2011年05月15日(日)  「週刊ブックレビュー」お薦め3冊追伸

昨日NHK-BSプレミアムで放送された「週刊ブックレビュー」。番組初出演だったのはもちろん、わたしにとっては久しぶりのテレビ出演だった(収録の模様は5/11の日記に)。

ustreamでは2月以降立て続けに3度しゃべっているし、アドリブでも反応できる手応えをつかんでいたのだけど、11日に臨んだ収録では、愕然とするほどうまくしゃべれなかった。こういうことを話そうと頭に浮かんだことを台本に走り書きした作業によって頭にもメモできた気がしていたのだが、緊張で言葉が飛んでしまった。ヘアメイクさんに二人がかりで髪とメイクをきれいにしてもらい、ピンマイクをつけ、ライトを当てられ……いつもとは違う段取りのひとつひとつに平常心が押し出されてしまった。

そもそもマイクを装着することすらわかっておらず、ワンピース一枚だけで収録に臨んだため、ウエストポーチに機械を入れたものをトイレへ行って腰に巻き、中からマイクをワンピースの襟ぐりに引っかけることになった。テレビに出演する方が着用するジャケットにはマイク隠しの効用もあったのだ。

書評ゲスト3人のイチオシを合評するクロストークでは、誰かの言葉に自分の言葉を引き出していただく形で、それなりに思っていることを話せた。しかし、肝心の、自分のお薦め本を紹介する言葉が、もう少し何とかならなかったのかと悔やまれる。

本棚を見ると、持ち主のことが見える。どんな本を薦めるかで、書評者の好みや人となりが見える。でも、わたしの言葉足らずの説明では、なぜその3冊を選んだのか、わかり辛かったと思う。

「起きてしまった物語は変えられない。物語の続きはあなたの中にある」と朝ドラ「つばさ」のヒロインの母、玉木加乃子は言った。収録で伝えられなかった続きを、日記に綴ってみることにする。

わたしが選んだ3冊は、いずれもすでに評価も人気も獲得している作家の最新本。平積みに並ぶような、手堅い、いわば「てっぱん」なセレクションだった。(この「てっぱん」という言葉も、リハーサルでは言ってたのに、カメラが回ると出てこなかった)

週刊ブックレビュー出演の依頼が来たのは、3月11日の震災の少し後だった。圧倒的な事実に打ちのめされ、作り物の脚本がどうしようもなく無力なものに思え、筆が止まり、立ちすくんでいた頃だった。

すでに読んだ本からお薦め本3册の候補を探った。広島の原爆投下後初めてGHQの検閲を受けて出版された本で、原爆の記録であると同時に行方不明の妻あてに綴られたあまりにも美しいラブレターでもある『絶後の記録』(小倉豊文)。人は網の目のつながりの中で生きていることを気づかせてくれる『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)。他に日本語が日本人の宝であることを大人が子どもに教えるのに最適(であり、大人自身も気づかされる)な『日本語は天才である』(柳瀬尚紀)などを思い浮かべたが、合評するイチオシ本は半年以内に刊行されたものという指定。「てっぱん」脚本執筆中は読書もままならず、最近の本は読んでいなかったので、イチオシの一冊を探すために書店へ足を運んだ。

脚本家にとって、書店は情報源である。棚に並ぶ背表紙のタイトルからヒントをもらうこともあるし、平積みをチェックして、今どんな物語が支持されているかを把握しておくことも欠かせない。腕組みして平積みのまわりをぐるぐるし、ふと顔を上げると、同業者と目が合ったりする。

震災後は本を読む気持ちにもなれなかった。けれど、書店に足を踏み入れると、読みたい本があふれていた。手に取って、読んでと訴える本たちと、次々と目が合った。目が合った本を何冊も連れて帰り、読みふけった。

わたしの好きな言葉に、"YOU can TAKE a BOOK ANYWHERE and VICE-VERSA"というものがある。海外の「本を読もう」キャンペーンのキャッチコピーで、1998年のカンヌ国際広告祭で出会った。「本はどこへでも連れて行ける。その逆に、あなたをどこにでも連れて行ってくれる」。立ちすくんでいたわたしに、物語の力をあらためて気づかせ、一歩先へ連れ出してくれた本たち。震災後に出会った3冊をお薦めしようと決めた。

ただ、脚本家にとって、何を読んでいるかを披露することは、手の内を明かすことになる。惚れ込んだ本であれば、自分が脚本を書きたい。だから、人には教えたくない。なので、お薦め本には「自分が脚本を書けない」という条件が加わっている。

一冊目は、乙一著『箱庭図書館』。読者から募った小説から著者・乙一氏が6本を選び、リメイク。原作のどこを削り、どこを膨らませるか、彫刻の過程が非常に勉強になる。さらに、そのばらばらな6本を連作に仕立て、ひとつの世界を作り上げたのがお見事。この作品が映画やドラマになるとしても、わたしは脚本を引き受けられない。原作から箱庭図書館に化けた以上の発明はできないと思うから。

2冊目は、小川洋子著『人質の朗読会』。地球の裏側で人質になった日本人旅行客8人が自らの人生を小説として語り合うさまが、仕掛けた盗聴器に残されていた。死と隣り合わせの状況の中で、日本語の美しさと生の愛おしさが際立つ、「耳を澄ませて読む」本。

お菓子工場でアルファベットビスケットの不良品をつまみ出す仕事をしていた女性が登場する。小川さんの文体からは、一生を祈りに捧げた女性が写植を一文字一文字拾っている姿が思い浮かぶのだけど、ビスケットのアルファベットを見つめる女性の真摯な姿が、そのイメージに重なった。

この本をわたしが脚本にできない理由は、何も足さず、何も削らず、朗読ドラマにするべきだと思うから。本の中では、盗聴された録音がそのままラジオで放送されたとなっている。

最後に、皆さんと合評するイチオシ本は西加奈子著『円卓』。家族にも友人にも十分すぎるほど愛さている小学三年生のこっこが、孤独なるものに憧れ、それを知っていく。とくに大きな事件が起こるわけではないのにページをめくる手が止まらず、けれど読み終えたくないほど登場人物たちにぐいぐい惹きつけられてしまう。西さんの大阪弁を駆使した文体が大好きなのだけど、この本はとくに、言葉もキャラクターもぴちぴち、ぴかぴかしている。もし映画かドラマになるのであれば、西さんご自身に脚本を書いて頂きたい。

……といった紹介ができれば、この時期に今井雅子という脚本家がなぜこの3冊を選んだのか、伝わりやすかった気がする。とはいえ話したことがすべて放送に採用されるわけではないのだけど、"YOU can TAKE a BOOK ANYWHERE and VICE-VERSA"はせめて紹介したかった。限られた時間、語数で思いを伝えることの難しさを思い知ると同時に、次回また声をかけていただける機会があれば、緊張しても飛んで行かないぐらいしっかり言葉と自分を結びつけて収録に臨もうと心に誓う。

『円卓』の合評では、放送では落ちているけれど、大阪弁の話題も盛り上がった。宮田さん、司会の中江有里さん、わたしが大阪出身なので、「大阪ではほんとにうっさい、ぼけと言ったりするのか」について話したりした。円卓の円はまあるいお好み焼きの形なので「てっぱん」の話を絡められたらとも思っていたのに、収録中は吹っ飛んでいた。

医師の向井万起男さん推薦『フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)』と旅行エッセイストの宮田珠己さん推薦『日本の素朴絵』の合評は楽しかった。同じ本を読んで意見を言い合うと、そんな見方があったのかと気づかされる。食事に喩えると、より栄養が身につく感じ。

『フェイスブック』については、本の感想だけでなくフェイスブック論も盛り上がった。本の内容から離れるので放送では採用されていないけれど、この本をとっかかりに、これからのインターネットや広告はどうなるのかといった話や、国際情勢がどう変わるのかという話をしていたら、ひと晩でも語れそう。

フェイスブックをしている人にはますます興味が湧くし、していない人が読むと、始めてみたくなる。そして、フェイスブックをしている・いないに関わらず、何のために働くのか、生きるのかという普遍的な問いを投げかけてくれるのが、この本のいちばんの魅力だとわたしは感じた。

ちなみに、facebook内にある本書のファンページに書き込みをしたら、翻訳を手がけられた高橋信夫さんと即座につながった。

『素朴絵』では、みんなでわいわいと「何ページのこの絵」について突っ込み合うのが楽しかった。日本の古からの絵を扱いながら、フェイスブック的な共有によって面白みが加速する。放送には採用されなかったが、わたしは坊主とやり手婆の絵に即興で台詞をつけてみたり、キトラ古墳の壁画に小学生が作文をつけるコンクールがあったのを思い出して、本書に登場する素朴絵でも同じ企画ができないか、町おこしにもなるかも、などと話した。

NHK-BSプレミアムにて再放送2回あり。
5/16(月)午前2時00分〜午前2時54分
5/20(金)午後0時00分〜午後0時54分

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