2001年10月24日(水)  泣きっ面に泣きっ面。
雨が降っていた。
 
4年前の10月。専門学校の旅行で北海道に行き、4泊5日の思い出を土産袋に詰め込んで帰ってきた。
学校の駐車場で佇む。雨の中こんな重いもの担いでアパートに戻るのは一苦労だ。

「送ろうか」
と声を掛けられた。沙織だ。僕はこの女性に好意を抱いていた。
当時は沙織と外が暗くなるまで学校に残り、とりとめのない話ばかりをしていた。
僕は沙織のことが好きだし、沙織も僕のことが好きなんだろうと思っていた。

しかし沙織には彼氏がいたし、僕も半同棲中の彼女がいた。
僕達はこれ以上の関係に発展できるわけがなかったし望んでもいなかった。

「アパートまで送ってあげる」
これが、沙織の車に乗った最初の出来事だった。

「寄っていく?」
アパートの駐車場で沙織にそう言った。沙織は驚いて口篭もって「だって…」と呟いた。
「あ、彼女なら今日は仕事でいないんだ」当時の僕は最低の男だった。
 
沙織は友達と何度か僕の部屋に遊びに来た事があった。
しかし、今日はあの何かと口うるさい友達はいない。
冷め切って伸びきってしまった彼女だっていない。
 
ソファーに並んで座る。会話が途切れる。雨の音が沈黙を埋める。僕達は見つめ合う。
 
「ただいまー」
 
突然、ドアが開く。僕は銃弾を避けるような体勢でソファーから離れる。
彼女が帰ってきた。彼女は立ったまま僕と沙織を交互に見つめ、小さな手を震わせていた。
 
「おかえり・・・。今日、早かったんだね」僕は明らかに狼狽していた。
「あなたが・・・帰ってくる日だったから・・・休みもらったの」
 
会話が途切れる。先程より強くなっていた雨の音だけが沈黙を埋めていた。
雨粒より大きな涙が彼女の頬を伝った。悪い兆候だ。これから嵐になる。
 
「じゃあ、また・・・ね」
沙織は張り詰めた空気に耐えられなくなって飛び出すように玄関まで行った。
 
沈黙は続く。大粒の涙は止めどなくながれる。
嗚咽が漏れない涙。彼女のプライドが垣間見えた瞬間。
 
「・・・ごめん」沙織が再び部屋に戻ってきた。
「・・・誰か、外で待ってるよ」遠慮深そうに言う。誰かが待ってる?
 
手を震わしたまま立ちつくす彼女を横切り、玄関へ行く。
「・・・おかえり。今日、旅行から帰ってきたんでしょ」
 
ここで3人目の女性が登場する。
 
これが今までの人生で最大の危機が訪れた瞬間。

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