銀の鎧細工通信
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2006年07月18日(火) 烏 (陸奥山崎→土方)

ゴムの先端の空虚に吐き出された白い精液。
手にとるソレを無造作に奪い、溜まった先端をつまんで振る。
「おわ、何しゆうがか」
がっしりした骨格、あぐらをかいた姿勢で俯いて顔を拭う。
「・・・顔射・・・?」
どうでもいい風に、適当に過ぎるほどの(本人も馬鹿馬鹿しいと思いながら云っているのは明白な)声で答える。
「目に入りゆうとしみるんがじゃ!」
イデデ・・・とぶつぶつ云いながらティッシュに手を伸ばす。
「そがぁなモンぶちまけとるんきに、別に痛いくらいで騒ぎよるな」
淡々と告げ、シャワーを浴びに行く。
目的地は地球。補給のための短期間の滞在だ。
坂本は好きだ。坂本の体も、セックスの仕方も嫌いではない。
だからどうということもなく、それはそれだ。
無いもの強請りにはキリが無い。それが解っているから根こそぎ喰らって回遊する。
あのちっぽけ星では、負けちまいそうな目をしながら、あどけなく笑って怒って黙って押し殺して、必死に生きている輩がいっぱいいる。
「さて・・・」
独り言はシャワーの水音にかき消された。のっそり入ってきた坂本と押し合いながら交互にシャワーを使う。







(呼び出し音)
「はい、陸奥さん?」
「ああ。息災にしちゅうがか」
「ええ、そちらは?って訊くのも野暮ですね。元気にしてますよ、みんな」
「みんな、ね。おまん、出て来られるか」
「え、ああ、大丈夫ですよ、30分ほど後になりますけど、それでよければ」
「解った、30分後に迎えに行くきにゃ」
「は?迎えにって、屯所にですかぁ!?」
(通話ボタンを切る)



空虚な音を耳に残して電話が切れる。
「唐突な人だな・・・相変わらず」
仕事の振りをして外出するつもりだった、陸奥の派手な車で屯所の前に乗り付けられてはかなわない。仕事を手早く片付け、身支度をしておそらく、と見込んだ道で待ち伏せる。
30分の少し前、予想通りの道で出くわす。
「フン、やっぱりおまんの30分は、それよりも早う動けるんじゃき」
黒いパンツスーツ、派手な車に目立つ容貌。
(変装でもして来ればよかった・・・オープンカーとはね)
「そのことよりも、陸奥さんが通る道を予想成功したことに気を向けてもらえませんかね」
開けられたドアに乗り込みながら、どこかでいつも覚悟を決める。
「生意気云うもんになりよったちゃ」
速度は出すが、滑らかな運転はたいしたものだ。流石に無類の船好きにして船酔いの猛者の右腕を務めているだけはある。いや、脳を務めているのかも。
「何処行くんですか」
まともな答えは返ってこないだろう。

「おまん、こがぁなちっぽけな星で、何をしたいゆうんじゃ」
速度を乗せた風に、珍しく声が大きいものになっている。
「別に、何をしたいとか、そういうの無いですよ、ただ少しでも守りたいだけです」
またいつもの、何処から出ているのか判らない声音で笑われる。
流された目線は洗練された仕草。なのに、ぎらりとした金緑の瞳が何ものにも染まらないと主張し、鈍く輝く。
「まーったく綺麗事塗れの世の中じゃなぁ、嘘は挨拶代わりか?臆病騙し込む技術か?」

「どがい了見じゃ。おまんの守りたいものは、何じゃ」

金灰の髪が豊かになびく。光を受ければそれは白く輝いた。
浮かぶのは、真っ黒の影。
「云わせたいんですか、それとも云うとでも思いましたか」
上げた口角は、偽り無しの意地と矜持。この仕事をしていく上で必要なスキル。
また笑い声が互いの距離を震わせる。
「こん仕事終えたら、何処か遠くへ向かおうちょったがよ。誰ひとり顔も知らんとこ」
血気盛んなくせにクールぶって、弱い烏。
せせら笑う奴ごとなぎ倒し、逞しく羽ばたく白い鳥。
「山崎。おまんが呼ぶんじゃったら、さろうてやる」
強い翼が風を呼ぶ、宇宙まで駆け巡る風だ。
「はじまりば告げよったあの日まで、さろうてやるがぜよー・・・」
逆光で見えなかった顔は、おそらくそれはそれは美しく微笑んでいただろう。

ああ、仮初めの城に召抱えられた、ちっぽけな侍。
白昼の光に晒され何処へいけるというのか、あなたでさえ惑い続けて伸ばせない手と逸れる事無く。
始まりの日とは、出遭った日なのか、自分の感情を自覚した日なのか、刀と引き換えに首輪をつけられた日なのか。
ああ、こんなちっぽけな自分で、あなたを守る事は出来るのか。
くらくらとするのは眩暈だけでなく、自信が無いから。
ぎらついた目で子どもみたいにあどけなく笑っててよ、負けちまいそうなんだ。
臆病な心を騙し込んで、云わずに側にいる。笑っていてよ。でなければこんなちっぽけな自分ではー
「ツバサ、欲しけりゃくれてやるきにゃ、タダとは云いよらんがな」
ビシ、とこめかみに思いきりデコピンを喰らわされる。
「俺はいいですよ、俺は、いいんですよ」
はぐれないように、はぐれないように、見苦しくダイブした泥沼を泳いでいても、空虚よりはマシだ。
惑う手と、惑うあの人とはぐれるくらいなら。
「だって宇宙じゃミントンは出来ないでしょう?」
にっこりと笑う。
また陸奥が低く笑った。眩んだ目は、白と黒のコントラストで見えなくさせる。











「君がやさしさを欲しがり
 白いツバサを呼ぶ時は
 いつかはじまりを告げたあの日まで
 君をさらうよ」









天野月子「烏」








END
天野月子5周年オマージュ連作終了です。
曲を聴いていない方には色々とさっぱりだったと思います、お付き合いくださり、ありがとうございました!
「この仕事(ヤマ)終えたら何処か遠くへ向かおう
 誰一人 顔も知れないとこ」という歌詞があり、ああこれは私が書くキャラでは陸奥しか云えない・・・と云うことで、案外に好きと仰ってくださる方が多い陸奥(&山崎)で書いてみました。
仕事から帰る道々では、聴きながら脳内はバリバリ陸奥坂本で陸奥山崎で山崎→土方だったのですが、物凄い勢いで妄想していたのですが、いざ書くとくそう・・・な出来になってしまいました。
でも陸奥を出すと、派手になっていいです。笑。

7月15日のあなた様。
あはは!ラビミラを目当てで訪れてくださったことも嬉しくて仕方がないのですが、銀土を読みふけってしまっただなんて、もう本当に素的コメントに撃ち抜かれました。
ラビミラもかわいく書ける楽しいカップリングなのですが、本誌での絡みとは全然違う妄想でした。苦笑。
シリアスなラビミラも書きたいと思っております。ちょっと私がリーバーミランダ比率が高いもので、どこまで絡められるかが難しいですが。というよりも、ラビとエクソシスト・黒の教団との絡み自体がかなり書くのに覚悟を必要とする展開なもので、原作が。燃えばかりが空回り気味です。
銀土をお読みくださってありがとうございました!

7月16日のあなた様。
もう本当に、しばらく書いていなかったカップリングでメッセージを頂くと、嬉しさのあまり俄然妄想欲が湧いてきます。苦笑。
元々、高杉で一作・・・とは思っていたので、早速書けたのはあなた様のお声のおかげです!!
本当に三者三様のもどかしさ生きにくさ哀しさ、それらが絡み合うと織り成される切なさ!と鼻息も荒く楽しく書けました。笑。
うれしいお言葉、本当に有難うございました!!

BGM:天野月子「烏」

本当に趣味に趣味を重ねた多重パロディ、お読みくださった皆さまに感謝!感謝!でございます。
実は銀鉄火の今一番熱いジャンルは「太蔵もて王サーガ」です。笑。
でも自分では絵も文も書けない気マンマンなので、銀魂とDグレ、ただ単に山本受け!というものをちょぼちょぼいじましく書いていこうと思っております。
御気軽にメッセージをくださいませ。活力でございます。苦笑。


2006年07月14日(金) 風船 (近高そよ)

昔は、他愛なく喜べた。
豪奢な着物、きらびやかな髪飾り、繊細なおもちゃ、どれもこれもが幕府に取り入ろうとする天人からの貢物だとは知りもしなかった。
両手いっぱいに抱えて、きれいね、素的ね、そう微笑んでいられた。
それを女中の子に与える事も、なんとも思わなかった。
傲慢さよりも、残酷な汚らしい物を喜びとして人に分け与える事を見ていた女中は、真っ暗な夜に不憫だと泣いていた。
どろどろと腐敗して、歪んだそれらを、私は今も手放せないでいる。それらが溢れかえった中に居る事しか、私には出来ない。
きらびやかな毒。嘘。はりぼて。お飾り。見世物。埋もれて窒息するまで、朽ちるまで。


昔は、それだけで良かった。
粗末な道場、ひしゃげた竹刀、ありったけの夢や希望や、そういう力強いものを両手いっぱい体いっぱいに抱えて、それを竹刀や木刀にぶら下げて歩いた。
真っ暗な夜でも、きらめく夢がいつでも星のようだった。
今だって、変わらない。誇りと恩義に報いるという輝きを抱えて、刀ぶら下げて、歩いている。
なのに、きらめく星を信じているのに、その星に傷付いて血を流している人間に出遭って、しぼんでしわくちゃな顔しかめて、ためいきを吐いてしまう。けっしてその星は手放せないくせに、その星を見上げて走っていくしか出来ないのに。
瞬く星。煌きは強く、時に消えそうに明滅する。偽善。欺瞞。自己保身。誇り。意地。侍。


昔は、大事なたからがあった。
掴んだと思ったら指からすり抜けて、その向うで笑っていて、だからいつでも両手を伸ばして飛び込んでいけた。走っていけた。
真っ暗闇でも道しるべはだけはいつでも確かだった。
貰った紙風船、いつも下手で、思い切り吹いていくつも割れた。後悔してくやしくても、笑って、弾けた継ぎ目を張り合わせてくれる人がいた。
きらめくたからは、無残に潰された。奪われた踏み躙られて殺された。辻褄合わせのようなでっちあげで、破り裂かれた。
今は直してくれるたからは、もういない。無残に割れた風船に埋もれて、片付けられなくて、抱えても抱えても抱え切れなくて、手から落ちて足もとに散らばって散らばって、腐っていっても片付けられない。
埋められない死体。弔えない魂。消えない憎しみ。もう、何も見えない。足もとの屍以外。








「探したぞ」
気配を消さない癖のある男は、気が付いているのを承知で襖を勝手に開けて入室し、そっと襖を閉めた。
外では雨あしが強くなってきている。雨どいを滴る雨だれの音が乱れてきている。
「最近は陸に居なかったからな」
とっくりからそのまま酒を煽りながら応える。
「オカ」
高杉の言葉を丁寧に発音する。
「坂本と同じ云い方するんだな」
狙っているのだかいないのだか、いつも核心や的には触れてこない。誘導尋問ではない、下手な気遣いだとはとっくに解っていた。だからこそ苦い顔になる。
「知るかよ、そんなの」
吐き捨ててまた酒を干す。ちらばった空のとっくりに眉を上げ、「喰ってるのか」と訊く。「関係ないだろ」と云えば「ある。死なれちゃ困る」と即答する。「幕臣としてだからじゃないぞ、何度も云わすな」というオマケ付きだ。
先に云われて舌打ちをすれば、紙包みから惣菜を取り出す。いくつも、いくつも、小鉢に入れられた食べ物。最後には一升瓶。
「喰うぞ」
割り箸を投げられる。空になったとっくりに一升瓶から酒を注ぐ。
(大して強くも無いくせに)
と思えば「猪口の代わりにとっくりを使うのは流石に初めてだ」と変な声を出した。
鼻で笑ってから一升瓶を見る、思わず「随分と高級な酒じゃねぇか」、と呟いてしまった、それで後悔した。
「おう・・・中元で、頂いた」
また後悔した。不愉快な感情が満ちてくる。
(イタダイタ、だと?)
もらった、ではない。この古臭い武士道魂引っさげた男だ、口調に出る。
(幕府か)
だいぶおぼろげになってきた造作とは裏腹に、ぼやけたからこそ印象だけは鮮烈に焼け焦げたように刻み込まれた少女の面影がよぎる。
どこか気まずげに、それでもわざわざ云うのは、あの少女が関係してるからだ。
口にしたくなど無かった、云ったら近藤の思う壺だ。
「あの小娘も気が利くようになったもんだ」
喜びと痛みが混じったような顔で、伝わった!と云わんばかりに近藤がぱっと顔を上げて笑った。
また後悔する。
後悔してばかりだ、何もかも。全て。後悔してばかりだ。全部もうどうしようもなくなって、壊れて、両手からこぼれ落ちて、終ってから。
「伊達に天人どもとの外交で生きながらえてるだけあって、世渡り上手なこった」
後悔するから毒を吐く。後悔を誤魔化すために殺す。
前に走っている振りだけする、もうどこに進めばいいのかも解らないのに。もう壊すだけしかないのに。
「別にお前宛てじゃねぇんだ、嫌なら呑むな」
隊の誰にも見つからないように隠し続けて持ってきたのによ、とぶつぶつごち始める。もう酔いがまわり始めたのか、それともコイツも強く鈍くなってきたのか。ちりりと痛むのは、酒の所為だと思う。
「呑まねぇなんて云ってねぇだろ、俺には関係ねぇ。酒にも関係ねぇ」
とっくりから喉に流れる酒は、芳香が瑞々しく口いっぱいに広がり、後味は水の様にすっきりとしている。
「旨いな」
と無愛想に云って惣菜に箸を伸ばし始めると、近藤の姿勢がくつろいだものになった。
「そうそ、酒に罪はねぇんだよ、ほれ喰え、これも、こっちも」
(銀時と同じ云い方しやがる。酒に罪はねぇ、か、久々に聞いたな)
毒にならない言葉は吐けない。
「なぁ、三味線弾いてくれよ」
だいぶご機嫌な口調で云われる。
(万斎もロックだなんだ云って弾かせたがる・・・どいつもこいつも)
余計な毒も吐けない。
話す事など無いのに、それでも自分を探して逢いに来る。
話す事など無いのに。
話す事が無いから、三味線を弾いてしまう。



「あり?もう空だぁ」
御互い相当に呑み(それでも既に呑んでいた高杉の酒量と、一升瓶の半分も行かない近藤との酒量ではだいぶ異なるが)、呂律が廻っていない。
「もう今日は満足だ・・・」
熱いため息をついてごろんと横になる。寝転がって横を向いているのに、ぐわんぐわんと頭が揺れるようだ。雨音がぼわぼわと鼓膜を振るわせる。
這いつくばったままでずりずりと近寄ってきて、背中からぎゅうと抱く。
「暑ちぃ、触るな」
脱力気味の手で腕を打つが、気にも留めない。
「なぁ・・・空っぽになっちまった分をさ、また注ぎ足すことは、できないのか?」
奪われたきらめきを?
殺されたたからを?
割れた風船を?
「何吹き込んだって、破れた風船じゃ意味ねぇだろ」
逃げてしまったしあわせ。
失くしてしまったひかり。
大きく破れた紙風船。
何を吹き込めば埋まる?
(戻らない、戻らないから俺は)
「代わりになるモンなんて、ねーんだよ」
刀に手を伸ばしたが、指先の僅かな先で、届かなかった。手を伸ばすのは、もう刀しかない。暴力しかない。殺すしかない。壊すしかない。
許さないことでしか、生きていけない。

わたしには、ころされるかちもないということを、おしえてくれた

許さないこと、誰を?何を?

「代わりなんて、無理だよ、だからまた違うモンをだよ・・・だってお前は、生きてるんだから・・・」

いきている?

俺が?

あの人は殺されたのに?

あの人が殺されたのに?

鬼兵隊の奴らも殺されたのに?

俺が?

許されない。

許さないのは、俺自身。

それでも、おれはゆるさない

云われた言葉と云った言葉が混線して頭の中で噴出する。


「風船?高杉ぃ・・・風船ってなんだ」
今になって、会話が噛み合っていなかった事に気が付いたらしい。無視していたら勝手に続ける。肩口にうずめられた顔が熱い。
「したら・・・はっつけて直してやるよ・・・俺、けっこぅ・・・得意なんだぜ・・・鈴入れてみたりよ・・・」
雨は止んでいないが、薄日が差している。その光に目が眩んで、きらきらとした紙風船がぽんぽんと弾み、可憐な鈴の音が鳴るのが、見えた気がした。
気のせいだけれど。










「星くずが泣いてまっくらになる時は
 あなたへと運んで
 わたしの風船」








天野月子「風船」






END
天野月子5周年記念、5枚同時マキシリリースシリーズ。ちょっと間が空きましたが、ようやく4作目です。次でいよいよ5作目だぁ!(何のノルマかって・・・ファンとしてのオマージュです・・・)

7月14日
近高を気に入ってくださったあなた様。
おかげさまで早速書ける気になりました!
本当にパラレルな組み合わせなのですが、そよ姫との関わりともども、私も気に入っている関係性です。
拍手メッセージ、本当に嬉しかったです!
新鮮だなんて・・・!妄想の方向がおかしい、とか自覚もあるものですから・・・苦笑。
原作での高杉の動き次第ですが、どうにも進みようが無い3人です。
お互いを無かった事にもできないほど因果な関係といいますか。
このじれったさ(いえ、私の書く銀魂は誰も彼もハッキリしないし、じれったいのですが)、少しでもお気に召せば幸いです。
本当に有難うございました!

7月13日のあなた様。
ありがとうございます!
どうも山崎のキャラクターをうまく書けないといいますか、山土のガチンコカップリングでは動かしにくいので、ついつい陸奥山崎土方、となってしまうのですが、山土は個人的に好きな組み合わせです。
また腹黒めなかっちょいい山崎を書きたいのですが、実は次の予定はまた陸山→土だったりします。
よろしかったら「こういう山崎が好き!」なんてお聞かせいただければ、とても幸いです。参考にさせて頂きます・・・!!苦笑。


ああ、レスがしっかり出来なかったりするくせに、メッセージは本当に嬉しいです。
拍手ボタンを押してくださる皆さまも、本当にいつもありがとうございます。
活動が遅々としているもので、一気に励みになります。

BGM:Cocco「ザンサイアン」


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