銀の鎧細工通信
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2006年03月19日(日) けじめ (3年Z組 銀八×土方)

※銀鉄火注:お若い方はご存じないかと存じます。以下転載の歌詞が第二講で土方が提案した「マッチの名曲」です。こちらを踏まえて御読みくだされば幸いです。ええ、名曲ですよ。

ケジメ ケジメのないあなた
ケジメ ケジメなさいあなた

優しさにツケ込むのはいけないね
その頬殴れるほど強靭じゃない僕さ

浮気な女さ気持フワフワで
海辺のロッジひとり夜を明かしたよ
八月の島はカーニバル
夜空飾る花火も
涙宿って切なく砂に消えたよ

ミ・ジ・メ ジメジメと
地味にめげるだけ
致命傷だね優しさは
ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!

カ・カ・カ 恰好つけりゃ
ビ・ビ・る はずだよね
サヨナラ言おうか
自分でちゃんとできないのなら……ダメダメ

ケジメ ケジメのないあなた
ケジメ ケジメなさいあなた

思わせぶりに涙落としたね
惚れてる弱味知ってホロリとさせるね

南風嵐呼ぶかな
雲行きさえあやしい
渚を横切る影が胸にしみるよ

マ・ジ・メ マジマジと
ド・ジな男だね
あなたの方が上手だよ

ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!

パ・パ・パパッと行こう
キ・ラ・リ 赤裸々に
あなたが欲しいと
心臓にナイフ突きつけたいよ

ミ・ジ・メ ジメジメと
地味にめげるだけ
致命傷だね優しさは
ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!

ケジメ ケジメのないあなた
ケジメ ケジメなさいあなた




けじめ

「土方ーぁ」
ぺたぺたとスリッパをならしながら背後から呼び止められる。ちなみに、スリッパは夏場には裸足に便所サンダルになる。今は衣替えしたばかりなので、冬のままのようだ。
「何ですか」
肌寒いのでシャツの上に黒いVのカーディガンを羽織っている土方が振返って素っ気無い口調で返した。
「おまえさぁ、なんか叶わぬ恋とやらでもしてんの?」
どうでも良さそうな割には、わざわざ訊かなくとも良いような事を云うのが銀八の特徴だった。ようは暇潰しの種である。
「は?」
思い切り眉間に皺を寄せて返す。
放課後に風紀委員室へ向かうところだった。
「「ケジメなさい」で翼が生える男子高校生ってどうなわけ?火傷したい御年頃なの?」
先ほどの縦笛事件の事だとわかり、うんざりした表情で「別に」とそっぽを向きながら応えた。
「あれだぞ、めげよーがいじけよーが、それはどうでもいいけどよ。殴ったり心臓にナイフ突きつけたりすんのは止せな、マジ引くから。ていうか俺の職業問題になるから」
ボケた割には歌詞を鮮明に覚えている事にむしろ引きつつ、
「あれはタイトルだけの事云ったんすよ」
相手にしてられない。と歩き出す。
そもそも一クラスに風紀委員長と副委員長と更に数名いるような、わけの分からない委員会である。たまの活動は真面目にやるので、学校自体は「自警団でもやりたいのかねぇ、まぁ楽できる事もあるからいいや」程度にしか考えてはいない。
日頃は何となく委員会の所有する部屋にたむろすくらいである。
今日も土方に用事が有るわけでもなかった。ただ近藤の家である剣道場の稽古までの時間を潰そうと思っただけだ。
職員室と同じ方向なので、廊下を先に歩きながら、あくまで担任の存在は黙殺する。
(ケジメなさい、っつーのはまさにこいつにでもあるよな)
校内であるため、煙草を我慢している土方と、常識である分煙推進もお構いなしで煙草に火をつけるライターの音がした。
銀魂高校は理事長が任侠気質で愛煙家のため、日頃から喫煙に関しては世間の白眼視お構い無しで寛容である。生徒にも建前上の反省文を書かせる程度だ。
ただ土方は、学生服で煙草を吸う事が、幾らバイトで自分の金を稼いでたとしても、学費諸々の面で親族に扶養されている身としては酷く見っとも無い事だと思っていたので私服の時にしか煙草は呑まない。そして沖田に「ファブリーズ臭い」と云われるほど、染み付いてしまった煙草の匂いにも気は遣っていた。近藤には「じゃあそもそも吸わなきゃいいんじゃねーのか?」と不思議そうに云われるのも当たり前だ。
煙草の匂いに何となく歩調が緩まってしまったらしく、真横に追いつかれた銀八に「いる?」と無言でケースを差し出されるが、ぎろりと睨みつけ、手で辞した。
「格好つけようとして、あんま付いてないのがお前、かわいいよなぁ」
小莫迦にした口調には含み笑いも混じっている。
「何で今日はこんな絡むんですか」
苛付を隠さない口調で刺々しく云えば、「ん?今日は職員会議が遅れて始まる事になって暇だから」とあっさりと返された。
「じゃあ今日の小テストの採点でもしたらどうですか、先月の2週目の分から返ってきてないっすよ」
授業内で行うテストの事をあげつらっても、
「あんまり悪くて、採点するのが最近苦痛」
とだるそうに告げる。
その時校庭で、帰宅する志村姉に豪快に走りより、後ろ蹴りですっ飛ぶ近藤の姿が見えた。土方の何かがブチリと切れる。
「昼行灯ぶりっこもいい加減にしやがれぇえええええ!!やる気無いならはじめから中途半端な真似をするな!」
咥えた煙草を奪い取り、廊下に踏みつけて消す。
「はーい八つ当たりしなーい。コレ、掃除しろよな」
煙草を支えていた指先で土方の足元を指す。その他は微動だにしていない。
大きく舌打ちすると、隣にある、服部の担任クラスである3年の教室に無造作に立ち入り、Z組と同じ掃除用具のロッカーから雑巾を引っ張り出してガシガシと拭き、それをロッカーに戻して閉める。
廊下の窓に肘をかけ、校庭に目を向けながら「学校の備品、あんま乱暴に扱わないでねー、服部さんがイジメかと思って気に病むとかわいそーだし」。
「まだ居たんすか」
後始末の間にさっさと教員室へ戻ればいいものを、何故かまだそこに居る銀八に驚きよりも不愉快さがひりつくようだ。
乱暴に廊下に置いた鞄を拾い上げ、早足で立ち去る。その手首を掴んで押し留められた。
「ちょっと待ってな」
と校庭を見たまま云うので、「何なんですか!」と怒鳴りながらも、きつく握られた手は振り解けない。
すると廊下の、今来た方、つまりはZ組がある方へ指差され「ほれ」と云われるので、体の向きだけ変えてみると、教室に入る近藤の姿が少しだけ見えた。
そう云えば先ほど、近藤は手ぶらだった。あのまま帰るつもりははじめからなかったようだ。
銀八に手を掴まれているところを見られたくなくて、改めて無理矢理振り払おうとすれば、あっさりと放され、その手をひらひらと目の前でかざされる。
「先生気が利くよな〜」
含みを持たせた言い草にいちいち腹を立てるのが悪いのは解っていた。あえてカチンと来たのを隠しつつ、「別に俺は近藤さんを待ってたわけじゃねーし」と応える返事が結局墓穴である事には変わりがない。
くつくつと笑って土方に手招きをする、怪訝そうに目を細めると「早く、いいから」と云われるので何となく上体を寄せた。
そのままシャツの襟をつかまれて引き寄せられ、驚く間もなく口付けられた。驚きを認識した頃には放されており、座りがちな目が丸くなっている。
早くなった鼓動を感じながら咄嗟に振返った、丁度鞄を持って教室を出、土方に気が付いて大きく手を振ったところだった。
「セーフ」
とおかしそうに呟くので、真っ赤な顔で「どういうつもりだよ!」と小声で怒鳴りつける。
ずり落ちた眼鏡の上から覗き見ると、
「ふくりゅーえんのおすそわけ」
と間延びした口調で告げた。そしてまたにやりと笑む。
「まだまだ青いねー、先生の方がうわてですねー」
と云いながら、今度は土方の反論を聞こうともせずに「じゃーなー気をつけて帰れよー」と振返りもせずにぺたぺたと歩き去ってしまう。

「珍しいな!先生と立ち話なんかしてんの、何かあったのか?」
横に並んだ近藤が青タンを顔面に作っている事の方が、むしろ「何かあったのか?」と普通ならば訊かれる事だろうに、と思いつつ、「別に、さっさと道場行こうぜ」と前を向いた。
くちびるが少しだけ煙くさい。
ちりちりした感情をどうすればいいのか解らず、土方は道場でやみくもに発散しようとしては結局心に何かが残る事を予想していた。

職員室でふと顔を上げると、薄暗くなった空に雲が重くたれこめている。
「お、雲行きがあやしいなー」
と誰ともなくごちると、「雨になるらしいですよ」と服部に云われた。
「やっべ、傘持ってないな。会議さぼっちゃおうかなー」と云いつつ卓上の採点中の小テストに目を戻した。

生徒は莫迦でカワイイもんだが、何だか自分もドジを踏んだな、と心の中で地味にめげて、銀八は今にも雨が降り出しそうな中、職員会議の始まりまでに採点を終え、机の引き出しにためていた過去のテストを全て個人別にホチキス止めした。
明日は古典文法のやり直しだ。





END

えー、マッチもデビュー25周年、という事で、たまたま人が買った記念アルバムの1曲目の収録されている「ケジメなさい」を久しぶりに聴きました。かっこよかったですよ、久々に聴くと。笑。
「アンダルシアにあこがれて」のタンゴ・バイオリンがかなりの上手い人で、誰が演奏しているのか気になって仕方がありません。
んで、土方の不憫さに困惑しました。
なので特にどうと云う中身ではない、山もオチも無いZ組ものを書いてみたというわけでございます。
むしろ風紀委員繋がりで、雲雀×土方っつーわけのわからんK1みたいな妄想をしてしまったりもしました。

メッセージ返信
★3月12日 ぱのらま様
ひょえー光栄です、ぱのらまさんにエロティックとは・・・!
彼奴の視線のどの辺がそう思えていただけたのか、お聞かせいただけると感無量でございます。
何せ相当の妄想たっぷり仕立てな山崎なもので。ちょっとワンピースのサンジと通ずるところがあるかな、と書いていてたまに思います。自分の山崎。サンジよりは小器用に!とは思っているのですが。
私の脳内では陸奥は乾燥肌で、基本的には財布はかたいけどもベースメイクと基礎化粧品には容赦なく金をはたく、メイクの鬼となっております。肌に合う化粧品や、色が無い事に不満ぶーぶーだといい、ですとか。あまり色遊びは仕事時にはしないけども、がっちりメイク、オフ時にはベースは軽めに、ツメやシャドウで色遊びをする、でもって冷え性、ちょっと血色悪い、とまで妄想しております。笑。
山崎はオフの日には美味しい店探しや、安い食材店めぐりしてるといいな、とか。ただ、山崎の私服が分からないですね、他の面子は皆着物ですけど・・・山崎は洋装で小奇麗カジュアル!と妄想はとどまるところを知りません。
余談が過ぎまして。苦笑。ありがとうございました。


BGM:クストリッツアの「アンダーグラウンド」サントラ
最近はずっと笙野頼子を読み直している。
新しい作家を開拓したいなぁ・・・。上橋菜穂子氏の「守り人」シリーズも和製ファンタジー作家にしては珍しくスケールが大きく、女人の活躍目覚しくて好い。ちょっと十二国紀がまた読みたくなる感じだ。

★3月13日 雲雀山本を最高最強と仰ってくださったあなた様。
おお!マイナーカップリングにこのようなお声!嬉しい限りです。
山本父の流派の名前に燕が入っておりましたね、なので「雲雀に燕ねーうふふーん」などと妄想を暖めておりますので、近々またバリ山は書きたいと思っています!ありがとうごじあました。


2006年03月07日(火) 楯 (陸奥山崎→土方)


りりん。

黒電話の音に設定してある(といっても初期設定のままなのだが)携帯電話が鳴る。仕事用のものではなく、私物だ。
着信を告げる番号は、見慣れないものだった。
折角のオフ日だ、無視しようかとも思ったが、しつこくコールを続ける玩具のような電話になんとなく出ようという気になったのは、陽気のせいかもしれなかった。

「はい」
ぽつりと声を出す。
「山崎か」
向うから響く声は意外な人物からのものだった。高くも無く低くも無く、どこから出ているのか、どこから聴こえてくるのか(相手がどこからかけているかという事ではなく)、今ひとつ不鮮明なのに声だけが耳に残る。
「陸奥さん、こっちに来てるんですか」
口をついて出た言葉は、「戻る」ではなく「来る」、であった。
それほどに坂本の舟は宇宙に居る期間が多い。また、陸奥本人が地球を「戻る」場所、帰る場所と認識していない気がしていた。
「すまんな、勝手に訊いてしもうた」
無愛想な声音だが、教えても居ない番号に電話をした事を詫びる気持ちは伝わってくる。少し微笑んで「いいですよ、隊の誰かに訊いたんでしょう」と応じた表情が「土方に訊いた」、と告げられれば硬直する。
普段は非番の日でも隊舎に居り、細々した事をして過ごす山崎が外出をしたことには理由があった。
知ってはいた、あの人、とはまた違った想いで彼を気にかけていることなら。密な関係があることも。
ただでさえ強硬に出られない感情を抱える中で、奔放好き放題に振舞う沖田に棚上げで苛立ちを感じる事があった。その上更に、土方を振舞わす存在に、頭の中では「どうとでも解放できるならばいいことなんだろう」と理屈付けては「いい加減にしてやってくれ、そっとしておいてやってくれ」とも思う。これも結局想いを伝えただけでなあなあにしたままでいる自分の踏ん切りの悪さを棚上げてはいると、解っている。よく解っている。
だからといって、キスシーンなど見て平然としていられるほどに、物分りも良くは無かった。
貰い物の柑橘を追加で届けに行った際に、見てしまった景色。今更動揺などしない、それでも気分のいいものではない。
自分を裂いてでも近藤に尽くそうと決めてしまっている土方へ、他人が何かできるなどとは思えなかった。当人が告げることも叶うことも無いと解りながら、それでも想う気持ちに苦しむのを、ただ側で見ていることしか出来なかった。気を紛らわせても、一瞬だけ。それでもいいと思っていた。否、いいとは思っていない。けれど、肩代わりできる荷物は隊の事でしかないのだ。
今は何もできない。今となってはもう、何もできない。
戻れるなら、と希っているのは土方自身だ。
それでももう気付いてしまった感情を無かった事にできない事も知っている。
「山崎?」
黙り込んでしまった者を呼び戻す。
「あ、はい。聴こえてますよ」
電波障害の振りを装うものの、そんな事が通じる相手ではない。
それでも「おまん、今日は非番だそうじゃな」と気にとめずに応じる。痛みが走り、心の中で、詫びる。
「ええ、買い物ですか、手伝いましょうか」
見透かされている。細い電波を通して息が笑いを伝えた。
「相変わらず、頭の回転が早い奴じゃな」
嫌味ではなかった、揶揄するものでも、でもそこに込められたものはシンプルな意味ではない。
「今どこですか、向かいます」
泣き笑いの表情と声音で答え、落ち合う場所を決めて電話切った。
昨日の曇天とは打って変わった淡く薄い青空が春を教える。
柔らかくも染み入る日差しに、手をかざす。
何も、できない、じゃないか。
云い聞かすように呑み込んで、待ち合わせへと歩く。


男物の濃紺の絣の着物にからし色の帯、わざと出した兵児帯に似た帯揚げは萌黄色。爪は紅梅のような色で丁寧に塗られている。それを淡くしたようなストールを首に巻いて、陸奥は立っていた。
金灰の髪に、その紅梅の色はよく映えた。
「御久しぶりです」
会釈しながら横に立つ。「ああ」と応える陸奥はいかついブーツを履いているためいつもより少し背が高い。
「この間、陸奥さんに似合いそうなコンシーラー見つけましたよ」
陸奥が歩き始めるのに連れ立ちながらあっさり云うと、「何でおまんはそがぁなもん見ちゅうがか」と厭そうな顔で云われるので、「仕事で女装をしてたんで、そん時に」と苦笑する。
「ほがぁな事云って、コンシーラーまで完璧に見繕ってする必要なかろ」
今のは、仕事への無駄なまでの真面目さを誉められたのだ、と判って少し嬉しくなる。
「どこのんじゃ」
緩んだ頬のままで「あっちの路面店のですね、自然素材の店なんです。俺は日頃から化粧してるわけじゃないから、塗りたくると肌がかゆくていけませんよ」今度は山崎が先導する。
「わしが塗りたくってるちゅう事がか、昼飯はおまんの奢りに決定きにゃ」
云ってませんよそんな事、と云いつつ「じゃあ行ってみたい店があるんで、イタリアンですけどいいですか」とも続ける。
(この人といるのは、楽だ。全部判ってて何も云わない)
虚しい安堵にすがる。

奇妙なまでの好奇心と探究心から、オールジャンルで情報通な山崎はよい買い物の連れだ。犬のように素直についてくるけれど気は効くし頭の回転も早い。
(どいつもこいつもばかばっかりじゃな)
少し強い風で髪がなぶられるので、ストールに顎を埋めて思う。
(人のことばっかり気にしちゅうて、自分は裂けてもいいとばかり思っとるきに)
口にする気は更々無かった。

山崎の連れて行った店で陸奥はコンシーラーを2本買い、山崎は「あ、これいいなぁ」と云ってテスターで試したハンドクリームを隊で雇っている給仕のおばちゃんにと買った。
何となくうろうろと買い物をし、混雑時を避けて少し遅めの昼食にする。
ワインを頼んだ陸奥に出された突き出しを味見させてもらい、「あ、これはアレンジすれば作れるかも」などと云い出す。
オレンジピールの添えられたクリームチーズの和え物。柑橘を抱えて立ち尽くし、てくてく踵を返して歩いた廊下を思い出す。
局長のために声になり頭になり足になり手になり楯になり、刀にもなる、それで自分が裂けてもいい、と、そう想うあの人に、何が出来るのか。
時折、大して強くもない酒を一人あおる彼に、こんなことしか出来ないのか。
しかも、それで、何の意味があるのか。
「あまり辛気臭い顔するな、飯が不味くなるろー」
遠慮の要らなさが、心情を露呈させてしまう失態に恥じ入り、それでも陸奥は「ほれ、これ喰ってみゆう」といつの間にか小分けにした皿とフォークを差し出す。
また(ごめんなさい)と心の中で唱える。もう誰にへかは分からない。楯にすらなることが叶わない自分に、土方のために出来る事など。
食後に出されたコーヒーには梅の小枝が添えられていた。
「お、紅梅。今日の差し色ですよね」
思わず笑んで、陸奥に手渡す。朽葉色の帯止めに差し、それから自分のソーサーにあったものを山崎の髪に差す。
「恥ずかしいんですけど」
黙殺し、「腹ごなしに梅でも見に行かんか」と紅梅色の爪で白いカップの縁をなぞって窓外に目をやる。
よく晴れている。うららかな昼下がりだ。
「いいですね」
コーヒーをすすりながら応じる。
(陸奥さんは、いつも待っていてくれる)

(・・・襲撃もするけど)
耳の上にかかった梅を気にしつつ、取り払う事が出来ない。怖いし。



かぶき町の外れにある、ささやかな公園にささやかな梅林がある。
6部咲きと云ったところの梅の中で、ふたりは小さな売店の甘酒をすすった。
からん、と紙コップをくず入れに投げ入れ、陸奥は大きく伸びをする。
「自分で、伸びが出来る人って、安心します」
小さく折りたたんだコップを捨てながらぽつんと溢した。
ふん、と鼻で笑って「自分のことばそっちのけで、こがぁな些細な事も忘れゆう莫迦どもが羨ましいぜよ」。
口元だけで笑い、「俺は、しますよ。自分で」と応えれば
「それも自分のためゆうんがか、他の奴を守るためにしちょるんがじゃろ」
ああ
ああ
ああ
違う。けれど違わない。
自分のためで土方のためで、隊のためで、土方の想う局長のためで、そんな分類など出来ない。
ふいに鼻先を陸奥の頭が掠めて、足をぎゅうぎゅうと踏みつける。
「ほれ、宇宙ば向かって手ぇ広げるんは、気持ちいいがぜよ」
本当に、空の向うの宇宙に手を伸ばすように、手を広げてのばす陸奥の手は伸びやかで、他愛の無い行為なのに清々しい。
重ねるように手を伸ばし、広げ、思い切り伸びをする。

「叫ぶなよ」
猫の様に目を細め、伸びをしながら陸奥が云う。虹彩が光の加減で金緑に光るさまは本当に猫のようだ。
「何をですか」
怪訝な声で訊けば、「惚れてるヤツの名前とか」などとしゃあしゃあと云うので、
「云えるもんですか」
(今は何にも出来ないんだから、俺は)
ぷいと顔を空に向けなおす。
低く笑う声が耳に入ってくるので、思わず閉じかけた瞼を見開き、睨むように真剣に空を見つめた。
(いつか、ね)
紅梅のあわいに、視界の端の陸奥が溶け込む。







END

またやってしまいました。どうにも陸奥と山崎って好きです、私。
白梅鑑賞の銀土、裏バージョンの紅梅感傷の陸奥山→土。
BGMは倉橋ヨエコの『楯』です、はい。
山崎もこの歌だし、土方もこの歌、ああ銀魂の青年は私が書くとどうしてこうおぼこいのかしら・・・。

メッセージを有難うございます!本当にうれしいです。

3月2日 ぱのらまさま
御元気ですか?私は花粉に咽いでおります。仕事柄での忙しい時期と引っ越しが重なり、この体たらくでございますが、元気にしております。
お気遣い、本当にありがとうございます。
アニメですねぇ・・・深夜にでもして欲しかったです、ええ。下ネタもですが、色々と大丈夫なのかと思うネタが多いので、どの様なストーリー構成にされるのかが気になるところです。


3月4日のアナタさま
ここのところ銀土を書いておらず、申し訳ありませんでした。
何だか本編で萌え心が満たされてしまっていて・・・。他ジャンルで時間を食いましたが、心の基本は銀魂です。そして銀さんのいい男ぶりにメロメロになりつつ、土方を愛でております。
久しぶりに書くと、本当に楽しい銀魂。
一番お好みなのは銀土でらっしゃいますか?このように土方受け総当りですが、コンスタントに銀土→近のもっともベースの萌えは放出したいと思っております。
喜びの御声、光栄です!本当に有難うございます。
何かご希望のシチュエーション、設定などおありでしたらどうぞ御気軽にお聞かせくださいね。

3月8日のアナタさま
アナタさまのメッセージのおかげで、この作品が生まれました。
最近に山崎を書いていたわけではなかったので、旧作を読んで下さったのかと思うと光栄で嬉しくて。
結局報われては、いないですが、山崎のあらゆるもやもやを抱えつつ見守り側に居続ける強さは、土方よりも柔軟で、だからこそ思い切り妄想爆発で陸奥と絡めて、少しでも報われて楽になって欲しいと、自分で書きながら自分の書く山崎には思います。苦笑。
メイン書いているわけではないキャラクターで、かなり偏った視点で描いているキャラクターへの心のこもったメッセージ、本当に嬉しかったです。
有難うございました!































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