さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2003年04月29日(火) にゃん氏物語 花宴02

光にゃん氏訳 源氏物語 花宴02

上達部:かんだちめ:大臣 大納言 中納言 参議 三位以上の貴族は
皆 退出し中宮と東宮は御殿に帰ったので 静かになった
月が上ってきて 月明かりが差して 春の夜の御所の中はとても美しい
ほろ酔いの源氏はこのまま宿直所へ入るのが名残惜しかった
殿上の役人達も寝んでいる夜更けだから 中宮に近づく機会があればと
源氏は藤壺の御殿を人目を忍んで伺うが 呼び出す女房の戸口も閉じて
いた 溜息しながらも心が滿たされないので弘徽殿の細殿に立ち寄る
三の口が開いていた

弘徽殿の女御は宴会の後 宿直へ上がっていたので 女房達も少ない
感じに思われた 戸口の奧のくるる戸も開いていて人の音もしない
こんな無用心な時に男女の過ちは起こるものだ と思って源氏は縁側に
上がってそっと中を覗いた 女房達は もう皆眠っているのだろう
そこへ若々しい貴女の声で「朧月夜に似る物ぞ無き」と口ずさみ
戸口に出て来る人がいた
源氏は嬉しくなって いきなり袖を捉えた
女は怖がった樣子で「あら嫌です 誰ですか」と言う
源氏は『何も嫌な怖い者ではありませんよ』と言い

深き夜の哀れを知るも入る月のおぼろげならぬ契りとぞ思ふ
趣きの深い春の夜更けの情緒を感じるのも 深く入りこむ月の格別な
前世からのご縁があったものだと思います
と源氏は ささやいて 静かに抱き下ろしてから三の口の戸を閉めた
この不謹慎な者の意外な行動に驚き あきれている樣子は
穏やかで可愛らしく感じられる

震えた声で「ここに知らない人が」と言っていたが
『私は誰からも承知の上なので人を呼んでもどうにもなりませんよ
静かにして お話しをしましょう』
と言った声で源氏の君だと解って 女は少しほっとした
困ったと思っているが冷たく物の情緒を知らない女と思われたくない
源氏は酔いすぎていたので このまま別れるのは残念に思ったせいか
女も若々しく優しくて強情に抵抗する性格でなかったせいなのか
二人は男女の関係になった

可憐な可愛らしさに源氏は惹かれ まもなく夜が明けるのに別れを
促されて源氏は心苦しかった 女はそれ以上に思い悩んでいる
『やはり お名前を言ってください どのようにお手紙を上げたら
いいのでしょうか 貴方もこれっきり終りと思わないでしょう』
と源氏が言うと

うき身世にやがて消えなば尋ねても草の原をば訪はじとや思ふ
つらい我が身がこの世から名前を明かさずに消えてしまったら
貴方は捜して草深い墓所を尋ねようとなさらないのでしょうか
と読む態度は きわめて艶で魅力がある
『ごもっとも 私の言葉は貴方が誰か捜す苦労を惜しんでますね』

いずれぞと露のやどりをわかむ間に小笹が原に風もこそ吹け
どこであるか露のようにはかない貴方の宿を捜し求めているうちに
小笹の原を吹く風が露をはらうように世間の邪魔が入って
貴方とのご縁が無くなってしまうのではないかと心配に思うのです
…私との関係を迷惑に思わないのなら隠すような遠慮はいらない
でしょう もしかして わざと解らなくするのですか
と言い終わらぬうちに女房たちが起き出して 女御を迎えに上がり
下がりする者の樣子が騒がしくなってきたので仕方が無く
扇を証拠のしるしに交換して源氏は室を出た


2003年04月17日(木) にゃん氏物語 花宴01(はなのえん)

光にゃん氏訳 源氏物語 花宴01

二月の二十日すぎに紫宸殿の桜の宴があった 帝の席の左右に中宮と
皇太子の見物席が設置された 弘徽殿の女御は藤壺がこのように中宮に
なっていて 自分より上席にいることを何かにつけても不愉快だった
けれども催し物の見物は見過ごせなくて 参上して東宮席にいた

この日はとても晴れていて青い空や鳥の声の清々しい所に親王たちや
高級官人たちをはじめ詩を作る人々は皆 韻字を戴いて詩を作る
源氏は『春という文字を戴きました」と自分の得た韻字を言った
その声だけで すでに人より優れている
次の順番は頭中将で この順番を晴れがましくも不安に思うがきわめて
無難に落ち着いていて 声の上げ方も堂々として立派に見えた

その他の人は 気おくれしておどおどした態度と声の調子だった
ましてや地下の詩人は 帝も東宮も詩などの学問に通じて批評もできる
事であるし 優れた詩人の官人が多くいた頃なので 恥ずかしくて
広い庭の晴れ舞台に立つことは ちょっとの事でも大儀に思われる
年老いた博士などが みすぼらしい格好なのに場慣れしているのには
同情したり感心したりして 面白い趣きで御覧になっていた

舞楽なども 特に優れた者たちが選ばれていた
春の日長がやっと入日になる頃 春鶯囀(しゅんおうてん)の舞が
興味深く舞われていた
源氏の紅葉賀の青海波が巧妙だったことが自然に思い出される
東宮(春宮)が源氏へ挿し花を与えて しきりに舞いを所望する
源氏は断り難くて ゆっくり袖を返す春鶯囀の一節を舞ったが
誰も真似のできない素晴らしさが その一振りだけで解る
左大臣は恨めしさも忘れて涙を落として見ていた

「頭中将はどうした 早く出て舞わないか」
と仰せがあり 柳花苑という曲を 源氏よりは念入りにこんなことが
あるだろうと予想して稽古をしていたのでしょうか上手に舞った
その褒美に中将は御衣を貰った 花の宴にこんなことは珍しいと人々は
見ていた 高級官人も順番も関係なく皆が舞ったが 暗くなってから
上手かどうかもよくわからない
詩を読み上げるも源氏の作は簡単には終わらなく 句を読み上げる毎に
賛美の声が上がる 博士たちも非常に良い詩だと認めていた

こんな時は光のような源氏の君を父君の帝がおろそかに思うわけはない
中宮は源氏の美貌が目に止まる毎に 東宮春宮の女御がどんな気持ちで
源氏を憎むのか不思議に思い またこのように自分が源氏に感心を
持つのもいけないことだと思った

大かたに花の姿を見ましかばつゆも心のおかれましやは
普通に花のように美しい姿を見るのだったら少しも心を隔てて見る事は
ないでしょうに

こんな歌は誰にも見せない心の中の歌なのにどうして世間に伝わって
いるのでしょう 夜が更けて宴は終わりました


さくら猫にゃん 今日のはどう?

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