さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2003年05月30日(金) にゃん氏物語 花宴06(はなのえん完)

光にゃん氏訳 源氏物語 花宴06

中央の寝殿に女一の宮 女三の宮が住んでいる
そこの東の妻戸の口に源氏は寄りかかって座っている
藤の花はこの縁側と東の対の間の庭に咲いていて
格子は全て上げ渡されていた

御簾の端には女房たちが並んで座っている その人達の外に出ている
袖口の重なりようは大げさで踏歌の夜の見物席のようだ
今日みたいな日には似つかわしくないと思い 趣味のいい藤壺周辺を
源氏は懐かしく思い出さずにはいられない

『苦しいのに無理に勧められたお酒で私は困っています
すみません こちらの宮様にはかばってもらう縁があると思います』
源氏はそう言って 妻戸の御簾の下から身体を中に入れた

「困ります 貴方様のような高貴な方が親類の縁などと言うのは
身分の低い人が高貴な縁者を頼る事ならあるでしょうが」
と言う女の樣子は 重々しくはないが 普通の若い女房とは違い
上品で美しい樣子を 源氏ははっきりと感じた

薫物はとても煙く薫かれていて 室内の衣擦れの音は 華やかである
奥ゆかしい雰囲気は欠けていて現代風の派手な贅沢なお邸だ
高貴な令嬢たちが見物のために出てきて妻戸は占有されたのだろう
貴女がこんな所に出ていることはよくないが若い源氏は面白く思う
この中の誰が恋人なのだろうと源氏はどきどきした

『扇を取られて辛き目を見る』
(高麗人に帯を取られてからき目を見る…をもじって)
と源氏は冗談を言って御簾に近寄って座った

「変わった高麗人ですね」と答える一人は無関係な人だろう
何も返事はしないで 時々聞える溜息をついている人のほうに
源氏は寄りかかって 几帳ごしに手を捉えると

『あづさ弓いるさの山にまどふかなほの見し月の影や見ゆると
(あづさ弓)入る山の方角で迷っています
ほのかに見た月の光を また見ることができるかと
なぜでしょう』
と源氏は当てずっぽうに言うと その人も感情を押さえきれなくて

心いる方なりませば弓張の月なき空に迷はましやは
本当に心に夢中な方がいるならば
弓張り月が空に出ていなくても心迷うことがあるでしょうか
と答えた
弘徽殿の月夜に聞いた声と同じであった
源氏はとても嬉しいのだが複雑な気持ちである


2003年05月28日(水) にゃん氏物語 花宴05

光にゃん氏訳 源氏物語 花宴05

有明の君は儚い短い夢のようなあの夜を思い出しながら
物思いに沈んで暮している 
東宮の後宮に四月頃に入ると親たちが決めていたので悩んでいた

源氏もまったく手がかりがないわけでもないが 右大臣家の何女かも
わからず 自分に特に好ましく思わない弘徽殿の女御一族に恋人を
求めているのも世間体が悪く ためらって思い悩んでいた

三月二十日過ぎに右大臣は自邸で弓の勝負を行い 親王方や高官を多く
招待した 藤花の宴も引き続き同じ日に行われる
もう桜の花の盛りは過ぎていたが「ほかの散りなんあとに咲かまし」
他の桜が散ってしまった後に咲いて…と教えられていたのか
遅咲きで二本だけよく咲いていた

新築して姫君たちの裳着の儀式に用いて美しく飾られた客殿があった
派手好みの家柄のようですべて近代風にしてある
右大臣は源氏の君に宮中で会った時に案内を伝えてあったが
源氏の姿が見えないので残念に思い 息子の四位少将を迎えに出した

わが宿の花しなべての色ならば何かはさらに君を待たまし
わが家の花が平凡な色ならば何で貴方をお待ちしていましょうか

右大臣から源氏に贈った歌である 源氏は宮中にいて帝に申し上げる
得意顔だね と帝は笑って「使いまでよこしたのだから早く行って
あげたらよい 孫娘たちのために将来力になってほしいだろうから」
などと仰せられる

特に着飾って たいそう日が暮れた頃にようやく源氏は出かけた
桜色の唐錦の直衣 赤紫の下襲の裾をとても長く引いて…
他の人は皆 正装の袍を着て出席しているところへ 艶な宮様姿の
源氏が 皆に敬意を持って迎えられる樣子は格別である
桜の花の美しさもこの時は魅力が薄らいでしまった
音楽遊びも趣深く行われて終り 夜が少しふけた頃に源氏は
たいそう酔って苦しそうに見せかけて そっと席を立った


2003年05月20日(火) にゃん氏物語 花宴04

光にゃん氏訳 源氏物語 花宴04

次の朝 源氏は左大臣家へ久しく行ってないなと思うのと 二条の院の
少女も気がかりなので慰めておこうと自邸に向かった
久しぶりに見たその瞬間でも若紫が美しく成長したのを感じた
魅力的で愛嬌があって格別な貴女らしさを多く備えている
自分の理想通りに育てようとする源氏の好みに合っていくようである
ただ男による教育なので男馴れしているようなのが源氏は心配なのです

ここ数日の宮中の事を話したり琴を教えたりして 日が暮れると源氏は
出かけていく それを紫の女王は物足りないと思っても このごろは
よく躾られていて無理に引き留めようとしない

左大臣家の源氏の夫人は いつものようにすぐは出てこない
いつまでも一人で手持ちぶたさなので源氏は寂しくて琴をかき鳴らし
『やはらかに寝る夜はなくて』と歌っていた

左大臣が来て花の宴が面白かったことなど話しをする
「私はこの年になるまで四代の天子を見てきましたが 今回のように
よい詩がたくさんあったり 音楽の才人が多くそろっていて
こんなに寿命が延びる思いは初めてです
これは 今が専門家の名人が多い事によるものでしょう
あなたなどは師匠の人選もよろしくて あの見事な出来なのでしょう
私達 老人までも舞って出たい気持ちでした」

『特別今回のために稽古などはしませんでした ただお役目のため
よい楽人などに参考になることを教えてもらっただけです
何よりも頭中将の柳花苑が見事でした 本当に後世の例に伝わるに
間違いなく拝見しました その上にもしあなたが一手でも舞いを
見せてくださったら歴史に残る御代の誇りになったでしょう』
と源氏は答えた
弁や中将なども出てきて高欄に背中を押しつけながら各々が熱心に
楽器の音調を合わせて合奏して 素晴らしいものでした


2003年05月04日(日) にゃん氏物語 花宴03

光にゃん氏訳 源氏物語 花宴03

源氏の桐壺には女房が大勢つかえていたから主人が帰ってきた音に
目を覚ました者もいた しかしこのような忍び歩きには興味を
持たないで「いつもよく続くものだ」という意味で仲間同士
ひじを突き合いながら寝たふりをしていた
源氏は寝室に入って横になるが眠れない

美しい感じの人だったなあ 女御の妹君であろう うぶだったから
五の君か六の君であろう 太宰の帥親王の夫人や頭中将が愛さない
四の君などは美人だと聞いていたから その人達であったら面白い
恋の経験になるだろう だが六の君は東宮の後宮に入れるはずだと
聞いているので その人だったら気の毒である

幾人もいる右大臣の娘の誰であるか見つけるのは難しい
あのまま終りにするつもりには思っていないのだが なぜ手紙を
通わす方法について教えずにきたのだろう
こんな あれこれ気にかかるのも心が惹かれている証拠なのであろう
思いがけないことが行われた事を考えると 藤壺にはあんな隙はない
昨夜の弘徽殿の隙があるのを比較して 弘徽殿の女御に少し軽蔑する

この日は後宴の催しであった 終日 源氏は忙しかった
十三弦の筝の琴の役をこの日は務めた 昨日の宴より穏やかな樣子に
滿ちていて 中宮の藤壺は夜明けの時刻に南殿に上がった
弘徽殿の有明の月に別れた女はもう御所を退出してしまっただろうか
などと源氏の心は もうそちらの方に飛んでいた

あらかじめ手抜かりのない良清や惟光に命じて見張らせておいたところ
源氏が御前から宿直所のほうに戻ると
「今 北の御門のほうに早くから来ていた車が退出するところ
それぞれの実家の人達がいた中で 四位少将 右中弁などが急いで
出てきて送っていくのが弘徽殿の実家の方々だと見受けます 女房だけ
でなく立派な方が乗っているのがよくわかり 三台ありました」
と報告するので 源氏は胸がどきどきした どうやって どの君と
確かめたらよいか 父の右大臣にその事を知られ婿として大げさに
扱われていいものだろうか 相手の性格も何もわからないうちに
結婚してしまうのは厄介だ そうかといってこのままでは耐えられない
どうすればいいのだろうと源氏は物思いにふけり寝ていた

そんな時 姫君がどんなに寂しがっているだろう 何日も帰ってない
のだから ふさぎこんでいるだろうか などといじらしく思いやる
証拠として交換した扇は桜色の模様を三重にしたもので 地の濃い
ところに霞んだ月が描いてあり 水の流れに月影を映してある
よくある図柄だが貴女の手に使いならされたなごりがある
「草の原をば」と読んだ時の美しい姿が思いおこされる

世に知らぬここちこそすれ有明の月の行方を空にまがへて
かつて経験のないほど心は乱れている 有明の月の女の行方を
空に見失って… と源氏は扇に書いておいた


さくら猫にゃん 今日のはどう?

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