のんびりKennyの「きまぐれコラム」
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2000年04月01日(土)  「カール君の決断」 

  私にとって「趣味」と言うよりは「生活の一部」という感の強いGOLFであるが、
先日非常に考えさせられることがあった。

私が所属する米本土のカントリークラブのひとつに、カール君という
とてもフレンドリーなアシスタントプロがいる。

彼はハワイ出身で、学生時代にはハワイ大学のゴルフ部で活躍した。
残念ながらアマチュア時代に、これといって大きな大会で上位に
入ったことが無いため、トーナメントプロへの道は遠く険しい。

しかし、彼のゴルフのレベルは極めて高い。
頭も良いし、コースマネジメントも優れている。
プロとして大切な気持ちの切り替えも上手く、忍耐力もある。

いつトーナメントプロになっても誰も驚かないはずなのだが、
雌伏のときを過ごして久しい。

たまたまハワイ出身ということもあって、世代を超えて日頃から親しくしていた。

先日コースのドライビングレインジで、私のスイングをチェックしてもらった際に、
聞くとはなしに今後のことに話が及び、意外な決断を聞かされた。

トーナメントプロへの挑戦を断念するとのこと・・・
当然のことながら私の次の言葉は「Why?」であった。

彼は一言一言を自分自身に言い聞かせる様にゆっくりと説明してくれた。


現在アメリカには約3万5千人のアシスタントプロがいる。
その全員がトーナメントプロを夢見て日夜必死で練習に励んでいる。

しかし、テレビのゴルフ中継に顔を出し、賞金だけで食っていける
上位常連のトッププロの人数はわずか70人程度である。

タイガーウッズに代表される様なスーパースターに至っては
片手の指に納まる程度の人数にすぎない。

500倍から1000倍の競争率を勝ち抜く強さと、目標達成に至るまでの健全な
経済的環境の維持と、チャンレンジの機会に恵まれる運と、
その一度しか無いかもしれない機会をものにするもう一度の運と力。

そして、その全てをなしとげたその時に残っている人生の残り時間。

これらの全てがそろってはじめてトッププロとして生きていける。

自分(カール君)は自分のゴルフ技術の限界を知っている。
あなた(私)から見れば非常に上手なゴルファーに見えるかも
しれないが、プロにはプロの尺度が別にある。

クラブプロとして就職を決めた。
(注: クラブプロというのはトーナメント等には出ず、プロショップの
    商品の発注やメンバーへのレッスン等で生計を立てる)

大きな夢を持つことは良いことだが、自分の実力を過大評価して
いつまでもかなわぬ夢を見続けることは、夢を追っているのでは無く、
夢想の中で自分の限られた人生を無駄使いしているに過ぎないと思う。


そこまで聞いて、私はどうしても言葉をはさみたくなった。

違うんじゃないか?
とことん夢を追い続けるべきなんじゃないのか?
それで君はけして後悔しないと言えるのか?

口を開こうと思って彼の目を見た瞬間声が出なかった。

彼の眼に涙が光っていた。

「グッドラック」
私はそれだけ言うのが精一杯で、彼に背中を向け、自分のクラブを片付け始めた。

彼が悩み、苦しみぬいてやっとたどり着いた結論を批判する権利など
私にあるはずが無いのだ。

近々彼は他州の就職先に向けて出発する。


若者の夢が破れるのを見るのは耐え難いものがある。

かつて自らの夢が破れ、人生に絶望してから立ち直るまでに
費やした気の遠くなるほどの時間と孤独、
そして自己との終わり無き対話の辛さを思うとき、
彼のこれからの人生に幸あれと願うばかりである。

「夢は実現してこその夢か、実現しなくても夢を追い続けること
 そのものに価値があるのか?」


私は未だにその答えを知らない


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