2007年12月28日(金)  『日本語は天才である』と2007年に読んだ本

読みたい読みたいと思っていた『日本語は天才である』をようやく読み、幸せな気持ちになった。わたしたちが日々当たり前のように使っている日本語が実はとんでもない天才であることを翻訳家である筆者の柳瀬尚紀氏が自らの経験を踏まえて証明してくれる。

縦書きにも横書きにもでき、ひらがなカタカナ漢字はもちろんのことアルファベットや記号も難なく取り込み、漢字は幾通りもの読み方ができる上に分解も合体もできる、これほど自由度が高く、それゆえ可能性を秘めた言語は他に見当たらないと言われてみれば、なるほどその通り。日本語は面白いなあと思ってはいたけれど、「天才」と言い切る発想はなかった。

だが、柳瀬氏の鮮やかな翻訳術の一端をのぞくと、「こんな離れ業ができるわが日本語は、天才以外の何物でもない!」と確信するに至る。柳瀬氏の語り口がまた美しく面白く味があり、「あなた、実は大当たりの宝くじを持っていますよ」と告げてくれたのがとびきりイイ男だった、みたいなトクした気分にさせられた。

読みかけている『鹿男あをによし』(万城目学)と『星新一 一○○一話を作った人』(最相葉月)は年をまたいでの読了となりそうで、『日本語は天才である』が今年最後に読んだ一冊となる見通しだが、一年を締めくくるのにふさわしい広がりと明るさをもたらしてくれる一冊となった。

読んだ本のタイトルと著者名を書き留めることを去年から始めたのだが、ざっと見たところ2007年に読んだ本は約100冊。出産以来、映画や演劇を観る機会は減ったが、その分、本は以前より読むようになった。仕事関係のものが2〜3割ほど。原作本だったり、関連本だったり、資料だったり。あとは自分の興味と趣味に任せて選んだ本。書評欄で気になった本に目をつけ、気に行った作家の本は続けて読む。

男どき 女どき』をはじめ向田邦子さんの本は十冊ほど読んだ。デビュー作『イッツ・オンリー・トーク』をはじめ絲山秋子さんの作品にもはまった。『倚りかからず』の茨木のり子さんの言葉の力に打ちのめされ、『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(伊藤比呂美)にぶっとんだ。

今年最も衝撃を受けた一冊を問われたら、『とげ抜き〜』を選ぶ。はじめて読んだ瀬尾まい子さん、西加奈子さんの作品も好きになった。わたしは女流作家好みの傾向があるけれど、万城目学さんの『鴨川ホルモー』には大いに楽しませてもらった。藤井青銅さんの『ラジオな日々』も読んでいてわくわくし通しだった。

三島由紀夫、川端康成、太宰治の名作を読み返したり、かの有名な夏目漱石の『坊ちゃん』をはじめて読んだ年でもあった。現代の週刊誌に連載されていても違和感がなさそうな『三島由紀夫レター教室』のほどよい軽さと強烈な面白さはとくに印象に残った。

子育てにまつわる本も一割ほどを占めるだろうか。『パパは神様じゃない』(小林信彦)や『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』(山田太一)など男の人が書いたもののほうが面白く読めた。母親ほどの責任とプレッシャーがない「いい加減さ」が肩の力の抜けた文章につながり、読んでいるほうも気が楽になる。

だっこやベビーカーの距離から子どもを見ていると、どうしても視野が狭まって窮屈になってしまうが、人の子育てを読むと、自分の子育てを少し引いて眺めることができる。書店では入手できないけれど、『おおらかがいっぱい 途上国を見てきた保育者からのメッセージ』(青年海外協力隊 幼児教育ネットワーク)は、世界という大きなところから子育てをとらえる目を見開かせてくれた。

読書と数えていいものやら、レシピ本が約一割。寒天クッキングとパン作りの本を手に取った。わたしの場合、レシピ本は真似て作るというより眺めてその味や香りを疑似体験するためにある。食べ物にまつわる味のあるエピソードが添えられていたりするとなお美味しい。

100冊とは別に読んだのが、読み聞かせ用の絵本。気に入ったものを繰り返し読んでいるとはいえ、贈られたり買ったりしたもの、図書館や保育園から借りたものを足し上げると50冊は下らないだろう。子どもの頃に心躍らせた本に再会したり、出会う機会を逃していたロングセラーをようやく知ったり。

子どもが夢中になるものは、親にも驚きを与えてくれる。五味太郎さん(『るるるるる』『ててててて』『ん・ん・ん・ん・ん』など)、三浦太郎さん(『くっついた』『なーらんだ』『わたしの』の三冊を順繰りに何度も読んだ)、二人の太郎の絵本にはまった。娘にはまだ早かったけれど、わたしがとくに気に入ったのは、『もりのてがみ』(片山令子 さく 片山健 え)。手紙が運んでくれる気持ちや季節がほれぼれするような絵と文章で描かれていて、何度も読み返した。

「どこへでも連れて行けて、どこへでも連れて行ってくれる」のが本のいいところ(カンヌ広告祭で出会って膝を打った英国の読書キャンペーンの名コピー)。あまり遠出ができなかった2007年、本のおかげで気持ちはあちこち旅することができた。2008年も本当に面白い本に当たりますように。

2006年12月28日(木)  切手になった映画
2004年12月28日(火)  英国旅行2日目 風呂と衣装と作家と演劇
2001年12月28日(金)  捨て身

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