火葬

 亡くなった日の夜は、にょらを腕に抱いて寝た。といってもずっと顔を見ていたので、実際に眠ったのは1時間程度だったと思う。顔が腫れ、人相が変わってしまうぐらい泣いた。

 月曜日の午前中いっぱいはにょらを抱っこして過ごし、葬儀屋さんから棺が届いてからはにょらをその中に寝かせた。ただ眠っているとしか思えないやさしい顔だ。花をたくさん入れる。

 火曜日には、先日注文しておいたにょらのごはんが届いた。

 そしてきょうはお別れの日。桐の棺とドライアイスのおかげで、にょらはきれいなまま眠っている。棺から出して抱っこしたり一緒に写真を撮ったりして過ごした。安らかな寝顔。よく見ると、目に涙がたまっていた。

 午後3時ごろ、家から歩いても行けるところにある火葬場まで、車に棺を乗せてゆっくり行った。にょらが好きだったU2のCDとCDラジカセも積んだ。

 火葬炉の前で最後のお別れ。持っていったCDをかける。にょらのまわりにはたくさんの花を散りばめていたけど、さらに病院から届いた花束と夫が買ってきた花束を入れる。にょらをさわったり言葉をかけたりするあいだ、火葬場の人は部屋の隅でずっと待っていてくださった。

 お別れの決心がつき、お焼香をしたあと棺が炉の中に入れられる。合掌して見送る。そして点火。待合室で仏壇や位牌の見本、犬猫グッズなどを見て過ごす。40分ほどで呼ばれ、部屋へ案内される。

 にょらはお骨になってもきれいだった。

 一目見て、にょらが天国に行けたのがわかった。これが頭蓋骨、これが第一頚骨と、骨の説明を受ける。背骨はほぼ完全な状態で残っていた。普通は崩れてしまうことが多いらしい。脚の骨はしっかりして太い。歩けなくなったこともあったのに。しっぽの骨はばらばらになって散らばっていた。下あごには歯も残っている。爪もある。うんちまであった。そういえば、亡くなる2日前にしたのが最後だった。

 頭蓋骨と下あごの骨と頚骨は最後に入れるからと別にされる。最初はおふたりでひとつの骨を一緒に入れてくださいといわれ、大きめのを選んだ。そのあとはそれぞれ好きなようにお箸でつかんで骨壷に入れていく。つかめる限りの骨をつかんで入れたあと、細かいものは火葬場の人がはけで取って入れてくださった。全部入れてもらえるとは思わなかった。とても丁寧で心がこもっている。そして粉骨され(頭蓋骨が入るように)、頭蓋骨、下あご、第一頚骨の順に入れられる。そして最後に第二頚骨(のどぼとけの部分)。これは奥様が代表でといわれ、わたしがお箸でつかんでそっと入れた。

 泣きじゃくりながらお骨を拾う姿を想像していたのだけど、泣かずにできた。にょらはもう苦しむこともなくなったのだと、お骨を見て思えたから。不思議に静かで厳かな気分だった。

 にょらは幸せそうに旅立った。苦しみのない世界へ……。





2003年10月29日(水)



 さいごのたたかい

 朝からにょらは自分で歩き回ったりして、なんだか元気そうだった。

 おしっこを量る。いつもは点滴の量よりやや少ない程度だったのに、きょうは50mlも少ない。回数は十分だったけど……。あすもまた少なければ先生に相談しよう。

 点滴はいつもどおりわたしのベッドで開始。いつもは1日中ベッドなのに、きょうは10時前にトイレに連れていったあと、自分で別の部屋へ行った。そしてキャットタワーの中へ。う〜ん、ここへ入られると出すのに苦労するから、ごはんとか困るんだけどなあ。まあいいか。

 でもトイレはしかたないので、午後2時に引きずり出して連れていく。ついでに強制給餌。今度は自分でパパさんチェアに乗った。そしてカバーの中にもぐりこんで、おとなしくしている。

 3時すぎにちょっとカバーをめくって様子を見ると、なんだか呼吸が速い。お腹がせわしなく上下している。日曜なので病院は3時までだけど、心配になって電話してみた。院長先生は手術中だからと別の先生が出てこられた。点滴のスピードを聞かれて答えると、その半分の速度にして様子を見てくださいとのこと。そこで、以前先生に、点滴のスピードが速すぎると肺に水がたまる肺水腫になることがあるといわれていたのを思い出した。まさか……。でも先生にいわれたスピードは守っている。なぜか流れが悪かったりにょらがチューブを踏んでいたりしてスピードが遅くなることはよくあるけど、きょうは調子よく流れていた。でも速くならないようにだけは注意していたはず。おしっこのことを聞いてみると、体内に吸収される分もあるので、全部外に出るわけではないといわれた。

 電話を切ってから、ネットで肺水腫の症状について調べてみる。「呼吸が浅く速い」――当てはまる。「咳をする」――これは大丈夫。

 点滴はあと50ml残っていたけどもうやめにした。5時半ごろまで様子を見たけど呼吸は落ち着いてこないので、また病院に電話して連れていくことに。レントゲンの結果、やはり肺に水がたまっていた。でもそれほど多くないということで、利尿させる注射を打っていただいて帰った。

 体温が低いからとにかく暖かくしてやるようにいわれたので、帰ってすぐホットカーペットをつけてにょらを寝かせ、上からにょらの好きな綿入れ半纏をふわっとかぶせる。しばらくずっとそばについていたのだけど、ほんの1分ほど目を離したすきに、にょらがいなくなった。探すとパパさんチェアの後ろの床に寝そべっていた。夏の暑いときによくいる場所だ。しかも口を開けてゼェゼェいっている。すぐに病院に電話。また連れていくことになった。

 にょらのために小さいホットカーペットやブランケットを買いにいっている夫を携帯で呼び戻し、バトンタッチで車に乗り込み病院へ。運転しながらわたしは「にょら、まだだよ。まだだめだよ。置いていかないでよ」といい続けていた。

 病院に着くとすぐににょらは酸素室(透明の箱)に入れられ、利尿剤か何かの点滴をつけられた。わたしはその前にすわってにょらを見守る。にょらはお腹をつけて頭を上げた状態(伏せの格好)で口を開けてハァハァいっている。いつまでたっても呼吸は落ち着かない。そのうち、立ち上がって向きを変えては倒れこむというのを繰り返しはじめた。とても苦しそうだ。先生に告げると、注射器で点滴のチューブに利尿させる薬を入れてくださった。

 腎臓でおしっこが作られなくなってきているので、このまま出ないと水がたまる一方で危ないらしい。

 それからもにょらは、しばらくじっとしてハァハァしているかと思うと、立ち上がって向きを変え倒れこむというのを繰り返す。苦しくなると動かずにはいられないようだ。暴れるとよけいに苦しいのに。こんなに苦しんでいるのに何もしてあげられないのが辛い。にょらもなぜ助けてくれないのと思っていたことだろう。しかし一度、暴れている途中に目が合ったとき、にょらの表情が一瞬なごんだように見えた。

 身を切られる思いでわたしが見守る中、にょらは立ち上がって苦しそうに上を向き、目を見開いて「ぎゃあ」と一声短く鳴いたかと思うとバタンと横向きに倒れた。そして手足をつっぱる。看護士さんに頼んで先生を呼んできていただいた。そのとき呼吸が止まっているような気がした。にょらの口に酸素マスクがつけられ、注射だのニトロだの心臓マッサージだのと懸命の蘇生が行われる。にょらの頭の下のシーツが少し赤く染まっていた(あとから聞いたところでは、肺から戻ったものらしい)。しっぽは倍ぐらいにふくらんでいた。

「にょらちゃん、がんばれ」と声をかけてみたものの、今までこんなにがんばってきたのに、これ以上無理させるのは酷な気がした。「もういいです、楽にしてやってください」と何度もいおうと思った。でもその勇気もなかった。

 ふいに呼吸が戻ってにょらが動く。そのあとのどに酸素を送り込むチューブをさしこまれたが、にょらが暴れて長く続かない。また酸素マスク。

 電話して夫を呼んだ。

 しばらくするとにょらは暴れなくなり、ぐったりと横になっていた。看護士さんが酸素マスクをにょらの口にあててくださっていたが、わたしに持たせてくださいとお願いした。もうこれぐらいしかわたしにできることはない。看護士さんの押すポンプに合わせてにょらのお腹が上下する。もう自分では呼吸できないのかな。もしかしたら心臓も止まっているのかな。夫が到着するまでという心遣いなのかもしれない。わたしはにょらにかけてやる言葉も見つからず、ただ涙を流しながら酸素マスクをささえ続けた。

 やがて夫が到着。ふたりでにょらの頭や体をなでながら見守る。夫はしきりににょらに声をかけている。規則正しいポンプの音とともに、看護士さんの鼻をすする音が聞こえた。ああ、泣いてくださってるんだ、とわたしは思っていた。

 どのくらいそうしていただろう。やがて先生がにょらをさわって「だめだ」とつぶやき、「ご臨終です」と……。わたしはその言葉を静かに受け止めた。腕時計を見る余裕もあった。22時37分。病院にきてから3時間半以上たっていた。しかし数分後、急にこみあげるものがあり声をあげて泣いてしまった。「にょらちゃんごめんね。許して」と何度もいいながら。

 全部わたしが悪い。おしっこのことを朝相談していれば、点滴のスピードを遅くするようにとの指示をそのときにもらえたかもしれない。そうすればこんなに早く、苦しみながら逝くことはなかったかもしれないのに。もっと昔からごはんに気を使っていればよかった。もっといろいろ勉強していればよかった。もっと好きなことをさせてやればよかった。もっともっと世話したかった。もっともっと一緒にいたかった。早すぎる……。

 先生と看護士さんは、わたしが落ち着くまでずっと無言でそばにいてくださった。温かい言葉をかけられるより、ひとりにしておいてもらうより、なぜか安心できた。

 にょらちゃんをきれいにしますといわれ、わたしと夫は待合室で待つことになった。しばらくするとにょらは、首に赤いリボンをつけてもらい、いろんなカリカリの小袋とともに箱に入れられて出てきた。箱ごと車に乗せ、先生と看護士さんにあいさつをして病院をあとにする。先生も泣いてくださったようだった。

 夫を呼ぶタイミングはまちがっていなかったと思う。もっと早くからもうだめだろうとは思っていたけど、ぎりぎりまで引き延ばした。あんな苦しむ姿を見るのはわたしだけでいい。夫には耐えられなかっただろう。でもわたしはにょらをこんなふうにしてしまった責任があるから、しっかり見届けなくてはと思っていた。

 家に着くと、にょらを抱っこして家の中をあちこち見せた。そのあと、さきほど夫が買ってきたブランケットをソファに広げてその上ににょらを寝かせた。目と口がうっすら開いているのを手で閉じてやり、なでながら、ずっとずっとにょらの顔を見ていた。2時間ほどで死後硬直が始まった。でも肉球だけはやわらかい。最初は少し苦しそうに見えた顔も、時間がたつにつれ、どんどんやさしい顔になってきた。あんなに苦しんだのがうそのようだ。

 にょら、よくがんばったね。立派に闘ってえらかったよ。だけど最期まで辛い思いをさせてごめんね。にょらの苦しみを自分の苦しみとして、ずっと背負って生きていくね。本当にはわかってあげられないかもしれないけど……。
 


2003年10月26日(日)



 トイレがお気に入り?

 朝トイレに連れていったあとベッドにもどしたのに、しばらくして気づいたらまたトイレにいた。おしっこやうんちをする格好ではなく、なんだかくつろいでいる。砂を替えたばかりなので、まあいいかと思ってそのままにしておいた。結局、病院へ行くまでトイレにいた。

 診察室では怒りっぱなし。留置針はなんとか右腕に入った。最初のうちは毛をそらなくてもすんなり入ったけど、もう何度も入れ替えてるので、このごろは使える血管をさがすのにあちこちそられている。きょうもハゲが少し大きくなった。そして留置針が関節のところにかかるため、曲げないように副木をされてしまった。なんだか骨折した猫みたいで大げさだ。

 そのあとレーザーもしていただく。怒りまくっていたにょらも、ようやく落ち着いてきた。レーザーが好きなのだ。

 午後の薬のとき、ちょっとやりかたを変えた。大きいカプセルを4個も飲ませるので、そのあと注射器で水を飲ませていたのだけど、水はすごくいやがるからリーナルケアを飲ませることにした。カプセル4個目のとき、ちょっと手元が狂ってのどにつまりかけ、にょらを涙目にしてしまった。すまん。でもリーナルケアを飲ませるとおさまった。リーナルケアって、ありがたい。栄養もとれるし一石二鳥だ。

 点滴終了後、トイレに連れていったあとベッドにもどしたのに、またにょらは自分でよたよたとトイレまで行き、中でくつろぐ。後脚がかなり弱々しい。しかしなぜだ〜、なぜトイレがいいんだぁ〜。好きにさせてやりたいのは山々だけど、やっぱりちょっといやなので、にょらをひざに乗せる。そして薬のカプセル詰め。いつもは翌日の分だけ詰めるのだけど、きょうは30個ぐらい詰めてしまった。ちまちました作業だけど、なかなか楽しい。



2003年10月25日(土)



 新しいごはん

 ゆうべ10時ごろにおしっこをしてわたしが寝る前にはしなかったので、朝4時にトイレに連れていく。おしっこたっぷりとうんちをした。がまんしてたのね〜。知らせてくれればいいのに。ごめんよぉ。普通に歩けたのはちょっとのあいだだけで、また夜にはよたよた歩きにもどってたから、ちゃんと連れていってあげないとね。

 点滴開始後、カリカリを少し食べた。療法食ではないけど病院で買っているやつ。しばらくすると、注文していた腎不全用の経腸栄養食リーナルケアが届いたので、さっそく飲ませてみる。自分で飲むかなと思ったけどダメだったので、注射器で。それほどいやがらなかった。なめてみると、昔缶入りで売っていたエバミルク(今もあるのかな)のような味。これできのうまでの経腸栄養食は不要になってしまった。賞味期限も今月いっぱいなので、捨てるしかないか〜。もったいないけど。わたしが飲もうかな。……いかん、ウルトラハイカロリーなんだった。

 リーナルケアと一緒に療法食のカリカリのサンプルが入っていた(はじめて見るやつだ)ので、試してみた。手に乗せて見せてみると、しばらく見なかった勢いで食いついた。すご〜い! いけ〜、どんどん食べるのだ〜! と思いきや、食べたのはほんの2グラム程度だった(;_;)。それでもおいしそうに食べたのは嬉しい。今度はこれを注文しよう。

 午後、点滴を中断して、たまっていた用事を片づけるべく出かける。ついでにあそことあそこにも寄りたいなぁ……とちらっと思ったけどがまんして、超特急で帰宅。にょらをトイレに連れていって薬を飲ませて強制給餌して点滴再開。

 夜、トイレに連れていったあと少し様子がおかしいので見てみると、留置針のところが腫れている。この留置針はきょうで6日目。もう限界のようだ。あしたまた交換に行かなきゃ。点滴はあと50mlしたかったけど、しかたなく断念。はずすときにものすごく痛がって、何度もシャーシャー怒られてしまった。ごめん、許して〜。はずさなきゃもっと痛いのよ〜。

 留置針は数日から1週間程度で交換しないといけないのだけど、一度留置針を入れた静脈は、修復するのに時間がかかるらしい。にょらはもう両手両足使ってしまったので、今度はどこになるのかな。最初のころの静脈が回復していればいいけど。にょらも辛いね。



2003年10月24日(金)



 血液検査

 朝起きてトイレに連れていくと、自分でちゃんとすわっておしっこ。ねたションはきのうだけだったか。それに、よたよただけどなんとか歩けるようになっている。

 きょうは検査の日。ドキドキだったけど、BUNとクレアチニンはどちらも少し下がっていた。貧血も改善。でもカルシウム値が少しずつあがってきている。これがもっと進むと今度は急性心不全の危険性が出てくるらしい。ひとつよくなれば別のところが悪くなるなぁ。薬がひとつふえる。でも歩けなくなったときにもらったステロイドはきょうで終わり。体重はまた減っていて2.32kg。

 病院から帰ってキャリーをあけると、また中でうずくまったまま出てこない。しょうがないからそのままにして、わたしは薬の準備などをしていた。そのあと「さ、にょらちゃん出ましょ」とキャリーをさかさまにしようとしたら、ん? 軽い。中はからっぽだった。あたりを見回すと、リビングを悠々と横切るにょらの姿が。なんと、普通に歩いている。朝はよたよただったくせに〜。不思議な子だねえ、あんたって。

 ごはんは市販のカリカリを少しと療法食の強制給餌。経腸栄養食も。この経腸栄養食は、にょらはまんざらでもなさそう。注射器で口の横からちょっとずつ入れると、口をくちゃくちゃさせながら飲み込む。子猫にミルクをやってるみたいで楽しい。粉をなめてみると、甘くない粉ミルクの感じだった。まずくはない。でもこれは、栄養価は高いけど高たんぱくでもあるので、近々やめるつもり。先日、ネットで知った腎臓病用の経腸栄養食を注文したのだ。

 缶詰の強制給餌もだいぶじょうずになってきた。正座してにょらを股にはさむようにむこう向きにすわらせ、左手で口をこじあけて右手の人差し指でにょらの上あごになすりつける。いろいろやってみたけど、正面からより後ろからのほうが絶対うまくいく。あまり入口のほうだと吐き出すので、できるだけ奥のほうになすりつけるのがコツ。量が多すぎても吐き出すので、ゆっくり少しずつ。にょらの抵抗もはじめの頃ほど激しくなくなってきたけど、途中でいやになったらわたしの股に顔をうずめるようになった。こんなにいやなことばっかりされてもなお、わたしにくっついてくるなんて、かわいすぎる。

 きのうは点滴の流れが悪くて250ml入れるのに12時間もかかったけど、きょうはまずまずのペースで300mlを9時間で終了。にょらもよくがんばります。



2003年10月23日(木)



 平穏

 朝起きてにょらをトイレに連れていくと、またふにゃっと横になったので、きょうはそのままにしてみた。すると寝たままおしっこ。後ろにちゃ〜っと飛ぶので自分にはかからない。新たなワザか。寝たままおしっこ「ねたション」。

 ペットシーツの重さを量る。290g。おしっこは240か。きのうよりだいぶ少ないけど大丈夫かな。

 8時すぎから点滴開始。きょうはなぜか流れがとっても悪い。3日前に留置針を交換したばっかりだから、まだダメになるとは思えない。ま、気長にやりましょ。このごろは留置針のところに巻いた包帯を食いちぎることもなくなったので、点滴中もエリザベスカラーをつけないことにした。

 市販のシニア用のカリカリを手に乗せて口の前に持っていくと、少し食べた。おお、きょうは食欲あり? と思って療法食のカリカリを持っていったら拒否された。やっぱりダメか。腎臓のことを考えると療法食のほうが絶対いいけど、無理やり食べさせてストレスを与えるのと、腎臓にはよくないけど普通のごはんをストレスなしに食べてもらうのとどっちがいいのか。辛い。普通のごはんといってもどうせほんの少ししか食べなくて強制給餌(これは療法食)も必要なんだから、食べたいものを与えてもいいような気もする。

 きょうのにょらはずっとベッドの中だけど、機嫌はよさそう。わたしが話しかけるとしっぽで答える。かわいい。にょらの手を握ってわたしもちょっとウトウトする。穏やかな1日だ。こんな至福のときがいつまでも続けばいいのに。



2003年10月22日(水)



 おしっこ計量

 ゆうべ遅く、にょらは自分でよたよた歩いてトイレまで行き、わたしにささえられて大きなうんちをした。自分で行けるんだから、見えてるんだろう。よかった。あとはちゃんと歩けるようになってほしい。

 今朝起きてすぐにょらをトイレに連れていくと、中でふにゃ〜っと寝そべってしまった。おいおいそんなとこで寝るんじゃな〜い、と抱きかかえようとすると、その瞬間「じょ〜」。わたしが抱きかかえなかったら寝たままするつもりだったのか?

 きのうのおしっこの一件で、回数より量を把握しておく必要があると先生にいわれ、「じゃあ計量カップで……」というと、「いや、ペットシーツなら重さを量ればいいんですよ」といわれた。なるほど〜、その手があったか。体重計はダメだな。ではキッチンスケールをにょら用に任命するとしよう。今にょらが使っているトイレは2重になっていて、上には固まらない砂(チップ)、下には砂を素通りして落ちてきたおしっこを吸収させる脱臭マットを敷くようになっている。1週間取り替えいらず!のマットなのに、点滴でおしっこがふえたにょらには2日ともたない。不経済なので、このごろはペットシーツで代用しているのだ。朝一のおしっこの次から翌日の朝一のおしっこまでを1日分と決め(寝る前は力尽きて無理なので)、さっそく重さを量ってみた。370g。未使用のシーツは50g。ということは、おしっこは320gか。きのうの点滴は250mlだから、順調順調。

 お天気がいいので、にょらを抱っこして庭を見せてやる。まぶしそうに目を細めて一生懸命見ている様子。抱かれるのが嫌いでいつもは30秒ともたないのに、きょうは何分でも抱かれている。しあわせだ〜。でもちょっと悲しい。

 点滴終了後、にょら用にご栄転になったキッチンスケール様の後任のかたにお越しいただいた。今度はデジタルだ。同じ機能なのに、体脂肪計でおなじみの某有名メーカーのものより1000円も安かったぞ。1gごとなので、にょらのごはんを量るのにちょうどいい。ん? 結局これもにょら用か……。

 きょうも食欲はなく、強制給餌。中指は失敗が多いので、人差し指にもどす。5箇所あいた穴はほぼふさがった。傷の治りが早いのは健康な証拠。わたしのこの健康と食欲をにょらに分けてあげたい。きょうは退院後の体力回復用にサンプルでいただいたウルトラハイカロリー経腸栄養食を補助的に使うことにした。粉ミルクのような粉末で、ぬるま湯で溶いて注射器で与える。療法食の缶詰だけで十分なカロリーを摂取させようと思うと、ものすごく大変なのだ。強制給餌では1回せいぜい10gが限度なので、10回以上は与えないといけない。薬は1日6回(3種類)だし、そうすると1日中にょらの口をこじあけていることになる。どんどん嫌われていく。まあわたしが嫌われるのはしかたないけど、にょらにストレスを与え続けるのが辛い。ごはんの悩みは尽きないなぁ。



2003年10月21日(火)



 闘い

 きのうはお天気がよくて暖かかったので、にょらは点滴中も窓辺を転々として幸せそうにしていた。ここ数日でいちばん元気そうだった。

 日が暮れて少し肌寒くなってからは布団にもぐりこんでいたのでそっとしておいたのだけど、夜9時ごろに点滴をはずし、床におろしてやると、その場でふらふらとひとまわりして力なくすわりこんでしまった。トイレに連れていってもちゃんとすわることができないらしく、そのままうずくまってしまう。でも砂をかくだけの元気はあるらしく、体をささえてやるとりっぱにうんちをした。

 そのあとひざに抱っこしていると、なんだか不思議そうに目を見開いてきょろきょろしている。見えてないような気がした。瞳孔も開きっぱなしのような気がして、あわてて懐中電灯の光を当ててみたら、とりあえず瞳孔は細くなった。反応はあるらしい。それでも見えているかどうか不安だったので、パソ机の椅子にすわってにょらを机に向こう向きに置いてみた。するとちゃんとこっちに向いてひざに乗ってきた。少しほっとした。

 今朝起きてまずにょらをトイレに連れていったが、まだちゃんとすわれない。でもおしっこは出る。この時点では病院に連れていかなきゃと思っていたけど、病院のあく9時まで待っているうちに表情は元気そうになり、ごはんもかつおぶし作戦で食べてくれた。病院行きもストレスになるので、食欲があるなら少し安心と思い、とりあえず病院に電話だけして様子を見ることになった。

 ネットでいろいろ見ていてわかったのだけど、病気がもっと進むと、失明したり壮絶な痙攣発作を起こしたりすることがあるらしい。ほかにもいろんな症状が出てくる。腎不全と闘うネコの飼い主さんたちはみんなものすごい努力をしている。点滴に付き添ってごはんや薬を口に押し込んでいるだけではまだ序の口なのだ。去年、腎不全と診断されたときにあれこれ調べたつもりだったのに、そのときには得られなかった情報が今回たくさん見つかった。病気の深刻さがわかってなかったんだな。もっと早くちゃんと調べていれば、病気の進行をもう少し遅らせることができたかもしれないのに……。

 闘いはこれからだ。これからどういう症状が現れてもあわてず適切な処置ができるように、準備と心構えをしておかなければ。いつかくる「その日」への覚悟はできなくても、闘う覚悟はできるはず。


<追記>

 やっぱり心配だったので、夕方、病院へ連れていった。いつも点滴中は2〜3時間ごとにおしっこするのに、11時過ぎにしたきり5時間以上してなかったし、目もまだおかしい気がしたからだ。

 先生はまず膀胱を刺激してくださった。その場でしてもいいように、診察台にペットシーツを敷いていたけどおしっこは出なかった。さすがに人に見られながらははずかしかったのか。「たぶん帰ったらすぐ出ますよ」といわれた。

 そのあとレーザーをしてから目を診ていただいた。瞳孔の反応が鈍いらしい。眼底出血はないので、見えてはいるでしょうとのことだった。

 帰ってキャリーを開けると、いつもはすぐ出てくるのに、中でうずくまったまま出ようとしない。引っぱり出そうとするといやがって中にもどろうとする。ここが家だとわからないのか? やはり見えないのかも。抱いて2階に連れていき、トイレにおろすとうずくまろうとしたが、手で砂をかく動作をさせてみたら、おしっこした! 先生のいったとおりだ、すごいすごい。午後何度かトイレに連れていってもしなかったのは、そこがトイレだとわからなかったからかも。砂をかく動作でやっとわかったということは、やっぱり見えてないのか? でも朝はちゃんとしたしなあ。そのあとベッドに乗せると、よたよたしながら枕までたどりついて落ち着いた。う〜ん、見えてるのか、それともいつもの感覚で移動できたのか……。これらの症状は腎不全と直接関係ないらしいので、一時的なものであってほしい。

 食欲は、出てきたかと思うとまたすぐになくなる。きょうも強制給餌。強制給餌と投薬のときの抵抗で、右手の人差し指は穴だらけだ。左上の犬歯がななめに欠けているので、ぐさっと入る。傷がふさがる前に同じところをやられてしまったりもする。きょうから中指使用に変えたけど、けっこうむずかしい。この指もいずれ穴だらけにされるので、左手も使えるようになっておくね。でも自分で食べようよ。そうすればお互い楽なのにさ。

 そうそう、先日の交差適合試験の結果、3匹マッチしたそうだ。先生のにゃんこ1匹と、スタッフの人のにゃんこ2匹。嬉しい。これでいつ輸血が必要になっても安心。というか、そうならないでほしい。



2003年10月20日(月)



 少し改善

 きのうの検査では、少し改善が見られた。腎臓の数値のうち、クレアチニンが少しだけ上がっていたものの、BUNはだいぶ下がっていた。そして腎性貧血もよくなっていた。

 実は前回(13日)の検査では貧血がかなり進行していて、これ以上悪くなるようなら輸血が必要といわれていたのだ。そのときに備えて血液のドナーを確保しておく必要があるため、きのうは交差適合試験というものをした。病院のスタッフのひとりが、飼っているネコちゃん3匹を連れてきて協力してくださった。3匹もいればどれかマッチするでしょうということだけど、結果はまだわからない。それにしても、病院のスタッフに飼われているというだけで、見ず知らずのネコに血液を提供させられるなんて、気の毒だし申し訳ない。どうか輸血なんてしなくてすみますように……。

 ネットで「猫 腎不全」で検索すると、腎不全と闘っているネコたちのホームページがいくつも見つかった。すでに亡くなっている子もたくさんいて、大泣きしながら闘病記を読みあさる。でも、にょらがいちばん悪かったときよりもっと高い数値を示していたこともあったのに、持ち直して元気で暮らしている子もいて勇気がわいてくる。

 このごろは寒くなってきたので、にょらは布団にもぐりっぱなしで点滴中もずっとおとなしくしている。寒いだけなのか元気がないのかわかりにくいので、たびたび様子を見にいく。迷惑そうだけど顔色はいいので、まだまだ元気でいられそうな気がする。食欲がないときは強制給餌とかつおぶし作戦の併用でなんとか食べてもらう。こういうのもにょらにはストレスになってるんだろうなと思いつつ、なんとかせずにはいられない。

「元気になろうね」
「先生がびっくりするぐらい長生きしようね」
「がんばろうね」
「ひとりにしないでね」

 毎日何度もいろんな言葉をかけてみる。きっと伝わると信じて……。



2003年10月18日(土)



 宣告

「新年を迎えるのが目標です」

 点滴と検査を繰り返しているけど、思うように数値は下がらない。もうそろそろ覚悟したほうがいいのかな……。このごろ漠然とそう思うようになっていた。安心できる答えがほしかったのかもしれない。ところが思い切って聞いてみたときの先生の答えがこれだった。あまりに早すぎる……。

 高齢だということもあって、にょらがいなくなったときのことを考えることは今まで何度もあった。そしてそのたびに泣いていた。でも心の奥では、それはもっとずっとずっと先のことだと思っていた。

 去年の3月に慢性腎不全と診断され、すでに腎臓の75%が機能していないこと、そして治る見込みのない進行性の病気であることをそのときに聞かされていた。ちゃんと理解していたはず。頭では……。だけど元気でいてくれたから、こんな日がくるとは思わなかった。思いたくなかった。 

 今している自宅での点滴は、先生から提示されたいくつかの治療法からわたしが選んだものだ。もっと効果があると思われる入院や透析よりも、にょらの負担が少ないだろうと判断したから。この判断が正しいかどうかなんてわからない。だけどにょらに辛い思いをさせるのはいやだ。

 これからわたしに何ができるだろう。少しでも長く一緒にいたいから、できることは何でもしたい。先生と相談しながら、にょらにとっていちばんいいと思える方法でやっていきたい。

 ショックだったけど、余命を聞いてよかったと思う。毎日めそめそしてしまうけど、覚悟なんてできっこないけど、残された時間をもっと大切にできるから。
 


2003年10月16日(木)



 自宅で点滴

 退院6日後の9月29日に血液検査と尿検査を受けたのだが、入院前より腎臓の数値が上がっていた。薬もごはんもがんばったけど、それだけでは無理だったようだ。また入院を勧められたが、にょらのあの状態を考えると(それにわたしの寂しさも)、できるだけ入院は避けたいと思った。そのほかの選択肢としては、通院での皮下点滴、自宅での点滴、そして透析。腎臓がよくなることはないので、これからはできる限り維持していくという努力が必要なのだ。皮下点滴は簡単だが効果があがりにくい。自宅での点滴は時間的にかなり拘束される。透析はかなりの効果を期待できるが、まず体内に透析用の管を埋め込む手術をしなければならない。体力が衰えているところへの麻酔は危険を伴うので、これは最後の最後の手段にしたいと思い、わたしは自宅での点滴を選択した。

 まず先生の手で、にょらの腕の静脈に留置針というものを刺す。これは刺しっぱなしにしておいて、わたしがそこに点滴のチューブを接続することになる。点滴の手順や注意事項の説明を受け、留置針の中で血液が凝固するのを防ぐ薬を注射器で注入する練習をする。そして2種類の輸液とチューブ、薬の入った注射器、消毒液をしみこませた脱脂綿、エリザベスカラーなどを渡され、ついでにケージを借りた。

 家に帰るとさっそく点滴の準備。にょらにエリザベスカラーをつけ、輸液の袋にS字フックをつけて適当なところにひっかけ、留置針についている管の先端のゴム部分を消毒して凝固防止剤を注入し、輸液のチューブに空気が入っていないのを確認して先端の針を留置針のゴムに刺す。そしてテープで固定してから腕全体を包帯で巻く。チューブの途中に、輸液の落ちる速度を調節する器具がついていて、時計を見ながらこれを締めたりゆるめたりして調節。1分間に7〜8滴に合わせるのだが、これがなかなかむずかしい。

 にょらに動かれると困るので、ケージにペットシーツを敷いてにょらを中に入れる。するとにょらは病気とは思えない元気さで「出せー!」と鳴き叫び、わたしがそばについていても落ち着くことはなかった。トイレに行きたいのかもと思い、輸液の袋を高く掲げ持ってにょらをケージから出してやった。するとトイレを通りすぎてパソ部屋に行き、机の横の台(いつもわたしがパソコンに向かっているとそこで寝ている)にのぼってすわりこんだ。カーテンレールに輸液をひっかけ、様子を見ていると、しばらくしてにょらは台をおりて、今度は部屋の隅にあるガーフィールドの形のベッドにエリザベスカラーをひっかけながら苦労して入り、ようやく落ち着いた。輸液は洋服ダンスの扉にひっかける。

 にょらがいたい場所はそのときによって違うが、いったん落ち着いてしまえばしばらく同じ場所にいるので、ケージに入れる必要はないことに気づいた。入院はストレスになってかわいそうだから自宅での点滴を選んだのに、ケージに閉じこめていたのでは入院とたいして変わらないではないか。ただでさえ点滴がストレスになるのだから、それ以外の部分ではできるだけ好きなようにさせてやりたい。わたしが見ていればすむことだ。

 点滴は1日10時間ほどかかる。そのあいだ、ずっとにょらのそばにいて輸液の落ちる速度をたびたびチェックし、にょらが寝返りを打てばチューブを踏んでいないか確認し、歩けば輸液を持ってつきそい、トイレにしばらく行ってないなと思ったら連れていく。点滴中はおしっこの量がふえるので、連れていけばたいていおしっこをするのだ。薬は1日3回、そしてごはんも水ももう自分では口にしないので、少しずつ何度も口に入れてやる。

 きょうで点滴4日目。そのあいだに留置針の中がつまって病院に駆け込んだり、凝固防止剤がなくなってもらいにいったりというハプニングもあったけど、なんとかうまくいったほうだと思う。にょらも慣れてきたようで、エリザベスカラーをつけなくても、腕に巻いた包帯を食いちぎろうとすることはなくなった。

 予定をいくつかキャンセルしなければならなかったが、ずっとにょらのそばにいられる幸せは大きい。このあどけない寝顔をいつまでも見ていられたら、と思う。



2003年10月02日(木)
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