銀の鎧細工通信
目次


2005年07月29日(金) やまねこ (陸奥)


この爪を尖らせて、この牙を磨いて。
この髪を武装に、この眼を威圧に。
この指を企みに、この声を恫喝に。

私は女だ。
それが何だというのだろう。


不意に現れた陸奥という小柄な女に、初め船員は小莫迦にした態度であからさまに「女だてらによくやるぜ」という嘲笑を含んだ眼差しを向けた。
最も其れは彼女の独特の威圧感と、圧倒的な知識と判断力、戦の心得腕っ節の強さ尋常ならぬ覚悟の座り方、それらの実力に向けた畏怖の念に変わった。
不穏なまでに人間離れした存在感に距離をとっていた船員達も、坂本との遣り取りを見ているうちに心をほぐした。

「陸奥、遅いきにゃ、おまんは化粧が長すぎじゃ化けゆうのもほどほどにしゆうがじゃ」
と云えば
「煩いぜよ毛玉、余計な世話じゃ。おまんの方がいっつも遅刻ばしちゅうくせに何を云うか」
とドス、と坂本の鳩尾に重いツッコミを入れる。

外見こそ人間離れして入るが、血の通った仲間だと。
けれど実力の無い女だったらどんな待遇を受けただろうか。
今は陸奥という先達が居るので、「商いに性別なんぞ関係ないがじゃ!」という坂本の論も相まって女の船員も多少は居る。
技師の娘は整備班に入り、女中上がりだという女は掃除炊事洗濯の割り振り分担を担い、芸妓出の女は主に営業を行う。
得意分野を活かすのは男も変わりは無い。
基本的に船の管理は持ち回りなので、家事を女ばかりが担うわけでもない。


ふと夜中に眼が覚めて、船室内の洗面所で水を飲む。
ぬるりとした感触に気が付き、下着の中に手を入れた、どす黒く粘度の高い血液が指に絡みく。
蛍光灯の灯りで白々しく照らされた経血は不可思議なものに見える、自分とは関係のない物質のような。
勢いよく指を洗い、下着を脱いでそれを洗う。
洗っている側から自分の内股を血が伝っていくのがわかる。
それが滴る前に下着を洗い終えて浴室にタンクトップを脱ぎ捨てて入る。
流れてゆく湯には血が混じり薄赤い、やがてシャワーが放つ透明な湯だけになった。
足元を眺めていたら、ペディキュアが剥げている事に気が付いて(塗りなおさんとな・・・)と思う。

タンポンだけを体に含み、陸奥は裸でベッドに腰掛けた、背筋を髪から落ちる雫が伝う。
少し濡れてしまった髪をまとめてから小瓶に手を伸ばす、ベッドサイドの灯りだけで爪を丁寧に染め上げる。
さっきの血の様に暗い赤。


足を中に放り出したまま倒れこむ、長い髪が散らばる。
手だけで煙草と灰皿を手繰り寄せて、体の横に置くと煙を呑む、船室の低い天井に煙は広がり消えてゆく。


私は女だ。
私は私だ。
私は私で女だ。


陸奥はふう、と目を閉じる。
船のエンジン音が子宮に響いて鈍痛を感じさせる。
窓の外は真っ暗闇の宇宙。
深く無音の宇宙。
それに比べて自分は血を流し、限りある肉体を持つ一人の生き物。


爪を磨いで牙を鋭く。
やまねこは眠る。





END

意味不明でごめんなさい。
私の中で陸奥は髪が金灰、眼が金緑、つー『BANANA FISH』のアッシュと同じなもので、中島みゆきの『やまねこ』を聴きつつ、お仕事女性の日常を書きたくなりました。
陸奥が書きたかったのもありますし、笑。
カップリものじゃない陸奥単独も書きたかったんです。
何せ本編で出てこないから困ったね!
高杉といい・・・さっちゃんをあんなに出す前にもう少し・・・!くう!








2005年07月25日(月) ミラー (グリードアルフォンス)


元の姿に戻りたい。
食べない、眠れない、触っているけど触覚は無い。
人間の形をしていない。
では、人間の形をしている人間以外のものは?


「ホムンクルスは眠るんですか?」
壁に寄りかかり、アルフォンスは不意に口を開いた。
「はあ?ああ、眠ろうと思えば眠れるけどな、別に必要は無い」
グリードは突拍子も無い質問に、得心したといわんばかりに丁寧に返事をした。
「ご飯は?」
「俺は食うねぇ、美味いモンは好きだぜ。ま、コレも必要は無い、けどな」
目を細めて笑う。悪びれず卑屈にもならない。
「俺以外の奴らは元は人間だ、食事も睡眠もそこそこには必要とする、ホレ、ドルチェットなんかはヘビースモーカーだしな。マーテルは酒乱だ」
絡むんだよなあ、ヘビだからかねえなどと云いながらくつくつと笑う。
アルフォンスが幽閉されている部屋にはグリードしか残っておらず、皆が
引き上げていた。
マーテルもグリードに見張りを譲って引き上げている。
2人きり。
静かな夜更けだった。
「だから俺も付き合ったり付き合わなかったり。肉体の栄養になるわけでもないし、汚い話そのまま出てくるがな」
アルフォンスが黙っているので続ける。
「消化能力は無いんだよ、すぐに体を通過する。ちなみに生殖能力も無い、さっき見たように肉体維持のために体液は流れているから精液は出るけどな。組織液とかわらねえ」
壁に背中をつけている、アルフォンスはその硬さも冷たさも解らない、
けれどこの男は其れを知りえるのだろうか。
「他に質問は?」
つり上がった切れ長の目が促す。
「・・・触覚は」

「ある」

「あなたにも・・・?」
「ああ、他の部下は再生能力は大したこともないしちょっと丈夫なだけだ、痛覚もある、触覚もある。生殖能力は実験の際に潰されてるが、逃げたのが早かったヤツにゃガキもいる」
ぺらぺらとよくまわる口で説明をする。
(こんなに話してしまっていいのかな・・・)
アルフォンスの眼光が揺れた。
「そう困った顔すんな」
思いもかけない言葉に振り向く。ガシャ。
「俺は痛いのだとかはもう忘れちまってるよ、余程のモンでなきゃ感じない、でもその分、色々観てる。強欲だからな」
立てた膝の上で指を組んで、その間から目だけが光る。
「見逃すのも惜しいんだよ、絶対見棄てねえし見逃さねえ」
「でも、だからって・・・」
声だけはうろたえを表すが、外見はただの鎧でしかない。感情表現などできない自分。
「声だけじゃねえんだよ、お前ら人間はさ。面白いねえ、全く」
目を逸らしてはふんと溜息をついた。

「何、感動した?」
独特の片方の口角だけを吊り上げる笑い方で目線だけをアルフォンスに向けた。
「はい」
こくりと頷きながら応えたあまりにも素直な反応。
「っつぶ、うわははははははははははは!!」
目を見開いた後の爆笑、「本当に面白いなお前の師匠といい、お前といい!思い切りもよければどいつもバカみてえに真っ直ぐだ!」
げらげら笑い転げる。身を屈めて。
「でも、グリードさんだって余程人間らしいですよ、本当の人間よりも・・・僕よりも」
ぽつりと呟く。
わん・・・と反響する声の響きはいつも自分の肉体の不在を実感させる。
悔しい、だとか妬ましい、だとか思うのではない。
「失礼だな」
ふんと鼻を鳴らして云い捨てられる。
「人間であることにそんなに意義を求めるなよ。俺は人間じゃねえし、他の奴らも元人間、なんだぜ?」
人間の世界から捨て去られ、実験材料にされ、こうして闇に潜みながら裏の世界で生きている。
「そんな事もう問題じゃねえんだよ、人間らしさなんざ何の基準でもない。ただどうやって生き延びて放さなかった生を生きるか、だ」
(そうだった・・・此処の人は僕と違って人間扱いを誰にもされなかったんだ、人間に見棄てられて人間であることを奪われた・・・)
「ごめんなさい、無神経なこと云いました」
眉をあげて肩をすくめると胡座をかいているアルフォンスの膝の上に乗った。
「うわっ、なんですか??」
「騒ぐなよ、他の奴らが起きちまう」
向かい合った姿勢でシイ、と鎧の口元に指を当てた。
「ほれ、こうして話しってと、俺の声帯の震えがお前にも反響するだろ」
「・・・はい」

「ニンゲンもくっついて話してるとそうじゃねえか?」

少し低めの声が鎧の装甲を伝って揺れる。
中身は空っぽなので響きは吸収されない、けれど。
もうよくは覚えていない、けれど。
雷の夜にエドワードと肩を並べて毛布をかぶり、ぼそぼそ話し続けた時の、身を寄せて交わした内緒話の、背中合わせで話した時の、その揺れに其れは似ていた。確かに似ていた。
もう記憶から実感が失われつつある、そんな生身の経験。

「あーあー、泣くなよ?」
グリードががしゃりと鎧の頭を撫でた。
「涙は出ませんよ」
そう応えると、今度は頭をはたいて
「屁理屈云うな、涙なんかでなくても泣けるだろ」

「お前は泣いて騒いでとぼけて驚いて、声だけじゃなくて感情表現してるよ。俺なんかもーう磨耗しちまってよっぽど薄いぜ、そーゆーの」
鎧の面にぼんやりと写った姿を掌で撫でて続けた
「もともと、欲望する感情だけ突出してるんだけどな」




久しぶりだった。
たまに誰かが付き合って徹夜で話し込んでくれても、その人はいつも次の日に眠そうにしている。
あくまでも付き合ってくれているだけで、眠れないのは自分ひとりだった。
一人ぼっちの夜ばかりで、遠慮にも気にしていない振りにももうなれた。
今は滅多に付き合う人も居ない。
自分は鎧なのだから一人ぼっちで当たり前だと思っていた。
グリードと話し込む分には一人ではない。
一人ではない。
眠りを必要としないのは、一人ではない。
自分ひとりでは。






翌朝、起き始めたグリードの部下達が集まってきて、「何してるんですか」と呆れて笑い出すまで二人は向かい合って話し続けた。
朝は明るかった。
眠らない事が普通の事と受け止められる安堵。
眠らない事が普通の事として迎えられる朝があるのだと初めて知った。







END

11巻記念。
グリードがやはり好きです。
グリードと仲間達が好きです。

アルはあっちに行けばよかったのにねえ。




2005年07月18日(月) 育つ雑草 (ハルアベ)


朝はグランドの整備から始まる。
ぶちぶちと毎朝雑草を抜く。
この時季の伸びは凄まじく、根っこから抜きそびれた草は次の日にはもう柔らかく若い緑の葉を生んでいる。
処理しても処理しても再生する。
その圧迫感に阿部は息を詰めた。
朝から暑い日ざしが脳天を焦がし、じりじりと照らし付けられては汗ばかりがいつまでもダラダラ滲んで後を絶たない。
言葉にしようの無い焦燥感に駆られて叫び出したくなる、
前へ行かなければ、前へ行かなければ、もっともっともっともっと。
そうじゃなきゃ捕まってしまう。
もう始まりも終わりもわからない、ただ榛名から逃れなければと
発作の様に思ってしまう。


「アベ?具合でも悪いのか?」
頭上から声がかけられた、はっと顔を上げると花井が心配そうに覗き込んでいた。
「いや、何でもね・・・」
気まずさを隠すようにうつむいて手の甲で汗を拭った。
「そうか?集合かかってんのに、お前ちっとも動かねっからさ」
阿部の様子に花井は何の追求もしない、不味いものを見てしまったな、
という風にちょっぴりの言い訳で見なかったことにする。
何事も無かった風に阿部も立ち上がり、集合している皆の処へ小走りで駆けて行く、三橋の顔は見られなかった。

もう必要ないのに、元希さんは。
もう必要ないんだ。

(くそ・・・っ)
拳を握り締める。
なのにどうして俺は迷っているみたいに、まるで。

どんどんと暗いところへ落下していく気がして仕方が無い。
同じところを堂々巡りだ、滑稽劇の舞台で当の本人はもう観ても居ないのに阿部だけが幕開けを待っているような。
忘れろと何度でも自分に云い聞かせている、そんなことをしている限り絶対に忘れなどしない。



一日が終わってもまだ日は沈みきっていない。
昼間の暑さをうだるように残した地元駅の駐輪場で阿部は見たくない姿を目に入れてしまう、瞬間的に呼吸が止まった。
ひゅ、と不愉快な息をすう音が自分の胸に反響する。
幸い夕暮れ時で人の顔が見えにくくなっている、自分の見間違いだと鍵を外して自転車を押す。
「タカヤ」
忌々しい思いが甦る、息を吹き返す、なのに自分は顔を反射的にあげてしまう。
「何で無視すんだよ」
逆行の赤い闇の中でぎらぎらとした目だけがしっかりこちらを見据えていた。
「ああ、すんません気が付かなかったんで、どもお疲れっす」
形ばかりの一礼をして立ち去ろうとする、間髪を入れずに
「嘘吐け、お前見てただろ、気が付いてただろ」
聞き流してペダルに足をかける、どうしてこう上手くいかないんだ。
逃げるように、押し出されるように自転車にまたがって強くペダルをこぐ。

「お前のトコのヘボピッチャーはどうだよ」
榛名の嘲笑が背中に投げ付けられて、背骨がみしりと痛む。
(関係ない)
(関係ない)
(関係ない)
(関係ない)
榛名には関係が無い。
榛名は阿部には関係が無い。
俺にもあの人にも必要も関係ももう無い。
詰まる息を飲み込み、走り去った。


葉をむしり取られ、抜かれたことも忘れて伸びる雑草の様に榛名は阿部の中に根を張って枯れない。
阿部自身も榛名に葉を千切り踏みつけられたことを忘れたいのに忘れる事が出来なくて、未だ思いは伸びて育つ。

(あの人は俺の事を忘れているのに)
(気にすらとめていないのに)



汗が目に入る。
もう何も見たくないからぎゅうと硬く目を閉じた。
何も悲しいことなど無い。
悲しいことなど何も。






元希さん、あんた俺の何処を、どんな風に認めていたの。





くわ、と目を見開いた。
自分の心の奥のほうで小さく上がった声に驚いた。
咄嗟に噛み締めた口の中で生臭く血の味が広がる。
(同じ味だ)
あの頃と変わらない血の味。


助けてくれ。
あの人が俺の事を認めたことなど一度も無いだろう。
解っている筈だろう。
なのにどうしていつまでも縋ろうとしてしまう!
熱くなった目の奥のものを押し殺して、阿部は眉間に皺を寄せて走り続けた。
遠回りでペダルをこぎ続けて、もう何処にも辿り着かない。




END

鬼束ちひろ『育つ雑草』にインスパイアハルアベ。
阿部はぐるぐるしているのが、悦い。




2005年07月17日(日) 雨酒 (近高)


遠雷が轟いて間もなく夕立が街を濡らす。
瀧の様に降りそそいで何もかもを黒く染め上げる。
激しい雨音を聴きながら、いつものように窓枠に腰掛けて外を眺めている。
もう、本当は江戸にいる理由などない。
既に旅籠を何度も変えて、何をするでもなくぶらぶらしているだけだった。
絡まれれば喧嘩は買った。
殺そうとする寸前で、ちらちらとよぎる顔が其れをとどめさせた、そんなことにはもううんざりだった。
迷っている訳ではない。
殺すことに躊躇いなど更々無い。
けれど刃傷での死体が出たらあいつが動く。
あいつに咎める筋合いなどは無い、俺にはもう明日なんて無い、俺には武器しかない。
苦々しい顔で俺に探りを入れざるを得ないあいつの表情を見るのがただ鬱陶しいからだ、そう自分に言い訳をしては刀を止めるのに倦んでいる。
あいつは元々嘘が上手くない、単刀直入に
「お前、人を殺したか?」
と訊いてくるかも知れない。
それに応じる綺麗な気休めなども俺は持ち合わせていない。

「莫迦莫迦しいこった・・・」
ぼそりと小さく声に出しても雨音に掻き消える。

不意に水を跳ね飛ばして走ってくる騒がしい音がするのに目を向けた、黒い隊服。
高杉は舌打ちをした。なんて間の悪い。
「柳屋って旅籠は此処かい」
「あれまあ、真撰組の方じゃありませんか、ええ、ええそうでございます。何かありましたか、まあズブ濡れで」
老女将がうろたえた声を上げている。
ただでさえ武装警察なんかが飛び込んで来たら慌てるというものなのに。
「いや、知り合いが此処に居るんで、ちょっと雨宿りさせて貰おうかとおもってなあ」
「ああそうでしたか、ささ今拭く物をお持ちしますからね、湯でもお使いになりますかね?」
女将のほっとした声音に嫌な笑いが抑えられなかった。
近藤は嘘は吐いていない、けれど世の中から見れば其れは酷い嘘で、幕府への裏切りだ。切腹物の。
「そりゃ有難い!風呂貸してもらおうかな、拭くモンはあがったときでいいですんで!おい!晋助!居るんだろ、風呂はいらねえか!」
階下からの絶叫に高杉は窓枠から転げ落ちた。

「晋助!寝てんのか」
これ以上名前を連呼されてはたまらない、高杉は盛大な舌打ちをして素早く襖から飛び出して階段の手すりから階下の近藤を睨み付けた。
「おう、雨宿りさせてくれや」
ひょいと手を上げて満面の笑みを浮べた。
立てている髪もぺたりと寝てしまい、水が滴っている。
それなのに豪快に笑って云った。
「俺、風呂貸してもらうんだけどよ、お前もどうだ」
「何で俺がてめえと風呂に入らなきゃならねえんだ」
露骨に不機嫌を表してみても近藤は動じない。
「湧きましたよ〜」という女将の声に「あっ、はい!ありがてえ!」と応えてから「いいから降りて来いよ、酒奢ってやる」と手招いて「女将さーん、酒いいっすかねえ、猪口はふたつ、えーと1合でいいや」と高杉の返事も聞かずにこれまた大きなよく通る声で呼びかけている。
「はいよ」とのどかな返事を聞くとくるりと見上げて、またにこりとする。
「ほれ、雨音聴きながら昼風呂、昼酒なんていいじゃねえか」
そのわくわくした様子に、どんどんと不機嫌がどうでもよくなってきてしまう。
(莫迦莫迦しい・・・)
「仕事中じゃねえのか」
手すりに頬杖をついてぼそっと云う。
「あははは!固いこと云うな、だから1合しか頼んでねえよ」
もうこれ以上逆らっているのも疲れてきたのでだらだらと階段を下りる。
真横に立つと雨の匂いが立ち上っている。それは心地のよいものだった。


引き摺られるように風呂場へと向かうと、「お着替え出しましょうか」と声がかけられる、「助かります、多分これ乾かないんで返すの遅くなっちまうと思うんですけど」云いながら近藤は歩きながらスカーフを外して外套を脱ぎはじめた。
「ガキかてめえ!風呂場で脱げ!」
反射的に云い放つと、近藤と女将が顔を見合わせて笑い出す。
「ふふ・・・確かにねえ、お侍さん小さい頃に落ち着きが無いって云われませんでした?」
女将の苦笑に近藤は苦笑いで応える、
「いやあ、今コイツ母ちゃんかと思っちまいましたよ」
酷く苛々して卒倒しそうになったので無言で風呂場へ入って引き戸を勢いよく閉めた。
「じゃあお着替えは置いておきますのでね、お召し物は出しておいて頂ければ干しておきます」「すいませんね、俺客でもないのに」などという遣り取りがなされ、風呂場に入ってくる。
「すまんすまん、お前几帳面な性質なんだよなあ」
苦笑するとぽんと背中を軽く叩いた。
ぽいぽいと脱ぎ終えるとそれを戸の外に放り出し、
「お、酒も用意されてるなあ」
と機嫌の良い声を出すので、むすっとしたまま着流しを手早く脱ぐと慣れた手さばきで軽く畳み、籠に入れる。
とっくりを掴むと高杉は風呂へずかずか入っていった。
雨音が反響してひときわ強い。
風呂の湯の音と、外からの雨音が反響しあって、えもいわれぬ水の音に満ちた空間。

猪口を2つ重ねて手にし、手ぬぐいを片方の肩にかけて背後から「こりゃすげえ振り方だな」と声がする。「これ頼む」と猪口を押し付け、「お前包帯取ってねえぞ」するりと回された手が器用に隻眼の包帯をくるくると巻き取る、近藤からは雨の匂いと雨に濡れた緑の匂いがする。
からりと戸を開けると包帯をそっと置いたようだった。
並んで体を洗う。
「ふうっ」
シャンプーを流して、短髪を後ろに撫で付ける。
くるりと向き直ってまじまじと高杉を眺める、何だと不機嫌に問うと、すいと手が伸ばされて濡れた髪をそっと掻き分ける。
「結構綺麗に塞がってるんだな、傷跡」
「今更なんだよ」
「いや、明るい処で見たこと無かったからよ」
云うと傷跡に口付けた、困惑するほどにそっと、優しく。

高杉の中でどろどろと渦を巻く澱んだ感情が、憎悪に怒り呪詛、それら全てが行き場が無いと暴れてのたうつ。こんなのは困る、迷惑だ、と喚く。

「そんな困った顔しないでくれよ」
云うと立ち上がって浴槽に浸かる。
高杉ももう一度桶で頭から湯をかぶって浴槽に浸かる。
1合だけの酒をちびちびと猪口に注ぐ。
「ほい」
手渡すと「さぼりに乾杯」と云って猪口をかちりと鳴らした。
「は、とんだ局長だな」
へへ、と近藤の笑い声が風呂場の水音に溶け込む。
酒の香りがふわりと心を和らげるので、手足を伸ばして目を閉じる、雨の音、たっぷりと豊かな湯の香りと音、他人の気配。
そんなものをゆっくり実感するなんて何年ぶりだろうか。
もう俺には何も無いと思っているのに。
生き続ける理由なんて復讐しかないのに。
和らぎほどける気持ちを更に呪う、罰するように。

「悪くないだろ」
不意にかけられた声に我に帰る。
何がだ?
俺がこんな風に過ごす事がか?
良いわけが無いだろう、許されるわけが無いだろう。
そんな必要すらも。
感情が混乱する。
だから近藤の側を離れたくて仕方が無いのに離れられない。

「だから、そんな困った顔すんなって」
凛々しい顔の造作ににじむ寛容な優しさと強さ。
「いーもんだろ、昼風呂、昼酒。な、高杉」
にい、と笑うと高杉の猪口に酒を注ぎ足した。

俺には明日なんて無いのに。
俺には武器しかないのに。
こんな。
こんなのは。


毒の様に甘い酒。
違う、俺自身が毒なのだ、ならこれは毒を殺す甘い薬なのか。







END

タイトルは「あまざけ」と読んでくださいな。
乙女高杉でごめんなさい・・・いつもの事ですが・・・。









2005年07月16日(土) 泥の足 (銀土)



「ご飯ですよーーーーーーい!!」
山崎が髪をくくり、前掛けの姿で片手を拡声器代わりにそえて呼びかける。
わらわらと隊士たちが集まってくる、
「今日の晩メシ、何?」
「ん?素麺に生姜たっぷりの焼き茄子、豚コマ入りニラ玉七味がけ、大根と油揚げの味噌汁、ワカメとしらすの酢の物」
「げ、俺生姜嫌いなんだよな」
「お前らの好き嫌い全部考慮してたら何も作れねえよ、夏バテ防止に喰え」
「おめー本当に監察よりこっちの方が向いてるんじゃねーの」
「いや山崎はプロミントン目指してるんだろ?」
「だはははプロミントンって何だよ!」
「うるせーな、ほら来た奴から座れ!」
ざわつく座敷を見渡して、冷たい麦茶を用意しながら目で探す。
(副長が居ない)




「う・・・っぐ、げぇ・・・げほ」
吐しゃ物混じりの唾液をペーパーに吐き出し、口をぬぐって流す。
ザアアアアという水音に混じって溜息が重い。
トイレのドアにどしんと背を預け、また大きく息をつく。
酷い悪酔いに頭も体も重く、気持ちも悪く、クラクラふらふらと定まらない重心に苛立つ。
訳が解らなくなっている程酔っているにもかかわらず、だからこそ不快感だけは色濃く感じられる。
全部吐き出してしまいたくて、喉の奥に指を押し込むが少しも吐けない。
繰り返しているうちに、ぬらりと唾液にぬれた指先が赤く染まっていた。
蛍光灯の白々しい灯りの下で、透明の唾液に混じって赤が透けている、
指を開くと粘着性を帯びた液体はだらりと垂れた。
伸びた爪で、喉の粘膜を切ってしまったらしかった。
それ以上指を突っ込む気になれず、またペーパーで指を拭っては丸めて流した。
これ以上は今は吐けない、と判断しトイレから出て手を洗って口元を漱いだ。
鏡に写った切れ長の目は少し充血して余計に凶悪なものになっていた。
きついきつい目付きで、眼差しで鏡の中の自分を睨みつける。


建物からふら付く足で出て、自動販売機でミネラルウォーターを買っては口を漱いで道の脇に吐き出す。
喉元をぬらす冷たい水が気持ちよかった。


ふらふらとそのまま夜道を歩いていく。
今日はオフだった、明日は遅番という恵まれた条件にもかかわらずやりたいことも特にない。

「あんれ、土方くん」
またか、と土方は思った。この声。
どうしていつもこう。
呂律の回っていない声はその主が大分酩酊している事を表す。
自販機に寄りかかり、俯いているとぺたりぺたりという妙な足音ともに主が近付いてきた。
「?」
俯いた視線に先ず飛び込んできたのは、乾いた泥がこびりついた足。
裸足。
着物の裾にも泥が少し付いている。
顔を上げるとやはり焦点の定まっていない気の抜けた顔があった。
「何やってんだ」
「土方くんこそ、こんなトコで何してんの?」
質問の意味するところが掴めない銀時は間の抜けた返事をした。
「何云ってんだ、てめえの足だ、足」
土方は早口でまくし立てた。
「んあ?ああ、これね、うん・・・」
ゆらりと上体が傾いた、咄嗟に支えてしまう。
「へへ、あんがと多串くん」
酒臭い息、目の前で銀時がへにゃりと笑う。
目線だけでそんな銀時を見下して、土方は支えている手を放す。
ずるりと銀時が座り込んだ、
「何よ」
と云い切らないうちにペットボトルから水を落とした。
「うおい!冷てっ!!」
驚いて足先を引っ込めようとするのを草履を履いた足で踏みつけて押さえる、「おら、出せ」。
「裾まくらねえと濡れるぞ」
と云いながらだばだばと水を落として泥のこびりついた足を流してやる。
土方の足にも水は飛び散ったが、この季節だ直に乾くという気持ちと酔いの所為かどうでもいいという気持ちがない交ぜになっていた。
踏みつけられたまま、意図を察してズボンの裾をまくりあげ、器用に足同士で泥を落とす。
「気持ちいい」
自販機の灯りで照らされた銀髪のつむじを眺めながら「そうか」と応えた。
ブーツはどうしたんだ、とか何でまたそんな真似してやがるんだ、とか訊く気にもならず足をすすいでやる。


「あんがと」
着物で綺麗になった足を拭いながら礼を述べた。
夏場でもブーツを履いていることの多い足の甲は白く、骨も筋もはっきりと照らし出されていた。
むくりと立ち上がると、土方の腕を掴んで
「お礼に散歩しようぜ」
と云った。
「意味が解らねえよ、なんだそれ」
空になったペットボトルを捻り潰して無理矢理自販機の横の缶用のゴミ箱にねじ込む。
ぐいと引っ張られ「いいから、散歩しようぜ」と云って、笑った。


ぺたぺた、裸足の足が立てる音。
じゃり、ざり、と草履が砂をくじく音。
夜道を並んで歩く影は対照的な白と黒。




END




2005年07月13日(水) 空が燃え落ちて黒い塵にまみれる世界に終りだとは最後まで叫ばない (沖土)


風はそよりともふかない、空気は澱の様に湿気を含んでただに重い。
夕暮れの縁側は身動きを取るのもだるく、西日に焼き付けられた影だけが黒い。
蒸し暑い日暮れ、傾きを強めた日はもう黄金色の輝きを失くして、
ほの暗さを帯びた濃い橙色。
風はふかない、何の音もしない。
煙草の煙は少しも靡かず真っ直ぐに立ち上り消える。
白い筋は未練がましくぐずぐずと大気中で旋回して薄らいでゆく。
じっと、じっと、身動きをせずに息だけをひそめている。
煙草が燃え尽きていく速度で、漠然とした暗い気持ちが深度を増してどんどんと一人沈殿してゆく。
逃げ出せないから、こうして世界を睨みつける振りだけをしながら一人で自分の世界に沈んでいく。
自意識過剰だ、と思っている。自分だけが傷を負っているとでも?
誰も無傷でなど無いはずなのに。
こめかみを伝って流れてくる汗が髪の先で溜まって、堪えきれない重さになる。ぱた、と手の甲に落ちて、それすらも其処に留まり流れていかない。

どれだけ不自由でも、均衡が取れていなくても、無理矢理いびつに留まり続けて。
必死で此処に留まり続けて。
他に行きたい場所もない、行ける場所も無い。
だから自分が許せなかった。
だから自分が許せない。
どうしてこの感情はまともでいられなかった、ただ兄の様に慕う、それだけで十分だったのに、どうしてこんなに歪んでしまった。
どうすることも出来ない、身動きが取れない。
不自由に保って、取り繕って。許せない。

「何さぼってんですかい」

「警邏は俺の担当じゃない、何もさぼってなんかねぇよ」

スタンドカラーのシャツのボタンを幾つも外して、それでもしつこく静かに汗は流れ続ける、なのに沖田はきっちりと隊服を着て涼しい顔をしている。
その姿は夕焼けの中でひどく幻覚的だった。
赤い亡霊のようだ。
「共犯者になってやりまさァ」
云いながら横に音もたてず腰を下ろす。
「何のだ、さぼりたいのはお前だろう」
沖田は視線を返さずに庭先を見ているのかいないのか、顔だけは前に向けてフンと鼻で笑って寄越した。
蔑みなのか、嘲りなのか、露骨に嫌な笑い方。
一瞬それに見とれてしまった、どこまでも傲然としているのは若いからだとかじゃない。
(総悟は天才だ)
剣術に関してだけではない、物事を見切ること、見切りをつけてコレは要らないアレは要ると判断すること、判断をしたら迷わない上に修正もいつでもすぐさま可能。
(総悟は頭がおかしい)
迷わない、何でも捨てる、何でも踏み躙ることが出来る、こいつには愛なんて感情はなくて、暴力的な執着しか無いのかも知れない。自分の欲求しか頭に無い。昼間にはナルコレプシーのように眠り続け、夜は亡霊のように徘徊し睡眠薬を過剰摂取してトんでても眠ることが出来ないで当たり前の様に俺を殺そうとする。妙な夢を見ては押し掛け睡眠妨害し、そのくせ人のことはよく見ていて嫌味を垂れる。

土方が傷つくことに頓着など、容赦などしないしする気も無いのだ。
銀時のように敢えて夢のようにぬらりくらりとかわすでもなく、山崎のように無様でも誠実に対峙するのでもなく、坂本のように際限無く許容するのでもなく。

(でも、多分、こいつが一番俺に執着してる)

「お前、莫迦だな」
「あんたに云われたか無いですぜ」
直に返ってくる。
「まあな、それはそうだな、ああ」


夕闇が迫る。
じりじりと真っ赤な夕日に焦がされ続けても動かない。
黙ったままでそこに居座り続け、灰皿がどんどんと吸殻で埋まっていく。
風は相変わらず少しもふかない。
多分沖田は自分が飽きるか俺が去るまで此処にいる気だ、
そう思いながらだるい仕草で視線をやる。


汗が一滴頬から首筋に伝って隊服のスカーフに吸い込まれて消えた。

「あ」

夕焼けの赤、橙、迫り来る黒焼け付く空、
蒸し暑さに焼け付く喉は水を欲してひりひりと痛み、土方自身思いも寄らぬほど掠れた声を出す。



「ジ・・・」



「今年初めての蝉ですぜい」


沖田は庭先の木を指差した。






END

体調不良でおこもりしています。
ので、気持ち悪いながらだらだら小説をこの機会に書きます。

★エリヅラをお褒め下さったアナタさま、ありがとうございます。
最近全然書いていないんですよね、こういうお声を伺うと書きたくなってしまいますが・・・ワンパターンじゃありませんか?私のエリヅラ。
エリザベスが所帯を持って以来(苦笑)の桂の苦悶と葛藤でも書こうか知らん。
すごく嬉しかったです、ありがとうございます。
ご期待に添えるようなエリヅラを産む気でいます、宜しかったらまた遊びにいらしてくださいね。




2005年07月04日(月) それはナシでしょ。 (銀土)

こいつはもしかしたらさ、
もしかしなくてもさ、
そうするよな、


俺みたいになったら、


死ぬよな。





行く先々で顔を合わしては莫迦の様に喧嘩をする。
いい歳した大人が何をしているのか、と周囲の呆れ顔も、自分の中で
「何でわざわざこんな事をしているんだ、暇にしても程がある、物好きにしても酔狂に過ぎる」、そんな考えもぎゃあぎゃあと騒ぎあって意地を張っているうちにどうでも良くなってしまうのだ。

銀時と土方は発想こそ似通っているものの、性格は大分違う。
こんな事も有るのだな、と不思議な気になるのは、風呂屋から上がって珈琲牛乳を互いに飲んでいる時に目があった瞬間。(珈琲牛乳に関しても、「真似するな」「てめーこそ」の応酬があり、番台の婆さんに鋭く風呂桶をフリスビー投げされて黙らされた)

「んだよ」
土方がむっつりと問う。

「俺と土方くん、性格は違げーのになァ」
素直な感情を口にすると、決まって「知るかよ、そんな事」とそっぽを向いて話をそらす。
どこまでも頑な。
それはどちらも似たようなものだ。
感情を押し殺して生きている土方と、感情を押し隠して生きている銀時。
表に出している態度こそ違えども、通じる部分が確かにある。

けれど、銀時はもう仲間を置いて去った事がある。
それ以前に仲間があまりにも死にすぎた事がある。
それが、失くしたのか、捨てたのか、諦めたのか、は解らない。
結局、荷物を手放して生きていく事を選択した、生き続けていく事しか思い浮かばなかった。義に殉じて後を追うだとか、復讐の弔い合戦を続けていく事は考えなかった。
終わってしまったのだ、という実感はひたすらに抉り込まれる様に深くて、ひどくがらんどうだった。


過去に縛られて振り回されて生きるのはやめようとだけ思った。
終わってしまった事なのだから、忘れはしなくても不毛で無残な引き摺り方だけはしたくなかった。
だから話さない、昔の事は。
敢えて話したりしない。
誰も知らなくていい。
身勝手だと散々罵られもしたが、話すような事だとは今も思わない。
にぎやかな最近の身辺に、ようやく押し隠して日々を過ごす事に満更でもないと思えてきている。


「人の顔見ながら呆けるな、気持ちわりーな」
手の甲で唇を拭いながら不機嫌を丸出しに睨みつけてくる、我に帰る。


(でも、こいつは失くした事がないんだよなあ・・・)


残り少ない珈琲牛乳を飲み干して(少しぬるくなってしまった其れ)、ケースに返す。
土方の横のロッカーで互いに着替え始める。
改めてみると大小の傷が無数にある。
以前ホテルの暗闇の中で「お前の体って傷だらけなんだな」と云った土方自身の体にも。傷は。

二の腕の刀傷に指を当てる、他に客は居ないが居たとしたらきっとぎょっとして見ない振りをしただろう。そんな事は構わない。
そうした事を「立場ってモンがあんだよ、俺には」と云って激昂する土方も今はさせるがままにしている。
たかが隊服を脱いだだけで気にならなくなるのなら、どんなに重いのだろう、あの黒い隊服は。

「大体1年くらい前のモンだよ」

訊かずに応えた。
「ふうん・・・でも俺知らないや、この傷が出来た時の土方くん」

「そりゃ、そん時はこんな腐れ縁になってねェ頃だからな」
いたって普通に云うが、
(腐れ縁って、体の関係も含めて云ってんのかな、この人)
銀時はこういう土方の不用意さが時々怖い。

「無用心だな〜」

思ったままを口に出す。
でもいつも含みを持たせたものの云い方をする、これが癖になった。

「何だと、上等だコラ」
(やっぱりね)
思ったとおりの土方の反応にますます銀時は危惧を深めた。

「用心が足りないって事」
服をほぼ着終え、チャックを引き上げる。
剣呑な態度に乗ってこない銀時に、頭をめぐらせる。
「万事屋?」

「なに」


「今の、どういう意味で云った?」
眉を顰めて訊く、

ふ、と笑う。


「俺とアンタ、発想は似てるけど」



「似たような事が起った時に、同じ様にするかは解らねェ、って意味」

言葉を耳から飲み込んで頭で消化する。
暗い表情で
「・・・俺は侍だからな」
ぼそりと云った。

「俺だって侍だよ、俺なりにな」


立場が違う、経験が違う、人間が違う、
でも遭ってしまった似たような発想の持ち主。
でも遭ってしまった似たような境遇の持ち主。
でも、まだ生きている人間。


「ホントはそんな用心、しなくてもいいに越したこたァねーが、」

「しねえよ、いや、し過ぎるほどしてるつもりだ」
銀時の説教じみた言葉を遮って強く云い放つ。

「それでも、どうなるかなんて、解らねえだろうが」
弱さが揺らぐ、不安なのは持っているからこそ、だ。

(いじめてるみたいな気持ちになってきちゃったなー)


くるりと背中を向けて頭をガシガシかきながら、
「ま、云う通り解らねーよ」

猫背で振り向きながら口を開いた。
「でも、それはナシでしょ」

また背中を向けて息をすう、今から云う事は無駄だし卑怯だから。
「あのゴリラ、絶対に望まねーだろうな」


死んで花実が咲くものか


侍ならば義に殉じてナンボ?


生きてたって咲かない花実もあるけれど


(ごめんね、土方くん。俺、アンタの自己満足で後追いとかされるの見たくねーんだわ。俺の我儘なんだわ)

まだ見ぬ、しかし可能性としてはいつでも起こり得る事態に土方は考えを光速回転させ始めてしまったようだ。

振り返って腕を掴むと
「喉渇かねえ?呑みにいこうぜ、オフなんだろ」

そう云って二の腕をぽんと叩いた。

目だけで「ん?」と促すと、
不敵に笑って「上等だ」と応える。


(随分懐いちゃって、まーあ)
呆れながらも、うれしい。
だからこそ、
それはナシだと改めて思う。



結局は最後に、土方がどうしたって。







END


本誌で銀さんが土方を名前で呼んでいたのに動揺しました。
なので変換が出にくい(笑)「多串くん」(私のパソコンは「おおぐしくん」と変換すると「大串くん」しか出ませんし)改め「土方くん」呼ばわりにしました。使い分けでどっちもオーケイなのね!やった!

下の名前にもびっくらこきましたが。
最初は「じゅうしろう・・・?」と読んで思わず浮竹体調の顔が浮かび、ルビを見て「とうしろう」なんだと解ったら日番谷の顔が浮かびました。
とうしろーでトシ・・・?ええ・・・・・・?いいけどさ。笑。

次は沖土の予定です。
でもDグレで遂にエリアーデ編が完結したことですし、エリクロエリも書きたい。てっか、プロフィールにエリアーデが何故居ないのだ!!
ティキが好きなのは解るさ作者さんよ!しかしエリアーデにも思い入れはあったように感じていたのでいたく残念でした。
彼女の皮、と彼女の関係が知りたかった・・・。
それを捏造してレズビアン二次創作小説が書きたかったのに・・・。

女(の子)同士の話が書きにくいジャンルばかりでややいじけています。笑。陸奥と絡めずに・・・いやそれでも女女カップリは難しいな、銀魂・・・ううむ。
NARUTO時代はサクいのサクですとかね、色々楽しかったですが。
あ、今も我愛羅テマリは好きです。


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