ホームページ
人物紹介


口癖
....................................................................................................................................................................
久しぶりに話したK先輩は、なんだか楽しそうでした。
先輩は、進学は勿論、卒業も危なかったのだと笑って言いました。

「え?そんなに学校さぼってたんですか?」

思わず聞き返すと、

「さぼったっつーか。まぁな。ほらそれに、俺一回停学食らってんじゃん?」

と言われ、そう言えば。と思い出しました。
高二になって間もなくK先輩と1年ぶりにバスで会い、それから少し間が空いて。
6月に急に電話をもらって、停学中の先輩の家に行ったのです。
あの時のせいで、私はずっと子供扱いされつづけてきてる気がする。
そんな事を思いました。
でも、それも。
まだ、一年もあれから経っていないとは思えないほど、遠い出来事な気がしていました。

「そう言えば、そんな事もありましたねぇ・・・」

何気にそう返しただけなのに、K先輩は何故か急に

「あっ・・・」

と言い、私が「え?」と聞き返すと

「いや、なんでもない。それより、そっちも今春休みだろ?」

と話を逸らすように聞いてきました。

「そうです。けど、毎日バイト三昧です」

と何か引っかかりつつも、私は答えました。

「そっか。じゃぁ、頑張れよ」

そう言われ、私も

「先輩も、頑張って下さいね。じゃぁ・・・」

と電話を切ろうとすると

「おう、また、電話する・・あ、俺電話できないんだった。」

と言われました。
その一言が、グサっときました。

「すみません・・・」

私が謝ると

「いや、わりぃわりぃ、つい口癖で。だから、連絡してよ。」

と言われました。
私は、「はい。分かりました。じゃぁ」と言って電話を切りました。

分かりましたなんて嘘でした。二度と掛けないと思っていました。
やっぱり、先輩の口癖は「また、連絡(電話)するよ」だったんだ。
なんだか、可笑しくなってきました。
中3のあの時も、高校生になった先輩に同じ事を言われ、有頂天になって。
だけど、連絡がくるはずもなくて。物凄く落ち込んで。
あれから3年。
さすがに私だって成長したんだ。
今度は、私の意思で終わりにしよう。
そう思いました。

気を利かせて部屋を出ていてくれたM子が戻ってきて、電話の内容を話しました。
M子は、

「春休みだろ?って聞いたってことは、誘いたかったんじゃないのぉ?」

と言う意見でした。
それを聞いて、またやっちゃったかなぁと思いました。
いつも私は、友達に言わせれば誘われているのに、それに気付かずにいて。
勿体無いって後からすごく後悔していました。
でも、もう、あんまり勿体無いと思わなくなっていました。

ふと、停学の話の時に先輩が急に慌てていたのは、もしかしたら「触れちゃいけない話」と思ってるからでは?と思いました。
それは、照れなのか。それとも、無かった事にしたいのか。私に思い出させたくないのか。
そう言えば、結局、何が起きたのかを聞くことは出来なかったな・・・
だけど、そんなことは、もう、どうでもいいか。
そう思いました。

どうせ、先が無いんだし。
今更、なんだったか知っても仕方ないし。
M子の言うように、例え誘いだったとしても、楽しい思いをしたり、K先輩に会ったりしたら、忘れる事が出来ないし。

私は、電話をしたことで、すっかり諦めがついてしまっていました。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。
..................................................................................................................................................................





家出
....................................................................................................................................................................
もう、K先輩とはお終い。
それから私は何も家で喋らず、バイトの帰りに友達と話して門限より遅く帰宅する日が多くなりました。
家で夕飯すら食べなくなり、もう親の小言など全く聞かずに無視するような態度でした。

それから、数週間後の3月に入った土曜日。
珍しく私がバイトに行くより早く帰宅した父に、バイトを辞めろと言われました。
親は、私がバイトをした事で、悪くなっていったのだと思いたかったのだと思います。

「なんで辞めなきゃいけないのよ」

そう言って、そのまま玄関で靴を履き始めると、いきなり父に殴られました。
父は、若い頃には姉には手を上げるのを見ていましたが、私は反抗的な事をしたことが無かったので、それが初めてのことでした。
殴った直後、殴られて私も驚きましたが、父の方が狼狽しているように見えました。
でも、謝ることは親の威厳として出来なかったのでしょう。

「出てけ」

と言われました。
私は、そのまま無言で玄関を思いっきり閉め、外に飛び出しました。

殴られた右側の頬骨のあたりが、ガンガンしました。
涙と共に鼻を手で抑えてすすると、手に血がついてました。
鼻血でした。
それを見て、ますます私の頭はガンガンしていきました。
そこまで父の強い感情のままに殴られたことに、尚更ショックを受けました。

取り合えず、私は一番近くの公衆電話に向かいました。
そして、バイト先に電話を入れ、今日は休むと伝えました。
この状況で、バイトなど出来ないと思ったのです。
それから、一番近くに住むM子のところへ電話を入れ、「泊めてもらえる?」と聞きました。
M子の家は、とても理解のある御両親で、特に事情を聞かれるでもなく、すぐに「いいよ」と返事が帰ってきました。

M子の家までのバスに乗っている間、私は自分を落ち着かせようと必死でした。
父に殴られた途端に、カーっと頭に血が上りました。
「何すんだよっ!コノヤロー」ぐらいの勢いでした。
徐々にその怒りが冷め始めると、途端に私は父の気弱な顔が浮かんできました。
姉を怒った後に、悲しそうにしていた父を小さい頃からいつも見ていました。
きっと、今も、そういう父が家に居て。
帰ってこない私を、夜中中心配するかもしれないと。
そう思いました。
でも、私の中にはまだ、K先輩と終らされたという気持ちが消えてはいませんでした。
だから、今は帰ることは出来ないと思いました。

友達の家へのお泊りすら、一度も許してもらえないまま高二になった私の、
これが、産まれて始めての家出であり、外泊でした。

M子は、私の顔をみて、少し驚きました。
でも、必要以上には何も聞きませんでした。
それが、とても有り難かったのです。

M子は、K先輩との事を沢山話している子でした。
M子と話しているうちに、無償にK先輩が恋しくなっていきました。
私は、父に殴られて悲しくて仕方が無くて、K先輩に頼りたいと思っていました。
でも、そんな事を言えば、K先輩は自分のせいでもあると心配するでしょう。
だから、電話をしない方がいいとも思いました。
だけど、やっぱり心細くてK先輩の声だけでも聞きたいと思い、
その夜、M子の部屋からK先輩に電話をさせてもらいました。

私が電話をすると、すぐK先輩は

「お前、電話して大丈夫なのか?外か?」

と聞いてきました。

「友達の家なんです。」

と答えると、

「こんな時間に?」

とやはり不審に思われてしまったようでした。
だから、

「今日は、両親が居ないので」

と私は嘘を言いました。
そして、話を逸らそうと、あれから電話できずに言えなかった

「卒業おめでとうございます」

という言葉を伝えました。

「おう、ありがとなっ」

とても、嬉しそうな声でした。
そして、その日、初めてK先輩の進路を聞くことが出来ました。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

その頃の私には、とても遠い場所に思えました。

..................................................................................................................................................................





諦め
....................................................................................................................................................................
親がK先輩に文句を言った日から3日後。
私は改めてK先輩に電話をし、謝りました。
K先輩は、自分が父に言い返してしまったことで、私の立場が悪くなって怒られていないかと、とても心配してくれていました。

「もう、お前んち、電話できなくなっちゃったな」

ポツリと先輩が言った一言が、深く胸に突き刺さりました。
もう、二度と。
K先輩から電話してもらえないんだ。
当然の事だと分かってはいても、物凄く悲しい事でした。
それは、もう終わりと同じことだと思いました。
だから、諦めるしか無いんだ。
そう、自分に言い聞かせました。

両親は、何もその後言ってきませんでした。
今まで以上に、無気力な状態で、ボーっとしてる私を薄気味悪そうに母は見ていました。
夕飯もまともに食べない私を見かねてか、一週間ほどすると父がそっと部屋のドアを開けて、声を掛けてきました。

「いい加減、飯ぐらい食え。だけど、俺はあいつだけは許さないぞ」

父がK先輩を許そうが許さなかろうが、もう、どうでも良いと思いました。

「安心してよ。二度とK先輩から電話なんかかかってこなから。」

と私は静かに答えました。
父はそれ以上何も言わず、またそっとドアを閉めていきました。
父が去ると、おもむろに私はK先輩との想い出の品を、箱に詰め込み始めました。
悔しいとか、親を恨むとか。そんな感情は無くなっていました。
怒るのには、エネルギーが沢山必要で。そのエネルギーがありませんでした。
もう、何も考えたくありませんでした。考える気力もありませんでした。
どうせ、いずれ終ってしまうしかなかったのだから。
この家に居る限り、誰かと付き合うなんて無理なんだから。
諦めるしか無いんだから。

だけど、多分。
諦めるしか出来ない自分が、物凄く悲しかったのだろうと思います。


↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

思わず笑ってしまったら、涙が勝手に出てきました。

..................................................................................................................................................................






....................................................................................................................................................................
K先輩にしたことを、親心だと私は思うことが出来ませんでした。
私の行動が気に入らないから、原因と思われるK先輩に難癖付けたというようにしか考える事はできませんでした。

私が反抗期になったのは、中3の時でした。
毎晩のように母親と言い争う日が増え、ある日、母は言ってはならない言葉を私に言いました。

「お前なんか、捨てられたクセに」

私の産みの親は、私がまだ1歳の頃に離婚しました。
だから、産みの母の記憶が全くありません。
間もなく、今の母が来て。
だから、私にとっての母親はこの母親以外に居ないと思っていました。
母は、同じ年頃の友達の母親に比べると若く、そのせいか意地悪な所もありました。
父は、そんな母親を選んだ自分が悪いと、泣き言を子供達に言う事が多くありました。
父を悲しませてはいけない。
だけど、父に悪く言われる母も可愛そうで。
きっと母には苛立ちがあるに違いない。寂しいのかもしれない。
私は、物心ついた時には既に、私だけでも母の味方で居ようと思うようになっていました。

別段、私は無理にそうしてた訳ではなかったのですが、どこかで苦しかったのかもしれません。
だから、母のその言葉を聞いた瞬間に、私の中の何かが崩れました。

その時、私は二階の部屋から、階下に居る母親と言い合っていました。
気付くと私は、頭がボーっとした状態で階段を降り始めていました。
十数段ある階段の半ばで、私は我に帰り、座り込みました。

その日。
私が自分自身に誓ったことは、自分の感情を無くすということでした。
親を憎んではいけない。親を恨んではいけない。
そう、自分に言い聞かせながら、スケッチブックに「無私」と書きました。
自分を無くしてしまえば、負の感情が湧くこともない。
私は、自分がどす黒い感情を親に向けて持ったことが、怖くて怖くて仕方なかったのです。

当時、キレるという言葉はありませんでした。
でも、きっと。そういう状態だったのだろうと思います。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

途中で我に返れて良かったと。今でも心底思います。
K先輩が親にしたことで、私はあの時と同じように頭が朦朧とするような怒りを持ちました。
でも、この事があったおかげで、大声で泣きながらも。
私はもう一人の私が冷静に見下ろし、暴走を止めているような気がしました。

..................................................................................................................................................................





壊された
....................................................................................................................................................................
「さっき、お前ん家に電話したんだよ。したら、親に文句言われてさ」

K先輩はそう言いました。
その瞬間、私の体の血液が全て一気に頭に上ったかのような感覚に教われました。
そのせいで、顔が腫れあがっているような気がしました。
神経が全て頭にあるような状態で、後頭部がガンガンしてきました。

「なに、言われたんですか?」

私がそう尋ねると、K先輩は

「いや、俺も悪かったんだけどさ。お前のオヤジさんに怒鳴り返しちゃってさ」

と答えました。
私は驚きました。
母が、私の行動を嫌がっていて何かするのなら分かるものの、父までがそんな行動に出るとは私の予想外でした。

「え?父が電話に出たんですか?」

確認したくて聞き返しました。
父が、母のような意地悪をする筈が無いと思いたかったのです。

「いや、最初に母ちゃんが出てさ。
 亞乃が夜中に家を出るのは、アンタに電話してるからでしょうって怒ってさ」

私がしていた事で、母親の矛先が私ではなく、K先輩に向ってしまった申し訳なさで一杯になりました。
と、同時に。
私は親を許せない。そう思いました。
あまりにも一気に血が上ったせいか、私は感覚がおかしくなっていました。
ドクンドクンと脈と同じ速さで、後頭部を頭痛が襲っているのに、その痛さが遠い感じがしました。
半ば、朦朧としていたのだと思います。
K先輩が、その後、何を言ったのかよく覚えていませんでした。
ただ、父に電話を変わったとき、先輩がなんて怒鳴ってしまったかだけは覚えています。

「そんなんだから、あいつは自由が全く無くていつも辛そうなんだ」

K先輩は、私を庇ってくれたのです。
ともかく、私は先輩に謝って、先輩も謝っての繰返しの後、私は公衆電話を出て家に走って帰りました。
走りながら、
これでK先輩と終ってしまう。全部親のせいだ。
そう何度も頭の中で繰り返していました。

あの頃の私にとって、K先輩が全てでした。
大袈裟かもしれませんが、K先輩の存在が私が生きている意味でした。
厳しすぎて何一つ自分の自由にならない家で息を殺して生活し、私は色んな事をいつもあきらめていました。
親と争う事が無駄だと思っていました。反抗する気力すら無かったのです。
親に何かを御願いする事もありませんでした。
学校の学費以外にかかる生徒会費などのお金は、自分のバイト代から出していました。
必要だった靴下やストッキングと言った物も、何も言わずに自分で買っていました。
高校生として学生として、最低限必要な事の為にバイトをし。
遊びに行くでもなく、何一つ親に迷惑を掛けていないつもりでした。
全ては親の思う通り。私は何もかも。同じ年頃の子が普通に出来る事を諦め切っていたのです。

そんな中で、唯一、自分の感情が動く相手がK先輩でした。
唯一、自分が求めるものがK先輩とのことでした。
なのに、それすら。親は壊して奪おうとした。

家に着くと、そのままの勢いで親の部屋の前に立ちました。
開け放たれたドアの向こうに居る両親に向って、怒りのままに怒鳴りました。

「なんで、K先輩にまであんなことするのよっ!先輩は関係ないじゃないっ!」

母親が、「お前が夜中に出てくからだ」と言い返してきました。

「家で電話できないからでしょう?使わせてくれないでしょう?だから出てくんじゃないっ!」

父には、

「あんな礼儀知らずのヤツと付き合うな」

と言われました。

「付き合ってなんかないよ!私が勝手に電話してるだけなのに、どうしてあんなことするのよ!」

K先輩を貶す事は許せない。そう思いました。
物凄い興奮状態でした。

「それも、アンタ達のせいで終っちゃったじゃないっ!どうしてくれるのよっ!」

どのくらい、文句を言ったか分かりません。
最後に、

「もう、いい加減にしてっ!」

と怒鳴って自分の部屋に引きこもりました。
母親が、外で何か言っていました。
私は「うるせーっ」と怒鳴り返しました。

ただただ。
途方も無く悔しくて、悲しくて。
もう、壊れてしまいたいと思いました。
近所中に聞こえるほどの大声で、泣きつづけました。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

それが、その時の私に出来る精一杯の腹いせでした。

..................................................................................................................................................................


 < 過去  INDEX  未来 >


「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

My追加