2009年04月06日(月)  『韓流「女と男・愛のルール」』(朴チョンヒョン)

物を書く仕事をしている縁で、書物を贈られる機会が多い。わたしも自著を贈った経験があるけれど、贈る側からすると、すぐさま読んで感想を聞かせて欲しい、できればネットなんかで宣伝もして欲しい。書籍の売り場争奪戦は、映画の小屋争奪戦以上に厳しく、話題にならない本はどんどん淘汰され、売り場から撤退させられてしまう。せっかく口コミしてくれるなら、早ければ早いほどいい。

それがわかりつつ、一月下旬に届いた朴チョンヒョン(漢字で表記すると、チョン=人偏に宗、ヒョン=玄)さんの『韓流「女と男・愛のルール」』に手をつけずにひと月経った頃、著者ご本人から「本届いていますか? お礼がまだですが」と彼らしいストレートでお茶目な問い合わせのメールがあった。早速あわててページをめくると、面白さと読みやすさもあり、数時間で読みきれた。なんだ、これぐらいの時間ならもっと早く取れたのに、と申し訳なさも手伝って、大急ぎで感想をまとめ、「わたしの日記でも紹介しますね」と書いたのが、2月20日。それからあっという間にまたひと月。朴さん、ごめんなさい。

朴さんに会ったのは昨年のこと(>>>2008年11月01日(土)「恋愛地理学」の朴教授)。朴さんの研究仲間であるツキハラさんの上京に合わせて、ツキハラさんの友人たちが集まった会にダンナとともに同席した。ちょうど朴さんがこの本の原稿を執筆中のことで、登場するエピソードのいくつかを披露してくれたのだけど、なかでも「韓国人は記念日好き」という話が印象に残った。わたしが大の記念日好きで、誕生日や結婚記念日はもちろんのこと「出会った日」や「初めてデートした日」をしっかり記憶し、歳月がめぐってもそれを思い出し、相手にも同じことを求めるがゆえに軋轢を生むことがある。その被害者であるダンナは、「韓国の女性とつきあったら、うちの嫁以上に面倒くさそうだ」と思い、わたしは「韓国の男性なら、わたしの記念日好きにつきあってくれるかも」と思ったのだった。

実際に読んだ本のなかでも、最も興味を惹かれたのが、この「記念日好き」話。バレンタインデー、ホワイトデーにちなんで、韓国では毎月14日に恋人たちの記念日が設定されているという。記念日信仰者のわたしでさえ、1歳までは毎月祝っていた娘の月誕生日を最近は忘れがちなので、恋人と月に一度の記念日を祝おうと思ったら、かなり高熱な恋愛温度と強度な恋愛体力(忍耐力)が必要になる。キムチとプルコギで蓄えたスタミナが恋愛にも活きているのだろうか。

とくに面白かったのは、恋人がいない男女が黒ずくめの服装で黒いものを食べて独り身をアピールする4月14日の「ブラックデー」。朴さんが来日してから生まれた記念日で、何も知らない朴さんがたまたま黒を来て入った店で黒いものを食べ、ふとまわりを見たら辺り一面真っ黒で何事かと慌てたという。本人の口からすでに聞いた話だったけれど、本を読みながら、また笑ってしまった。「世にも奇妙な物語」とか短編映画にそのままできそうなヘンな光景だ。

ホワイトデーのひと月後にブラックデーをぶつけるのは、「白黒つけたがる」韓国流の現れにも見えて興味深い。本の中では、「グレーでいようとする」日本流との対比で「韓流白黒のつけ方」が描かれていて、なるほどお隣の国なのに真逆だなあとカルチャーショックを受けた。たとえば、5人グループの中で2人が仲違いをした場合、日本では当事者同士は絶縁しても、あとのメンバーとのつきあいは続く。A子と喧嘩したB子は、B子以外の3人とはこれまで通りつきあいを続けるし、B子もA子以外の3人との縁は切らない……というのはよくあるパターン。ところが、韓国では、「A子派とB子派にグループが分裂」するのだという。どっちつかずの自分を許せず、立ち位置をはっきりさせてしまうらしい。ううむ、ここにもキムチ・プルコギパワー。日本流では「A子ともB子とも仲良くする」ことに疑問や葛藤を感じないのは、「なあなあ」という曖昧さがクッションになっているからかもしれない。

他に興味をそそられたのは……。

「韓国人は口喧嘩するけど手を出さない」という指摘。日本人は言葉にする前に傷つける行為に走ってしまう、その背景に「怒りをぶつけるボキャブラリーが貧困だから」という説は新鮮。

韓国の母の息子への溺愛ぶりは、身につまされて読んだ。韓国の男性と結婚した日本の女性は、家庭に干渉する姑の越権行為に辟易としてしまうらしい。溺愛度なら日本のわがダンナの母も負けておらず、「あなたはいいわねえ、毎日あの子に会えて」などと真顔で言われたりする。彼女にとっては息子は永遠の恋人で、嫁はライバル。口出しもしたいし、手出しもしたい。わたしの場合はダンナ母に「まいりました」と白旗を上げたうえで、いろいろと教えてもらったり助けてもらったりしている。息子への愛のお裾分けをいただくつもりでつきあうのが、嫁姑円満の秘訣かもしれない。

「秘密」の取り扱いの日韓の違いも面白かった。秘密を「言うな」と言われたらその約束を守ろうとする義理の日本人に対し、韓国人は言うべき相手との情を優先させる。隠すにせよ打ち明けるにせよ秘密のやりとりには感情の動きが伴うので、脚本を書く上で(ドラマを転がす上で)はとても大事な要素。でも、日韓では、そのタイミングや相手が変わってくる。女友達の秘密を黙っていた妻を夫がなじる(夫婦の絆のほうが親友の絆に勝るという判断)くせに、女友達が泊まりにきたときには、妻は夫とではなく女友達と寝るのが普通なのだというから一筋縄ではいかない。

脚本といえば、朴さんは日本のテレビドラマをかなり見ていて、日韓恋愛観の違いを見比べる材料にもしている。本文中にもいくつかのドラマが引き合いに出されているが、脚本家の名前を明記していたのは好評価。テレビのドラマ欄でも脚本家の名前が記される機会は少ないので、わたしが所属する日本シナリオ作家協会はクレジット表記に躍起になっているという事情とあわせて、朴さんにはお礼を伝えた。

「今井さんとダンナさんも登場していますよ」と朴さんに教えられていたので、どんな風に書かれているのかしらんと期待して探してみたら、「プロポーズのなかったカップル」として登場。韓国の男は愛の言葉を臆面もなく口にし、プロポーズにも気合いを入れて白黒つけるが、日本の男はプロポーズさえ出し惜しみする。その日本代表に抜擢されていた。ううむ。

するっと読めるけれど発見盛りだくさんな『韓流「女と男・愛のルール」』。興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。

他に大阪出身でコピーライターから脚本家に、という経歴がわたしと似ている友人の川上徹也さんから『仕事はストーリーで動かそう』が、わたしが脚本を書いたラジオドラマ『アクアリウムの夜』に出演された秋元紀子さんの友人、井上豊さんから5月刊行予定の『冒険リクタウミ』が届いている。近いうちにご紹介したいと思う。

2008年04月06日(日)  ギャラリー工にてマッキャンOB『Again』展
2007年04月06日(金)   エイプリルフールと愛すべき法螺吹き
2002年04月06日(土)  カスタード入りあんドーナツ

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