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2003年01月15日(水) つか「熱海殺人事件 蛍が帰ってくる日」(哲とそのロッカーたち)

キャスティング(哲とそのロッカーたち;1/14 13時〜観劇)

木村伝兵衛部長刑事:山本哲也
熊田留吉刑事   :川端博稔
水野朋子婦人警官 :渋谷亜希
容疑者大山金太郎 :小川岳男
半蔵       :岩崎雄一

どかがこのチームを選んだ理由は、この水野朋子役以外については、そこそこ信頼できる役者さんたちだということ。若手があんまし入ってなくて、かつテンションの高さも期待出来る。何より、大山金太郎が「モンテ」などで大活躍の小川岳男さんだっていうのが、一番大きい!

さて、本チーム座長の山本哲也さん。このひとは北区つかこうへい劇団ではもう、かなりベテランだと思う。「ロマンス」でも「新・飛龍伝」でも「長嶋茂雄殺人事件」でも、そのテンションの高い演技は他の若手と比べるとそりゃあもう、安心できる部類だと思う。ただいつも引っかかってたのは次の二つ:<滑舌がいつまでたっても悪いこと>と<超・ナルシストな表情>なのね。そして今回の「熱海」、この人は敢えて<ナル>の部分を全面に押し出して木村伝兵衛部長刑事に挑んできたの、びっくし、まじで?

寂しがりやで甘えん坊でわがままでコンプレックスの固まりな伝兵衛。っていうか「これ、誰かさんにとても似てるんちゃう?」と、胸がちくちく痛みつつ引き込まれていったどか。タキシード姿からして<ナルシシズム>満載だもん、もしかしたら自分の欠点かもしれないところを、逆手にとった舞台は前代未聞で新しい。

自分の惚れている女の弱みにつけ込むゲスな甘えかたとか、自分の惚れている女の足下を見てゲスにつるし上げるところとか、そんなのが全て<ナル>という一点においてリアリティがあったのがすごい。ああ、このゲス野郎はゲス野郎なりに彼女を愛しているんだなあということがちゃんと伝わってきた。でもね。木村伝兵衛って、そんな弱虫男でいいんやろか(問い1)?

留吉役の川端さん、ちょっと余裕を見せすぎかなあ。どかが2000年にシアターゼロで見た「ロンゲストスプリング」は彼の出世作、同じ役をやってたのん。さすがに動作にブレが無く、過不足無く決めるところを決めていくのは経験だねえと思う。ただ、伝兵衛から女を奪うという役柄なのに、その熱意が以前ほど深く響かないのは何故だろう(問い2)?

半蔵役の岩崎さん、この人は、いままでどかが見た彼の中で、ベストだった。すんげーカッキーの、ゲスッぷりが。冷めた視線で、けれどもぐっと見据えたときの迫力は、しびれる。自分が女だったら、彼に惚れるかなって。クライマックス前のシーン、伝兵衛が歌いだす瞬間、その歌を奪って自分のリサイタルにする場面、岩崎さんのまとわりつく色気が客席を染め上げていくのは壮観だった、あのいかがわしいフェロモンが出せてこそ、そのあと大山金太郎に刺されるという展開に、リアリティが生まれるの。

そして、その刺した大山金太郎の小川さん。いやーさすが。さすがだわ。この人なら、北区を卒業しても、どこでもやっていける。川端さんの余裕が、マイナスに働くのとは対照的に、小川さんの大舞台の経験は確実に彼の華を増す方向に働いてる。ときにはいじけて、ときにまじめに、ときに残酷になる弱者の「コンプレックス」を、あの声のトーンで言われると、もう舞台は一気につかの世界観に染まっていく。「サイコパス」、「モンテ」、そして今回の「蛍が帰ってくる日」と三つの「熱海」で大山金太郎をやってきた小川さん(どかは全部見てる)。伝兵衛の<ナル>な華が小さくまとまってしまったのを補って余りある「右の速球派」みたいな本格的な華を舞台に落としてくれたのは小川さん、良かったー。

さあ、そして問題の水野婦人警官役の渋谷亜希。この人の存在が、先の「問い1」「問い2」を解く鍵だと思う。山本哲也という役者は確かに滑舌は悪いが、自らの気持ちを伝えられないで自己満足で終わってしまうような、そのへんの新人役者みたいな拙い芸の人ではない。でも今回、ひたすら<ナル>なベクトルに即してしまったのは、自らの前に立つ水野役の女優が、全く相手の台詞を受けようとしなかったことだ、ただそこに立ってるだけ、そんなの銅像にだってできる。

確かに、スタイルはイイ。動きもキレがあるし、殺陣とかやらしたらきっと映える。顔も、どかは嫌いだけど、きっと美人と言われる顔。でもね。渋谷さんは、台詞はろくに言えないのは許せるとしても、全く相手の台詞を受けられてない。あれじゃあ、いくら山本さんでも、自分の気持ちをグルグル自分の中で回していくしか(つまり<ナル>に走るしか)無いわけだよ。ほんっとにこの人、どかのなかではイマイチ。内田有紀なきいま、北区の看板女優なんだけど、なんでつかがこの人を重宝するのか、どかには全くわかんない。先方の事務所となにかあるんじゃないのー?って2chで疑われても仕方ないよな。だって、渋谷さんは客席にいかに自分の身体がきれいなのか見せることだけ考えてる。そんなのはファッションショーでやってくださいって話じゃん。

「問い2」についてもいっしょ。上司である伝兵衛から奪いたいって思えるほど、いい女じゃなかったから留吉クンもあまり燃えなかったんじゃないかなって思っちゃう。でも、こんな女だったら、伝兵衛もそりゃあ孤独にさいなまれるわけだ。

 水野 ではあなたは、私を許してくれますか。

 部長 なに。

 水野 一度でも慈しみ、愛してくれましたか。あなたを思えば思うほど、
    この胸は張り裂けそうでした(中略)。
    あの人なら、生まれ変わろうとする私を静かに見つめていて
    くれると思うのです。

 部長 私なりの努力はしたんです。

 水野 雨の中で私もずっと立っていました。
    「いつか、いつか僕が幸せにしてあげるから」と、
    肩に手を置かれるのを待っていました。
    でも、私はお父様に抱かれ、必死にすがり、
    よがり声をだし、その背中に爪を立てておりました。

 部長 ・・・父のことは申し訳なく思っております。

 水野 ・・・!!(つか「熱海殺人事件 蛍が帰ってくる日」より)

「熱海」名物の最後の浜辺のシーンに入る直前、水野と部長の最後の邂逅の場面、この部長の台詞のあと、水野は部長を殴るのだが、山本さんと渋谷さんだと、どうにも、その「殴り」に説得力がない。今回の水野の台詞からは全て「ああ、私って美しいでしょ」っていうあざとさが香ってくるし、部長は部長で「私なりの」とか「父のことは」とかイイ台詞が全て流れちゃう。寂しさにうちひしがれて泣いてしまうのはイイと思うの。でもね、その目は虚空を漂うのではなく、ちゃんと相手の目を見てないと。なんか「殴られてる俺って、かわいそうじゃない?」なんてイメージが出てしまうのは、それはそれで、ひとつの芝居としてはアリだと思うけど、天下の金看板「熱海」ではそれはナシだよ。そんなナルシスト、普通にその辺に転がってるって、だってどかもそうだし(あ・・・)。

でもそんな木村ナル伝兵衛も一瞬だけ、異様な狂気がほとばしった瞬間があった。パピヨンの後、水野が本当に去ってしまった後、山本伝兵衛の目が、異様にぎらつく。ぎらつくというか、<ナル>が行き過ぎて壊れてしまいそうな感じ?なんか触れたらすぐ崩れそうな、そんなナイーブな狂気が、稲妻のように北とぴあを満たしたね。はち切れる寸前の風船がなにかしらのすさまじさを帯びるように、あの瞬間だけは、伝兵衛、美しかった。それは、でも、水野が去ってから。やっぱ、ジャマだったんじゃないのぉ、彼女がぁ、と思う。

特定の約一名にかなり厳しめなレビューだけれど、もう一言だけ言うと、パピヨンのシーン。花束で容疑者をめった打ちにするこれも名物シーンでの、彼女のアクションは最低だった、腰がすわってなくてふらふらしてるから、せっかくの名物シーンが薄くなったね。もうA級戦犯。

総合的に見て、このチーム、それでも楽しめたと思う。「熱海」なすごさはないけれど、<ナル>伝兵衛は充分楽しめたし、岩崎さんと小川さんの掛け合いに関しては、ほぼ、完璧だった。舞台芸術としてみたときはこのあとの赤塚チーム(ひよこクラブ)よりもイイ出来だった。でもね、どかは、もう一度どちらを見るかと言われたら、迷わず「ひよこクラブ」と言うだろう。そこはもう一瞬で決断出来る。なぜか、それは詳しくは次に書くが、端的に言うと、それはちゃあんと「熱海」だったからだ。


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