2007年01月12日(金)  『半島を出よ』(村上龍)

年末に読み始めた『半島を出よ』をようやく読み終える。上巻を半分まで読むのに一週間かかり、くじけそうになったが、そこからは加速して、下巻は二日で読めた。時間がかかってしまった理由のひとつは登場人物をはじめ情報量が膨大すぎて、頭の整理が必要だったこと。もうひとつは、人間を痛めつける描写が凄惨すぎて、目をそむけたくなったこと。その前に読んだコロンビアマフィアの世界を描いた『ゆりかごで眠れ』(垣根涼介)も血の匂いがするようでページをめくる手が重かったが、『半島を出よ』は何も食べたくなくなるほど気分が悪くなった。それだけリアルな情景を想像させてしまうのは筆者の腕なのだろうけれど。

いろんな意味で圧倒された作品だった。北朝鮮の「反乱軍」を名乗る武装集団が福岡を占拠し、制圧する。「反乱軍」ゆえに政府は対応に戸惑い、解決策を見出せないうちに十二万人の後続隊が日本に向けて出発してしまう……。フィクションだけれど、ありえない話ではないと思わせるリアリティは取材の成果なのだろう。とくに、危機に面した政府の対応のお粗末さは、そうであって欲しくはないけれど、これが実情なのではと怖くなった。『半島を出よ』が提示している、今そこにあるリスクや問題点のどれだけを、日本を動かしている人たちは把握しているのだろうか。

「怖い」という感情にも圧倒され続けた。こんなことが本当に起こったらどうしよう。でもこれは本の中の出来事、本を閉じれば平和な世界に戻って来れる、と自分に言い聞かせるけれど、もしもが現実になる可能性はないとは言い切れない。その危機感を抱かせただけでも、『半島を出よ』には有無を言わせぬ力がある。とはいえ、その先には進めず、どうかそんなことが起こりませんようにと祈るしかないわたしは、楽天的な性善説主義者だろうか。

脚本を書くようになってから、「自分が映像化するなら」という目で本を読むようになった。まず自分との接点(共感できる部分や感情移入できる人物)を見つけ、そこから膨らませていく。当然映画化の話はあって、すでに脚本も起こされているかもしれないけれど、原作のスケールを表現するのは相当難しいと思う。映画に必要な葛藤はいくらでもあるけれど、あまりにありすぎると、誰のどの葛藤を追えばいいのか手に負えない。爆破や銃撃戦の迫力は予算で出せても、想像力で増幅される心理の複雑さや深みをどう見せるのか。恋愛も絡めてエンターテイメント性を追求するなら、反乱軍の宣伝番組を担当する女性アナウンサーの視点で語るのが王道だろうか。でも、わたしだったら、反乱軍の本部に送り込まれたシングルマザーの市役所職員を主人公にする。異国の武装集団に町が制圧された非常事態であっても、朝食を作り、子どもに食べさせ、幼稚園に連れて行くという日常をこなさなくてはならない。そして、あんたにしかできないという市長の期待に応えたくて、反乱軍に協力するという使命に懸命に取り組む。その気持ちと行動は、いちばん理解しやすかった。

2002年01月12日(土)  アボルファズル・ジャリリ 

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