戯言、もしくは、悪あがき。
散る散るミチル
ミチルは果てた
充電切れたら
今夜も寝逃げ

2004年04月22日(木) オレンジ

割れている夕暮れのちいさなひずみが
指先にとまって染みついた
どうぶつたちが湿った鼻を寄せては
鳴き声ももらさずそっぽを向く

尾の先がはねる異国の踊りに
目を離せないみつあみの少女
わたしは少女ではないから
握りつぶして夕暮れを飲み干す

夕暮れをかえす
おなかのなかに
ちいさなちいさな動物園を建てて
みなしごの仔ゾウを放し飼う
つぶらなひとみのうつす
とがった柵の先端に
赤い夕日がしぼんでいって
消えた
仔ゾウは寸足らずの鼻を伸ばして
おやすみなさいと空に書いた
閉まったままの門の向こうで
少女はそれをずっと見ていた
それから闇で埋まってしまうと
おやすみなさいとつぶやいた
うまれてはじめてのことばみたいに
ぎこちないくちびるが揺れ
少女はみなしごではなかったから
かえる場所にかえるころには
また いつものことばを取り戻した

ねえ わたしは
ねえ わたしは
オレンジを切るの
いくつも切るの
まっぷたつにして
また まっぷたつにして
皮は仔ゾウにあげる
果実は夕暮れにあげる
わたしは指先に染みついた
かすかにあまずっぱい残り香を
舌に乗せて
くわえて 満たすの
まだことばなんて知らない
どうぶつたちのやり方で

割れてしまったぎざぎざの
もうもどれない入り組んだ
くぼみのあたりでわたしは眠る
ひざと胸と首を抱えて
めがしらにオレンジを押し当てて
あまくすっぱい舌さきのうずきを
歯の裏にこすってなだめては
無いみつあみを揺らして眠る

仔ゾウが鼻を空へとのばした
傾きかけても太陽は
まだずっと届かないあたりで
柵のてっぺんも触われはしなくて
干からびた皮膚が土に汚れた
赤くはなかった
にじんでいった

皮は仔ゾウに
果実は夕暮れに
ぜんぶあげる
ぜんぶあげるよ

どうぶつじゃなかった
少女でもなかった
指先をくわえても
ずっとうずいた

染み付いた指先が
勝手にあばれて
割れたあたりで
眠りにとけた


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