銀の鎧細工通信
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2006年04月28日(金) とるにたらないもの (銀土)


「やーホント大変。どしたらいいワケ?あれ」
耳慣れた、しかしこの場所では馴染みが薄い声が耳に飛び込む。
「うーん・・・季節的に仕方がないものですしねぇ、やっぱり地道に・・・」
「山崎ぃいいいいい!!おめーは何また部外者入れてんだぁあああああ!」
開きっぱなしになっている襖から、先ず足を突っ込む。
どす、と背中に踵がぶつかった。
「わ、いって」
「上司の不当暴力はんたーい」
ほぼ同時に2人の間の抜けた声音に応じられ、一気に頭に血が上る。
騒いだところで暖簾に腕押しな奴らばかりだ、疲れるだけ勿体ねぇ、と心の中で唱える。
「いえね、旦那のところのあの犬、ほら今毛の抜け替わる時季じゃないですか。もー大変だって云うんで」
器用に、胡座をかいたまま体をねじって見上げて応えた。
背中に押し付けたままの踵を背骨にぐりぐりと力を込める、あだだだだだと前のめりになって逃げようとする。
「そんなことは訊いてねぇ」
ぎろりと卓の向かいに居る人間を睨み付けた、おじゃましてまーすとだるそうに云う。帰れ、出てけ、今すぐ、と三段論法を出来るだけ淡々と口にする。
「ひっでーなぁ。オマワリサンは困った市民の味方じゃないわけ?」
ずず、と音を立ててすする湯飲みは、来客用の物の中で既に銀時専用の様になっている。誰が毎回これを使ってわざわざ茶を出すかといえば、云うまでもなく無駄に有能な隊の監察なのだが。
土方といえば、月末の報告書の作成でここ2,3日の寝食が記憶にない。つまらない案件ですら、きちんとした体裁をとるための苦心は最早作家の脱稿ハイに近い精神状態である。
「生憎うちは特別武装警察でなぁ、ご家庭の事情は同心のところででもやってもらいてぇもんだ。というか同心の詰め所でも相手にされねぇよ莫迦野郎、動物愛護センターにでも行きやがれ」
云って聞くような輩でもない。云うだけは云った、と取り敢えず風呂へと向かっていた足を元に戻す。
背中の方から「うちの実家で飼ってるのは地球の猫ですけどね、それでもそりゃ大変なんで、あの巨体の抜け毛って深刻ですよねー」「クッション作れたぜ昨日なんて。座布団だの服だのにくっついた毛はとれねぇしよー」「ああ、洗濯じゃあ無理ですよ」だのと聞こえるが、もう意識の網に引っかからないよう何かの物音だと認識することに努めた。
(頭いてぇ)
自分が融通の利かない性質だとは半ば理解しているものの、こうまで日常に侵食されて平然としている隊の人間の気づもりはさっぱり理解できない。自主的に通い詰める近藤や、自発的に因縁をつけに行く沖田はともかくとして、何故に他の隊士まで受け入れるのか。
民間人の、それも疫病神のような人種に出入りされては、ただでさえ評判の芳しくない隊が、どんな目で見られ、どのような邪推をされるか解ったものではない。
(いっそ部外者立ち入り全面禁止にするか?それはそれで閉鎖的だの中で何してるか見せられないのかだの云われるし・・・くそ)
ぺたぺたと廊下を歩きながら、つい煙草に火をつけてしまう。
不要な気苦労など真っ平だと口にしつつ、自ら背負い込んでいるのは自身なのだと周囲は云う。

「土方くんが気にしすぎなんだよ、見てるだけで疲れるもんな」

いつか云われた言葉が甦り、不快が増す。
(余計な世話だ)
張り詰めていた神経はぴりぴりと尖り、最後に食べた記憶も胡乱だが空腹は感じられず、ようやく思うままに眠れるというのに眠気も感じられない。
書類が完成したのが夜明け近く、9時まで1人で呑み、一時間ほど本を読み、当然湯は抜いてしまっている時間なのでわざわざ溜めるのも億劫でシャワーだけで済ませる。
それでも大分さっぱりし、さぁどうするかな、と思いながら自室に戻れば、
「おかえりー」
「何で今度はここに居る」
自室の敷きっぱなしの布団の上でくつろいでいる姿に瞬間的に言葉が出た。
「仕事で張り詰めた緊張をほぐしてあげに」
と、台詞だけはB級ポルノ紛いの白ける媚にまみれているというのに、口調はまるでどうでもよさそうなのがつくづく癇に障る。
「そりゃどーも。てめーがやりてーだけなのを摩り替えるな」
のばしてくる手を押しのけながら、首に下げたタオルで頭を拭きつつ灰皿を手繰り寄せた。
「ほらほらいーから。いれてあげるよ」
薄ら笑いを浮べながらまつわりついてくる。その言い草にも、勝手放題にも実に腹が立つが、セックスするのは構わないな、と感じた。
「あーうるせぇうるせぇ!煙草ぐらい吸わせろ!」
肩やら腰に回される手を振り払い、それでも口付けられれば応じ、舌を絡ませながら火のついた煙草が触れないように手首を捻って離す。目など閉じない。
「煙草消して」
妙に甘えた声を出すのが気色悪い。
「はじめからこういうつもりで来たのか」
無視して深く煙を吸い込む。
「いんや、なんかテンション変だったから、付け込もうかと」
セックスするのは全くやぶさかでない、しかしいちいち言い草はむかっ腹が立つ。舌打ちをして煙草を揉み消した。

「うわ、がちがちじゃん」
張り詰めた性器に触れて、驚いたような声を上げる。
「あー・・・」
そんなことわざわざ云われてもなぁ、と思いつつ、腰の奥の重ったるさの方に気がとられる。
深く咥えられ、舐めあげられるとくらりとするほど気持ちがいい。下半身にばっか血がいっちまってるのか、コレ、とうんざりするような心境で自嘲する。
いつもなら押し殺す声も自然に漏れてしまう。勿論真昼間の屯所だ、書類に取り掛かる頃から人払いはしているものの、誰かに聞かれる可能性だってあるというのに。
くくっと小さな笑い声が覆いかぶさられた顔の上でした。
「かわい」
「うるせぇよ・・・血迷ってんじゃねぇ」
あまり丁寧なセックスはしない。
多少体を慣らし、挿入できる状態になればだらだらと愛撫を施しあう方が気持ちが悪いと思ってしまう。
(だってそういう関係じゃないだろうよ)
照れくささではなく、違和。
外で会う時などは、互いが射精してしまった後に、よがらせて楽しむ、というような事もあるが、大抵は短時間ですっきりするだけの限りなく排泄行為だけのようなセックスをする。
足をつかまれ押し広げられる。挿入される前はいつもぎくりとする。
唾液を絡めた指でまた少し準備をされれば、「あんだけ舐めてやったんだから入るだろ」と気まずくて口に出す。気遣いも落ち着かない。
ぐぐ、と押し込まれる圧迫感に声が出る。
「あ、あー・・・」
「痛い?」
動きを止めて、訊かれても「痛くねぇ、大丈夫だ」としか応えた事はない。
骨張った肩が目の前にあり、何となく舐めてしまう。脇腹に指を走らせ、腰に足を回す。
「んっ・・・あ、あっ、〜〜・・・気持ち、い・・・」
唇をふさがれると、そのまま顎を持ち上げられ何度も長いこと舌を絡ませあう。ぷは、と濡れた唇を離しながら「素直だねぇ、気持ちいいの?」と笑いを含んだ声が降ってくる。
「ああ」
親指が唇をなぞるので、それにも舌を這わせれば、口内に差し込まれる。
「もっと顔見せて、よがってる顔見んの好き」
ぴちゃぴちゃと音を立て、舌の動きが見えるように舐めながら横目で睨み付ける。口から離さないまま「気持ちわりーこと云うな」と指に噛み付く。
すんでのところで云うのは留めたが、
(あー気持ちいい・・・幸せ)
とよぎった言葉に虚を突かれた。
(まあ、気持ちがいいのは、悪い事じゃねぇよな・・・)
改めて納得するように思いながら、奥まで入り込んでくる銀時に背筋が震えた。
(覚えたての頃じゃあるめぇし、そうそう切羽詰ったセックスなんざしたくもねぇな・・・)
どうせするなら気持ちがいい方がいいが、心を込めてセックスをするような相手ではない。
そんな相手とはセックスをしていない。
(あ、山崎は丁寧すぎていっそ後ろめたくなるな・・・。坂本も気を遣ってくるけど・・・って最近坂本としてねぇや)
嬌声をこぼしつつ、自分が男ばかりと寝ていることにうんざりする。
(何でだ・・・しかも入れられてばかりだ)
ふいに感じるところを突かれ、大きい声が出る。はっとして口を噤みながら銀時の限界が近いのだろう、と思って締め付けをきつくすると、予想通り息だけで喘いだ。
「出してい・・・?」
「あっ・・・あ」肯くと土方の性器をやわやわと握りこみ、しごきあげる。
息を詰めて銀時が射精したのを感じると、土方も腰の裏が大きく揺れて吐き出す。
息を切らしながら、濡れた腹を撫でて「いっぱい出たなぁ」としげしげと眺めながら云うので、「そうだな・・・」と余韻に浸りながら応える。
(間抜けだ)
手だけでティッシュの箱を探って手繰り寄せ、
(セックスってのはなんて間抜けなんだ)
と実感しながら腕で銀時の胸を押し、「抜け」と云った。



それからもう一度セックスをすると、急に疲れを感じ、
「あー疲れた」を連発しては「感じ悪ぃな、オイ」と文句を云われ、
「お前が頼んでもねぇのにしたがったんだろうが、腹も減った」
と思い浮かぶままに口にする。
「云いたい放題だな」
「ああ、云いたい放題だ。文句あんのか。眠くなってきた」
溜息とも苦笑とも付かぬ息遣いが耳に入り、
「寝る前に何か食えば」
と云うので、もそもそと起き出して着流しをひっかけ、とろとろと食料を調達しに出た。
適当に見繕って自室に戻れば、まだ銀時が居り、横からつまみ食いをした後に帰っていった。
ぼんやりと寝煙草でアイツの体は好きだ、と認めつつ、何だかもう色々とどうでもよくなり、取り敢えず土方は布団に深くもぐりこむと、すうすう寝息を立ててよく眠った。



たっぷり寝て起きた時に、口に何かが入っていて、ぺろりと指で取ると、白い犬の毛で、何だかとても腹が立った。





end

自宅でゆっくりパソコンを使えず、というか私用でほとんどパソコンを使う余裕がなく、気が付いたらこんなにご無沙汰になってしまいました。
皆さま御元気でしょうか。

銀鉄火の最近の一押しは、ラブ・ピースクラブのHPでもオススメ紹介されていた気がしますが、砂という漫画描きの『フェミニズムセックスマシーン』という漫画と、ようやく単行本化された、デビュー作からのファンである瀧波ユカリ『臨死!!江古田ちゃん』アフタヌーンKCです。
女神様だのげんしけんだのを愛読しているヲタな男子はどのような眼差しで江古田ちゃんを読んでいるのか気になって仕方がありません。
そしてアフタでは『EDEN』を集めたいです。

最近、欲しい知識と技能は社労士やら税理士やら会計士です。
資格が欲しいというか、その知識とスキルが欲しい・・・公的機関がやってしかるべき事務仕事を中小企業にやらせるな、とぶうぶう云っております。
いえ福祉関係なんてもっと酷いもんですが。支援費制度の御粗末さに事務で泣き、介護保険統合との絡みでまたシステムが変わるのにウンザリぶっこきまくりです。行政の尻拭いとかやってられっか。
と、まぁ旨い物でも食べて自分たちを慰労したいものです。

銀迦ちゃん、池袋とか、北島亭とか、うちの近所のロシア料理(これしつこいようだけど旨いんだって、壷焼きなんてパンから焼いてるのよ)喰いに行こうね・・・。

皆さまも体調にはお気をつけくださいませ。


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