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No-Mark Stall *




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機織り娘。 | 2005年01月23日(日)
国の北部に位置するダンフィールド伯領の名産品はさまざまあるが、中でも有名なのは国随一の優美なタペストリーと、ダンヒル織りと呼ばれる多少特殊な織り方で作られる美しい布だ。
染料の開発も盛んであり、タペストリーとダンヒル織りの発展にもそれは一役買っていた。

領内の娘たちは幼い頃から機織りを仕込まれ、年頃にもなると村の立派な稼ぎ頭になる。
領の東端の村に住むリゼロッタも、そうして育てられた腕の良い機織りのひとりだった。

「リゼロッタ! あんた頼まれてた例の青色の布はいつ頃出来上がりそうだい?」
村の機織り娘たちを取り纏める村長の奥方が、その大きな声を張り上げて彼女を呼ぶ。
その声にリゼロッタは機織りの手を止めると、傍に置いてあった布を取り上げて急いで外に向かった。遅れると彼女はうるさい。
おかみさんがこうやって納期を尋ねてくるのは、つまり遠回しに提出を要求していることだと理解したのは一人前と認められてすぐのことだった。
扉を開けると、ずんと迫力ある巨躯がリゼロッタを迎えた。
「はい、おかみさん。待たせてしまってごめんなさい」
村の男衆も怯えるほどの厳しい顔つきで彼女は布を受け取ると、しげしげと検分する。
「相変わらず腕がいいね、あんたは」
「ありがとう」
満足そうに笑う顔は、先ほどまでの巌のような表情からは想像も出来ないほど優しい。
「しかも仕事が早いしね。悪いんだが、村一番の機織り娘にもうひとつ仕事を頼んじまっても構わないかい?」
おだてたあとに仕事をまたひとつ持ってくるのはいつものことで、リゼロッタは笑った。
「勿論。わたしが出来ることと言ったら機を織ることだけだもの。今度はどんな布をどれだけ織ればいいの?」
おかみさんが仕事を優先してリゼロッタに任せてくれることは薄々気付いていた。
身寄りのないリゼロッタが食べていくには、機織りで稼ぐしかない。それには、他に稼ぎ手の居る家の娘たちより多く仕事をこなさなければならないのだ。
「今度はダンヒル織りじゃなくてタペストリー作りの手伝いなんだよ。南のお貴族さまが今度生まれる娘にお姫さまの物語を織ったのをあげたいらしい」
「あら、お祝いなのね」
「そう。ウォルトの娘が依頼を受けてね。でもあの子、ちょうど身重になっちまってね、さすがにひとりで大きなものをやるのはつらいらしい。染料作りの手伝いだけでも欲しいってんでね」
「……わたしに出来るかしら」
タペストリー作りはリゼロッタの得意とするところではない。
村ではダンヒル織りもタペストリーも引き受けているが、リゼロッタは一人前になってからは前者の仕事しか引き受けたことはない。
「大丈夫、あんたが描くわけじゃなし。染料作りは結構得意だったろう?」
「えぇ、そうね」
にかっと笑って励ましてくれるおかみさんに、リゼロッタも笑い返した。
「さぁ一緒においで、仕事の賃金を渡さなくちゃならないからね」
「はい」
戸締りをして扉に鍵をかけると、リゼロッタはおかみさんの後について彼女の家に向かった。

これが、自分の小さなつましい家との長い別れになるとも知らずに。

******

いつまでもあれが1番上に来ているのもどうかと思いまして(というかあれには色々綻びがありすぎてどうにも手直ししたくて仕方ありません……)。

ぱっと話が浮かばなかったので去年の春頃書いてた話の冒頭を引っ張り出してみました。
確かこの話途中で総ボツにして内容考え直したもののまだ書き直してないという代物だった記憶が(多分屋台の何処かにこの話関連のものがあったはず)。
……お蔵入りにならないといいんですが(途中で放り出された長編の末路)(最大の問題はタペストリーの作り方が未だによく分からないことなんですがどうしたものか。ちょっと調べたらますますよく分からなくなりましたよははは……)。
年明け早々2次創作。 | 2005年01月03日(月)
※「Generation of Chaos 3」のストーリーモード激しくネタバレにつき要注意。

*

――あなたと一緒にいられれば。

*

助けて頂いてありがとうございました、と。
震える唇が紡ぐ言葉は思っていたよりも滑らかに。
目の前で花束を受け取る青年が、目元を和らげて微笑む。

少しだけ疲れたようにも見える柔らかな微笑に、一瞬頬が強張った。
(……すこし、あのひとににている……?)
彼もこんな風に笑うことがあった。
それは任務を終えて帰還を果たしたときであったり、長い会議を終えたときであったりとさまざまだったけれど、時間とともに影の濃くなっていくそれは彼女の心を締め付けた。
争うことに疲弊していく彼を助けたくて、傍にいたくて、でもそれは許されなくて。
あのとき、彼の説得に従わず、無理にでも付き添っていたら。
一緒に死ねただろうか、それとも。

冷えていく心の内に過ぎるのは今となっては詮無いことばかり。

「……ラディアに殺されていった者たちの恨み、」

――違う。
(それは、私の)

戦争が生み出す犠牲もそれから発生する復讐の連鎖もその無意味さも、彼女にはもうどうでも良いこと。
彼が、眼前に立つ王によって殺されたというその事実だけが、彼女の動機。
生きる意味は既に失われ、今ここにこうして立っているのは自分の満足のため。
心に深く穿たれた喪失の穴は何をしたところで埋まりはしないけれど。
(せめて彼の望みのひとつくらいは)
叶えていきたい。

驚いた顔で彼女を見つめる青年の身体に深く短剣を突き刺し、その感触に彼の死を確信する。
そして次の瞬間には、男の傍近くに仕える女性が抜いた剣が白く閃いて彼女を斬り伏せた。
けれど覚えた痛みがもたらしたものは恐怖ではなく安堵。
失われていく血の温もりの代わりに得たものは充足。
彼の死が価値と意味を持つことの証左を抱えて、彼女は満足げな微笑を浮かべた。


――あなたと一緒にいられれば、それで幸せ。

そう言うと、照れたように困ったような苦笑を浮かべる彼の表情がとても好きで。
(ずっといっしょにいたかったの)

鮮やかに思い返される記憶の中で、彼女は静かに瞳を閉じた。

******

ストーリーモード某場面自己流解釈もとい妄想(話は聞きましたが実際には見てないという)(それで書くかこれを……)。
台詞と展開は確認しましたがその他すべて捏造120%です。信用してはいけません。
戦争や復讐の是非は己の中でも判断が難しい問題なのでお茶を濁しつつ(……)。

それにしても屋台に版権モノを放り込んだのは久しぶりだなぁ。
written by MitukiHome
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