2001年10月16日(火)  本来の姿。古代の翼。
職場の更衣室に携帯を忘れてきたので、
今夜は忌わしき現代社会の束縛から解き放たれて
収めていた羽根を大きく開いて埃を払って
星さえ見えない大空に飛び立ちたいと思う。
 
現在夜7時。今から寝るまでの時間は、全て、僕の手に委ねられた。
純粋な自分の為の時間を手に入れた。
 
部屋の電話も時々鳴るが、特に気にしない。
部屋の電話の受話器なんて滅多に取らない。
 
「九州電力ですけど、マイラインは登録されましたか?」
「今回の市議選に立候補した大橋巨泉の後援会の者ですが、1ヶ月ほど新聞を購読していただけませんか?」
「NTTですけど、只今近所で羽毛布団の特売会を開催しております」
「こんにちは県庁です。ダスキンの交換に伺いたいのですが」
 
こんな類の電話ばかりだ。
部屋の電話からお得な情報や小さな幸せが舞い降りることは、まずない。
 
携帯がない夜は、
「愛してる」と何十回も言わなくてもいいし、
果たせやしない約束も結ばなくていいし、
行きたくもないバーでグラスを傾けなくてもいいし、
突然の来訪に怯えなくてもいいし、
休日の打ち合わせも、あの日の言い訳もしなくていい。
 
今夜だけこの場所は情報化社会の陸の孤島と化した。
僕は陸の孤島で眠っていた自由という大きな翼を再び手に入れた。
ベランダの縁に立ち翼を広げる。
月明かりに照らされたそのシルエットこそ自由の象徴。失われた愛の形。
 
さあ、翼を羽ばたかせる時が来た!
この情報と虚像と哀憎と道化の世界から飛び立つのだ!
いざ、職場の更衣室へ!
 
携帯を取りに行きましょう。

-->
翌日 / 目次 / 先日