戯言、もしくは、悪あがき。
散る散るミチル
ミチルは果てた
充電切れたら
今夜も寝逃げ

2004年01月22日(木) 指先まで雨雲が来ていた

彼女のてのひらはとてもやわらかくて
ちょうどいい湿り気を含んで
そういえばわたし 触れたことがなかった
わたしたちはなにひとつ つながったことがなかった

彼女のくちびるがゆっくりと動いて
何も発せずに閉じられるのを見ていた
それは海を隔てたどこか強大な国の
空を突き刺しているモニュメントに
輪投げをするような遠さを抱えていて
だから あきらめの瞬間まで
わたしも呼吸をしないで待っていた

彼女のくちびるはとても好きだけど
それは触れないほうがいいものだ
彼女の言葉を噛み砕かないほうがいいように
それがどんな意味でもわたしはうなずくのだし
結局何もわかってはいないのだから

後れ毛が
風を描いた
くやしいほど軽やかなステップで

渡らない方がいい橋があるって
彼女はわらう
向こう岸からわらう
うつむいた角度が日を傾けて
泣いているようにも見える
だけど これは蜃気楼だ
耳からつららの生えそうな真冬のさなかに
街を征服しようとする入道雲だ
ねえ きみはどこに立ってる?
ほんとはどこに立ってる?
わたしはどこから橋を見上げて
上げた足を下ろしもせずに揺れているんだろう
ゆらゆら それも 蜃気楼で
揺らめく影を見て彼女も知るだろう
わたしたちが何も話してはいないことを

くすぐるように空気が動いた

ふりむかないときの、その
かたくなな感じ
波にさらわれる砂粒のように街のなかにいて

朝の挨拶でもするように
ここはまだ橋のしただって彼女がまたわらうから
目のうえを横切った小鳥のせいにしてすこしだけ跳んでみた
あ って彼女がかすかに
言った くちびるが
ちいさくふるえた 遠くで信号が
いっせいに透きとおるのをわたしは見た

からだが風を描いた
ほんの一瞬だけ
彼女が手を差し出した
気が
した

彼女のてのひらはとてもやわらかくて
ちょうどいい湿り気を含んで
とても好きだとおもった
好きだとおもった

ずっと 揺れながら

蜃気楼だよ



2004年01月02日(金) あたらしいおわりのはじまり

自分の好きなものを見たり、聞いたり、触れたり、食べたり、
そうやって選び取って摂取していく作業っていうのは、
やさしくなるためにするんだなって思った。
ひとにも、自分に対しても。
これいいなって思う、その瞬間にほんの少しできた、
自分、自分、自分でいっぱいの脳みその隙間が、
ちょっとだけあったかくなることを許してくれるような気がした。
だからそういうふうに、
選び取ったものをひとつひとつてのひらでなでていけるような、
頬擦りしてありがとうを言えるような、
そういう年にできたらいいと思った。
すこしずつ。

 *

今年のはじまりは初日の出を見た。
ほんとうの初日の出。すくなくともわたしにとっては。
ビルと、薄い雲の間から、赤い光が拡散して、
やがて丸い輪郭がのぞいて、それがほんとうの円になる。
昇っていくに連れて、狂ったような赤はすこしずつ正気を取り戻して、
やがてそれさえ失って白い光になる。
その過程。
を、ずっと見ていた。

それから、日の出の直前の空のグラデーション。
きちんと七色に分解されて、
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、って、
地平線から(実際にはビル群だけど)頭の真上に向かって移っていく。
緑色の空なんてはじめて見たよ。
そういうものが存在しうることを、初めて知った。

たまたま一緒に見ることになったひとが、
「ね、こういうのはほんと、一番好きな人に見せてあげたいよ」って言った。
わたしは、そういうふうに思えるということは、
その相手の人をほんとうに好きなんだな、と思った。
素敵なことだと思った。
わたしはまだ、わたしと手をつなぐことでせいいっぱいで、
目の中を風景でいっぱいにしながら、
自分の心臓を一生懸命こねくりまわしている気がする。
それでも。
広がる空と、その下で影絵になるビルや電線と、空を飛ぶ鳥と、飛行機と、
偶然見えた富士山のうっすらとした影と、
すべてがにじみだして、やわらかくて、うれしかった。

とても寒かったので、煙草を一本吸った。
初喫煙。
煙草は暖を取る作業にはならないなと改めて思ったけれど、
美味しかったです。

 *

こんな新年おめでたい日に、
こんな辺境の日記を読みに来てくださった方がいるとしたら、
感謝感謝です。

あけましておめでとうございます、
今年もどうぞ宜しくお願いします。

(名前の占いをしたら、本名の画数は最悪の運勢らしい)
(絶対にうまくいかない人生らしい)
(でも向いている職業は詩人らしい)
(それが一番どうかと思うらしい)

小夜


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