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人物紹介


夕日
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外の景色を見つづけている私を、その人は黙って放置してくれてました。
人と一緒に居る意識はあっても、頭の中は自分一人の世界でした。

ここ数日の学校での嫌な事。
親の事。
小さい頃、家族と同じ海辺に来た時のこと。
色んな事が頭を駆け巡っていました。

しばらく走ると、トンネルに入りました。
少しだけ長いトンネルを二つ抜けるまで、海は見えなくなります。
私は、その二つ目のトンネルを出た時に見える景色が子供の頃、大好きでした。
暗いトンネルを抜けると、下り坂のカーブの左手に海が広がっています。
そこは、よちよち歩きの本当に幼い頃から私が家族と何度も訪れた海でした。
その海を一望できるのは、ほんの少しだけ。
スピードが出た車なら一瞬しか見れない景色でした。

その時、私はその景色を好きだったという事も。
トンネルを抜けるとその景色が広がっている場所だということも。
すっかり忘れてしまっていました。

無防備にも自分の世界に入り、鬱々としていた私。
その私の目に、突然、夕日に染まる海が入ってきました。
私はその瞬間、ふいを付かれたように、込上げてくるものを抑えきれなくなりました。
それが、幼い頃から大好きだった海を目にしたからなのか、夕日が凄く綺麗だったからなのかは分からないけれど、感傷的になってしまったのだと思います。
ずっと母親と上手く行かないことで、寂しくて辛くて悲しいと感じている自分が、一気に溢れ出た感じでした。

その人に気付かれたくなくて、私は更に窓の方に顔を向けました。
それが返って不自然だったのでしょうか。

「どうした?」

と聞かれました。

「え?いえ、なんでも無いです」

そう答えたのですが、その瞬間に鼻をすすってしまいました。

「何でも無いって、泣いてるじゃん」

泣いていた事がバレてしまい、私は何と答えて良いのか悩みました。
どうして泣いたかと聞かれても、ハッキリとした理由など私にも分からなかったのです。

「いや・・なんだか、凄く夕日が綺麗なんで・・・」

夕日に感動して泣くなんて、今から思えば臭い台詞だと思います。
でも、それも私の正直な気持ちでした。
一瞬、笑われるかと思いましたが、その人は「そう」と相変わらず穏やかな表情で言ったきり、それ以上は何も言いませんでした。

その後も、少しドライブは続きましたが行った場所はよく覚えていません。
私の家の近所に車が止まった頃には、辺りはすっかり暗くなっていました。
暗い車内に居ると、なんだか緊張してしまうので耐えられなくなり、車が止まるとすぐ

「あ、じゃぁ。今日は本当に有難う御座いました。」

そう言って私は荷物を後部座席から取り、車を降りようとしました。

「ちょっと待って。」

その人は、車内の明かりをつけて何かメモし出しました。

「これ、俺の名前と電話番号。名前、何て読むか分かる?」

メモを私に渡しながら、その人に聞かれました。
正直に読めないと言うと、教えてくれました。そして、

「いつでもいいから、電話して」

と言われました。
正直、物凄く戸惑いました。なんで私に電話番号を渡すのだろう?と。

「え?どうしてですか?」

ストレートに聞き返しすぎたのか、その人は困ったように笑いながら

「どうしてって・・・また遊ぼうよ」

と言いました。
それを聞いて、ああ、この人は気軽に言ってるだけなんだ。と思いました。
なので、私も少し気楽な気持ちで笑いながら

「えー・・・・じゃぁ、その内に。」

と返しました。

「ん・・・ま、いっか。とにかく、電話ちょうだい」

その言い方に、相手はふざけてなんか居ないのかもしれないと、私は少しひるみました。

「分かりました。今日は本当に有難うございました。気をつけて。」

そう言って私は慌てたように車から降りました。
ドアを閉めると、助手席の窓を開けて

「電話待ってるから」

と、もう一度その人は言いました。
私はかなり戸惑っていました。
結局、「はい」とも「かけることはありません」とも言わず、曖昧な表情を浮かべただけでした。
その人の車が見えなくなるまで見送ってから家に帰りました。

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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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