さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2002年11月30日(土) にゃん氏物語 夕顔06

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔06

「まだ誰かわかりません 隠れているのが解らないように苦労しています
時々見かける姿はとても美人らしいです  先日 先払いの車が通った時
女童が『右近さん早く 中将さんが通ります』と言うと かなりの女房が
出て『静かに 何故解るの 見てみる』と言って来る 車の人は直衣姿で
随身達もいて あれは誰これは誰と上がる名前は頭中将の者達でした」

『確かな事が その車の主について知りたいものだ』
もしや頭中将が探すことのできない常夏(撫子)の歌の女であろうかと
思めぐらす源氏の顔色を見て惟光は「我々と同じ階級の恋と見せかけ
その中に女主人がいると知ってますが女房相手の恋人として通ってます 
訪ねると女童などがうっかり言い間違えそうになり ごまかして
自分達だけだと取り繕います」と笑って言った
『尼君の お見舞いに行った時に隣を見せてくれ』と源氏は言った
たとえ 仮住まいでも あの五条の家だから下流階級の女だろうが 
その中に面白い女が発見できればと思うのであった

惟光は源氏の機嫌を取ろうと一所懸命であるし 彼自身も物好きなので
苦心の末に源氏を隣の女の所へ通わす段取りをつけた
女が誰か解らないまま 源氏は名も明かさず 思いっきり質素に 車にも
乗らないことが多かった 深く想っていなければできない事だと 惟光は
思い 自分の馬に源氏を乗せ 自分は徒歩でお供した
「女がこの姿を見たら驚くなあ」とこぼすが お供も夕顔の花折りの随身
それと源氏の召使で顔をあまり知られていない子侍だけにした それから
知られては困るから隣の家にも寄らない 女の方でも不思議で 手紙の
使いに人をつけたり 夜明けの帰りに道をつけさせたが まかれてしまう
そうしても源氏は十分に惹かれ 一時的な関係に終わらせたくなかった
不名誉だと自尊心に悩みながら五条通いをする

真面目な人も恋愛では過ちを犯す 源氏は女の事で世間の非難を浴びる
ことはなかったのに 夕顔の花では別だった 別れ行く間も昼間も
逢いたくて悩む 自分自身で気が違っている それほど価値があるかと
反省もする 驚くほど落ちついて上品でおっとりした性格で深い考えは
持たない 若々しい一方で男女の仲を知らない訳でもない 貴婦人では
ない どこが惹きつけるのか不思議だった わざわざ普段の源氏に用が
ない狩衣を着て変装した源氏は顔も全然見せない ずっと夜更けに人が
寝静まった後に行ったり 夜のうちに帰ったりするから 女の方では昔の
三輪の神話の変化の者のようで気味が悪かったが どんな男か手触りで
解るので 若い今風の男とだけ思う やはり好色な隣の五位が手引き
したと惟光を疑うが 何食わぬ顔で相変わらず色恋に夢中なので
どういうことかと 女の方でも普通の恋とは違う物思いで苦しんでいた


2002年11月29日(金) にゃん氏物語 夕顔05

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔05

霧が深く降りた朝帰りを急かされて 眠そうに嘆息をして出ていく 貴女の
女房の中将が格子を一間ほど上げて 貴女に見せようと几帳を引き開けた
貴女は頭を上げて外を見ていた
いろいろ咲いている植え込みの花に心引かれ 立ち止まりながら源氏は
歩いて行く 源氏の姿は非常に美しい 廊の方に行くとき中将がお供した
この時期らしい 薄紫の薄物の裳を綺麗に結んだ腰つきが艶であった
振り返って曲がり角の高欄に ちょっと中将を座らせた 主従の礼儀を
わきまえた態度も額髪のかかり具合の美しさも優れた 優美な中将である

『咲く花に移るてふ名はつつめども折らで過ぎうき今朝の朝顔 どうする?』
(咲く花に心変わりしてしまったという噂は慎まなければならないけれど
 折らないで 行き過ぎる事を受け入れられない 今朝の朝顔 どうする?)
こう行って源氏は女の手を取った 女は馴れた様子で

『朝霧の晴れ間も待たぬけしきにて花に心をとめぬとぞ見る』
(朝霧の晴れる間も待たないでお帰りになる様子なので 朝顔の花には
 心を止めていないように見えます)と言う
源氏の焦点をはずして 主人の侍女としての挨拶をした
美しい童侍の格好をした姿のいい童女が 差しぬきの袴を露で濡らしながら
花の中に入って行って朝顔の花を持って来る様子など 秋の庭は絵にしたい
ほどの趣がある

源氏を遠くから垣間見ただけでも 美しさに心奪われない人はいない
物の趣を理解しない山男も 休み場所には桜の樹の下を選ぶのだから
身分のによっては 可愛い娘を源氏の女房にさせたいと思ったり 相応の
妹を持つ兄が 源氏の召使にでもさえ させたいと皆思った
何かに付け 優しい言葉をかけてもらえる女房たち この中将のような女は
鵜呑みに この幸福を思わない 情人になろうなどは思いもよらず
女主人の所へ毎日来てくれたら どんなに嬉しいだろうと思うのである

それから あの惟光の管理している五条の女の家を探るについて
惟光は色々材料を得てきた


2002年11月28日(木) にゃん氏物語 夕顔04

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔04

空蝉の酷い冷たさを普通の女心でないと思うから考えるので もし思い通り
になる女だったら気の毒な過ちをしたと もう過去の事にしてしまってる
しかし 強く避けられるので反抗的になる こんなふうに考えながら源氏は
彼女の事を気にならない時はない これまで 空蝉クラスの女が源氏の気を
引くことはなかったが あの雨夜の品定めを聞いて全ての女に興味を持った

疑いもなく待っているあの娘を可哀相だと思わない事もないが 心乱さない
空蝉に知られるのが恥ずかしくて 望みがないと解るまでと そののままに
しておいた そのうちに伊予介が上京して参上した 長旅で色黒くやつれて
野暮だったけど 家柄も良く 顔立ちも年をとっても整っていて上品である
任地の話をし始めたので伊予の温泉の話も聞きたかったが どうもきまりが
悪くて 源氏は罪の意識を感じる 真面目な男と向かい合ってやましい事を
思うのはよくないことだ 三角関係をつくるのが愚かであることを佐馬守が
言ったのは正しいと思うと 源氏は 自分に空蝉が冷たいのは恨めしいが
夫のためには尊敬する態度だと思うようになった

伊予介が娘を結婚させて 妻を同伴して行ってしまうという事は 源氏には
無関心でいられない もう一度逢いたいと子君に相談したが そんな機会は
相手が同意していても難しいのに 空蝉が源氏との恋を不釣合いと思い
みっともない事はしようとはせず 源氏の思い通りにはいかないのです
空蝉はそれでも源氏から忘れ去ってしまわれる事も悲しいので おりおりの
手紙の返事などに優しい心を見せていた なにげない書き言葉に可憐な心が
込められていたり芸術的な文章を書いたり 源氏の心を惹くものがあるから
冷たく恨めしい人であり 忘れられない人になっていた 
あの娘の方は結婚しても思い通りになる女だと思っていたから噂を聞いても
何とも思わなかった
秋になった 源氏は初恋の物思いにふけって左大臣家に通うのも途絶えがち
なので恨めしがられた 六条の貴女も恋し始めた頃よりも熱を上げる事が
できなかった
貴女はものを深く思う性格でした 源氏より八つ上の二十五で 不釣合い
なので いつすぐに愛されなくなる運命と訪れのない夜に悩む事が多かった


2002年11月27日(水) にゃん氏物語 夕顔03

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔03

源氏の恋人の六条の貴女の邸は大きく庭なども世間とは別格でした
貴女も別格で もう夕顔を思い出す余裕はなかった 早朝は寝過ごして 
日が差し始めた頃帰る源氏の姿は やはり世間に騒がれる位の美しさでした

今朝も五条の蔀風の門の前を通る 前から通り道だが あのちょっとした事に
興味を持ってから行き来のたびにその家が源氏の目につく

数日後 惟光が参上した「病人がひどく衰弱しているから 手が離せません」
と挨拶した後 源氏の君へ近づき 惟光朝臣(これみつあそん)は言った
「尋ねられた後 隣の事を良く知っている者を呼んで聞いてみたのですが
はっきりしないのです 五月頃からこっそり来て住んでいる人がいるみたい
ですが 誰なのか家の者にもわからないようにしています 時々家の間の
垣根から覗いてみると あの家には若い女の人たちがいるらしき影が見える
主人がいなければつけない裳を 言い訳程度でもつけているので 女主人が
いることに間違いないです 昨日夕日が差し込んでいる時に座って手紙を
書いている女の顔がとても美しかった 物思いがあるようで 女房の中には
泣いているものもいました」 源氏は微笑み 詳しく知りたいようである

軽々しい事はできない身分だが この若さと美しさを持った人が恋愛に興味を
もたないなどとは他人が見ても物足りない 恋愛する価値がない我々でも
女の事では好奇心があるのだからと惟光は主人を眺めていた 惟光は言った
「その辺から隣の秘密が解るのではと 機会を見て隣の女に手紙をやりました
すぐに書きなれた達筆で返事が来ました できる良い若い女房がいるのです」
『なおもどんどん手紙を出せ それがいい 正体が解らないと気がすまない』
と源氏が言う 家は下流の下と品定めで言われる所だが その中から以外に
良い女が見つかればいいなあと 源氏は思うのである


2002年11月26日(火) にゃん氏物語 夕顔02

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔02

できの悪い子でも乳母の関係で可愛がってる子なら非常に立派で全て良く
見えるのだから それが誰よりもできのいい源氏の君であれば誇りに思い
自分自身までも普通の者ではない誇りを持っている彼女なので 源氏から
こんな言葉を聞いて ただただ嬉し泣きばかりしていた
息子や娘は母の態度をみっともないと思い 尼になったのにこの世の未練を
お見せするようなものだと ひじを突いたり目配せをし合う 源氏は憐れみ

『母や祖母を早く亡くした私に 世話する人は沢山いるが 私が一番親しく
思ったのは貴方です 大人になってからは いつも一緒にいることができず
思う時にすぐ訪ねることはできないが 今でも長く会わないでいると心細い
ほどですから 生死の別れがなければいいと昔の人が言うのを私も思う』
しみじみ話し袖で涙を拭く美しい源氏を見て こんな人の乳母であった母も
良い前世の縁を持っていたと さっきは批判がましい子供達も母に同情した
更に祈祷を頼むことなどを命じて 帰ろうとする時に惟光に蝋燭をつけさせ
さっき夕顔の花を載せて来た扇を見た 使い馴らしたよい薫き物の香がする
扇に 綺麗な字で歌が書かれている

『心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花』
(当てずっぽうに貴方様と思う 白露の玉の光を加えて美しい夕顔の花は)
誰か解らないような散らし書きの字が上品に見える 意外なことなので源氏は
風流遊戯をしかけた女に興味を持った 惟光に『この隣は誰が住んでいるか
聞いているか』と言うと 惟光は主人の例の好色癖が出てきたと思ったので
「この五 六日母の家にいますが 病気の世話で隣のことは聞いてません」
と冷淡に答えると源氏は『面白くないと思ってるだろう でもこの扇が私の
興味を惹く この辺に詳しい人を呼んで聞いてこい』と言う 

入って行き隣の番人と会った惟光は「地方庁の介の名を頂いてる人の家です
主人は田舎に行っていて 妻は若く風流好きで 女房勤めの姉妹たちがよく
出入りすると言っています 詳しい事は下人でよくわからないのでしょう」
と言った それでは女房をしている女達だろうと源氏は解釈し いい気で
物馴れた詠みかけをしかけたものだと思い 価値もない歌だが自分を
光源氏と見て詠んだ歌に返歌しなければいけないなと思った 
というのは女性に惹かれやすい性格だからである 懐紙に別人の自体で書く

『寄りてこそそれかとも見め黄昏にほのぼの見つる花の夕顔』
(もっと近くによって誰なのか はっきり見たらどうですか
                 黄昏時にそれとなく見えた花の夕顔を)
花折りの随身に持たせた 家の人は源氏を知らないがそれらしく思い贈った
歌に返事がなくきまりが悪いなと思ってた そこへわざわざ使いに返歌を
持たせてくれたのでこれに返事をしなければと皆で言い合ってたようだが
身分をわきまえないやり方に反感をもった随身は渡してすぐに帰ってきた

前駆の松明は仄かな明かりで源氏はひっそり出る 乳母の家窓は閉まってた
下ろした戸の隙間から 蛍よりも微かな灯火の光が見えて 哀れである


2002年11月25日(月) にゃん氏物語 夕顔01(ゆうがお)

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔01

源氏が六条の女の所に通っていた頃 御所から行く途中にある 病気で尼に
なった大弐の乳母を尋ね五条辺りの家へ来た 鍵を開ける乳母の息子の
惟光が来るまで質素なその辺りを眺めると 隣の家に外囲いは新しい檜垣で
前面は上げ格子を四 五間ずっと上げ渡した高窓で新しい白いすだれを掛け
そこから若い綺麗な感じの額つきを並べて 女数人が外を見ているのを見た
高い窓から顔が見えるその人たちは非常に背が高いと思われる

どんな身分の者だろう 風変わりな家だと源氏は思った
今日は車も地味で目立たなく 人払いの声も立てさせてないから 
源氏は自分が誰か解からないだろうと気楽に思い 家を深く覘こうとした
門の戸も上げ下げできる蔀(しとみ)風で上げられていて 家の全部が見える
簡単なものでした 哀れに思うが 仮の世の中だから 宮も藁屋も同じだ
というような内容の歌を思い出して我々の住まいも同じことだと思った

端隠しのように青々とした蔓草がのびのびと這っていて それの白い花だけ
その辺りの何よりも嬉しそうな顔で笑っていた その白い花は何の花か歌を
口ずさぶと源氏につけられた近衛の随身がひざまずき「あの白く咲くのは
夕顔です 人の名のようで人並みに こんな卑しい家の垣根に咲くのです
言葉通り貧しげな小さい家が立ち並ぶ通りのあちらこちらの家で あるいは
倒れそうになった家の軒にも この花が咲いていた

『気の毒な運命の花 一本折ってきて』と源氏が言うと蔀風の門内に入り
随身は花を折る 少し洒落た作りの横戸口に黄色の生絹の袴を長めにはいた
愛らしい童女が来て 随身を招き白い扇を色付くほど薫き燻らした物を渡す
「これへ載せてあげなさい 手で提げては不恰好な花ですから」
随身は夕顔の花を 丁度鍵をあけにきた惟光の手から源氏に渡してもらった

「鍵の置き場所がわからなくて大変失礼しました 誰か解るような分別を
持たない人たちが住んでいる所ですが 見苦しい通りにお待たせしました」
惟光は恐縮していた 車を引き入らせ源氏の乳母の家へ下りる 惟光の兄の
阿闍梨(あじゃり)乳母の婿の三河守 娘など皆最近来て このように
源氏自身で見舞いに来てくれたのを非常にありがたがる 尼も起き上がって

「もう死んでいい身ですが 未練があるのは貴方様にお目にかかる事です
尼になり功徳で病気が楽になり 貴方様にもお目にかかれたのですから
もう 阿弥陀様のお迎えも快く待っていられます」と言い弱々しく泣いた
『長く回復しない病気を心配している内に 尼になってしまって残念です
長生きして私の出世を見てください そのあとで死ねば 九品蓮台の最上位に
座れるでしょう(極楽浄土に生まれ変わり九階級の最上位の蓮の台に座る)
この世に少しでも未練を残すのはよくないから』源氏は涙ぐんで言った


2002年11月24日(日) にゃん氏物語 空蝉04(うつせみ完)

光にゃん氏訳 源氏物語 空蝉04

源氏は二条の院に帰った 源氏は逃げられてしまった今夜の話をして
やはり駄目だと言い 恋人が恨めしいようだ 子君は気の毒で何も言えない
『姉さんは私をよほど嫌っている そんな自分が嫌になった そうだろう
せめて話ぐらいしてくれてもいいのに 私は伊予介より つまらない男だ』
恨めしくてそう言う そして持って来た薄衣を寝床に入れて寝た
子君を側に寝させて 恨めしい事も 可愛く思う事も言っていた
『お前は可愛いけれど 恨めしい人の弟だから いつまでも可愛がって
あげられるかどうか』源氏が真面目に言うので 子君はしおれていた

しばらく横になっていたが源氏は寝られない 起きるとすぐに硯を取り寄せ
手紙らしい手紙ではなく 試し書きのようにして書く

『空蝉の身をかへてける木のもとになほ人柄のなつかしきかな』
(蝉の抜け殻を残して行くように衣を脱ぎ捨てて逃げ去っていった
           貴方ですが なおも人柄が懐かしく思われる)
これを子君は懐にしまった 継娘にも何か言っておきたかったが
いろいろ考えた末に手紙を書いて子君に託すのはやめた
あの薄衣は小袿(こうちぎ)だった 懐かしい気がする匂いが深く
染み込んでいるのを源氏は側から離そうとしなかった

子君が姉の所へ行く 空蝉は待っていたように厳しく小言を言う
「本当に驚いた 私は隠れたけれど 誰がどのように想像するか知れない
こんな幼い浅はかな事ばかりするあなたを軽蔑されると心配する」
源氏と姉の間でつらい立場で小言が多いことを思いながら 歌を出した
こんなことを言いながらも手紙は読んだ 抜け殻として源氏に取られた
小袿が汚い着古しでなかったかなと愛を感じながら 複雑な想いで…
 西の対の君も今朝は恥ずかしい気持ちで帰っていった 誰一人気付かず
ただ一人で物思いにふける 子君が行き来するのを見て胸をおどらすが
手紙は貰えなかった 男の冷たさからとは まだ解からないが陽気な性格
なのに 何となく悲しげである
冷静を装いながら空蝉も源氏の深い思いが感じられるにつれ 結婚する前
であったらなあと かえらぬ運命が悲しいばかりで 源氏の手紙の端に

『うつせみの羽に置く露の木隠れて忍び忍びに濡るる袖かな』
(羽に置いた露が木の間に隠れて見えないようにして
             人目を忍んで 涙にぬれる私の袖です)
と書いていた


2002年11月23日(土) にゃん氏物語 空蝉03

光にゃん氏訳 源氏物語 空蝉03

ようやく目が覚めた女は驚くだけで 儚い心づかいもなく あわてもしない
自分はそんなつもりでない事にしてしまいたかったが 何故こうなったか
後で女が考えると 自分はどうでもいいが 恋しい冷たい人が世間体を
気にしていたので これで秘密を暴露させるのは可哀想だと思った
それで度々 方違へに この家を選んだのは 貴方に近づきたかったから
と言った 少し考えれば継母との関係が分かるだろうが若い娘心には
ませているつもりでも 分からなかった

憎くないが心惹く事もないような冷たさを感じても 源氏の心は無常な人の
恋しさでいっぱいだった どこに隠れて笑っているのだろう こんなに想って
あげるのはめったにないのに冷たいとあざける気になっても やっぱり
恋人が恋しい

しかし 何の疑いも持たない新しい情人も可憐に思われて 源氏は言葉
細やかに将来の約束もした
『世間に認められた仲よりも こうした秘密の仲のほうが恋を深くすると
昔の人も言っています 貴方も私を愛してくださいよ 私は世間への配慮が
ないわけでもなく思い通りにできません 貴方の父や兄が この関係に
好意を持ってくれるかどうか心配しています 忘れずに待っていて下さい』
などと 安っぽい 浮気男みたいな口調で 言っていた
「人に秘密を知られたくないから 手紙を差し上げることもできません」
と女は素直に言う
『皆が怪しむようではいけないが この家の小さい殿上人に手紙を託して
あげましょう 気をつけて下さい 秘密を知られないように』と言い置いて
恋人が脱ぎ捨てたらしい薄衣を手に持って出た 隣の室に寝てる子君を
起すと 源氏が気がかりだったのですぐに起きた 妻戸を開けると老女が
「誰ですか」とおおげさに言う 厄介だなと思いながら子君は「私です」と言う
「こんな夜中にどこに行く」お節介な老女が近づいてくる「ちょっと外へ出る」
と言いながら源氏を押し出した 明け方近くの明るい月光が人影を写す
「もう一人はどなたかな…民部さんでしょう 結構な 背丈ですね」背高女を
笑う 老女は子君が民部と一緒に行くと思う「今に貴方も高い背丈になる」
と言いながら外に出て源氏のそばへ来た「貴方は 今夜は居間にいたの
私はお腹の具合が悪くて部屋で休んでいたのに人不足で来いと呼ばれたが
どうも我慢ができない…ああ 痛い 痛い また後で」と愚痴を言って去る
やっと 源氏はそこを離れた 源氏は冒険はできないと懲りていた


2002年11月22日(金) にゃん氏物語 空蝉02

光にゃん氏訳 源氏物語 空蝉02

顔は部分的にはそうではないが全体的な姿はよくて 目を引かれる
明るくて愛嬌がある顔立ちで性格も明るく得意そうに はしゃぎ笑う所は
美人である 軽率だと思いながら源氏はこういう人もいいなと思った
源氏が知っているのは 皆 行儀よく つつましくしてる姿で こうした
だらしない女の姿を見るのは初めてなので もう少し見ていたかったが
子君が戻って来そうだったので源氏も戻ると 子君が来た 済まなそうに
「普段来ない人が来て 姉のそばに行けないのです」
『そして今晩も 私を帰そうとするのか 逢えないのは来た甲斐がない』
「それはないでしょう あの人が帰ったら 私が何とかします」
子供だけど賢いので源氏はうまくいくかもしれないと思った

碁の勝負が終わったらしく 人が分かれ去っていく様子だった
源氏は『もう皆 寝るのだろう うまくやってくれよ』と言った
子君も姉の気持ちは動かせそうになく 姉に言わず寝室に導くつもりだ
『紀伊守の妹もいるのか ちょっと見させてくれ』子君は無理だと言った
源氏はそのとおりだが見たとは気の毒で言わず 夜に待つ苦痛だけ言う
子君は横の妻戸を開けさせ中に入り しばらく狸寝入りした後 妻戸の
前の室に源氏を引き入れた 人目について恥をかく不安を覚えながら
中へ入っていこうとする 皆が寝静まって衣ずれの音も響く

彼女は最近 源氏から手紙が来なくて安心だったが 今もあの夜の
ことを思い眠れない 昼は物思い 夜は寝覚めがちであった
碁の相手の娘は 今夜はこちらに泊まるといって いまどきの子らしい
話題をおしゃべりしながら寝てしまった 娘はよく寝ていた
源氏がこの室に近づいて 衣服の持つ香が流れてくるのに気付き
彼女は薄衣の単衣を一つ着ただけで そっと抜け出した

源氏は女が一人で寝ていたので安心した 上にかけた着物をよけて
寄って行った時 前より大柄な気がしても なお恋人だと思っていた
あまりよく目を覚まさないことなども不審で やっと人違いだと解かった
あきれて悔しかったが 人違いといって出て行くのも怪しがられる
恋人が隠れているところへ行っても これほど逃げる人が逢うはずもなく
軽蔑されるだけだという気がして 継娘なら今夜の情人にしてもよい
という心になった 源氏の恋人への あれほどの恋の深さも疑われる


2002年11月21日(木) にゃん氏物語 空蝉01(うつせみ)

光にゃん氏訳 源氏物語 空蝉01

眠れない源氏は『私は こんなに冷たくされたことはなく今晩初めて人生は
悲しいものだと知った 恥ずかしくて生きていけない気がする』と言う
子君は聞いて悲しくて涙さえも零した 源氏は子君をかわいいと思った
子君の髪は彼女の髪に似ていると思った 彼女は無理っぽいので 言づて
しないで翌朝早く帰っていった 子君は気の毒で物足りないと思う

彼女も大変すまなく思うが もう手紙も来ない 怒ってしまったのだと思い
このまま 自分が忘れられるのは悲しかったが 無理な道理で源氏が
通おうとするのは続いて欲しくない だからこれで終わりならばそれでいい
と理性では解かっているのだけれども 物思いにふけっていた

源氏はこのままやめられず あせって苛立っていた
『あんな恨めしい人はいないと思い 忘れようとも どうにもできず苦しい
もう一度逢える機会を作って欲しい』子君は源氏に必要にされて嬉しかった

子供心に機会を狙っていて 紀伊守が任地に行き 女家族ばかりの日に
夕闇にまぎれて 自分の車に源氏を乗せて家に行く 東側の妻戸の外に
源氏を立たせて 子君は南の隅の座敷の外から 勢いよく戸を叩き開ける
女房たちは「そんなことをしたら皆から座敷が見られます」と小言を言う
『どうして こんなに暑いのに早く格子を下ろしたの?』と子君が聞くと
「お昼から 西の対の御方が来て碁を打っているのです」と女房が言う

源氏は 恋人と継娘が碁盤に向かい合っているのを覗いて見たいので
中に入って妻戸と御簾の間に立った 子君の開けさせた格子が
そのままで夕明かりがさしこみ 西向にずっと向こうの座敷まで見えた
屏風は畳まれ 几帳も暑さのせいで棹に掛けられている

灯火が人の近くに置かれている 中央の室の中柱に寄り添って座ったのが
恋人だと まず目がいく 紫の濃い綾の単衣襲の上に何かの上着を掛け
頭の形は小さい 小柄な人である 顔は正面からも全部見えないように
注意をしているようでした 痩せた手は ほんの少ししか袖から出ていない
もう一人は東向きなので すっかり見えた 白い薄物の単衣襲に
薄藍色の小袿(こうちぎ)らしいものを引っ掛けて 紅い袴紐の結び目まで
着物の襟がはだけて胸が出ていた とても行儀が悪い 色白で太っていて
頭の形と髪のかかった額つきが美しい 目 口もとが愛嬌あって派手顔だ
髪は多くて 長くないが二つ分けで顔から肩へかかったところが綺麗で
全体的に朗らかな美人に見えた 源氏は だから親が自慢するのだと
興味をもつ 源氏は もう少し落ちついた性格を加えてやりたいとふと思う


2002年11月20日(水) にゃん氏物語 帚木13 (ははきぎ完)

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木13

御所にずっといた頃 源氏は方角の悪い日を選んで出かけ 急に気付いた
ふりをして紀伊守の所に来た 紀伊守りは驚き「庭の草木に水をかけて…」
名誉ですと喜ぶ 源氏は終始そばに置いてる子君を早速呼び出した

彼女にも手紙は出しておいた 彼女は自分に逢おうとしてくれるのは嬉しいが
自分が何も知らない恋人として逢う気にはなれないのだった 
夢だったと思い過ごせる過失を繰り返してはいけないと思った 
妄想で源氏の恋人気取りで待つことはいけないと決めて 子君が出て行くと
「お客様の座敷に近くて失礼になる 私は身体が苦しくて肩腰を叩いて欲しく
遠く離れたところがよい」と渡殿に部屋を持つ中将の女房の部屋へ移る

計画的に来た源氏は家従たちを早く寝かせ 彼女の所に子君を伝言させるが
子君は分からず やっと見つけて源氏に冷たい姉を恨む「こんなことをされて
役たたずと思われる」『なんで子供がここまでするの 子供がこんなことを
頼まれてするのはよくないことですよ』と叱って『気分が悪くて肩腰を揉んで
もらっていると言えばいい 皆があやしがるでしょう ここに来て言うのは』
彼女は心の中では 親が生きていた時なら 源氏を迎えることは幸せだろう
でも どうやっても人妻だから 冷たい態度で押し通そうという気でいた

源氏は頼んだのは子供なので心配に思いながら横になっていたが 駄目だと
小君が言う 彼女のあきれるほどの冷たさに『自分が恥ずかしい』と言った
気の毒そうでしばらく何も言わない そして苦しそうに吐息をし彼女を恨んだ

『帚木の心を知らでその原の道にあやなくまどひぬるかな』
(近づくと消える園原の伝説の帚木のような貴方の心も知らないで 
 園原の道で迷ったことです)今夜の気持ちはどう言えばいいか分からない
そう 子君に伝言した 彼女も眠れなかったので

『数ならぬ伏屋におふる身のうさにあるにもあらず消ゆる帚木』
(取るに足らない 卑しい家の生まれといわれるのがつらくて 
    いるにもいられず 姿の消える帚木 それが私です)と弟に伝言した
子君が源氏に同情して 眠らずの行き来を 彼女は人が怪しむかと気にした
従者はよく眠っていたが源氏は眠れない 他の女にない意思の強さは明確で
恨めしいが 恋しい 『彼女の隠れている所へ連れていってくれないか』
「戸締りされて女房たちが沢山います そんな所へは 勿体無いと思います」
子君は源氏が気の毒でたまらない 『じゃあ お前だけは私を愛してくれ』
源氏は子君をそばに寝せた 若く美しい源氏の君の横に寝ていることで
子供心に非常に嬉しそうで 無常な恋人よりも可愛いいと源氏は思った


2002年11月19日(火) にゃん氏物語 帚木12

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木12

五 六日して 紀伊守が その子を連れてきた 整った顔ではないが
艶な風采で貴族らしかった そばに呼んで源氏は打ち解けて話をした 
子供心に 美しい源氏の恩恵を喜んでいた 姉の事も詳しく源氏は聞く
答えられる事は答えて かしこまっているので 源氏は秘密を言いづらかった
けれども上手にぼかして話すと そんなことがあったの?
とおぼろげに解かり 解かれば解かるほど不思議だが 深い詮索はしない

源氏の手紙を弟が持って来た 彼女は(困り)あきれて涙さえもこぼれてきた
弟がどう思うだろうかと苦しかったが 手紙は読むつもりで きまり悪さを
隠すように 顔を隠すように広げた 手紙は長かった 最後に

『見し夢を逢ふ夜ありやと歎く間に目さへあはでぞ頃も経にける』
(夢見た夜以来 逢う夜があるか歎き 目さえ合わせず眠れない夜を過ごす)
夢見た夜から眠れない夜を過ごしてるので 夢を見ることができないとあった
目もくらむ 美しい字で書かれていたが 涙で目も曇り何も読めなくなって
苦しい思いの運命が さらにつけ加えられた身の上の運命を 思い続けた

翌日 子君(貴族の年少者の愛称)が呼ばれた 子君は姉に返事を催促した
『あのような手紙を もらい見るような人がいませんと 申し上げなさい』
「間違う訳がない ちゃんと言われたので そんな返事はできない」
と言うので 秘密は弟に打ち明けられたのだと思うと 源氏が恨めしい
『そんな大人みたいに言う…断れないならお邸に行かなければいい』
無理を言われて弟は「呼ばれたので 行かないと」と言って そのまま行った

『昨日も一日中お前を待っていたのに…私が愛してもお前は冷たいね』
源氏が恨みを言って子君は顔を赤くする 『返事はどこだ?』
子君はありのまま告げる『おまえは姉さんには弱いね 返事ももらえないで』
また源氏から新しく手紙が渡される
『おまえは知らないけれど私は伊予の老人より先に恋人だったのだ 頼りない
貧弱な男といって 姉さんはあの不恰好な老人を夫に持ち 今も私を知らない
などと言って軽蔑している だけど おまえは私の子でいていればいい 
姉さんが頼りにしている人は 老い先 短いよ』と源氏がでたらめを言うと
子君は そうだったのかと思い その様子を源氏はかわいく思った
源氏は言葉通り子君に親代わりらしい世話をした 姉は終始源氏から貰ったが
返事はしなかった 弟が落し見つかれば不運な恋に泣く 不釣合いな恋である
ほのかに見た源氏は美しく思い出されるが 気持ちを伝えてもしようがない

源氏は彼女が忘れられない 気の毒にも恋しくにも思った 彼女が自分の事で
苦しんでいる様子が目に浮かぶ 本能のまま逢いに行くことも
人目の多い家で困る 自分のためにも彼女のためにもと思い苦しんでいた


2002年11月18日(月) にゃん氏物語 帚木11

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木11

源氏は もうこんな機会も文通することも無理らしいので胸を痛めていた
彼女を行かせようとして また引きとめる 『どう連絡をとればいいだろう
冷淡なあなたへの恨めしさも恋しさも普通でない私が 今夜の事を
いつまでも 泣いて思っていなければならないのですか』

『つれなさを恨みもはてぬしののめにとりあへぬまで驚かすらん』
冷淡さに恨めしい言葉が言い果てない明方に 鶏まで私を急かせ言いたたく
あわただしい気持ちで源氏はささやいた 

彼女は源氏からどんなに熱情的に思われても嬉しくないし 愛情の持てない
伊予の国に愛されていて夢をみているのではないかと考えると恐ろしかった

『身の憂さを歎くにあかで明くる夜はとり重ねても音ぞ泣かれける』
(自分がつらい事を歎くのに十分でない 次の夜は 
   鶏の鳴き声を 重ねて 泣き声は泣かれてることだ)と彼女は言った

皆が 知らぬ物思いを 心に抱いた源氏だから 自分には ひどく身にしみる
夜明けの風景であった 言づて一つ都合よくできずに 気にしながら帰った

源氏はすぐに眠ることができなかった 再会の難しさの悲しみ だけの自分
それに比べて人妻のあの人は この他にいろいろ精神的苦しみがあるはずと
思いやっていた 優れた女ではないが感じの良さを十分備えた中級品だと
品定めの話を思い出していた

最近はずっと左大臣家に源氏はいた 何も言ってあげず彼女が苦しんでいると
(皆に秘密で逢ったから)自分も苦しんだ果てに源氏は紀伊守を招いた
『自分の手元に この間 見た 中納言の子供をよこしてくれないか 
かわいい子だったからそばで使おう 御所へ出すのも私からしてあげよう』

「結構な事で…あの子の姉に相談してみましょう」彼女の事が引き合いに
だされただけで 源氏の胸は鳴った『その姉さんは君の弟を産んでるの?』
「それはないです 二年ほど前から父の妻になってますが 死んだ親が
望むような結婚じゃないと思うのでしょう 不満らしいです」
『可哀想に 評判の娘だけど 本当に美しいの?(源氏はとぼけて)』
「さあ悪くはないでしょう 年取った息子と若い継母は親しくしないほうが
いいので 私はそれに従って何も詳しい事はわかりません」と紀伊守は答えた


2002年11月17日(日) にゃん氏物語 帚木10

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木10

「突然 そうなったのです 女の運命ほど 儚いものはありません」
『伊予介は大事にするだろう 主君のように思うだろう』
「さあ 私生活の主君でしょうか 好色すぎて 私ども兄弟は不愉快に思う」
『君みたいな現代風な男に伊予介は譲ってくれないでしょう 
あれで歳はとってるがりっぱな風采を持っているから…その人はどこに?』
「皆 下屋のほうに行かせたのですが間に合わなく一部は残っているかと…」
と紀伊守は言った 酔った家従たちは仮寝してしまったが源氏は眠れない

北側の音がする所が 話の女のいる室だろうと襖越しに物音を聞こうとした
弟の声で「どこにいるの?」『私はここで寝ているの お客様はおやすみ?
ここから近くてどんなに困るだろうと思っていたけど安心した』
「廂の間で おやすみになりました 評判のお顔は本当にお美しい方だった」
『昼だったら私も覘くけれど…中将はどこ?今夜は誰かいないと心細い…』

源氏は皆寝静まった頃 掛け金をはずすと襖は開く 反対側は掛ってなかった
女は女房の中将が来たと思った 
『あなたが中将を呼んでいたから私の思いが通じたのだとおもって…』
と源氏の宰相中将は言いかけたが 女は怖くて夢に襲われているようでした
『出来心とあなたは思うだろうが私はずっと前からあなたを思っていたのです
それを聞いて欲しくて機会を待ってた 前世の縁が導くと思ってください』
「人まちがいでいらっしゃるのでしょう」やっと息よりも小さい声で言った
『間違うわけがないじゃないか 恋する人の直感で貴方だと思ってきた…』
と言って片手で抱いて襖の所に来ると 呼ばれていた中将らしき女房が来た
中将は何もかもわかった 心配でならないが異論のはさみようがない
源氏の中将はこの中将をまったく無視していた 初めの座敷に抱いて行って
女をおろして襖をしめ『夜明けにお迎えに来るがいい』と言った

源氏は誠実な調子で心が動くはずと思うほど言っても 女は共鳴しない
「こんな御無理を承ることが現実とは思いません 卑しい私ですが
みさげてると思われる貴方の心持を私は深く恨みます 私達の階級と
貴方さまたちの階級は遠く離れて別のものなのです」
こう言って 強さで自分を征服しようとしている男を憎いと思う様子は源氏を
十分に反省させる力があった 『何故 私が憎いのですか…』源氏が言うと
「運命が私を人妻にしない時に こうした熱情で想われたなら 迷っても
他日に光明もあろうと思うが もう何も駄目です 私には恋も何もいりません
ですから せめてなかったことだと思って しまってください」と言う
悲しみに沈む女を源氏ももっともだと思い 真心から慰めの言葉を発している

鶏の声がして 家従たちも起きて「車の用意をしろ」という命令も下している
「早くお帰りになる必要は少しもないですよ」と言ってるのは紀伊守だった


2002年11月16日(土) にゃん氏物語 帚木09

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木09

やっと天気が晴れた 源氏はこんな風に宮中ばかりいることも左大臣家の
人に気の毒だと思って帰った 
一糸の乱れもみえぬ家柄であるから昨夜の談話者達には気に入るだろう
そう思いながら行儀をくずさぬ打ち解けぬ夫人の事を物足りず 中納言の君
中務(なかつかさ)などの若い女房達と冗談をいうのが楽しみだった
季節は暑苦しい五月雨 彼女達も暑さで部屋着だけの源氏にうっとりしてた

今夜は内裏から二条の院は中神のいる方塞がりで家従の紀伊守の所に泊まる
中神:陰陽道で八方を巡り吉凶禍福を司る神 己酉の日から東西南北に五日
北東 南東 南西 北西に六日ずつ計四十四日間地上で十六日間天上に戻る

庭に通した水の流れなどが地方官級の家としては凝ったものである 
わざと田舎の家風の柴垣があったりして 庭の植え込みもよくできていた
涼しい風が吹き どこからともなく虫が鳴き 蛍がたくさん飛んでいた
源氏の従者達は渡り廊下の下をくぐって出て来る水の流れに面して酒を飲む

一人で源氏は 前夜の人達が階級を三つに分けた中流であろうと話を思い出す
思いあがった娘と評判の伊予守の娘は紀伊守の妹で 初めから源氏はそれに
興味を持ち 聞き耳を立てていた ある部屋で女達の衣擦れが聞え 若々しく
艶めかしい声だが ひそひそ話をしているのに気付く わざとらしくも感じた
紀伊守が不用意と叱って皆戸がおろされたので室の火影(灯火の光)が
ふすまの隙間から赤くさしていた 低いさざめきは源氏が話題らしい
「早く結婚したから寂しいねえ でも隠れて通う所があるんですって」
源氏ははっとした 自分のあってはならぬ禁断の恋を知って言われていたら
どうだろうと思ったから でも話は普通の事ばかりで全部聞く気はしなかった
式部卿の宮の姫君に朝顔を贈った時の歌などを誰かが得意そうに語っていた

紀伊守は縁側でかしこまっていた 源氏は縁に近い寝床で横になっていた
随行者も寝たようである 紀伊守は愛らしい子供がたくさんいた 
御所の侍童を勤めて知った顔もある 縁側を往来する中には伊予守の子もいた
特別に上品な十二・三の子もいる 源氏はどれが子で どれが弟か尋ねていた
「ただ今通りましたのが亡くなった衛門督の末息子で姉の縁で私の家にいます
将来のため御所の侍童を勤めさせたいが姉の手だけでは難しいのでしょう」
『あの子の姉さんが君の継母になるんだ…不釣合いなお母さんを持ったもの
陛下も 宮仕えにと衛門守が申していた娘はどうなっただろうと いつか
お言葉があった 人生はわからないものだ』源氏が大人ぶった口調で言った


2002年11月15日(金) にゃん氏物語 帚木08

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木08

私どもは下の下の階級と 式部丞(しきぶのじょう)は話をことわっていたが
『こんなことがあります まだ文章生時代 ある賢女の夫になりました
佐馬頭(さまのかみ)の話のように仕事の相談相手や出世方法も教わりました
学問はちょっとした博士なみ その前で恥ずかしくて口が聞けるものでない
ある博士の家へ弟子に通っていた頃 先生に娘が沢山いるので接近したのです
二人の関係を知ると先生は すぐに祝杯を挙げたが 私は乗り気ではなかった
ただ先生への配慮で つながっていた

私をたいへんに愛してくれ よく世話をしてくれ 学問のつく話をしてくれて
今でも師匠の恩をその女にも感じますが そんな細君を持つのは学問の浅い
人や間違いだらけの生活をしている人には たまらないことだと思いました
お二方のような偉い貴公子方には そんなずうずうしい先生細君は必要ない
私どもも それとは反対に 歯がゆい女でも 気に入っていればいい』

これでやめようとした式部丞に続きをさせようと
頭中将は「面白い女じゃないか」と言うと
その気持ちを知ってるくせに…と式部丞は自身を馬鹿にしたふうに言う
『それで女の所に ずっと行かず しばらくぶりに行くと居間の中に入れずに
物越しの席に座らせます 嫌味を言うつもりか?それなら別れるいい
口実になると思いました
賢女なので軽々しく嫉妬せず人情にもよく通じ恨まないですから

彼女は高い声で「月来 風病重きに耐えかね極熱の草薬を服しました
それで私は臭いので ようお目にかかりません 物越しにでも何か御用が
あれば承りましょう」ともっともらしく言うのです ばかばかしくて返事が
できません ただ『承知いたしました』と それで帰ろうとすると
物足りないと思ったのか「この匂いのなくなる頃 お立ち寄りください」
と大きな声でいいます

私は返事しないのは気の毒と思い 薬草の臭気から逃げる方角を考えながら
『ささがにの振舞ひしるき夕暮れにひるま過ぐせと言うがあやなき
何の口実だ』
(蜘蛛の行動を知っていた夕暮れに ひるまにしろと言うのは意味がない事)

と言うか言わないうちに走って行ったのに 人を追いかけさせ返歌をくれた
『逢ふことの夜をし隔てぬ中ならばひるまも何か眩ゆからまし』
(夜に逢うことの隔てがない仲だったら ひるまも何で恥ずかしいだろうか)
と言うのです 歌は早く作れる女なのです』式部丞の話はしずしず終わる

そこまでするかと貴公子達はあきれて『うそだろう』と爪弾きして
式部をいじめた
『もう少しいい話を…』 式部丞は『これ以上の話はない』とさがった

佐馬頭が
『総体的に男も女も 生半可な知識を人に見せようとするから困る…』
と言ってる間も 源氏は心の中でただ一人の恋しい人を想い続けていた
藤壺の宮は 欠点もなく才気も見え過ぎず 立派な貴女だと頷きながら
想い出すと胸が苦しみでいっぱいになった
議論は決着せず筋も立たなくなり朝まで話続けた


2002年11月14日(木) にゃん氏物語 帚木07

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木07

『私が情人にした女は つなぎ程度で 長い関係になろうと思わなかった
のですが馴れるとよいところが見えて心がひかれていきました
たまにしか行かないが 彼女も私を信頼するようになった
愛していれば 恨むこともあろうが 気がとがめる時でも何も追求しない
久しぶりに行っても いつも行くように扱ってくれるので気の毒で将来のこと
について色々約束した 父親がいなく私だけが頼りな様子で可憐な人でした

私は後で聞いたことだが 私の妻の家の方から知人を介して
彼女に酷い事を言った しかし彼女はおとなしいので 酷い事があったと
知りながら手紙も書かず行きもしないでいると
私との間に子供もいましたから精神的に苦しんだあげくに
撫子の花を使いに持たせてよこしました』中将は涙ぐむ
「どんな手紙?」と源氏
『なに 平凡なもの

『山がつの垣は荒るともをりをりに哀れはかけよ撫子の露』
(山中の粗末な家の垣根は荒れても(私にはかまわなくても) 
 何かの折には垣根に咲く撫子の花(子供に)情愛の露を注いでください)
それで行ってみると いつものとおりおとなしいけど 少し物思いの顔をして
秋の荒れた庭をながめ 虫の声と同じように力ない様子が 小説のようでした
『咲きまじる花は何れとわかねどもなほ常夏にしくものぞなき』
(常夏の撫子には及ぶものはない)まず子供より彼女の機嫌を取る

彼女は『打ち払ふ袖も露けき常夏に嵐吹き添う秋も来にけり』
(雑草を取り払う袖も 涙で泣き濡れて露っぽい
     常夏の撫子に嵐がわびしさも添えて吹く 秋が来てしまいました)
とはかなそうに言うが 私を恨む様子もなく うっかり涙をこぼしても
恥ずかしそうに紛らわせてしまうのです 恨めしい理由を自ら考えないので
私は安心して帰って来ました そして しばらく行かないうちに
いなくなってしまった まだ生きていれば相当に苦労をしているでしょう
子供もかわいい子でしたから 探し出したいが手がかりがありません

これは さっきの話では たよりない方にあたるでしょう 
素知らぬ顔をして恨めしく思っていたのに 気付かず愛していたのは
一種の片想い 彼女は男に永遠の愛を求める態度を取らないので確かに
完全な妻にはなれません

佐馬頭の嫉妬深い女も想い出としてはいいでしょうが
今一緒ならばたまらない そのうち嫌になるでしょう
琴の上手な才女も浮気の罪があります
私の話の女も本心を見せられない点に欠点があります 
女に限らず何でもそうですが 良い所だけ取れば どこにでもいる 
吉祥天女(美女のたとえ)を恋人にしようとすれば
仏法くさくなって困るだろう』中将がこう言うと皆笑った

『式部の所には面白い話があるだろう?』中将が聞いた


2002年11月13日(水) にゃん氏物語 帚木06

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木06

『その時分に もう一人情人がいまして 身分は少しいいし 才女らしくて
歌や手紙を書くことや音楽も達者でした 容貌も感じが悪くないので
やきもち焼きは世話女房としておき そこへ通って行ってた頃は
楽しかったです 女が亡くなって しばしば通うようになると きどって
風流女を主張するのが気に入らなくて 一生の妻にする気がなくなりました
十一月ごろのよい月の晩 御所からの帰り ある殿上役人と車に同席しました
その人が今夜待ってる人がいるから寄って行くと言い 私の女もその辺なので
たまには寄って行こうと一緒に車を降りました そしてその男が入った家は
私の女の家なのです 

約束していたらしく男は夢中で 部屋の縁側に腰を掛け気取った風に
月を見上げている 白菊が紫色がかった庭に 紅葉がたくさん降ってくるので
酔いしれるのも無理はない 男は笛を吹きながら合間に
「飛鳥井に宿りはすべし蔭もよし」物陰もいい など歌うといい音の大和琴を
弾いて合わせる 男は面白がり琴を弾く前に行って「紅葉の積もり方を見ると
誰もきていない 貴方の恋人は冷たい人ですね」と 嫌がらせを言います
菊を折って行き

「琴の音も菊もえならぬ宿ながらつれなき人を引きやとめける」
(琴も菊も素晴らしいが 恋人はつれなく無関心で…)
「恋人がきたら うんと弾いてあげなさい」嫌みを言うと女は作り声でふざけ
「こがらしに吹きあはすめる笛の音を引きとどむべき言の葉ぞなき」
(木枯らしに吹き合わせる貴方の笛の音を
             引きとどめる言葉も上手な琴場もありません)
私が覗いて憎らしがってるのも知らず 女は十三弦を派手に弾き出しました
才女だけど きざな感じがしました

遊戯的な恋愛をしている時は 面白おかしく交際してそれでいいのですが
時々通う愛人がこれでは面白くないと思い その晩のことを口実に別れました
この二人を比べると 若い時でさえ後の風流女のほうは信頼できないと思った
これからは 私はさらにそう思うでしょう 

いたいたしい萩の露や 落ちそうな笹の上の霰などにたとえるような
艶な恋人がいいというふうに 貴方達は思うだろうが 
私の歳になれば よくわかりますよ 風流好みな多情な女は気をつけなさい 
三角関係が発覚したとき嫉妬問題を起すよ』
佐馬頭は二人の貴公子に忠言した 中将はいつも通り頷く
少しほほえんだ源氏も佐馬頭の言うことが正しそうだと思うらしい
あるいは 二つとも ばかばかしい話と笑っていたのかもしれない

「私も ばか話を一つしよう」中将が前置きをして語り出した


2002年11月12日(火) にゃん氏物語 帚木05

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木05

『私は何日も手紙一つやらずに勝手な生活をしていたが 加茂の臨時祭りの
調楽が御所であり 夜も更けて みぞれが降っていました
皆が帰り 私の帰る所を考えると 彼女の所しかないのです 
御所の宿直室ではみじめで 恋を遊びにしてる局の女房を尋ねるのも寒いから
どうしてるかな?と雪の中を少しきまりが悪いが こんな晩にわざわざ行けば
彼女の恨みも消えるかな そう思い行くと暗い灯を壁の方に向け 暖かそうな
柔らかい 綿のたくさん入った着物をあぶり籠にかけ 寝室に入る時に上げる
几帳の布も上げて こんな夜は来るだろうと待っていた様子です

(あんな事を言っても待ってると)私は得意になるが 彼女は いません
留守番の女房に聞くと ちょうどこの晩に父親の家に移っていったと…
艶な歌も詠み置かず 気の利いた言葉も残さず 黙って行ってしまったので
つまらなく あんなに嫉妬したのは私に嫌わせるためかと 
あらぬことを考えたのですが 着物も いつもよりちゃんと用意され
親切心が見えるのです

後の事も世話していったのですから 別れる気はないだろうと慢心し
手紙を書きましたが帰る気はないみたいだし 
他の所に隠れる気でもないし 反抗的態度を取ろうとせずに
「前みたいでは我慢できない 態度を入れ換え 一夫一婦の道をとるなら…」
と言うのです そんな事を言っても根負けするだろうから 少し懲らしめて
やろうと 一夫一婦にするとも言わず 話を長引かせているうち精神的苦痛を
味わいながら死んでしまいましたので 自分を責めても責めきれません

家の妻というものは あれくらいの者でなければと今でも想い出されます
風流事でも 真面目な事でも話相手になりましたし 家事は何でもできた
染物の立田姫にも 織姫にもなれた』と言う佐馬頭は亡き妻が恋しそうでした

中将は「機織りの織姫でなく 永遠の夫婦の七夕姫だったらよかったですね
立田姫も重要 男にまずい服を着させる妻はだめです そんな人が早く死ぬの
だから ますます良妻を持つのが難しい」と指を噛んだ女をほめた

佐馬頭は語る『その時分に もう一人の情人がいましてね…』


2002年11月11日(月) にゃん氏物語 帚木04

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木04

『ずっと前に まだつまらぬ役をしていた時 私に一人の愛人がいました
容貌は悪い女でしたから 若い私はこの人だけで 一生を暮らそうと思わなく
物足りないので外に情人もいました
彼女は嫉妬する所が嫌ですが 自分のようなものを どうしてと 
可哀想に思うときもありました
彼女は自分にできないことでも努力するのです 
勝ち気ですが 私の機嫌を損ねないように表に出さず 
容貌の悪さもわきまえ とにかく良妻で情も移りました 
でも唯一 嫉妬するこれだけは彼女にもどうすることもできず私も嫌でした

当時私は思いました こんなに私を好きだから 嫉妬させないようにできる

それで わざと冷たくして怒らせた時に言いました
「それなら別れましょう 夫婦でいたいなら 多少辛いことでも我慢して
それで嫉妬しないようにできたら 貴方をどんなに愛することだろう
出世して ひとかどの官吏になるときは貴方が正夫人です」

彼女は少し笑い「貴方の出世を待つのは苦痛ではないが 貴方の多情さは
耐えられない こんな事をいいだしたのは 別れる気になったのですね」
と口惜しそうに言って 私の指に噛み付きました

「痛い痛い こんな傷まで付けられ侮辱された小役人は出世は見込めない
坊主にでもなる」と脅し「いよいよお別れだ」と私は言い家を出たのです

『手を折りて相見しことを数ふればこれ一つやは君がうきふし』
(今までの事を指折り数えても今回は辛く悲しい 言い分はないでしょう)
と言うと さすがに泣き出して

『うき節を心一つに数えきてこや君が手を別るべきをり』
(嫌な事を胸一つに収めて我慢してきたが これこそ貴方と別れる時です)
と 反抗的に言った…』


2002年11月10日(日) にゃん氏物語 帚木03

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木03

そんなやり取りをしている所に 左馬頭と藤式部丞が来て参加した

通な左馬頭も 女性には一長一短があり 決定的な事が言えず
深い溜息をしながら言う
「…だからもう階級も何も言いません!器量もどうでもよし 
正確が悪くなければ 真面目で素直な人を妻にすべきだと思います
そのうえに 少し見識があれば 満足で 少し欠点があっても
いい事にするのです!思ってる事を言い合って 信頼できればいい
教養は 後で身につかせればいい

普段 面白く思ってないのに表面に出さず 
いざというときに怨み文句を言って どこかへ行ってしまう人
子供の頃は同情したけれど 今思うとそんなやり方はよくない」

中将は頷き「現在の恋人で深い愛着があるのに その愛に信用がおけない
なんてのは よくない!愛が深ければそんなことはない 長い目で…」
頭中将は言って 妹と源氏の仲をほのめかしたが源氏が何も言わないので
口惜しかった 対照的に左馬頭は女の品評に得意そうな顔をしていた

中将は左馬頭に語らせたくてしきりに相槌 左馬頭は語る
「…技巧で面白く思わせる人には永遠の愛が持てないと私は思う
 私を好色で多情な男に思うでしょうが 以前の事を少し話します」

この機会に みんなの恋の秘密が 打ち明けられることになった


2002年11月09日(土) にゃん氏物語 帚木02

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木02

「これなら完璧 欠点がない人が少ない と いうことに気がつきました
上っ面の感情で達者な手紙を書いたり こちらの言うことを 理解してる
ふりをする利巧な人はいるでしょうが それをいい所としても
合格点に入る者は なかなか いません
自分が少し知ってることで得意になって 他の人を軽蔑する厭味な女が多い
親が大事にして深窓に(家の奥深くで人目につかぬように)育っているうちは
一部分だけを知って 想像で補って恋をできるのですね 
顔が綺麗で 娘らしくおっとりとして 他に仕事がないのですから
一つくらい芸の上達が希望できる それで中に立った人がいい事だけ
話して欠点は隠すので それを否定するのは不可能でしょう
本当だと思って結婚した後 あらが出てこないわけはありません」

中将がこう言って溜息したとき 源氏は聞いた
『一つぐらい芸ができるとりえなんだけど それもできない人はいる?』

「そんな所へは初めから騙されて行きません 何もとりえがないのと
全て完璧なのとは同じくらい少ないでしょう 
上流の人は大事にされ欠点も目立たない この階級は別格 
中流階級によって はじめて 我々は鮮やかな個性を見せてもらえる
それから下の階級は 私にはあまり興味がない」

こう ツウを振りまく中将に 源氏はもう少し語らせたくなった
『その階級は区別はどうつけるのですか…』


2002年11月08日(金) にゃん氏物語 帚木01(ははきぎ)

光にゃん氏訳 源氏物語 帚木01(ははきぎ)

光源氏は 素晴らしい名で青春を盛り上げてきた人
自由奔放な恋愛生活をした人と想像されるが
実際は ずっと地味な心持ちの青年でした
恋愛などということで 後世に誤って伝えられないようにと 
異性の話を かなり内輪にしてきたのに こんな風に恋愛の話が
伝わっているのは 世間が おしゃべりだからです

中将時代には おもに宮中の宿直所に暮らして たまにしか
舅の左大臣家に行かないので 疑われたのですが 
実際は世間一般にいう好色男の生活は嫌いでした
ただ風変わりな恋をして 禁断の恋に心を打ち込む欠点はあった

源氏が舅の左大臣家にあまり行かないように 
舅の右大臣家にあまり行かない頭中将(左大臣の息子で右大臣の婿)
がライバル的存在で遊び相手でした

あるとき頭中将は源氏の本棚にある手紙を見たがった
源氏は『無難なのを少し見ていい 見苦しいのもあるから』と…
頭中将は「その見苦しいのが見たいんですよ 平凡なものは私にも
いっぱい来る 変わったの…怨みの手紙や 夕方に来て欲しいとか」
そんな手紙を棚に置くはずもないので源氏は見せた

中将は言う「いろんなのがありますね」想像して これは誰々だと
筆者を当てようとする 
その通りの時もあれば 全然見当違いの時 深く追究する時もある
源氏は 見当違いをおかしく思いながら手紙を取り返して言う
『あなたのほうが 女の手紙をたくさんもってるでしょう?
 少し見せてよ そしたら 棚の手紙を全部見せてあげる』
「あなたの御覧になる価値のある物はないでしょう」と言って
頭中将は 女についての感想を言い出した…


2002年11月07日(木) にゃん氏物語 桐壺10(きりつぼ完)

光にゃん氏訳 源氏物語 桐壺10

その夜 源氏の君は左大臣家へ婿になっていった 
姫君の母は帝の御同胞で 帝の御愛子の源氏を婿に迎えたのだから
今までの右大臣(東宮の外祖父)の勢力は蹴落とされていた

源氏の心には藤壺の宮の美が最上のもので あのような人を
妻にしたいが そんな女性は他にはいないだろうと思う
左大臣の娘は大事にされて育った美しい貴族の娘だと認めるが
純な心で藤壺の宮だけが恋しくて苦しいほどであった

元服後は もう藤壺の御殿の御簾(みす)の中には 
入れてもらえなかった
琴や笛の音を彼女が奏でるんだなあと思い 
物越しにほのかな声を聞くだけで
その慰めに宮中の宿直(とのい)ばかりが好きだった

御所では 母の更衣が使っていた桐壺を 宿直所に与えられた
帝が命じて非常にりっぱなものに改築される 二条の院がこれである
源氏は こんな気に入った家に 理想通りの妻と暮らすことが
できたらなあと なげいて溜息ばかりでした

光の君という名は 鴻臚館(こうろかん:施設を接待する所)へ来た
高麗人が 源氏の美貌と天才をほめてつけた名と言われます


2002年11月06日(水) にゃん氏物語 桐壺09

光にゃん氏訳 源氏物語 桐壺09

源氏の君を帝は いつまでも子供として扱いたかったが 
十二歳の元服をさせる時がきてしまった
準備は 帝自身が指図して 東宮(第一子)の元服の時の
派手やかさに 負けぬように 華麗を極めたものでした
元服の髪切り 加冠が行われる 帝は少年の美を永久に
保存しておくのは不可能なのかと惜しまれた

加冠の大臣によって加冠は終わり 源氏の庭上の拝では
皆 小さい大宮人の美に感激の涙をこぼした
加冠の大臣には娘がいて 東宮から後宮にと望まれたのを
受けなかったのは 初めから源氏の君と一緒にしたいからである

帝の意向も元服後 世話をする人が必要だろうということだったが
源氏からは何も返事を聞いていなかった

酒盃を賜る時 源氏は歌を読んだ
『いときなき 初元結ひに長き世を契る心は結びこめつや』
(幼い私の初元結いを結うのに 行く末長い
 結婚を約束する心は結びこめましたか?)

大臣は驚いて返歌した
「結びつる心も深き元結ひに濃き紫の色しあせずば」
(元結に結んだ高貴な紫色がまだ色褪せないにもかかわらず)


2002年11月05日(火) にゃん氏物語 桐壺08

光にゃん氏訳 源氏物語 桐壺08

源氏の君は いつも帝の傍にいたので 女御の御殿にもついていく
帝がいつも行く御殿は藤壺で 源氏も お供していつも行く
宮も なれてしまって 恥ずかしくて隠れたりしなかった

どの後宮でも容貌に自信を持って来た人達であるから 
皆それぞれ美しさをもっていた でも皆 年上過ぎる
その中に若くて美しい藤壺の宮が来た なるべく顔をみせないように
しているが 自然と源氏の君が見ることになる

母の更衣は面影も覚えていないが よく似ていると聞いて 
子供心に母に似た人が恋しく 藤壺に行って仲良くなりたいと想った
帝も 藤壺の宮に 本当の母子のように 彼を愛してほしいと
とりなしたので 源氏は花や紅葉の美しい枝は 
まず彼女に差し上げたい 想いを受け止めて欲しい態度をとった

弘徽殿の女御は藤壺の宮に嫉妬していたが 彼女に想いをよせる
源氏にも 一時忘れていた旧怨が 再燃した

源氏の美を遥かに超えた 美貌を言い現すのに 
人々は 光の君と言った
対句として 女御として御寵愛が並びない藤壺の宮を
輝く日の宮と言った


2002年11月04日(月) にゃん氏物語 桐壺07

光にゃん氏訳 源氏物語 桐壺07

年月がたっても 帝は彼女(桐壺の更衣)を 忘れることができませんでした
慰みに 美しいと評判のある人を 後宮に 召使いましたが
この世には 彼女以上の人は いないんだと失望するだけでした

そうしているうちに 先帝(帝の従兄弟)の内親王(娘)の中に
彼女に似た人がいることがわかった
もしも それが本当ならば 妻として迎えいれようと思って 
先帝の后の宮に申し入れました
けれども お后は 東宮の女御は性格がきつく 
桐壺の更衣が露骨にいじめられたのに といって実現しませんでした

お后も おかくれになってしまった 例のよく似た人が一人暮しをしているときいて
帝は 妻としてではなく 娘たちと同じように世話したい と言って
先帝の第四内親王は 今の帝の女御になった 御殿は藤壺である

なるほど 容貌も 見のこなしも 桐壺の更衣によく似ていた
この方は 身分も 申し分ない 美しさも 非の打ち所がない

心が 藤壺の女御によっていやされたのでしょうか 
時が解決してくれたのでしょうか
帝に また楽しい生活が戻ってきました

あれほどの 桐壺の更衣との恋も 永遠では なかったのです


2002年11月03日(日) にゃん氏物語 桐壺06

光にゃん氏訳 源氏物語 桐壺06

帝は朝の政務も怠け 食欲もない 皆が嘆いていた

幾月かして 第二皇子が宮中に来た
小さい頃から美貌の備わった方だったが今はいっそう輝くものに見えた
その翌年 立太子の儀式があった

帝の思いは第二皇子だが 後見人がいなく 皆が反対する
若宮の前途を心配して 自分の心を誰にも明かさなかった

東宮に第一親王が おなりになる
あれほどの御愛子でも太子にできないのだと世間も言い
弘徽殿の女御も安心した

その時から 未亡人(宮の祖母)は落胆し 更衣のいる世界に行くことの他に
希望はないと思っていて 皇子が六歳の時になくなった
前と違って今度は物心がついているので皇子は悲しんだ
未亡人も皇子と お別れするのが悲しいと言って死んだ

それからは 若宮は宮中ばかりにいて 七歳の時に 書始めの式が行われ
学問をお始めになった
皇子の聡明さには驚かされるほどで 美しさ 学問はもとより音楽の才能も
豊で もう誰も憎むことが なかった

帝は この子の将来を思って あまり高い地位につかせようと思っていなかった
しかし どんな上手な人相見 占い師に見させても
「国の親になって最上の位を得る人相である」 と聞いて
元服後は源姓を賜って 源氏の某としようと 決めた


2002年11月02日(土) にゃん氏物語 桐壺05

光にゃん氏訳 源氏物語 桐壺05

御所に戻った命婦は まだ眠れない帝を気の毒に思った
このごろ帝が御覧になるのは 宗皇帝と楊貴妃の恋物語で 
その他日本文学でも愛人に別れた人の悲しみが
歌われたものばかりを読まれた

帝は未亡人(更衣の母)に寛大で失礼な言葉を受けながらも同情した
『未亡人への報いは更衣を後宮の一段高い位置に据えることだが
それは 夢となった せめて若宮が天子になれば 死んだ彼女に
皇后の位を贈ることもできるのだが…』と想う

帝は命婦が持ち帰った形見のかんざしを見て 
唐の幻術師があの世の楊貴妃から持ってきた玉のかんざし だったら
『尋ね行くまぼろしもがなつてにても魂のありかをそこと知るべく』
(探しに行く幻術師がいてほしい 人づてによってでも 
    その魂の ありかがどこか 知ることができるように)

絵で見る楊貴妃は綺麗だけど どれも それほどではない

彼女(更衣)の 柔らかい美 艶な姿態を想ってみると
これは花の色にも鳥の声にもたとえられぬ最上のものだった

二人は いつも 天にあっては比翼の鳥 地に生まれれば連理の枝
という言葉で永遠の愛を誓っていた

秋風の音にも虫の声にも帝が悲しみを想っているとき
弘徽殿の女御(第一皇子の)は 夜更けまで音楽遊びをしていた
皆は反感をもっていたが 負けず嫌いでわざとやっているのでした

月も落ちて 帝は彼女の家のことを想いながらずっと起きていた
『雲の上にも涙にくるる秋の月いかですむらん浅茅生の宿』
(雲の上とよばれる宮中でも 涙にくもってよく見えない秋の月は
 あの荒れ果てた家で どうして澄んで見えることがあるだろうか)


2002年11月01日(金) にゃん氏物語 桐壺04

光にゃん氏訳 源氏物語 桐壺04

第二皇子の宮中入りは なかなか実現しなかった
若宮の宮中入りは帝の願いであり 未亡人(桐壺更衣の母)も迎えようと
「宮城野の露吹き結ぶ風の音に小萩が上を思ひこそやれ」
(宮中を吹きわたる風の音を聞くにつけ そちらはいかがですか?
              若君はどうしているかな?と思ってます)
こんな 御歌もありましたが 未亡人は次のように言った

夫を早く亡くし 娘も死なせた縁起の悪い私です
帝の娘への御寵愛は十分過ぎて 皆から恨みをかい
寿命での死に方とは思えないのは 御寵愛が恨めしいです

使いの命婦も泣く泣く言った
それは 陛下も仰せになります
あんなに激しく愛したのは きっと前世で二人は長く一緒にいられないと
約束してあったのだ 恨めしい因縁だ 自分は誰も傷つけていない
そう思っていたが あんなに恨みをかい 何よりも大切なものを失い
悲しみに暮れる 前世の約束はいったいどういうものか知りたいと…

月夜の空が澄み切り 涼しい風が吹き 悲しい虫の声 帰り辛く詠む
「鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜飽かず降る涙かな」
(鈴虫のように声の限り泣き尽くしても 
       秋の夜長も足りないくらいに 流れ落ちる涙ですよ)
それに答えて未亡人は言わせた
「いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置き添ふる雲の上人」
(しきりに虫の声がする芽かやの茂った所に来てさらに露の涙を
引き起こすように置いて行く大宮人でいらっしゃいますこと)


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