銀の鎧細工通信
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2007年02月03日(土) 常秋 (山→土)

その嵐の中沈むよ。
愛されたい、想われたいなんて幻想を積んで。
積み上げた期待、自分の手で壊せ。
期待なんかするから、叶わないと苦しいんだ馬鹿馬鹿しい。
求めるものなんて手に入らない。
わかってるんだ手に入らない。
だったらもう、あとは気が済むまで見ていようと思ったんだ。
願ったって叶わないよ。
愛されたいなんて幻想だ。
沈むよ。もう沈む。
もうどうだっていい。
知った事か俺の感情なんて。
あの人の感情だって。
こんなのは泥の船。
沈むしか能は無い。
沈むしか用も無い。









 夜中の台所が好きだ。
 集団生活、1人になれる場所などそうそう無い。監察の部屋はある、仕事柄個室だって貰ってる。けれど部屋だと仕事の事を考えてしまう。余計な事も考えてしまう。ならば他愛無いことをしていた方が、考えても仕方の無い事を考えずに済む。
 山崎は大根を煮ている。骨付きの鳥を昆布出汁で葱と一緒に甘辛く煮ている。明日の朝はこの煮物と、ああけんちん汁を給仕のおばちゃんが作ってくれているから、後はとろろ納豆でいいか、などと考えながら大量の食べ物を作るのはいい気分転換だ。否、逃避だった。考えすぎるクセがある。しかも、考えたってどうしようもないことばかりをぐるぐると。溜息をつく、もう牛蒡の灰汁抜きでもしようかと思い出す。作業はいい、他の事を考えなくてすむから。夜中の台所はいい、ほとんど人が来ないから。来るとしても、大抵はどうしようもない事を考え込んで途方にくれているような輩だけ。そうすると、隊で誰かの様子が変だとか、何かに悩んでいる風だとかが、判るというのも結局は監察の仕事の役にたった。
(何をしてるんだかな)
 夜中の台所に山崎はいる。それを知っている人間なんか少ない。物思いで夜更けまで起きている人間だって少ない。書類仕事で起きている人間だってほとんどいない。はじめは山崎自身も書類のとりまとめに煮詰まって、大鍋で料理を作っていた事から、こうして台所で過ごすようになっただけだ。そう、夜中の台所に水を飲みに来たり、氷を取りに来たりする人間がいる事を知ったから。
(待ってるわけじゃない)
 考えても埒はあかない、どうにもならない。それなのに気がつけばまた考えている、同じ事ばっかりグルグルと。部屋の中に入るのも気詰まりで、出かけるのも億劫で、行き場が無くて溜息増えて。煮詰まっていく空気、飽和していく感覚。何処にも行けないと思い知るだけ。酒でも水でも、飲もうと向かった台所が明るい。真っ暗で静かな夜中の屯所の中、そこだけが明るくて人の気配がして、そこで気分転換ができる人間がいると知ったからだ。思いあがりといわれても、夜中に自分以外の誰かが起きている事を知って、少しでもほっとするのではないかという気がするのだ。
(ただ、俺がそこにつけ込みたいだけかも知れない)

(暗闇から顔を出すあの人は、いつも酷く泣きそうな顔をしている)

(それを知っているのが俺だけであればいいと思ってる)

(そんな顔を俺だけが見たいだけ)

(弱ってる時にいつも居て、そのことで)

(そのことで、あの人に入り込もうとしてる)

(俺だけが、いつもあんたの側に居るよ、って)

 あさましいな、と1人で笑う。自嘲ならし飽きた。自分でも解っていた、どうしようもない方向へいっちまったと。こんな風な事を望んでいたわけでもないし、どうするつもりだってなかった。男を好きになった事がそもそも初めてだった、どうするつもりもなかった。どんな感情だって永遠じゃないと解っていた。何も願わず、何をも乞わず、そのうち消えると思っていた。いつか消えると解っていた。解っていたつもりだった。
 そう、好きなのかもよく解らない。莫迦みたいに誰かを黙って想っている、あんな風に想われたいと思っただけかも知れない。実はただの同情かも知れない。人より他人を見ているから、気になって仕方が無いだけなんだとも思った。もう、それもどうでもいい。色恋なんてそもそもが気の迷いで出来ている。永遠じゃないと解っている。
 じゃあ夜をこうして過ごして、現れないとほっとするのは何だ?同時に残念に思うのは何でだ?夜中に人知れず、時間を共有したい。2人きりになることなんてそうそう無い。仕事時間以外で一緒に時間を過ごしたい。顔を見れたらうれしい、口をきけたら楽しい。あるいはこんな時間に現れるということは、グルグルと埒のあかない考え事で物思いしている証拠でもあって、そういう辛いばっかりの事なんて、もうして欲しくも無い。もうやめれば好いのに、と思う。もうやめれば好いのに、別の誰かを好きになれば好いのに、何であんなに盲目?盲目こそが色恋ならば、そんなに間抜けな事も無い。だったら俺も大概間抜け。
(解ってて止められないから、あの人はいつまで経ってもああなんだ)
 人を想う感情はいつも乖離する。辛い姿なんて見たくない、穏やかに幸せに過ごしてて欲しいと思う。その半面で、自分にだけ心を揺れさせればいいと願う。
(もう、いっそ俺を好きになれば好いのに)
自分の支離滅裂、自分の身勝手、山崎は自分を嘲笑う。見っとも無いものだ、こんな風に浅ましい願いを抱くなんて。そもそもが気難しい人間を想っているのに、相手の感情を無視して自分を想えばいいだなんて在り得ない事だと解っている。
(ただでさえ、ミツバさんを愛して忘れようとして、)

(そもそもそう思ったのだって、自分には局長が居るからいいと思ったんだろうし)

(幸せには出来ないと思っただろうさ、局長が一番大事な以上は)

(なのに局長を想ったってどうにもならないから苦しくて、)

(自分の気持ちから逃げたくて、万事屋の旦那が気になって仕方なくなってみたり、)

(隙だらけだから沖田隊長に振り回されるし、)

(あの人があんな風だから)

           
(誰も、どこにも行けない。)


(俺は、離れられない)

 色恋だ、愛だなんだ云ったって、とどこのつまりはエゴで暴力。自分はこんなにも不完全。手放しで相手の幸せなんて願えない。
 秋の夜長と云うけれど、夜はいつだって長い。いつだって、こんな風にグルグル考えて、待っているようで待っていない相反する想いで過ごして、叶いもしない願望抱いて、いつだって夜は長い。いつも夜は長い。じゃあ、じゃあ俺は万年秋を過ごしているのか?
早く枯れればいい。
枯れそうで枯れない想い。
枯れ落ちて、朽ちてしまえば楽なのに。




鍋をかき混ぜる。戸口で人の気配がした。
「・・・山崎」
何を驚いたように。
俺はいつも居るじゃないか。
あんたが起きて考え事している時だって。 

あんたが、こうやってグルグルしているから。
俺はいつも居るじゃないか。

「茶でも淹れますか」
「・・・や、コーヒー」

今日も夜は長い。明けないように長い。
もう明けなければいい。
ずっと夜でいい。
そうすれば、この人は俺のそばに居て。
そうすれば、もうどうしようもない事ばかり考えなくていいし。
俺だって、あなただって。
もうずっと夜なら好いのに。
ずっと秋なら、よかった。
ずっと秋だったら、よかったのに。
夜は長い。
だけど明ける。そのうち明ける。










続く

 山崎って、秋の花が似合う。桔梗、藤袴、萩、金木犀、銀木犀、彼岸花、菊、女郎花、葛・・・。
 いまさらですけど、相当に山崎が好きです。いや、まあこんだけ妄想してりゃ可愛いですね。
 こんだけ妄想→逃避の様に家事をこなす。料理上手で食べるのも好き。掃除も嫌いじゃない(ただ、几帳面な性質ではない。多少散らかっててもいい人)、凝り性だから何をやらせてもうまい。変装のための勉強が高じてコスメも好き、人に似合うものを考えるクセがあるので、女としては時に厄介で時に重宝。うるさくない程度に話すし、気もきく。基本的に不言実行。1人で悶々とする上に、気を遣う性質なので、それが時々気詰まりに感じられる。だからといって繊細なわけではなく、どっちかというとクールでドライな現実主義者。恋人だったら完璧なんだけど、その分刺激を求めて浮気されるタイプ。などなど。

 書きながら考えていました、主要キャラがほとんどゲイかバイになっちゃってるんですね、私の銀魂って。いや、それは流石におかしいだろうと。ホントこれも今更なんですけど。土方に総当りさせてた時点で気が付け、と。
 まとめてみましょう。

土方:
 近藤さん大好き。一方的に愛しすぎて、ちょっともう愛じゃなくて信仰。だからミツバさんも愛してたけど、女とどうこうなる気がない。近藤さん最優先だから。「面倒臭い」、で女と寝ることもあまり無い。
 基本的にはヘテロ。なのに女を面倒臭がって、ちょっかい出してくる男とやっちゃうタイプ。女よりも、男文化のほうが好きだろうから受入れ度は高い。総受け。
 近藤さんを好きなことから逃れるためも含め、持ち前の受身精神から、気になっているのは銀さん。振り回されるのが快感なのでしょう。銀さんへは憧れみたいなものも有りつつ、反発もしている。基本的に限りなく一方通行の生き様。
 沖田に関しては可愛いと想っているんだけど、年々手におえなくなって動揺しがち。その動揺に味をしめて更に沖田はちょっかいを出してくる悪循環、お前ら2人とも大人になれ。ぐだぐだな愛憎が昼ドラな沖土。お互いがお互いから卒業しないとこの先も長いこと大変。
 山崎は可愛い部下です。有能なので大事にしてます。うすうす土方本人も、山崎をかなり精神的に頼りにしているのは解っている。他にああいうさりげなく頼らせてくれるタイプが居ないので、虚勢の塊の土方にはありがたいはず。そういう人物に云い寄られると困惑するし絶望するけど、やっぱり他に頼れる人が居ないので山崎に冷たく出来ない。そういうトコとか、色々と実はだらしないタイプだか、本人に自覚は無い。

銀さん:
 元々へテロなバイ。女も好きなんだけど、今はお登勢さんが大事だし、神楽が大事で他の女に興味は薄い。やることはやっても継続的にどうこうという気が無い。ていうか、銀さんの周りの女のアクが強すぎるから、どうこうなりたいと思わないだろう。攻めでも受けでも。
 土方とは似たもの同士。だけど違う道を選んでいたり、自分が無くしたものをまだ抱えてたりするから、黒い感情で土方が気になる。普通にからかっても面白いとか思っているといい。
 恋愛感情は元々薄いタイプ。仲間を大事にするとか、そういう感情のほうが強いので特別をあまり作らない。その辺の物足りなさや、放任のスタンスから「本当に私のこと好きなの!?」とか云われて見捨てられている事が多い。銀さん自身は愛情深く接していたつもりなので唖然。女心にも男心にも疎いといい。それなのにニクイ真似は得意なので、結構誑しと見做されがち。

近藤さん:
 ヘテロ。別に女好きなわけではなく惚れっぽいだけ。見る眼はあるのかないのか微妙、いや、あるんじゃないかな。
 いい男だけど基本的に暑苦しい。支配、拘束をしないタイプで愛情深いので、結婚するなら彼でしょう。受け寄りなんじゃないのかな。絶対カカア天下になると思う。
 鈍いので(ここももてない要因)、土方の感情には気がついていない。慕ってくれているとは解っている。別立てで高杉がいるんだけど、心配が高じて放って置けなくて、いつでも気にかけている。色恋のつもりは無いんだけど、高杉が乙女なので時々ウッカリ過剰スキンシップを取ってしまって1人で焦っている。うっかりチューとかしちゃう。

沖田:
 ゲイでもないがヘテロでもない、ただとにかくシスコン。愛情深いのではなく執着心が異常なほど強い。ミツバさんの死でひとつの執着からは解放されたので、土方が落ち着くことで色々と解放されて自分の人生を始められるであろう不憫な少年。
 土方はスキとか愛ではなく、固執しているだけ。情動が片輪。執着が高じて何でもする。忘れられるくらいなら傷付けるタイプの典型。幼稚な愛情では土方が好きなのだろうと思う。早く解放されて幸せになって欲しいものだ。若いのでこの先化けるでしょう。セクシュアリティはその時形成されるんではないか。今のところは総攻め。

山崎:
 ヘテロ。優しすぎて物足りない、とか云われて浮気されて捨てられがち。何考えてるのかわからない、が別れ話で云われる筆頭台詞。それ以前に山崎自身が物足りなくなって愛情としては薄れやすい人だと思う。そういう意味ではかなり薄情。嘘も吐き通せるので、割り切った関係も多かったはず。
 上でも書いたけど、土方のことは好きなのか微妙。土方が見るに耐えないので気にかけている節あり。これで両想いになったら、土方のことはどうでもよくなるかも。理路整然とした聡明な性質なので、意味不明な土方が意味不明に気になる。上司としては慕ってます。ものにしちまえよ!
 受けでも攻めでも、の飄々タイプ。陸奥と仲良し。女とは良い友達のままも多い人、別れた元彼女とも付き合いがあるであろう。

坂本:
 バイ。女も男も大好きの来るもの拒まず去るもの追わず。永遠の愛の狩人、だから追いかけるのも好き。愛の限界量無しの愛の大洪水タイプ。本人は色恋でヘヴィな思いはしなそう。でも刃傷沙汰や修羅場は多く経験している。花から花への蝶々ですから。浅く広くが得意。深入りしてのめりこむと、1人に絞らない坂本に振り回されて泣きを見る。
 攻めですね。陸奥相手には受けだけど。陸奥とは仲良し、2人ともあっさりしているのでセックスもする友達で仕事仲間。だけど坂本にしては珍しくかなりお気に入りなので、そういう意味では陸奥は特別な存在。

陸奥:
 バイ。性愛のゲリラ。好奇心でセックスする。1人をべったり愛することは無い。愛でるのが得意。場面場面で人の性質を使い分けるので、割り切った関係が多い。相手もそれを理解できる人間を選ぶので、修羅場は少ない。
 山崎がお気に入り。賢いし情報通だし、気がきくので日頃気を遣って切り盛りしている身には癒し。でも山崎の気持ちは知っているので寝ない。うちの陸奥は、私が書くキャラをほとんど喰っている。神楽、新八は銀さんが大事にしているのを知っているので手は出さない、そもそも子どもに興味がない人。さっちゃんはガチンコのMっぷりに付き合えそうも無いので食指が伸びない。こうみえて、やっぱり坂本は大事な存在だし、大事にしている。
 銀さんもだけど、天人とのハーフという設定。

高杉:
 ヘテロだったけど、気がついたらゲイだった人。なので一応バイ・セクシュアル。性より人格を重視する性質。なので芸妓さんとセックスしたりはする。
 愛情はかなり深い。執着気質。本人はそれをなくそうと必死なので、大事に想う人や執着するものを作らないように頑張っている。でも愛情や信頼関係が無いと足場が崩れてしまう弱い人。家庭に落ち着くのが幸せなタイプ。受け。
 近藤さんが心配してくるのが泣くほど嬉しいが、本人はそれを突っ撥ねるのに必死。もう何も誰も愛したくない人。愛に裏切られた未亡人みたいな感じだな、笑。死んだ夫は鬼兵隊。

桂:
 ヘテロ。幾松さんとエリザベスが好き。どっちも受け。性愛経験は少ない人。たぶん、うちんトコで一番幸せ。受け。


大雑把に。いや、これでも大雑把な設定なんですよ。
うーん、ヘテロと見做している人が多いのに、どうしてこんなにゲイとバイまみれになってるんだ・・・。


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