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No-Mark Stall *




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通学途中の図。 | 2005年02月21日(月)
彼女は最近大人っぽくなった気がする。
別に化粧をしているわけでもないし、服装だって自分と同じ学校の制服でいじったりしてはいない。髪型も以前のまま。
だけど何かが違う。
「……これはやっぱりあれですかね、恋ってやつですかね」
「何電信柱の影から覗き見してるの、ちーや」
「カコちゃんがいきなり美人になった理由を探っているのです。キヨちゃんがそこに立っていると私が探っていることがバレます。退いて下さい」
しっし、と犬を追い払うような仕草をする智弥子の襟を引っ掴んで、清は彼女をぽいと道路の真ん中に投げた。
「どう見てもバレてるから隠れるだけムダ。ついでに言わせてもらえばひとの名前は正しく覚えなさいよ」
「……初対面でばばくさい名前だねェと言ったことをまだ根に持ってるのですかおキヨちゃんは」
「だからサヤだって何度言ったら分かるのこの婆名前仲間ッ!」
「酷いッ、子供は名前を選べないのに!」
「それは私だって同じだッつーの!」
よよよ、と泣き崩れる智弥子を清は遠慮なく足蹴にする。

「……どうでもいいから漫才はいい加減にしてちょうだい、ふたりとも」
「香子」
騒ぎを聞きつけて戻ってきたのか、疲れたような表情で香子がふたりを止める。
不意にふわりと微かに香る花の匂いに気付いて、智弥子は首を傾げた。
「カコちゃん、何か香水つけてる?」
「は? ――つけてないけど」
「何かいい匂いするよ」
同じようにあたりの匂いをかいだ清が訝しげに眉根を寄せる。
「私全然感じないけど。ちーやは犬並みの嗅覚でも持ってるの」
「んーん、至って普通です。キヨちゃんはいつも桜の匂いしてるからそれで相殺されて気付かないんじゃない?」
「……あー……」
清が僅かに頬を赤らめて視線を逸らした。
さっぱり分かっていないようすの香子がどうでもいいじゃない、と言いたげに肩を竦め、立ち上がろうとする智弥子を手伝う。
「……ちやちゃん、何か糸ついてる」
「ふや? ドコドコ」
慌てて自分の身体を見下ろすと、黒いハイソックスに細い白糸が引っ掛かっていた。
智弥子より一歩早く香子が糸に手を掛けると、抵抗もなく糸はふわりと外れて風に流れていった。
「あ、飛んでった。蜘蛛の巣か何かに足引っ掛けた?」
今日の自分の行動を振り返って、智弥子は首を振る。
「……んーん、今日はやってない」
「今日は、ってあんたいつも足ひっかけてんのかい蜘蛛の巣に」
「……言葉の綾です言葉の綾。気にしちゃいけないさー学校ですよ皆さーん」
ウフフ、と虚ろな笑い声を上げて智弥子はぎくしゃくと早足で歩き始める。
「……あれは絶対ほぼ毎日やってるわね」
「かわいそうな蜘蛛」
その後を追いながら、毎日せっせと巣を作っては壊される蜘蛛の姿を想像し、ふたりはまんざら嘘でもない同情をそれに寄せた。

******

いつの間にかひとが増えた(いつの間にかってナニ)。
智弥子は背が小さくて懐っこい子で、清はちょっと姐御入ってて仕切り屋で香子は大人しめで面倒見の良いお姉さん系という設定です。
夜の密会。 | 2005年02月19日(土)
離れたら互いに生きていけないとしっている。
共依存の結果生まれた、美しく歪んだ魂の行方。

*

「ね、コーニー。お願いだから私の邪魔をしないでね」
目の前の佳人はそう言って無邪気そうに微笑んだ。
けれどコーネリアはその正体を知っている。

――あのひとがいなければわたしはわたしでいられない。


魂が共鳴するような、鋭くもまろやかに痛む心に、彼女はひとつ溜息をついた。
「イー。何をしたいの、あなたは」
宵闇に瞬く星よりも白く、きらきらと輝く蒼の双眸が細められた。
「都に囚われた『巫女姫』のことを知ってる?」
コーネリアは驚きに素直に目を瞠った。
「初耳だわ」
正直な反応に、イーは呆れたと言わんばかりに肩を竦めた。
「あなたはずっと田舎にいたからさ、それもしょうがない気がするけど。でもさァ、もう少し情報とか噂ってものに聡くなってよ」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。どっちにしろ馬鹿どもが箝口令しいただろうし。何も出来ない――いや、しようともしないくせに、そういうことだけは早いんだから厭になると思わない?」
それで結局、と彼女はイーの愚痴を遮って話を戻した。
「彼女を取り戻したいの?」
「それだけで済ませるはずがないと、あなたなら分かるよね」
凶暴な微笑に、コーネリアは嫌な予感を覚えて顔をしかめた。イーがこういう顔をしたとき、ろくなことが起こったためしがない。
「……何をする気なの」
「決まってるでしょうそんなもの」
冷たい空気に僅かに息が白んだ。

ふたりの声が熱を持ち、奇妙に重なって夜空に響く。

「――復讐」

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物騒なひとたち。
無題。 | 2005年02月17日(木)
2次元と3次元と4次元の狭間。
ドコに居たっていいでしょう?

*

闇に似た、海に似た、柔らかに纏いつく毛布のような空気と。
同じ気配のするひと。

本に吸い込まれて物語が始まるのはよくあるコト。
私の世界は、今、火にくべれば終わってしまうちっぽけなこの本一冊に収斂されている。

「私は此処にいてはいけないのかしら?」

あらゆる質問への答えはいつだって微笑。
書き込むことは出来たって、本は答えてはくれないけれど、私の手は言葉を綴り続ける。
話すのをやめてしまったら、細い糸のような繋がりは絶たれてしまうから。

これほどこわいことはない。

「私は此処にいていいのかしら?」

返ってくるのはいつだって微笑。
慰めるように髪を撫でる手に騙されたりはしないのだ。

******

我ながら意味不明。
ふたつの世界。 | 2005年02月14日(月)
それは神代の話。
誰も覚えていないような、古い古い話だ。

――古の神の世、世界はふたつに分かたれていた。
それぞれを別の神が治め、隣り合う世界は互いに影響を与え合うこともなく、つかず離れず互いを維持していた。

それが狂ったのは一体何が原因だったのか、知るものは誰もいない。
ある日突然、ふたつの世界が変調を来たした。
それを切欠に神々は諍いを始め、世界の管理どころではなくなった。
彼らが、世界を隔てる膜が融け始めたことに気付いたときにはもう遅かった。
癒着し始めた世界を引き離そうとあれこれと試みたが逆に事態を悪化させるばかり。
同じ『世界』と称されるものといえどもその性質は全く異なるもので、そうしたものが混ざりあうとき、そこには恐ろしいほどの歪みが生じる。
それをただすことで手一杯になったふたりの神々は、成り行きを見守ることしか出来なかった。
全てを無に帰すには強すぎて捨て切れなかった愛着と後悔を抱えて、彼らは世界がひとつになるのをただじっと見つめたのだ。

そしてその最後の瞬間、最も巨大な歪みと熱量が発生した。
嵐が過ぎ去ったあと、残ったのはかろうじて調和を保った美しいひとつの『世界』。

……それから、神々の姿は世界から消え失せたのだ。

******

伝承歌の創世神話。どうにもこういう「ふたつの世界」設定が好きなようです。
めもめもめも。 | 2005年02月07日(月)
ウィッチクラフトめも続き。

・宮廷に仕える侍女たちの服装はとりあえず統一。私服だとそれぞれの家の経済状況がばればれな上に(そして見栄の張り合いでとんでもないことになる)、誰が侍女だか分からないので。
・基本はハイウエストの白い服にフランネルの紺地の服を羽織るかたち。その上にアンダーバストあたりに太い絹のリボンでぐるりと。リボンの色でどの宮の人間かを区別(白宮なら白とか)。
・襟にも細めのリボン。階級によってレースがついてたり結び方が違ってたり。最下級は白でそれ以外は薄ピンク。
・女性が働くことは卑しいことだとは基本的に見なされていませんが、伯爵以上の上流階級になるとちょっとその意識が入ります。そのせいか王宮の侍女には下級貴族の女性が多いです。庶民階級の人間もいますが厨房のした働きとかそんなで、宮で直接王族の世話をしたりする仕事は殆ど回ってきません。
・花嫁修業で上級貴族の少女もたまにやってきますがさして役に立たないというかむしろ邪魔なので侍女からすると来るなと叫びたいところ。
・下級貴族の娘さんにとっては王宮で働くことは玉の輿に乗るチャンスなので人気のある仕事。ちなみにどの宮に配属されるかはそれぞれの宮の女中頭が新入りを面接して決めます。常時補充なので応募期間は決まっていません。
・ちなみに男性貴族の意識はというと遊びのつもりから超本気までさまざま。階級が上の人間ほど火遊び感覚程度の傾向にあるようで。
・というわけで男女間の揉め事は結構多いです。水面下で表沙汰になることは滅多にありませんが(問題になると女性の方も仕事を辞めざるを得なくなる上に見合いも敬遠され、男性の方も社交界でやりにくくなるため)(問題をいかに表にせずに処理するかで力量が問われます)(そんなものの力量を問うてどうする)。
めもめも。 | 2005年02月05日(土)
ウィッチクラフトめも。
この1年ちょいの間に色々と設定が変化してるので何が変わってないのか整理しないと何が何だか。

・ヨルハの仕事は基本的に白宮家事一般と殿下の身の回りの世話。
・掃除は毎日。宮を7区画に分けて1日1区画。
・洗濯物は外部委託ていうか後宮で洗濯をするときに纏めてやってもらう。
・食料も週2回運んでもらう。
・実際に白宮内部に住んでいるのはふたりのみ。衛兵は宮の外壁に付属しているちっこい建物の中で寝泊り。
・全部ひとりでやっているかと思いきや中庭の世話は通いの庭師に任せっぱなし。
・ついでにあまり使われていない場所の掃除はマーウェが主にやってます。料理の仕込みも手伝わされます。ものが壊れたら修理もします(手に負えないのは業者を呼びますさすがに)。
・他に白宮に泊まったりするようなツワモノはコンラートとクラウとあと腹心数名。他の人間は「白宮に泊まると病を得る」という謎ジンクスを怖がって近寄りません(他にも怖いジンクスがある模様)。
・だからと言って別にライヒは嫌われているわけではなく、というかむしろ「そんな不気味なところからはさっさと出て別の宮で暮らしてくれ」だの「身体弱いのにそんなところにいて死なないのか」と心配される始末。勿論政敵からは「さっさとジンクスに呪われて死んでくれ」とこっそり思われている模様。
・白宮は何代か前の王の治世のときに色々あってそれ以来ライヒが住むようになるまで使われていなかったとか。人気の肝試しゾーン(……)。
・宮には他にも青と黒と赤と緑がある模様。赤は王妃様が住んでるので後宮と言われることが多かったり。緑は王様の住まい。でも本宮にいることが多いのであまり使われない。とか。
・青と黒はそれぞれ王子の住まい。姫君たちは基本的に後宮か王宮の外の離宮住まい。白は使われていなかったのをライヒが改築して住んでます。外れの一角。いいのか王太子。
・即位したあとも基本的に宮は移らない。先王はその後も生まれたときから宛がわれている自分の宮に住みますが、現王に子供が生まれたら宮を明け渡して離宮住まい。兄弟も同様。足りなくなったら作るかもしくは離宮行き。
・離宮に住んでいる人間には基本的に王位継承権がない(ただし宮の数が足らなくて仕方ない場合は例外)(滅多にありませんが)。
・ジエフェルダは基本的に男子が王位を継ぎます。女子の例もなくはないですが基本的に繋ぎ。ついでに降嫁したら王位継承権はなくなります。そして王位にある間は結婚も出来ません。ジエフェルダでは基本的に男女平等ですが王位に関しては男子優先。
・後宮は王妃がひとりだけの場合は発生しません。王様の宮に住まいます。
・複数娶った場合には別の宮に纏めて住みます(もしくは王様の宮に纏めてかどちらか。大抵王様は前者を選びます)。寵愛の競い合いというおっそろしい状況になります。がたがた。
・なので宮の中を区切って、妃は自分に宛がわれた区画以外の区画を訪れることは基本的に出来ません。嫌がらせもばれると処罰が待ってます。そこをいかにばれないでやるかが妃付きの侍女の腕の見せ所(……)。
・中央部に公共スペースというか歓談室があって、そこで嫌味合戦が繰り広げられます。王様は滅多に此処を訪れません。怖いので。

・ちなみにライヒの父親は4人妃を娶ってます。ひとりは子供を産む前に早々に亡くなりましたが他の3人は健在。一応正妃の子供が第1、第3王子と姫君ひとりで第1側妃の子供が第2王子と姫君ひとり。第2側妃は女の子をふたり産みました。女の子は末の第2側妃の下の子供以外は嫁ぎました。
・ちなみに年齢順で並べれば、姫(1)、姫(2)、王子(1)、王子(2)、姫(3)、王子(1)、姫(3)。かっこ内は誰の子供か(1が正妃であとは側妃の順番通り)。
・つまりライヒは同母の姉ひとり弟ひとり、異母の姉ひとり弟ひとり妹ふたりということになりますネ。
閑話。 | 2005年02月03日(木)
「縁というものは、いつだってどこかで誰かに繋がっている。悲しむことはないんだよ」
その優しい手は、優しいからこその残酷さを持って私の心を慰める。
「どこかで必ず巡り合える。それは早いかもしれないし遅いかもしれない。命の終わる間際まで出会えない人もいる。でも、出会えないことはないんだよ」
細い糸を手繰るように、必死に繋ぐものは希望。
それは必ず叶えられると、誰が断言出来るのだろう。
「ただ問題なのは、出会ったことに気付かないひともいるということだ。そうやって頑なになっていないで出ておいで」
糸の先にあるものが、自分の望むものでなかったらどうするの。
問いは言葉になることはなく、ただ己のうちに降り積もる雪となって心を凍らせ押し潰す。
声は私の思考を読んだかのように続きを紡ぐ。
「出会いたいひとには必ず出会えるよ。そう私が保証しよう。それでも駄目かい?」
「……。それは、あなたが出会わせてくれるということなの?」
顔を上げた私に、相手は酷く嬉しそうに顔を綻ばせた。
どうしてこれくらいのことでこのひとはこんなにも喜ぶのだろう。
「そうかもしれないしそうではないかもしれない。君とそのひととの縁を繋ぐ役割を担っているのが私かどうか、それは私には分からないからね。でも出会えるよ」
だから安心するといい。
眩く感じる笑顔を見ていられなくて、私はそうと目を伏せた。
その動きを追うようにその手が私の髪を撫でる。

「……別に、これから出会わなくていいのに」
吐息だけで呟いた言葉は相手には届かなかったようだ。別に構わない。

――既に出会っているのなら良いのにと、未来ではなく過去に思いを馳せて、私は静かに目を閉じた。

******

微妙なすれ違いくい違い。
銀髪の麗人(またか)。 | 2005年02月02日(水)
きらきらと輝く豊かな銀の髪、垂れ気味だが穏やかな光を湛える蒼い瞳と常に微笑を浮かべている唇。
その整った容貌と印象通りおっとりとした優しい物腰に、詩人たちがその音楽家につけた呼び名は『音楽の天使』。

――ミハエル=ベーエ、若干二十五歳にして宮廷楽団入りを果たした時代の寵児である。

*

女の子というのは集まると自然姦しくなるもので、それは貴族であろうと単なる庶民であろうと同じこと。
頼んだ洗濯物を引き取りに行く途中で、ヨルハはきゃあきゃあと甲高い声で騒ぎ合う上流貴族の子女の集団と行き会ってしまった。
近頃の流行であるふんわりと広がる裾のドレスを纏った少女たちは、横にふたりも並べば道をほぼ占領してしまう。
ヨルハはこちらの身分の方が低いせいもあって道を空けたが、彼女たちはお喋りに夢中でひとが来ていたことにも気付かなかったらしい。
しかし、真ん中で居心地が悪そうにしている、人の好さそうな銀髪の佳人が彼女に気付いて申し訳なさそうに頭をちょこりと下げた。
「……?」
反射的に頭を下げたが、どうも違和感が拭えない。
集団をやり過ごした後、彼女はしきりに首を捻りつつその違和感の正体を探っていた。
優しげな面立ちに、胸元に品の良い紫のスカーフ。

「――あぁ、そっか。あのひと男のひとなんだわ」

醸している雰囲気と相貌があまりに女性的だったせいで気付かなかったが、そういえば周囲の女性たちより一回りほど背が高かった気がする。
「あんなに女の子に囲まれちゃあそりゃ居心地悪いわよね……」
同性であるヨルハでさえ、あんな集団には気後れする。
彼に同情と好奇心を寄せながら、彼女は先を急いだ。

*

洗濯物を引き取り、しばらく元の同僚たちと歓談をしてから宮に戻るとそこには先ほどの銀色の天使がいた。
単体で見るとその華やかさが際立つ青年は、にこにこと笑いながら門の前に佇んでいる。
「……えーと、何の御用でしょうか」
「この宮はとても寂しいところですね」
「はあ、そうですか」
「此処で働いていらっしゃるのですか」
「ええ、まあ」
ヨルハの主人も銀髪の美形であるが、漂わせている空気が怜悧すぎて近寄りがたい。しかし、このほわほわとした空気もまた微妙に調子を狂わせる感じがして、彼女はどうしたものかを思案を巡らせた。

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出そうと思って出せていない音楽家。どう絡ませたものか。
written by MitukiHome
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