戯言、もしくは、悪あがき。
散る散るミチル
ミチルは果てた
充電切れたら
今夜も寝逃げ

2004年03月15日(月) 春に跳ぶ

たまたま立ち寄った雑貨屋さんで、金属で出来たゼンマイ仕掛けの虫のおもちゃを見つけて、無性にほしくなった。
そっけないんだけど、すごく愛らしくて、手持ち無沙汰なときに、ゼンマイを巻いて、床の上をどこまでも走らせたいなあとおもった。
結局買わなかったんだけど、家に帰ってから、やっぱり今度買いにいくぞと心に決めた。

進行方向と逆向きにネジを巻いて、いっぱい巻いて、それが反対側に戻っていく力で前に進むのって、なんかいいな。
しくみだなあとおもう。
わたしもそうやってぎりぎりぎりぎり反対側にきしんで、頑張って頑張って反対側に回って、それでもそれはやっぱり前に進む為のしくみなんだって。
それで巻いた分がなくなってしまったら立ち止まって、また巻いて。それが途切れて、また戻して。
そういうふうに力を生んでいけたら、それはそれでひとつのやり方だから。

あったかくなってきて、ちょっと嬉しい。
薄着の人を見ると、素敵だとおもう。
まとうものが少なくなるのは、それだけ、寄り道の幅が広がるような気がする。
いつでもどこにでもふらりといける。片手に上着を持って、それが邪魔になって途方に暮れることも無いんだ。

まだまだ朝は寒いけれど、夜の風も冷たいけれど、どんどん軽くなっていけたらいいなあ。
街中がわたしの道草を歓迎してくれてるって。
そんなふうにやさしくなれるといい。



2004年03月14日(日) 浅い呼吸でつづいていくこと

とりとめのないゆめ
目のなかの虹
見えない八色目
にじんでいく稜線

くちびるをはなれて
消えていくうた
戻っては来ないのは
溶けていったから

昨日のわたしを殺したら
つないだ手はどこへ行くだろう
小鳥 小鳥 おまえも
いつか卵を生むの
何が孵るの
ねむっているのはだれ

こもりうたなんて知らない
目覚めるための呪文も

手をつないでいて
手をつないでいて
生まれ変わる朝にも
わたしがわたしだとわかるように
あなたがあなただとわかるように

生み落とされていく
死んでいくわたしのまぶたは
閉じているのかしら

すべてはやみのなか

ただ
手をつないでいて
なくしたいんじゃない

ばらばらに
なってしまいそうだ
ひどく薄い殻の
卵を抱えて

生えなかった羽の
骨のきしむあたり
たとえばそんなふうに
降り積もっていく

広がりたがる継ぎ目に
ちゃんと伝えてあげて
やっとかたちになったうたが
溶けていってしまうまえに




2004年03月12日(金) あしたのわたしに伝えてください

 会社の帰り、いつもは横断歩道を渡る道を、気まぐれに歩道橋に登った。真下に信号を、真上に高速道路を眺める、最近補修工事が済んだばかりの歩道橋はどっしりとして、それでも行き来する車の振動に少しだけ揺れる。
 階段を上がっていくとき、目の前に影があった。背中から降る街灯のひかりに照らし出されたわたしの影。段差の通りに規則正しく折れ曲がって、ちょうど四、五段うえのあたりが顔になる。
 こっちを向いている、と、唐突に思った。その暗がりの顔を見て。考えるのではなくて、直感で、あの影はこっちを見ていると。
 影だから、表情は映らない。でも、からだ全体の雰囲気が、そのコンクリートに吸い込まれていく輪郭がにじませる空気が、疲れてよたよたと階段を登るわたしを見つめ、待っていた。わたしの影は背中を向けて歩いていくのではなくて、わたしの方を向いて、少し先で待つように、後ろ向きで階段を登っているのだった。
 
 見守られていると思った。すぐに行き先を失うわたしの足を、自分がどこに立っているのかさえ定かではない頼りないわたしを、それでも、一歩前の地点で彼女が待ってくれている。簡単に悩んで、わからなくなって、へこたれて、もう一歩も動きたくなくなって、無茶苦茶にあがきながら何とか進んでいる道を、きっと彼女も同じように通って、通り抜けて、それがどんな結果だったとしても間違いではなかったんだと、だからいいんだよ、って、こっちを向いて教えてくれていた。

 ほんの少しだけ時間軸のずれた何秒か先の世界に、もうひとりのわたしが生きていて、あとを歩くわたしを振り返り見守ってくれている。そうだとしたらきっと、わたしはもうすこしだけ歩いていくことができるだろう。

 いつか彼女とわたしがひとつに重なって、同じ方を見据えて歩いていける日が来るまで、彼女は後ろを向いて、わたしと向かい合って、わたしのひとつひとつの動作を見届けてくれている。そう思ったら、せめてこの歩道橋を降りるまでは歩いていこうと思った。それから、歩道橋を降りたら、次の信号まで。信号についたら、電信柱まで。そうやって、歩いていけるんじゃないかって。

 表情なんてあるはずのない、暗闇でできたわたしの影から、わたしはたしかににじみだしている優しさを受け取った。その事実を抱きしめたら、もうすこしだけわたしは、わたしをやれる。小さな奇跡のように、その夜の風景を噛み締めて、わたしの影はわたしを置き去りにはしないと、そう信じて、あとすこしだけ強くなって、わたしを歩いていこうと思った。



2004年03月08日(月) 明日の記憶に泣かないように

わたしたちはいびつな
ふちをなぞりあった
とりとめもなく 水滴の
つたい落ちるような おと と
指のはらに息づく
ちいさな痛みを
いのりのように

ちりちりと ひきつれて
いるのでしょうね それは
目が見えなくてもかまわないとさえ
おもう
おだやかな
ひかり で


増えつづけていく傷口に
くちびるをあてながら
それでも いつか すべての継ぎ目が
せかいに踏みしだかれる前の
まっさらな地平へと
還っていけばいいと おもう
わたしも いて
叶えられたいのりが
移りつづける景色のあいまに
とけだしてしまうように
わたしの指さきも
はじけて粉々になって
痛みとともに
過ぎていく彼方に
置き去られてしまうのだろうか、


ただ

わたしたちと呼んで
見ている景色さえ
定かではないのに
わたしたちと呼んで
ゆるやかに眠りが覆っていく
たえまない
水滴のおと
終わりを知るまいと
閉じていくまぶたのうらに
指さきのひかりばかり
ちらついて

眠りのふちを越えれば
もう
わたしたち も
いないのに

あなたのいないせかいは
こわいと
おもった
それは
終わり
だから

たしかに
あたたかい
おだやかなひかり と

ちいさな痛みを
いのりのように



2004年03月07日(日) 目覚めたら東京砂漠

妹が古雑貨屋で買ってきたというビーズのおすそ分けをもらって、携帯ストラップにつけてみた。
プラスチックで出来た、緑色のキューブとピンクの花。
わたしの携帯には、ちいさなキューピー人形がついているのだけど、その紐部分に無理矢理通してみた。
もともとは絶対にかわいいビーズのはずなのに、キューピーの頭上に突如出現することによって本来の意図とは違う絶妙なおかしさをかもし出す。
このキューピー、ばったもんなのかなんなのかしらないけど、縮尺の割りにやたらと目がでかくて、その黒目がちさがかわいいを通り越して邪悪になっているという難儀なもの。
その頭のすぐうえに突如あらわれるピンク色の花。
かわいいのだろうか。
いや、かわいくはないよ。
こどもがあとさき考えずつくってしまったみたいな、バラバラ感。
微妙。
邪悪キューピーだけでも微妙なのに。
わたしの携帯微妙。
「どうせ虹も出ず」なんて書かれた危険シールも貼ってあるので。
なんか、ひとの携帯を見ると、ほんといいなあ(何が)とか思ってしまう。
ストラップの選び方とか、待ち受け画像とか、おしゃれと言ったらおしゃれって何だって感じだが、こだわりがあるなあとかんじるのだよね。
それに引き換えわたしのキューピーはなにさ。
生活態度の投げやりさがこういう細部に現れるのね。
たとえばこのぐらいはいいだろうと思って少し汚れたバッグで出かけて陽の下で汚れっぷりのひどさに気づいて泣きたくなったりとかね。
会社の喫煙所に自作詩のメモ置き忘れたりとかね。
人から借りた本にコーヒーぶちまけて焦りまくって落ち込んで新しい本を購入して、ひとりで悩んで勝手に購入してしまう自分にまた落ち込んで、それを渡そうと持っていっても買ったことをなかなか言い出せずに最後の最後にテンパりながら渡すとかね。
いや、キューピーは一目ぼれして買ったものなのでいいんだけど。
そのときはなぜか邪悪さに気づかなかったのだけど。
うーん。
破壊型散漫。
まあ、妹と姉妹出来たのでよしとする。
姉妹だよね、わたしたちは、
と、馬鹿みたいにときどき確かめたくなるので。
姉妹的行為の果てにこの微妙ストラップが生まれたのだからよしとする。
大切にしましょう。

 *

東京砂漠ってなんか好き。

東京というかわたしの部屋が砂漠。
気を抜くと足をとられるぞ!
風が吹いたら砂嵐だぞ!
風が吹かなければ蟻地獄だぞ!

夜になると、音も光も遠のいて、暗闇で魔物の目が光ります。


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