2008年01月29日(火)  母の気持ちで……映画『犬と私の10の約束』(脚本協力)

松竹試写室にて3/15公開の映画『犬と私の10の約束』を見る。脚本作りに関わった作品で、わたしが書いたものは、脚本を書くにあたって英語の「犬の10戒(The Ten Commandments)を意訳した「犬との10の約束」が一部採用されて劇中に登場するという形で生き残っている(>>>2007年08月09日(木) ちょこっと関わった『犬と私の10の約束』 )。自分の脚本が使われるのがいちばんうれしいけれど、作品がちゃんと形になり、そこにほんの少しでも自分が関わった痕跡を残せるのもまたうれしい。その作品が愛すべき一本になっていたら、なおさらだ。

映画が描くのは、主人公の斎藤あかりの家に犬のソックスがやってきて去っていく、十年ちょっとの間のできごと。ソックスの一生に寄り添うように物語は進んでいく。わたしが関わったときとはエピソードも人物の性格もだいぶ変わっていて、はじめて知る作品のような新鮮な気持ちで観た。あかりのお母さんを、わたしは「ピーラーとせん抜きを間違えてきゅうりをむく」ような天然ボケのキャラクターとして描いた(その数日前に自分が体験したことをネタにした)けれど、包容力のあるまっとうなお母さんになっていて安心した。出産前、まだ娘がおなかの中にいるときに本作りをしていたのだけれど、当時は母親の気持ちを想像で書いていた。今ならもっと違った母親像を描けただろう。

犬を想う飼い主の気持ちになったり、子を想う母親の気持ちになったり、わたしには身につまされる場面が多かった。わたしが中学生のときにわが家にやってきた犬のトトと過ごした時間も10年ちょっとだったかなあと思い出す。トトは小柄な雑種で、ソックスとは毛が白いところ以外は似つかないのだけれど、ソックスは思い出の中のトトと重なり、あかりは昔のわたしに重なる。たぶん、観る一人一人がスクリーン越しにそれぞれの犬を思い描くのだろう。涙を迫る過剰な演出がない淡々とした描き方は、観る人に想像の余白を空けておいているようにも思える。脳裏に何を思い浮かべるかによって、さまざまな受け止め方ができそうな作品。二つ右隣の男性は「ゆるして〜」と言わんばかりに激しく嗚咽していた。物語と個人的体験がとんでもない化学変化を起こして、感情が爆発してしまった様子。

わたしはしみじみと思い出を振り返り、スクリーンの映像と脳裏の記憶をカットバックさせながら観た。飼いはじめた頃から犬の世界は広がらない(私にはあなたしかいません、が続く)けれど、飼い主の世界はどんどん広がって、人生において犬が占める割合はどんどん小さく軽くなっていく。トトにさびしい思いをさせてしまったかもしれない、最後は親に世話を押しつけてしまった、などと反省と懐かしさがないまぜになって、切なくなった。その一方で、自分はわが子とあと何年一緒にいられるのだろうと考えて、苦しくなる。健康で長生きしても、今は「あなたしかいない」という風にまとわりついてくるわが子が自分の世界を持つようになったら、親は邪魔になっちゃうんだろうなあ。犬にしても、子どもにしても、一緒に過ごせる時間は思っている以上に短い。だから、限りある時間を、目の前の今を、大切にしなくては。そんな素直な気持ちがふわっとこみあげてきた。

懐かしくて絵になる函館の街が舞台だったり、これまた函館が舞台だった『Little DJ』で好演していた福田麻由子さん(田中麗奈さんが演じる主人公あかりの少女時代。たしかによく似てる!)のくるくる変わる表情から目が離せなかったり、衣装がわたし好みだったり(おしゃれすぎる気がしないでもないけど、衣装が変わるたびに「カワイイ」「欲しい」とときめいた)、個人的に楽しめる点も盛りだくさん。犬が苦手なお父さん(豊川悦司)のコミカルな動きにも笑わせてもらった。3月15日(土)より全国公開。

最後のクレジットロールで「脚本協力」に自分の名前を見つけて、あっと驚いた。実は数日前、1月下旬に出る秋元良平さん(『クイール』などのスチールを撮られている写真家)の写真集『犬と私の10の約束』の中で「約束」が使われるにあたり、「訳:今井雅子」の名前を出して、プロフィールに「『犬と私の10の約束』脚本協力」と記します、という電話をプロデューサー氏からもらっていた。本のどこかに小さく入るんだろうなと思っていたら、表紙に「写真 秋元良平」と同じ級数で「訳 川口晴/今井雅子/澤本嘉光」と刻まれていて恐縮したのだが、映画のフィルムにまでクレジットされていたとは。そうと知りせば、年賀状で『子猫の涙』とあわせて宣伝して、「犬猫キャンペーン」ができたのに! 飲み会から手ぶらで帰ったつもりでいたら、脱いだ上着のポケットにプレゼントが忍ばせてあったような、うれしさとドキドキを味わった。(後日、この写真集の装丁を手がけたのが、広告会社時代に席が隣で、誕生日も隣同志で、ネスカフェこれコレにもお隣りの32番で参加していて、『出張いまいまさこカフェ』を連載中のフリーペーパーbukuのデザインも手がけている名久井直子嬢だと知り、さらなるおまけにびっくり!)


『クイール』のビデオや『マリと子犬の物語』の広告に食いついた娘のたまは、わたしのバッグからプレス用パンフを目ざとく見つけて取り出し、「わんわん!」と大興奮。写真のソックスにじゃれついたかと思うと、びりびりと一気に表紙を破いてしまった。一歳児なりの愛情表現なのだろうか。記念に取っておこうなんて親の気持ちはおかまいなし。かわいいけれど世話が焼けて、無邪気ゆえに乱暴で、幼な子って犬みたいだ。「私と気長につきあってください」「言うことをきかないときは、理由があります」……犬との「約束」は、わが子と向き合う教訓にもなる。

2007年01月29日(月)  マタニティオレンジ67 寝返り記念日
2006年01月29日(日)  空想組曲『白い部屋の嘘つきチェリー』
2003年01月29日(水)  清水厚さんと中島博孝さん
2002年01月29日(火)  年輪

<<<前の日記  次の日記>>>


My追加