずっと一緒」と言われて「ウソつき」と言われた。
そして今は「あなたは何をしているの?」
 
僕は―――何もしていないよ。あの頃から何も変わっちゃいない。
一日は相変わらず24時間で僕は深夜に寝て朝なかなか起きれない。
変わったことといえば、僕は朝起きれなくても、1人で起きないといけなくなった。
朝食は摂らなくなったし、毎晩アルコールを飲むようになった。
 
君と一緒であまり笑わなくなった。
 
「あの時のクリスマス、覚えてますか?」
 
何が幸せだったかというのは、ある程度の時間が経過しないとわからない。
だから、あの時のクリスマスは、―――幸せだったと思う。
 
この手紙で、なかなか現在に帰れない。
僕は首を振る。今日は、2001年、11月、・・・6日。
彼女は、もう、20世紀の女性。
 
右手の指輪が指を締める。僕を、責める。
 
君に謝りたいけど、何を謝っていいのかわからない。
君は「非通知」の名の元で電話をかけ、住所の書いていない手紙を送る。
僕は君をもう触れない。
 
いつか、僕の背中をそっと叩かれるような気がする。
その時は、君の好きなワインとチーズを持って迎えよう。
君がいつも言っていたあの大きな丸いチーズを。
小さな銀のナイフでそのチーズを丁寧に切り分けるんだ。
 
   そしてその小さな銀のナイフで、このリングが輝く右手の手首を切ろう。

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