ホームページ
人物紹介


女子高教師
....................................................................................................................................................................
話は少し前に戻ります。

私の通う高校には、担任の教師と嘱託の教師とが居て、会社で言うと正社員と契約社員という立場だったのだと思います。
職員室に居るのは担任を受け持つ正社員の教師。
嘱託の教師は、別の部屋に居ました。
その嘱託の教師の中に、M先生と言う、その頃多分、まだ20代の男性教師が居ました。

そのM先生は、高1の頃に私の部活の試合などに良く来てくれていました。
必ず、手作りのドリンクなど差し入れを持って来てくれ、見た目もまぁまぁでした。
まぁまぁとは言っても。とにかく女子高の異性に免疫が薄くなってる中のまぁまぁなので、今となっては・・・・・な感じですが。
M先生よりも、顔としては部活の顧問の方が格段上でしたが、M先生の方が人気がありました。

その一年生の時。
私とはクラスが違ったRと、後に仲良くなるK子は同じクラスで、M先生の授業を受けていました。
他校の男子生徒にモテモテだったRが、高校生活で一番最初に好きになったのは、M先生でした。

その冬の昼休みに、Rが作ってきたお弁当を持って嘱託教師の居る部屋に行った事があります。
恥ずかしがるRの代わりにM先生を呼ぼうと部屋を覗くと、M先生はお弁当を広げ始めた所でした。
廊下に出てきてもらい、Rがお弁当を
「これ、良かったら食べてください」
と手渡そうとすると、M先生は「ちょっと待って」と慌てて部屋に戻りました。
M先生は、広げかけたお弁当を包み直し、机の中に隠していました。
それを見た私は、「M先生、自分でお弁当持ってきたみたい」とRに耳打ちしました。
M先生が廊下に戻ってくると、Rが

「お弁当持って来てたんですか?」

と尋ねました。
M先生は、「しっ」という仕草をしてから

「自分で作ったヤツだからいいんだ。他の先生に見られると・・・ね」

と言い、照れたような笑顔でRからお弁当を受け取りました。

Rは朝、M先生にお弁当作ったんだと言って、私に中を見せてくれました。
男性にしては、ちょっと、量が少ないなぁ・・と思ったのを覚えています。
M先生が最初広げ初めていた自作のお弁当は、二段重ね。
遠目でしたが、色とりどりギッシリだったように見えました。
Rが作ったお弁当は、から揚げと卵焼きと野菜。そして、御飯は日の丸。
女子高生が作るにしては、シンプルだと思った記憶があります。

後に、「自分で作ったやつはどうしたんですか?」と私はRが居ない時に聞いた事がありました。
M先生は「両方食べたよ。大変だったよ」と言っていました。

M先生は、翌日。
きとんとお弁当箱を洗って、Rに「有難う。美味しかったよ」と言って返していました。
上手く表現できませんが、試合に差し入れをくれたり、ちゃんとお弁当箱を洗ったり。
そういうマメなところも、M先生が好かれた理由かもしれません。

M先生は、他の担任教師たちとは違い、気さくなお兄さんを髣髴とさせる人だったことも確かです。
私は授業を受けることは無かったのですが、授業中も怒るという事もなく、楽しかったとRは言っていました。
大人の男性のちょっとした言葉や仕草に、すっかり酔ってしまうような。そんな年頃でした。

RのM先生熱が冷めたのがいつだったかは、よく覚えていませんが。
高2になっても、Rとは同じクラスにはなりませんでした。
そして、Rと友達だったK子と同じクラスになり、Rや一年から一緒だった子を通じて私もK子と少しずつ話をするようになっていきました。

2年になって、2-3ヶ月目のことでした。
K子が学校を一週間ほど休んだ事があります。
K子と仲の良かったY美に「K子どうした?」と尋ねると

「バイクで事故ったんだって。」

と答えました。
高校は、バイクの免許は禁止でした。
でも、16になるとすぐ、K子は免許を取り、一度やはり事故って足一面に擦り傷を作って登校した事がありました。
ソックスの生足で、その酷い怪我は、担任教師の目に止まりました。
その時、K子は担任に

「自転車で転んじゃって」

と答えていました。
それが実はバイクの怪我であることは、私も聞いていました。
だから、「またぁ?」とこの時も答えました。

学校への届は、K子の母親から「風邪をこじらせている」と連絡が入っていたようでした。
K子は、その時既に、教師達から目を付けられていた存在でした。
不良だとかそういう事では無く。校則違反が目立つ子だったからです。
一度は、教師にバイトを見付かり、
「知り合いのお店なんです。バイトじゃありません」
と誤魔化していた事もありました。
それから、前以上に、K子は疑わしい子ということで、教師から見られるようになりました。

その高校はかなり変っていました。
肩に髪の毛がついたら二つに結わき、長くなったらみつあみをしなければならない。
そういう校則でした。
そんな中、ある日、K子がみつあみというより、編みこみのヘアースタイルで登校してきました。
前日に、知り合いのお姉さんがやってくれたそうで、嬉しくてそのまま登校したのです。
それを見た教育指導の女性教師は、いきなりK子を職員室に引っ張り込み。
(本当に、無理矢理引きずるように連れて行きました)
その編みこみを全て解き、水道の水でビショビショに濡らしました。
その高校では、定期的に検査は勿論。授業中でも疑わしい生徒がいると

「水道で髪、濡らして来い」

と言われる状態でした。
パーマをかけていたら、濡らす事でバレるからです。

K子はその頃、パーマをかけていないのは、誰もが見て分かるほどのストレートでした。
教師の言い分はこうでした。

「きっと帰りにあの編みこみを解くつもりなのよ」

要は、みつあみを解くとウェーブの跡が付きます。
それを狙って、K子がそういう髪型をしていると決め付けたのです。

そんな事もあって、教師に対しK子は反抗的な態度が強くなりました。
だから、一度目のバイク事故の時も、教師はあきらかに疑いの目でK子を見ていました。
だから、今度のバイク事故は「風邪」という理由にしたのでしょう。
親だって、娘が退学になるのは避けたいので、協力してあげたのだと。

この時は、そう思っていました。

K子とは、3年生になってから特に親しくなりました。
そして、私は本当の事を知ることになります。

K子は、M先生と1年生の冬から付き合い始めていました。
Rがお弁当を渡した時には、既に二人は付き合っていたそうです。
M先生は、私たちが3年になると居なくなっていました。
いつ、学校を辞めたのかは、接点が無かった私には分かりません。
付き合い始めたからには、相手は大人です。
当然、そういう関係に。
そして、入院。

バイク事故でも風邪でもなく、これが真相でした。

その後、責任を感じたのでしょうか。
M先生はK子と別れ、学校も辞め、結婚をしたと後に聞きました。
そもそも、M先生にはK子と付き合っている時に、彼女が居たそうです。
K子もその後、数人の男性と付き合い、20歳で結婚しました。
そして、すっかり主婦になりました。

それから時が経ち。私たちが25歳の時。
K子を迎えにきたM先生に再び会う事になります。
K子もM先生も、それぞれ子供を持つ家庭のある身でした。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。
..................................................................................................................................................................





理由
....................................................................................................................................................................
Iちゃんが言うには、私が今井さんと帰った事が原因でした。
帰ったと言っても、少し送ってもらっただけで。
それも私が頼んだ訳でも無く、二人で姿をくらました訳でもなく、今井さんは皆の所に戻ったハズです。
私は、原因があるとしたらやっぱりそうだったのか・・・と思う反面、何故それでAちゃんが怒るのかさっぱり分かりませんでした。

「途中まで送ってもらっただけだよ?」

私がそう言うと、Iちゃんは難しい顔になり

「細かい事は分からないけどさ。J子が好きな相手だったから・・・」

と言いました。
私は、初めて知った事実に驚きました。

「え?・・・・知らなかった・・・・・」

そう言うと、Iちゃんは

「Aちゃんも、あの日知ったらしいんだけど。亞乃もそれ分かってただろうにって怒ってて・・・」

と言いました。
物凄い誤解だと思いました。
もしかして、J子がその話をAちゃんに言ったとき、私は側に居たのかもしれません。
でも、私の耳にその話は入っていませんでした。
ただ、そう言われてみればなんとなく。
他の子が今井さんの隣にJ子を行かせていたような・・・
目の端に映った光景を思い出しました。

「分かった。有難う」

私がそう言うと、Iちゃんは「ごめんねぇ」と言いました。

「いや、こっちこそ、嫌な思いさせてごめん」

と謝ると、

「Aちゃんも、そのうち機嫌直すと思うよ」

と言ってくれました。

理由を知り、物凄い誤解と勘違いだと分かっても、私はAちゃんに対し怒る気力が沸きませんでした。
確かに、私は浅はかな行動を取ってしまったのだと思ったのです。
もう少し。私が周りをよく見ていさえいれば、例えJ子からの話を聞いていなくても気付く事が出来たのかもしれません。
でも、いつも上の空のような状態だった私は、見ているのに見ていなかった。

私は、J子に申し訳なかったという気持ちで一杯になりました。
そして、何故、断ったにも関わらず、J子が私を強引に誘ったのかが分かったような気がしました。

普通なら、自分の好きな人を取られる可能性のある友達は、呼ばないはずです。
でも、好きな今井さんの機嫌を損ないたくなかったから、J子は執拗に私に参加して
くれと頼んだのでしょう。
最初から、きっと不安だったはずです。
それなのに、私と今井さんが一緒に並んで歩く後姿を見せられて、凄く嫌な思いをしたのだと思いました。

それからAちゃんのシカトが終る事もなく、すぐに夏休みに入りました。
夏休みに入って直ぐ。
近所に住んでいるJ子と、バッタリ会いました。
笑顔で声をかけてくれたJ子に、私は「何も知らなかったとは言え、ごめんね」と謝りました。
J子は

「気にしないでいいよー。」

と笑いながら言ってくれました。
そして、暇だったら家に来ない?と誘ってくれたので、そのままJ子の家に遊びに行きました。

J子の話によると。
出会ったときからJ子は、今井さんがすごく好きだったそうです。
でも、皆で会った数日後に、また「誰か紹介して」と言われ、自分に脈は無いと思ったそうです。
「確かに、写真を見せて亞乃を指名した時は、一瞬不安にもなったけど。」
「でも、亞乃がK先輩に夢中なの知ってたし。」
とJ子は言いました。
今井さんに私が好きな相手が居る事を教えたのは、Aちゃんだったそうです。
それに、実際に会った私があまりにも喋らないので、暗そうだと判断されたらしく、今井さんはすぐに私への興味を失ったようだと。
だから、送ると言い出した今井さんの行動は、相手が私だからという事でもないと思っていたそうです。
現に、花火の後。
今井さんは、同じ方向の別の子を家の近くまで送って行ったのだそうです。

「だから、亞乃は別に悪く無いし。ただ、Aちゃんが一人で怒ってるんだけど」

とJ子は言ってくれました。
私が今井さんに送ってもらった後、J子が気付いたら既にAちゃんは一人で怒っていたそうです。
「J子が可哀想だ」とAちゃんに言われ、自分を想ってくれてるんだなぁと思って、それ以上何も考えずにいたら、翌日からああなってしまって。
J子も困惑していたのだと話してくれました。

今思えば。
Aちゃんの怒りは、年頃特有の正義感ってヤツだったのかもしれません。
その頃のAちゃんは、クラスでも目立つ存在だったし。
仕方の無かった事なのでしょう。

その後、クラス替えの無かった3年生まで、Aちゃんと仲が戻る事もなく、会話も殆どした記憶はありません。
ただ、3年になって気が付いた時には、Aちゃんはその時クラスのリーダー的存在になっていたグループから言葉のいじめを受けていました。
理由は、私とは全く関係なく。彼女がきっと始めに目立ちすぎていたから・・・
卒業式の日。
クラスの子達に「なんか書いて」と私がまわしたアルバムには、

「亞乃。ごめんね。。。」

で始まるAちゃんの言葉があります。
私がアルバムを手渡して「書いて」と言った時、とても驚いた表情をしたAちゃんの顔が、今でも鮮明に思い出され、少し苦い後悔が残っています。


↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

..................................................................................................................................................................





シカト
....................................................................................................................................................................
今井さんの言葉で、私は何故自分が断ったのに強引に誘われたのか気付きました。
J子と今井さんがどういう風に知り合ったのかは分かりません。
いつだったか教室で撮った写真を、J子は今井さん達に見せたのでしょう。
それを見て、今井さんが「この子も呼んで」と私を指名したからなのだと。

まだこの時、私はJ子のお目当てが今井さんだったとは知らずにいました。

今井さんの
「あのさ、亞乃ちゃん呼んでって言ったの俺だって聞かなかった?」
という問い掛けに対し、私は
「あ、そうなんですか。知りませんでした。」
と普通に答えました。
今井さんは、

「俺以外のヤツも、亞乃ちゃん気に入っててさ」

と続けました。
私は、それがどういう意味なのか、全く分からず。一体、今井さんは何が言いたいのだろう?と思っていました。
曖昧な笑みを浮かべて
「ああ、そうですか・・・・」
と答える以外ありませんでした。

私は今井さんを始め、他の男性とも殆ど会話をしませんでした。
彼らが誰とどんな会話をしていたかさえ、聞いてもいませんでした。
困っていると、今井さんは言いました。

「でも、好きな人が居るんだって?」

私はなんで今井さんがそんな事を知っているのか分からず、でも好きな人が居るという事を知っているなら大丈夫だろうと、なんだか少し安心しました。

「います。少し、今井さん、似てますよ」

私が少し笑いながら言うと、

「俺に似てんの?じゃぁ、いい男だ」

今井さんも笑って答えてくれました。
そして、

「じゃ、気をつけてね」

とあっさりと元来た道を引き返して行きました。

その時点で、私の嫌な予感は吹き飛んでいました。
友達同士で出会った中で、自分だけ誰かに好かれるという図式が、女同士の間では良い結果にはならないことは勘で分かっていました。
だから、今井さんがあっさりと笑って引いてくれた事で、大して私に興味があったとは思えないし、その心配は解消されたと思ったのです。

翌朝。
電車でJ子に会いました。

「昨日、ちゃんと帰れた?」

そう聞かれたので、「うん。大丈夫」と答えました。

「あの後、花火やって楽しかったよ」

とJ子は言いました。
J子は、いつものJ子でした。

教室に入ると、AちゃんとIちゃんが一緒に居ました。
私はカバンを置くと、いつものように二人の所へ行き、「おはよう」と声をかけました。
二人は、椅子に座っていました。
声を掛けると、Iちゃんは、少し戸惑った笑顔で顔を上げて「おはよう」と答えてくれました。
でも、Aちゃんの方は。下を向いたまま、顔を上げず視線を外に向けました。

「なに?」

私は何がなんだか分からず、尋ねました。
二人とも下を向いたままでした。
Aちゃんにシカトされた。
それだけは、ハッキリしています。でも、理由が全く分かりません。
訳が分からず、その場に立っている事も居たたまれず、席に戻ろうと振り返ると、J子達がこっちを見ていました。
一瞬、目があうと、目を逸らされました。
その時。
原因があるとすれば。
昨日の私が何かをしたということ以外に無いということに気付きました。

チャイムが鳴り、授業が始まりました。
次の休み時間、理由を聞こうと二人の側に行きかけると、AちゃんがIちゃんの手を引っ張るようにして、教室を出て行っていました。

次の授業時間中に、「私、なにかした?」と書いたメモをAちゃんまで回してもらいました。
それを丸めて捨てるAちゃんが見えました。
私は、泣きそうになりました。

昼になり、いつもなら3人で机を並べてお弁当を食べていました。
でも、二人はJ子達の所へ行きました。
我慢しきれず、私はお手洗いへ走って行きました。
水道で手を洗うフリをしながら、泣くのを堪えていると、クラスメイトのC絵が声を掛けてきました。

「どうした?」

私は、何をどう説明していいかも分からず、

「お昼どうしようかなぁって思って」

と曖昧なことを言いました。

「一緒に食べようよ」

C絵はそう言ってくれました。
狭い教室の中です。だから、彼女も見ていたのでしょう。
それ以上何も聞かずに、快くC絵達グループの中に私を入れてくれました。

それから2日ほど、同じ状態が続きました。
その間に、二回ぐらい、やっぱり授業中にAちゃんに手紙を回してもらいました。
一度は、クスクスと笑い声が聞こえました。
一度は、「自分で考えたら?」という返事がきました。
私は、Aちゃんに聞くのを諦めました。

J子にも聞きました。彼女は
「私からは言えない」
と答えました。
J子以外の一緒に今井さん達と会った子にも聞きました。
「何かしたんじゃない?」
としか言ってくれませんでした。

3-4日目ぐらいだったと思います。
いつもAちゃんと一緒で、隙が無かったIちゃんが一人で廊下を歩いているところに出会いました。
Iちゃんは人が好い子でした。
明るい穏やかな性格で、ハッキリした性格のAちゃんとは正反対でした。
Iちゃんは多分。今回の事に関わりは無く。
Aちゃんに引きづられているだけという事は、見ていて分かりました。
私は彼女を困らせたくはありませんでした。
でも、彼女以外に聞く相手は居ません。

「Iちゃん、ごめんね。Aちゃん、何か言ってた?」

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

たったそれだけ。
私は、中3の時のA美との事が蘇り、「またか」と思いました。

..................................................................................................................................................................





似た人
....................................................................................................................................................................
タバコを吸うK先輩。
私には、想像できない事でした。
考えてみれば、中学生の頃から周りではそういう男子は居たでしょうし、同級生でも外で会えば吸う男子は居ました。
私にとって、K先輩は一つという歳の差以上に上の存在に感じていたのは事実ですが、その反面。
何するか分からない、ハラハラする存在でもあり、どこか弟を見るような感覚もありました。
だから、私が作ったポケットにタバコを入れると言われて、また学校で見付かったりして、問題にならないといいけど。とかなり心配でした。


高2にもなると、私の周りの友達は皆、異性の話題で持ちきりでした。
「彼氏が欲しい」という言葉がいつも飛び交っているような教室でした。
私とK先輩の曖昧な状態ですら、周りからは羨ましがられました。
特に、その頃私が仲良くしていたグループは、そうだったかもしれません。
「恋人募集中」などと黒板に書いて、皆で写した写真は、私の知らないところでその子達を通じて、他校の男子生徒に見せられていたようです。

K先輩と、誕生日プレゼントを渡して以降、何も連絡をとらぬまま一週間が過ぎた頃。
私は休みの日にそのグループの子達に誘われました。
他校のK先輩と同じ一つ上の男性と数名で遊ぼうという話でした。
K先輩以外に興味が無い私は、最初は断りましたが、
「亞乃も呼んでって言われてるんだもん」
と言われ、半ば懇願された感じで参加することになりました。

私がその頃特に仲が良かったのが、AちゃんとIちゃんでした。
Iちゃんは、バイトがどうしても休めないという事で、不参加でした。
他に、J子を含め、5-6人で待ち合わせの場所に行きました。
しばらくすると、数名の男性が歩いてきました。
その中に。J子のお目当ての人が居ました。
目的のメインは、どうやらJ子のお目当ての人とJ子を近づける事だったようです。
当初、私はそれを知らずに居ました。
ただ、その人を見た瞬間、私は驚きました。
K先輩にとても似ていたのです。

後から思えば、余計に全ての感じが似てました。
顔もそうだし、全体的な雰囲気が。特に、女好きという軽い感じが。
その人は今井さんと言いました。

何をして遊んだか、あまり良く覚えていません。
どこか、山の方の集会所みたいなところで、皆でお菓子を食べながら喋っていたのだと思います。
待ち合わせが午後だったこともあり、あっという間に夕方になりました。
その頃、バイトもしていましたが、内緒だった為に土曜日は親が帰宅する17時過ぎには家に居るようにしていました。
皆はこれから、花火をしようという話をしていました。
私は、花火をしたい気持ちもありましたが、家の方が気がかりでした。
それに、その一つ上の男性達に全く興味も無かったので、詰まらなかったのも事実です。

「ごめん。そろそろ帰らないと親がうるさいから」

と私はAちゃんに言って、席を立ちました。
すると、男性達が「もう、帰っちゃうの?」と聞いてきました。
「すみません。親がうるさいんで・・・」と言うと、口々に
「箱入りなんだぁ〜」などと言われました。
「そういう訳じゃないんですけど・・」などと言いながら、靴を履いていると、今井さんが来て

「送ってくよ」

と言いました。

「いえ、まだ明るいから大丈夫です」

と断ったのですが、送っていくと言って引いてくれませんでした。
仕方なく、「じゃぁ、ちょっとでいいですから」と言ってみんなの方に振り返り手を振ると、男性達から

「今井ーーーっ襲うなよーっ」

などと冷やかしの声が上がりました。
それに対し、悪ふざけしたのでしょう。今井さんが、私の肩に手をまわすフリをしました。
その時、なんだか嫌な予感が少しだけしました。
K先輩に似ているので、他の人よりは多少の親近感めいた感覚はあったものの、別に興味がある相手ではありませんでした。
実際に今井さんの手は、私に触れませんでした。
でも、そういう仕草をされた事で、一瞬、私の表情が強張ったのかもしれません。
手を戻しながら、今井さんは

「ごめん、ごめん。俺、そんな事しないよ?」

と言いました。
今井さんは、次々と色んな事を聞いてきました。
「門限、厳しいんだ?」
「部活何やってたの?」
「バイトはなに?」
「どこら辺に住んでるの?」
私は、どんどん話し掛けてくれるので、そのうち、まったく緊張もせず気楽に話が出来るようになっていました。
気付くと、かなりの距離を歩いてしまっていました。
慌てて立ち止まり、

「もう、戻ってください。大丈夫ですから。有難う御座いました」

と言うと今井さんは、

「そうだな。戻らないと疑われるしな」

と笑いました。
その笑顔が、やっぱりK先輩に似てるなぁと心の中で思っていると、

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

思いも寄らぬ問いに、複雑な気持ちとなんとなくまた、嫌な予感がしました。

..................................................................................................................................................................





誕生日プレゼント
....................................................................................................................................................................
翌日、バイトの前に早速布を買いに行きました。
前夜の電話で、「何色がいいですか?」と聞いたとき、K先輩は最初
「黒」
と答えました。
イメージに合いません。というより、私の記憶では好きな色は違ったはずで。
「え?本当に?」
と聞き返すと、
「何色でもいいんだけど・・・黄色かな」
と言い直しました。
それを聞いて、3年前と変わっていない事が、なんだか少し嬉しく感じました。

中学の頃、家庭科でエプロンやスカートを作らされた事がありました。
でも、私は決して上手とは言えず。というより、学校のミシンの台数には限りがあり、何故か私は友達に遠慮して自分も間に合わないのに譲っていたのです。
結果、作り上げる事もできず、散々な成績になりました。
それ以降、高校に入ってからは家庭科の授業も無く、ミシンを触った事すらありませんでした。
そんな自分の状態であるにも関わらず。
私が買ったものの中には、ファスナーが入っていました。
課題がスカートだった時に、一番難しく出来なかったのがファスナー付けでした。

材料選びは、とても楽しいものでした。
色んな生地を見ながら、K先輩が持つ姿を想像しました。
元々、物を作るのは好きで、そういう事に関しては凝り性でした。
どうせ作るなら、人とは少し違ったものを作りたかったのです。

取り掛かったのは、K先輩の誕生日の一週間前ぐらいでした。
親に学校の課題だと嘘をつき(親は授業に何があるかを把握していませんでした)、ミシンを借りました。
型紙などは使いませんでした。
自分の勘で布を切り、想像だけで縫い始めました。
余分な布を買わなかったので、殆ど一発勝負でした。
紐の通し方すら知らなかった状態で、2日がかりで形を作り上げました。
最後に、苦手なファスナー付けです。
無謀にも、ポケットを作ろうと考えたのです。

普通は、裏表を縫い付けてしまう前に、ポケットを作るべきだったのでしょうが、手順すら私は知りませんでした。
必要以上に苦労したのを覚えています。
今の私にそれを作れと言われたら、もしかしたら作れないかもしれません。
現に、K先輩への誕生日以来、今まで。私は巾着など作ったことはありません。
この先、無ければ。一生で最初で最後のことになります。

K先輩に渡せたのは、誕生日が過ぎた週末の事でした。
確か土曜日で、私はバイトを休み、学校帰りにK先輩と待ち合わせをしました。
その待ち合わせをする為の電話も、家を抜け出して公衆電話からかけました。

以前、マフラーを作って惨めな思いをした苦い記憶が、ほんの少し私には残っていました。
巾着は、自分でも驚くほど上手に出来ました。
学校で、友達に見せると皆誉めてくれました。
だから、少しだけ。私は前より気が楽な状態で、K先輩に会うことができました。

ファーストフード店に入り、K先輩にプレゼントを渡しました。
かなり、緊張しました。
自分の作ったものを好きな人に見られるということは、本当に勇気が居る事でした。
黄色と色を指定してもらったけれど、私が選んだのは、白と黄色の細かいチェックでした。
それを気に入ってもらえるかも、不安でした。

K先輩は、一目見て

「いいじゃん、いいじゃん」

と言ってくれました。
そして、私の苦心の作のポケットを見つけ、ファスナーを開けました。
そのときになって、私はポケットの中の処理をちゃんとしたかが不安になりました。


↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

嬉しいような困ったような、複雑な気持ちでした。

..................................................................................................................................................................





家を抜け出して
....................................................................................................................................................................
その夜。
私は家を抜け出し、公衆電話に向いました。
と言っても、時刻はまだ21時前だったと思います。
そんな時間に外へ出る事を親は許しません。
私のその頃の家は、親の部屋の横が階段でした。
その階段を、音がしないようにこっそりと降り、玄関ではなく両親の部屋の隣の和室の窓から外へ出ました。
K先輩に電話をかける為です。

私の家は、電話をするにしても、親に「電話貸して」と言わなければならない状態でした。
それが、まして夜20時以降ともなれば、親が許可してくれるはずもありません。
思えば、私は家から女友達と無駄話をするような電話をしたことが、高校を卒業するまで一度も無かったような気がします。

家を抜け出す事を思いついたのは、過去に姉がやっていたからです。
姉が、高校三年生の春のことでした。
姉の場合は、二階の屋根から木をつたって降りるという。それを何回繰り返したのかは分かりませんが。
私が襖だけで仕切られた隣の部屋にいて気付かなかったのですから、きっと夜中だったのでしょう。
でも、ある日。
朝になっても帰ってこなかった事で、親にバレました。
その朝、電話をかけてきた姉は、私に電話を代わって欲しいと親に頼み、私は姉にファイルを隠すように頼まれました。
それは、好きな人との文通のような内容のものでした。
夜中に抜け出して、姉は恋人のところへ行っていたようです。
その後、姉はその相手とすぐに結婚をして家を出ましたが。

姉のこと以来、両親は理解を示すどころか逆に厳しくなりました。
バイトにしても、姉もバイト禁止の私立でした。それが、親に嘘をついて部活だといい、それが後にバレました。
だから、私には余計に門限から何から全てにおいて、規制をかける状態になり。

そういう事に不自由は感じても、反発しようと思った事はありませんでした。
でも、好きな人が出来ると、そちらに向けられるパワーは凄いものでした。
恋が全て。
大袈裟かもしれませんが、そんな状態でした。

K先輩から電話が来るようになってから、一つ変った事があります。
子供だったとつくずつ思うのですが、私はその高2まで、夜8時に眠っていました。
それは、小さい頃からずっと変わらぬ習慣でした。
でも、K先輩が電話をかけてくるのは大概が20時半前後でした。
それから、眠いのを我慢して、来るか来ないかも分からない電話を待つ日が多くなりました。

その日、家を抜け出してまで電話をしに行ったのは、K先輩の誕生日がもうすぐだという理由でした。
理由というより口実。
朝会ってから、K先輩で頭がいっぱいだった私は、どうしても声が聞きたかったとうのが本音でしょう。
滅多に強く「こうしたい」と思う事が無かった分。
思った事は何が何でも実行しないと気が済まない性格でもありました。

暗い道を公衆電話まで走っている時、なんだか身体が宙に浮いているような。そんな感覚でした。
呼吸を整えてから、電話をかけると、出たのはどうやら御母さんでもなく。妹さんでもなく。お姉さんのようでした。
居るとは聞いていましたが、その存在に改めて驚きました。
お姉さんは、とても大人な落ち着いた声で応対してくれた後、いきなり人が変ったようにK先輩の名前を呼んでました。
そのギャップが、妙に面白いと思ったのを覚えています。

電話に出たK先輩は、私だと分かると驚いたようでした。
公衆電話からだと言うと、「大丈夫なの?」と心配してくれました。
私は、要件である

「もうすぐ誕生日ですよね?あの、今朝のお礼もしたいんで欲しいものありますか?」

と聞きました。

「今朝のお礼って、そんなんいいのに。」

K先輩はそう言ってくれましたが、私は過去に、プレゼントを貰って何のお返しもしなかった事を悔やんでいました。
だから、どうしても、何か上げたかったのです。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

その当時。
彼女からの手作りプレゼントとして持ち歩く男子高生が沢山いました。

..................................................................................................................................................................





朝デート
....................................................................................................................................................................
バスが目の前に来て、ドアが開きました。
乗り込む寸前、「なんで?」と私は聞き返しました。
すると、またK先輩は頭をクシャクシャと撫で、

「すぐ真っ赤になるもんなー」

と笑いました。
その瞬間、私はきっと「ジュンチャン」の意味を理解したのだと思います。
恥ずかしさのあまり、半ば怒ったフリをして挨拶もせずにバスに乗り込みました。
乗り込んだはいいものの、そのバスは前払いで。
お金を入れたはずが、バスは発車しません。
ドアの外にはK先輩が私を見送っています。
そこで、バスの運転手さんに「お金足りないよ」とぶっきらぼうに言われました。
どうやら、50円と5円を間違えていたようなのですが、そんな子供の初めてのお遣いのような間違いは、その時が始めての事でした。
恥ずかしさが倍増し、バスの車内を俯いて空いている席まで行き、外を見ると、K先輩が手を振っていました。

バスが走り出し、私はK先輩の家で何が起きたのかを懸命に思い出そうとしました。
頭の中はパニック状態で。
直後であるにも関わらず、どうしても、思い出せません。本当に覚えていなかったのです。
ただ、「ジュンちゃん」と言われた理由が、私が子供すぎるという意味であるという事だけは、なんとなく理解できていました。

家に帰ってからも、懸命に思い出そうと努力しました。
気付いたら床に仰向けになってた。次は起きる動作をしてた。
その前後は、まるっきり空白状態でした。そして、「ジュンちゃん」と言われた。

これはあくまでも想像ですが。
ふいに、私は先輩に押し倒された。
K先輩が、私に近づいたので、外の明かりの影になって暗く感じた。
でも、あまりにも私が硬直していたので、すぐに止めた。
そして、私は自分が横になっている理由も分からずに反射的に起き上がった。

そう考えると、本当に恥ずかしくてなりませんでした。

その日から、また私の頭はK先輩でいっぱいになりました。
2-3日後。K先輩から電話がありました。

「停学終ったんだけど、朝、早く来れる?」

朝デートのお誘いでした。

翌朝、待ち合わせの時間にA駅に行くバスに乗り込むと、K先輩は居ませんでした。
駅に着いて待っていると、次のバスからK先輩は相変わらずの歩き方で近づいてきました。
その表情が、ぶっきらぼうで怖くて、一瞬、ひるみました。
「おはようございます」と挨拶をすると、「待った?ごめんな」とだけ言い、どんどん歩いて行きます。

大体、私は朝、誰かと待ち合わせをした事など、一緒に通学する電車以外にありません。
O君の時も、いつも駅のホームで立ち話をするだけでした。
だから、K先輩と待ち合わせしても、時間になるまでちょっと立ち話をする程度だと思っていたのです。
予想外に、歩き出した先輩の後ろを、慌てて追いかけていくと、ふいにK先輩は振り返り、

「ミスドでいい?」

と聞かれました。
ああ、なるほど。お茶するんだ・・・
やっぱ、K先輩は違うなぁと、一人心の中で感心しきりでした。
制服姿で、しかも朝から他校の年上の男性とお茶。
それまでの私の生活には、想像も出来ないことでした。

店に入ると、何飲む?と聞かれ、私はグレープフルーツジュースを頼みました。
当り前のようにK先輩が支払いをしてくれて、私は慌てました。
「あの、お金・・・」
そう言ったのですが、「こんぐらいいいって」と受け取ってくれません。
席に着くと、K先輩はだるそうに椅子にもたれかかりました。
思わず私は、

「無理して来たんですか?」

と聞いてしまいました。
誘われて来たのは自分なのに、相手に「無理した?」と聞くのはかなり変ですが、なんだか自分が悪い事をしたような気がするぐらい、K先輩の表情が怖かったのです。
私が、おどおどしているのに気付いたのでしょうか。K先輩は

「あ、ごめんごめん。俺、朝、弱いんだわ」

とやっと笑ってくれました。
安堵した私は、「停学とけて良かったですね」と言いました。
K先輩は、停学になったこと自体がかなり不服だったようで、文句を言い出しました。
それを聞いて、元々が姉御肌である私は、

「何言ってんの。喧嘩すること自体が間違いなんだから」

と子供を叱るような口調になってしまいました。
すると、K先輩は

「なんだよっ、ジュンちゃんっ」

と逆襲してきました。
言われた瞬間に、私は急にあの日の事を思い出し、恥ずかしさが蘇ってきました。

「だから、ジュンちゃんって何なんですか?」

少し、ムキになって聞くと、先輩はヘラヘラ笑いながら

「あれじゃぁ〜なぁ〜」

と言い出しました。
そこで、私は思い切って

「あの・・・全く覚えてないんですけど・・・何かしました?」

と聞きました。「何かしました?」と言うのは、「私が何かしましたか?」という意味だったのですが、K先輩はそうはとらなかったようで

「いや、なんも」

と笑いながら言い、「そろそろ行こうか」と席を立ってしまいました。
消化不良のまま外に出て、駅までK先輩の後ろを歩いていると、振り返りながらK先輩が言いました。

「気にすんなって」

そう言って、私の頭をぽんっと叩きました。

「気にしますよっ」

とムクれた顔をして返すと、半笑いのような表情で遠くを見ながら


↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。


咄嗟に「え?」と聞き返しましたが、それ以上は何も言ってくれません。
私は、今聞いた言葉が本当なのかどうか分からぬまま、どんどん歩くK先輩の後ろにくっついて、改札につきました。
そして、改札を抜けると、「またね」と言ってK先輩は自分のホームに行ってしまいました。

..................................................................................................................................................................





二人きり
....................................................................................................................................................................
もう、初夏と言っても良い季節でしたが、K先輩の家の玄関に立った私の手は冷たくなるほどに汗をかいていました。
一瞬、このままやっぱり帰ろうか?という考えが頭をかすめましたが。
そこで迷っていたのは、大した時間じゃなかったと思います。
でも私は、あまり長時間そこに立っている事を、近所の誰かに見られる方が良くない事だと思い、呼び鈴を押しました。

奥の方から「はい」という低い声が聞こえ、出てきたのはK先輩でした。
笑顔を作り、平静を装ったつもりの私の顔は、きっと引きつっていた事でしょう。
そして、心なしか。K先輩の表情も、なんだか緊張気味に見え、まるで告白された時のような顔だな・・・と思いました。
勿論、当時、あの中学2年の頃の私にK先輩の顔を見る余裕などなく、覚えてるはずも無いのに、何故かそう思いました。

「お邪魔します」
そう言って、玄関を上がり、K先輩の後ろについて二階に上がりました。
その時に、「いいからっ」という感じの事を言われました。
今でも、おぼろげに玄関の記憶と、その階段が暗かった記憶はあります。
階段を上がり、廊下を歩いた突き当たりに、確かK先輩の部屋はありました。
広さは、記憶が曖昧で。ただ、タンスとかがあって、あまり広くは無かったと思います。

人の家に遊びに行くという事が、それまでの私には数え切れるぐらいしかなく。
まして、好きな相手の家にというのは、初めての事でした。
私は、あまり人様の家をじろじろ見てはいけないという感覚があり、余計にK先輩の部屋の模様を覚えていません。
というより、その部屋での出来事を、殆ど覚えていないのです。

確か、座ってと勧められたテーブルの前に腰を下ろしました。
K先輩に、「ジュースでいい?」と聞かれ、しばらく一人になりましたが、その間も私はせっかく入れたK先輩の部屋を、何も見なかった・・・
それから、何を一体話したのか。
多分、停学になった経緯も聞いたでしょう。私がバイトを始めた事も話したハズです。
ジュースと一緒に出してくれたお菓子を、食べれば?と言われ、だけど食べる事は出来なかったことは覚えています。
おかしな話かもしれませんが、異性の前で物を食べるという事に、慣れていなかったというか、恥ずかしいと思っていました。
それは多分。単なる同級生、男友達の前でもそうだったと思います。

途中、私は
「お家の人は居ないんですか?」
そう、聞いたと思います。K先輩の答えは「居ない」という一言で。
その響きがかなりぶっきらぼうで、不機嫌そうな声に感じました。
それを聞き、私は緊張が和らぐような思いと、逆の意味で更に緊張し、心臓の音が大きくなるような感覚がしました。

前夜、私は想像していました。
女である私を家に招いた時に、K先輩はお家の方になんて紹介するんだろう?
その頃の私にとって、お家に異性を一人だけ招き入れるということは、物凄い事だと思っていたのです。
それは、恋人以外に有り得ない事だと。
だけど、それは私が子供なだけで、K先輩のように女友達が多い人は違うかもしれない。
そんな事を考えていました。

K先輩は、テーブルの向かいでは無く。私の横に座っていました。
だから、K先輩の顔を見た記憶が全くありません。
会話の間に沈黙があったのか。それとも、緊張のあまり逆に喋りつづけていたのか。
K先輩の手が私に触れたのか、何かの弾みなのか。
曖昧な記憶では、座った姿勢から、私は気付くと床に仰向けになっていました。
窓から差し込んでいた光が、何かに遮られていました。
そして、次に何が起きたのか。私は目を閉じたのかもしれません。
でも、それもきっと一瞬のことで。
次の瞬間には、私は起き上がる動作をしていました。

起き上がる私を、K先輩が横で見ている。そんな感じがありました。
そして、笑いながら私の頭をクシャクシャっとなでました。
そこへ

「ただいま〜」

という声が聞こえてきました。
すると、K先輩は「バス停まで送るよ」と言って、立ち上がり、さっさと部屋を出てしまいました。
私は、何が起きたのかを把握しないまま、把握していないから余計なのでしょう。
不思議な事に、すでに冷静になっていました。

階段を下りると、玄関を上がる妹さんが居ました。
「お邪魔しました」
という私を、来た時以上に、K先輩は「いいからっ」という強い口調で制して、そのまま慌てたように玄関を出ました。
玄関を出てから、「だって、妹さんでしょ?かわいいですねぇ」と半ばからかうようにK先輩に言うと、
「可愛くねーよ。いいんだよっ」
と怒ったような口調が返ってきました。

こんな、K先輩をからかう余裕が自分に有ったことが不思議ですが。
本当に私は落ち着いていました。
きっと、K先輩はお家の人に、女である私を呼んだ事を知られたくなかったのでしょう。
後で、妹さんがお母さんに「お兄ちゃん、女の人連れてきてた」って言いつけられる姿を想像し、私は笑ってしまいました。

K先輩の家が見えなくなった角を曲がると、また、K先輩は私の頭をクシャクシャっと撫で、さっきからかった逆襲のように、笑いながら言いました。

「これから、ジュンチャンって呼ぶから」

私には、その意味が全く理解できませんでした。
「なんですか?それ?」と聞いても、ただ笑うばかりで答えてくれません。
バス停に着き、すぐにバスが来るのが見えました。
するとまた、頭を撫で、

「ジュンチャン、気をつけてね」

と言うのです。
私はなんだか、とてもからかわれている感じがして、少しむくれ顔をしてみました。
そして、バスが目の前に来た時に、私はまた最後に聞きました。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

そのとき、初めてまともに見た先輩は、本当に楽しそうな、少し照れたような笑顔をしていました。

..................................................................................................................................................................





停学
....................................................................................................................................................................
殆ど毎日のバイトにも慣れた6月の中ごろ。
K先輩から、電話がありました。
出だしは、その後、会わないけどどうしてる?という内容だったと思います。
毎日が充実していた私は、気分的に昂揚していたのでしょう。
それと、その生活の中で少しK先輩への想いが薄れていたからなのでしょう。
その電話は、今までよりもスムーズに言葉が出てきました。

「K先輩は、部活がんばってます?」

と私が尋ねると、思いも寄らない言葉が返ってきました。

「俺、停学になっちゃってさ〜」

私は驚き、どうして?なんで?と聞き返しました。
K先輩の話によると、学校で喧嘩をして相手を殴ってしまったそうです。
毎日、家から出れずに暇で仕方が無いということでした。
そして、

「うちに、遊びに来ない?」

とK先輩は言いました。
翌日は、ちょうど土曜日でした。
その時点では、私は深く何も考えず、じゃ、明日行きますと言って電話を切りました。
電話を切ってからが大変でした。
K先輩が、喧嘩っ早いというのは、なんとなく知ってはいました。
停学というのは、その当時の私には大きな事件に思えたし、K先輩が落ち込んでいる感じだったのも心配でした。
と、同時に。家に遊びに行く。この事実が、突然、大変なことのような気がしてきました。

なんで、私を呼ぶんだろう?
なんで、私を思い出したんだろう?
どういうつもりなんだろう?

グルグルと色んな事が頭を駆け巡り、もしかして、もしかして・・・
と、期待と不安が入り混じった気分で、眠れぬ夜を過ごし、上の空で授業を受け、放課後になりました。
友達にK先輩の家に行くと話すと、「うわぁ〜、危険危険っ」とはやし立てられました。
でも、心のどこかで、そういう事もあるかもと思うと同時に、いや、決してそんな事はないよなぁ。。。と妙な確信がありました。

途中の駅で友達と別れ、バスに乗り、自分の家を通り過ぎ、K先輩の家の側のバス停に着きました。
その時になって初めて、同じバスに同じ中学出身で同じ高校の先輩である、K先輩の同級生の女の先輩が乗っていた事に気付きました。
きっと、その先輩は私が乗っていたことに、最初から気付いていたのでしょうが、私は周りを見る余裕などなかったのです。
その先輩にしてみたら、私が自分の家を通り越し、このバス停で降りる事は、かなり不自然だったと思います。
勿論、その先輩も、私とK先輩が中学の時に付き合っていた事を知っています。

何故か、私はK先輩の家に行く事が後ろめたいような感覚で、知られてはいけない気がしていました。
無駄な事と思いつつも、その女の先輩が降りて、少し距離があくまでバス停で待ちました。
でも、運悪く、その先輩は、K先輩の家の近所で、私はまるで尾行をする探偵のような状態で、その先輩の後ろを隠れながら歩いて行きました。

その先輩が、角を曲がるのを確認すると、私は急いでK先輩の家の階段を上がりました。
その時になって、急激に体全体が震えてきてしまい、なかなか呼び鈴を押すことが出来ませんでした。

↑投票ボタンです。宜しかったら押してやってください。

..................................................................................................................................................................





バイト
....................................................................................................................................................................
K先輩から、その数日後、一度だけ電話をもらいました。
やはり親が側に居たので、あまり会話は出来ませんでしたが。

部活を辞め、淡々とした毎日が過ぎて行きました。
梅雨の頃、友達のRがバイトを始めるといい出しました。
私の通う高校は厳しく、勿論、バイトは禁止でした。
勿論、親に言えるはずもなく。でも、私はRと一緒にバイトを始める事にしました。

バイト先は、学校から一駅先の駅前のレストランでした。
初めて銀行口座を作り、短いワンピースの制服を着て、私のバイト生活が始まりました。
バイトの初日の事でした。
クラスメイトに頼まれて、その子の中学時代の男友達に会う事になりました。
数人で行ったのですが、どうやら私を好みに思う男子は居なかったらしく、ただ詰まらない思いをしたのだけ、覚えています。

バイト先には、高校生の私たち以外に、20代の男性と女性。19歳の女性が居ました。
今思い出しても、その二人の女性はとても綺麗な人たちでした。
20代の男性は、Aさんといい、多分、22歳ぐらいだったのでしょう。大学生でした。
それまで、大学生などに無縁で過ごしてきた私には、やはり大人に思えました。
バイトは、楽しいものでした。
覚える事も沢山あり、時々店長に怒られもしましたが。
何より、自分で自由に使えるお金が入るということが、その頃の私には何よりでした。

学校の方では、修学旅行がありました。
その頃、私はAちゃんとIちゃんと3人で行動する事が多く、修学旅行でも一緒でした。
その二人プラス、数人のグループにいつの間にか私は入っていました。

バイトも楽しく学校も友達に囲まれ、K先輩のことは、半ば忘れていきました。

..................................................................................................................................................................


 < 過去  INDEX  未来 >


「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

My追加