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2003年01月14日(火) つか「熱海殺人事件 蛍が帰ってくる日」(序論)

 (注:今回は何と言ってもテーマがつか、気合い入りまくりやから、)
 (  読むの大変やと思いますきっと、すんません        )

つか戯曲の金看板「熱海殺人事件」がたったの千円で見られるっていうんだから、こんな嬉しいことはないやねっ・・・。って無邪気に喜べるほど、どかも子供ではないんよね。芝居は、当たりはずれが大きいもん。でも、やっぱり金看板、期待はしてしまうどか。



今回のスケジュールでは北区の若手役者が三つのチームに分かれて、それぞれ同じ戯曲に挑戦するみたい。そのうちどかは二つをチョイス、それが山本哲也ひきいる「哲とそのロッカーたち」と赤塚篤紀ひきいる「ひよこクラブ」。王子駅前の北とぴあにて13時より、二連チャンで観劇。でも合計、二千円、うわ、映画と同じ値段やん、安っ!

つかの代表作である「熱海殺人事件」はいくつもバージョンがある。そのあとに続く副題でそれを区別するのね。たとえば「・・・モンテカルロイリュージョン」とか「・・・売春捜査官」とか「・・・サイコパス」とか。で、それぞれ基本構造は似てるけれどモチーフはかなり異なってくる。たとえば木村伝兵衛部長刑事が、ある作品ではバイセクシュアルだったり、別の作品では女性だったり、そしてマザコン中年だったときもあった。今回の「蛍が帰ってくる日」も数ある「熱海」のなかの一つのバージョン。ある意味、もっともスタンダードであるとされる、ど真ん中ストレート「熱海」。実はこの「蛍が・・・」、もともと違う通り名で呼ばれていた。それは「ザ・ロンゲストスプリング」。どかは2000年の夏に新宿でそれを観たことがあった。時の伝兵衛は、鈴木祐二。今は退団したけど当時のリーダーだった人だ。

しかしわざわざ副題が改名されたことでもわかるように、随所にリファインがかけられているのがやっぱり、つか。ほんっとにホンを固定しない人なんだよなあ。3年前のそれと比べると、遊びやギミックがかなり減り、ヘビーなエピソードが増えて、よりプレッシャーがきつくなっているのは間違いない。そんな数あるエピソード自体は、つかフリークからすればさほど目新しいもんでもなく、カレーヒ素混入事件もニッセイもミキハウスも阪神大震災もS少年猟奇殺人も、全部つか芝居で既知のもの。でもでも、それぞれかなり磨きがかけられていて、より、効果的に戯曲に落とし込まれていることが、強く印象に残る。たとえば「二代目はクリスチャン」の時に初めてこれらのエピソードが登場したけれど、あのときは完全に戯曲が良くも悪くも崩壊していた。でも、今回は、驚くべきことに、ちゃんとか細いながらも一本の線、通したもんな、すげー、つか。

かといって、この芝居、決して社会派の舞台ではない。一見そう見えるだろうけれど、告発劇でもないの。ここがつか芝居のキモだ。どれだけ実名バンバン出してジャーナリスティックな視点のエピソードが出ようとも、それが論理的に整合性があるかどうか、どこからどこまでが取材に基づくのか、もっとぶっちゃけて言ってしまえば、例えこのエピソードの1から10まで全部ハッタリだったとしても、それが問題ではないんよ、つか芝居では。

 (・・・じゃあ何が問題なのか?)

つかは劇作家として、この今という時代に強い危機感を抱いている。これまでの感覚からはとうてい理解出来ないような事件、猟奇殺人や無差別殺人、親殺し、子殺し、テロルに原発事故などが頻発する世の中で、人としてリアリティを持って幸せを求めることがどんどん困難になっていく、こんな時代。それでもつかは安易に幻想に逃避するのでもなく、諦観に堕落するのでもなく、この時代のリアリティをどこに求めるべきか毅然と身体を張って書いた戯曲こそが「蛍が帰ってくる日」なのだ。

いきおい「モンテ」などと比べても、救いのない沈痛な台詞が続き、それぞれのキャラクターが抱える闇はどこまでも深い。逆に言うと、それだけえげつない救いのない絶望を対比させることではじめて、人としての現代のリアリティを結晶させられる僅かな可能性が出てくるって・・・、そう、つかは考えてると思うの。だからあの「臓器密輸」のエピソードは「目的」ではないけれど「必然」には違いないんさっ。

つかに慣れてない人は「告発劇」で感性がせき止められて、それでその先の光に到達できない場合は、少なくないと、どかはこれまで知人といっしょに「つか」を観てきて思う。敢えて言っちゃうと、それはやっぱりつかの限界でもあるな。つかが間口の広い芝居ではないという一つのポイントはここにある。キャラメルや新感線、野田のそれとは明らかにテンションの違う開演前の客席、息苦しい狂気に満ちているのね。

それはともかくも、それだけ重い絶望から客席に対して「巻き込み力」を発動させなくちゃなこの芝居の役者たちには、ハンパ無いプレッシャーがかかってくるんね。僅かにあったギミックさえ外されて、暗転なしの2時間10分、五人の役者は逃げ場のない閉じられたサーキットで、生死をかけてアクセル・フルスロットルを余儀なくされる。このサーキットにおいてはスリップ転倒やハイサイドクラッシュは日常茶飯事、力の無い役者は目もあてられない惨状を呈してしまう(実際によくあるから困っちゃう)。でも、時々、最後までフルスロットルから栄光のゴールまでとぎれない精神と身体を持つ役者がいて、つか芝居のそんな人の台詞を浴びることは、何よりも幸せな快感を感じるんだな、どかわ。

これまで、古くは風間杜夫、柄本明、そして池田成志、筧利夫、山本亨、山崎銀之丞、阿部寛などそうそうたる濃いい面々がレコードタイムを記録してきたこの名うての高速サーキットに挑んだ、今回の2チームの木村伝兵衛、山本哲也と赤塚篤紀。彼らの衝撃から、次の話を進めたい。


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